大人の食物アレルギーは突然発症し、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。特定の食品を摂取した後に、痒みや腫れ、消化不良などを感じる方もいるでしょう。アレルギー症状が現れた場合、どのくらいの時間で症状が治まるのかは多くの人が気にするところです。本記事では、大人における食物アレルギー症状の経過時間と、その影響を軽減するための方法について詳しく解説します。健康を守るための対策を知り、安心して食事を楽しみましょう。
食物アレルギーについて
食物アレルギーとは、免疫系が誤って特定の食物を危険なものと判断して過剰に反応することで引き起こされる状態です。この問題にはIgE抗体がしばしば関与しており、食物を摂取後に皮膚のかゆみ、蕁麻疹、あるいは呼吸困難などの症状が現れます。多くの場合、これらの反応は食物摂取後数分から数時間以内に起こりますが、時には数時間を超えてから症状が出ることもあります。
食物アレルギーにはいくつかのタイプがあります。一般的には、エビやそば、ナッツなどに対する「通常の食物アレルギー」が知られています。他にも、果物や野菜に起因する「口腔アレルギー症候群(OAS)」、ラテックスアレルギーの方が果物を食べた際に発症する「ラテックス・フルーツ症候群」、また特定の食物摂取後の運動で起こる「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー」などがあります。それぞれの症例を詳しく見ていきましょう。
大人になってから食物アレルギーが発症する理由とは
子どもの問題として認識されがちな食物アレルギーですが、最近では大人になってから初めて発症する例が増えています。以前行われたアンケート調査からは、成人の約10人に1人が特定の食物に対してアレルギー症状を経験したと自己申告しており、欧州でも同様の傾向が見られます。このため、医療的には日本の成人の1~2%が実際に食物アレルギーを持つと考えられています。
では、なぜ大人になると食物アレルギーが発症するのでしょうか。福冨医師は大人がアレルギーを発症する要因として、二つの主な経路があると説明します。一つは『経口感作型』です。特定の食物を食べ続けるうちに、体がその食物にアレルギー反応を示すようになるタイプです。もう一つは『腸管外感作型』で、皮膚や粘膜を通じてアレルゲンが体に入ることによりアレルギーを引き起こすパターンです。
食物アレルギーは、特定の食物を摂取した際に免疫系が過剰反応することを指します。ウイルスや細菌から体を保護する免疫システムは、異物が侵入するとそれに対抗するための抗体を生成します。これがアレルギーにおける重要な過程である「感作」です。食物アレルギーの場合、『IgE抗体』と呼ばれる特定の抗体が生成され、そのアレルゲンが再び体内に入ると直にアレルギー反応を引き起こします。症状は摂取から30分以内、または遅くとも2時間以内に現れます。
『経口感作型』の典型例が小麦アレルギーです。パンや麺類など小麦製品を日常的に取り入れている人が、やがてアレルギー反応を起こすようになることがあります。一方、『腸管外感作型』では、皮膚や粘膜を通じて体内にアレルゲンが入ることでアレルギーが誘発されます。例えば、調理や加工で魚やエビ、カニを頻繁に扱う人が感作され、それを食べると症状が出るようになる場合があります。大人のアレルギーの原因は、この二つの型がほぼ同程度の割合で存在します。
さらに、腸管外感作型で多いのは花粉症が関連するケースです。果物や野菜に含まれる成分が花粉のアレルゲンと似た構造を持つため、これらを摂取すると免疫細胞が花粉と誤認してアレルギーを引き起こします。このような現象を「交差反応」と言い、これにより花粉症患者が果物や野菜でアレルギー反応を起こすことを「口腔アレルギー症候群(OAS)」または「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)」と呼びます。近年、大人の食物アレルギー増加の背景には、花粉症の増加とそれに伴うOASやPFASの発症があると考えられています。
食物アレルギーの即時反応
食品アレルギーの即時反応は、甲殻類やそば、ナッツ、卵、小麦などによって引き起こされることがあります。
症状には皮膚の赤み、じんましん、発疹、咳、喘鳴、腹痛、嘔吐などがあり、これらは食品を摂取後2時間以内、主に30分以内に現れることが一般的です。症状は数日で落ち着きますが、特に0~1歳の乳幼児によく見られますが、あらゆる年齢で発生する可能性があります。
アナフィラキシーと呼ばれる重篤な症状が多数の部位に現れることがあり、これが進行するとアナフィラキシーショックに至ることがあります。これは症状が悪化して血圧低下や気道狭窄、呼吸困難、低酸素血症、意識障害などを引き起こし、生命に危険が及ぶ可能性が高まります。
口腔アレルギー症候群
口腔アレルギー症候群(OAS)は、特定の果物や野菜を口にしたときに引き起こされるアレルギー反応です。これはスギ花粉症などの花粉アレルギーと密接な関連があります。特定の花粉に敏感な人が、その花粉と類似した抗原構造を持つ果物や野菜にアレルギーを示すことがあります。例えば、シラカバにアレルギーのある人はリンゴやモモ、カモガヤにアレルギーのある人はメロンやスイカに反応することがあります。これを「交差反応」といい、類似する抗原が原因で起こる現象です。
症状としては、口や喉のかゆみ、または腫れ、違和感があります。食後すぐに現れ、通常は30分から1時間程度で治まります。幼児から成人まで幅広い年齢層で見られます。
ラテックス・フルーツ症候群
ラテックス・フルーツ症候群は、ラテックスアレルギーを持つ人々が、バナナやアボカド、キウイ、栗など特定の果物を摂取した際に起こるアレルギー反応です。これらの果物に含まれる抗原がラテックスのものと似ているため、アレルギー症状を引き起こす可能性があります。注意深く摂取することが推奨されます。
ラテックスアレルギーとは、ゴム手袋や風船などのラテックス製品が皮膚に触れたときに発生するアレルギー反応として知られています。
この症候群の症状には、口の中のしびれや違和感、顔の腫れ、呼吸のしにくさ、動悸、かゆみを伴う全身の蕁麻疹などがあります。食べ物を摂取してから大体15分で発症し、治まる時間は個人の健康状態によって異なります。特定の年齢層がこの症候群にかかりやすいということはありません。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
特定の食べ物を摂取後、運動することでアナフィラキシーを引き起こす、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は注意が必要です。小麦や甲殻類、果物などが引き金となり、場合によってはショック状態に陥ることもあります。
FDEIAは、激しい運動に限らず、日常的な散歩程度の運動でも起こる可能性があります。また、疲労や睡眠不足、風邪、ストレス、月経前の症状、天候の変化、アスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用も誘因となりうるのです。この症状は通常の小麦アレルギーとは異なり、一般的なアレルギー検査で検出することが難しいため、専門的な検査が求められます。
症状:皮膚の蕁麻疹、呼吸の困難さ、気分の不快、意識の消失発症は食後2時間以内の運動で起こりやすく、重症化しなければ1日ほどで和らぎます。主に10代から20代の若年層に多く見られます。

成人と子どもの食物アレルギーの相違点
大人と子どもでは、食物アレルギーの特徴がそれぞれ異なります。その差異について考察してみましょう。
回復の見込み
成人の食物アレルギーは、一度発症すると改善が難しく、多くの場合、アレルギー源となる食材を完全に避けることが唯一の対策とされています。
しかしながら、子どもが食物アレルギーを持つ場合、成長とともに消化器系のバリア機能が発達し、アレルゲンに対する耐性が獲得されることで、症状が緩和することが一般的です。例えば、幼少期に卵アレルギーがあった子どもでも、成長するにつれて加熱された卵を食べることができ、最終的には生卵も問題なく摂取できるようになることがあります。
自然に耐性をつけるのが難しい場合には、医師の指導のもとで、少量から始めて徐々にアレルゲンを増やし、体を慣らしていく「経口免疫療法」という方法があります。しかしながら、この治療法は副作用が発生しやすく、場合によってはアナフィラキシーなどの重篤な症状を引き起こす可能性もあります。安全性の確保が求められるため、一般的な治療法としては推奨されていませんが、特定のケースでは効果が期待されています。エビデンスレベルが低いため、慎重な判断が必要です。
アレルギーが現れた際の適切な対処法
アレルギー反応が現れたときは、即座にかつ正確に対応することが重要です。特にアナフィラキシーショックが起こった際には、直ちにエピネフリン自己注射薬を使用し、救急車を呼んで医療機関での治療を受けることが求められます。
軽度のアレルギー反応であれば、通常は数時間内に症状が緩和しますが、アナフィラキシーショックのような深刻な場合には、症状が数日にわたって続くことがあり、入院が必要になることもあります。
アレルギーを防ぐための方法とその対策
食物アレルギーを避けるために、以下の点に注意しましょう。
食品の栄養成分をしっかりとチェックする
アレルギーを防ぐためには、食品の成分表をしっかりチェックすることが不可欠です。特に加工食品には、予期しないアレルゲンが含まれることがあるため、注意深く確認しましょう。例えば、チョコレートやクッキーには小麦、卵、乳製品、ナッツが使用されることが多いです。また、ソースやドレッシングにはしばしば大豆や小麦が含まれているので、大豆や小麦にアレルギーがある人は特に留意が必要です。
体調が優れないときは控える
調子が悪いときには、アレルギーを引き起こす可能性のある食品を摂取しないことが賢明です。通常は加熱することでアレルギーの影響を避けられる方もいますが、体調が悪化している場合はこうした食品をできるだけ避けるべきです。たとえば、加熱済みの卵が問題ない程度の卵アレルギーであっても、体調が不良の際には加熱した卵でさえアレルギー症状が出ることがあります。
果物アレルギーに関しては、症状の発生に波があるため、普段はあまり気にせず摂取し、症状が出てから対応するという方も多く見られます。しかし、体調がすぐれない際に果物を食べる場合は、事前にアレルギーの原因となりうるタンパク質を加熱処理するなどして、アレルギー反応が起きる可能性を減らす工夫が必要です。
さらに、花粉症の治療を進めることで食物アレルギーの症状が和らぐこともあるので、医師への相談を検討してみましょう。
食物挑戦試験を受ける
アレルギーの確認には食物負荷テストが用いられ、医療施設や自宅で実施可能です。医療施設では、専門医が監督しながら少量のアレルゲンを摂取し、反応を観察します。自宅で行う際は、医師の指示に従い慎重に進めることが求められます。
災害への準備
緊急時、アレルギーを持つ人が避難所での生活に困らないように、事前の対策が重要です。非常用の袋や防災セットには、アレルギー専用の食品や必要な医薬品を準備しておきましょう。さらに、学校や宿泊施設にはアレルギー情報を前もって伝えておくことも重要です。
注意すべきこととして、配給される食事の食材を確認することが挙げられますが、大量調理では微量のアレルゲンが混入する可能性があることを認識しておかなければなりません。