さくらんぼの木と桜の木:知っておきたい違いとは?
春の訪れを告げる桜と、甘酸っぱい果実が魅力のさくらんぼ。どちらもバラ科サクラ属に属するため、見た目が似ていると感じる方もいるかもしれません。しかし、これらの木は目的や特徴において、明確な違いがあります。この記事では、さくらんぼの木と桜の木の違いに焦点を当て、それぞれの木が持つ独特の魅力や見分け方について詳しく解説します。庭木を選ぶ際や、春の行楽シーズンに花見を楽しむ際に役立つ情報が満載です。

さくらんぼとは?:概要と基本情報

さくらんぼは、バラ科サクラ属の植物、特にセイヨウミザクラなどの実を指し、初夏の訪れを感じさせる果物として親しまれています。日本国内では山形県が主要な産地であり、全国の栽培面積のおよそ7割、生産量の4分の3を占めるほどです。本稿では、さくらんぼの栽培方法、多様な品種、そして同じサクラ属である桜との違いについて詳しく解説していきます。

桜とさくらんぼ:同じ「桜」でも何が違う?

桜とさくらんぼは、どちらもバラ科サクラ属に分類され、広い意味では同じ「桜」と捉えられます。しかし、両者を明確に区別する要素はその「種」にあります。さくらんぼの代表的な種である「西洋実桜(セイヨウミザクラ)」は、果実を食用とするために栽培される種であり、「佐藤錦」や「紅秀峰」、「紅てまり」といった、日本で広く食されるさくらんぼの品種は、この種をルーツとしています。対照的に、私たちが一般的に目にする桜の木は、観賞を目的として作られたものが多く、「ソメイヨシノ」などがその代表例です。観賞用の桜にも、小さくさくらんぼに似た果実が実ることがありますが、その風味は酸味と苦味が強く、食用には適していません。

さくらんぼの花と桜の花:色や咲き方の違い

さくらんぼと桜は、花もよく似ていますが、その色合いや咲き方に違いが見られます。さくらんぼの花は、一般的に白色であり、蕾が密集して咲くため、まるで小さな花束のような印象を与えます。ソメイヨシノなどの桜よりも開花時期が遅く、山形県ではゴールデンウィークの頃に見頃を迎えることが多いです。一方、桜の花は、白色から淡いピンク色、濃いピンク色まで、色とりどりの品種が存在します。中には、淡い黄色の花や、黄緑色の花びらに緑色の筋が入る珍しい品種もあります。花の咲き方には、「一重咲き」「半八重咲き」「八重咲き」の3種類があり、それぞれ花びらの数が異なります。開花時期は地域や品種によって異なりますが、ソメイヨシノは4月上旬頃に開花のニュースで話題となります。しかし、山形県では4月中旬から4月下旬、場所や品種によっては5月上旬に咲く桜も見られます。

さくらんぼの実と桜の実:大きさや味の違い

さくらんぼと桜では、実の大きさや味も大きく異なります。さくらんぼの実は、赤色から濃い赤色、黒っぽい赤色、黄色など、様々な色合いがあり、果肉の色もクリーム色から黒に近い赤色まで幅があります。佐藤錦は1粒あたり6~8g程度、紅秀峰のような大粒の品種では8~10gほどになります。他方、桜の実は赤色をしていますが、熟すと黒色に変化し、大きさは南天の実ほどの大きさで、非常に小さいです。味は食用には適さないため、ほとんど食べられることはありません。

さくらんぼの品種:主な品種とそれぞれの個性

世界中で1000を超える品種が存在すると言われるさくらんぼですが、日本国内で栽培されているものは、紅さやか、佐藤錦、高砂、ナポレオン、紅秀峰など、およそ30種類ほどです。特に佐藤錦は、その甘さと酸味の絶妙なバランスが評価され、日本で最も愛されている品種の一つです。また、紅秀峰は佐藤錦よりも大きく、強い甘みが特徴で、近年人気を集めています。

さくらんぼの栽培:その難しさの理由

さくらんぼの木は、栽培が非常に難しい果樹として知られ、熟練者向けの果樹と言えるでしょう。種からさくらんぼを育てることは非常に困難であり、専門のさくらんぼ農園でもほとんど行われていません。苗木から栽培する場合でも、実がなるまでには4~5年の歳月が必要です。さらに、さくらんぼは病害虫の影響を受けやすく、天候にも左右されやすいため、安定した収穫のためには、細心の注意を払う必要があります。

さくらんぼ栽培の年間計画:剪定から収穫まで

さくらんぼ栽培は、一年を通じて様々な作業が求められます。

1月~3月:枝の剪定

伸びすぎた枝や密集した枝を取り除く剪定作業を行います。この剪定作業は、その年のさくらんぼ栽培の最初のステップとなります。さくらんぼは、気温が7℃以下の状態に約1600時間さらされることで正常に成長するため、冬の寒さは非常に重要な気候条件となります。

4月~5月:受粉作業

さくらんぼの花が開花を迎えると、農家の方々はミツバチなどの巣箱を畑に設置します。これは「交配」と呼ばれる作業で、めしべに実を結ばせるために、異なる品種の花粉をミツバチに運んでもらうのです。この時期の天候はさくらんぼの生育に大きく影響を与えます。晴れて暖かく、風のない日は、ミツバチは活発に花から花へと飛び回ります。しかし、気温が低かったり雨が降ったりすると、ミツバチは活動しなくなるため、農家の方が代わりに毛バタキ(水鳥の羽毛などで作られた道具)を使って受粉作業を行う必要があります。この作業は非常に手間がかかり、農家の方々は多忙を極めます。また、畑の草刈りや、さくらんぼが病気にならないように消毒作業も行います。

5月:雨対策と摘果

梅雨入り前に、ビニールで覆って屋根を作ります。これは、実が雨によって割れるのを防ぐためです。雨で実が割れる原因は、表面の小さな穴から水が浸入し、内部で膨張して破裂してしまうからです。また、せっかく育てるなら大きく美味しいさくらんぼにしたいもの。さくらんぼ農家の方々は、大きく美味しいさくらんぼを育てるために、この時期に実りすぎた果実を手で摘み取ったり、ハサミで切り落としたりする「摘果」という作業を行います。この作業によって、残された実に栄養を集中させることができます。ただし、摘果をしすぎると収穫量が減ってしまうため、農家の方の経験とバランス感覚が重要になります。

6月:収穫

受粉が成功した実は、徐々に大きくなっていきます。およそ1ヶ月かけて、緑色から黄色、そして赤色へと変化していきます。この時期になると、ムクドリなどの鳥がさくらんぼの実を食べにやってきます。農家の方々は、大切に育てたさくらんぼを守るために、「防鳥ネットを張る」「鳥が警戒するハヤブサの模型を木の枝の高い場所に吊るす」「ガス銃を鳴らして追い払う」など、様々な工夫を凝らして実を守っています。

さくらんぼの受粉:1本では実がならない?

さくらんぼは、1本の木や同じ品種の木だけでは受粉せず、実がならない性質を持っています。これは自家不和合性と呼ばれ、同じ品種の花粉では受粉しないためです。雌しべに花粉が付着すれば受粉して結実しますが、さくらんぼの場合、同じ木の花粉と雌しべでは受粉せず、結実もしません。そのため、畑には主力品種の木に加えて、1~2割程度、別の品種の木(受粉樹)を植える必要があります。相性の良い組み合わせとしては、佐藤錦 × ナポレオン、高砂 × ナポレオン、紅秀峰 × 佐藤錦などが挙げられます。ただし、「暖地桜桃」や「紅きらり」など、1種類でも受粉可能な品種も存在します。

家庭菜園でさくらんぼ:暖地桜桃がイチオシ

お庭でさくらんぼを育てたいなら、「暖地桜桃」が最適です。淡いピンク色の愛らしい花を咲かせ、小ぶりながらも甘い実をつけるのが特徴です。耐寒性、耐暑性にも優れているため、家庭菜園初心者でも安心して育てられます。

コンテナ栽培:家庭菜園成功のコツ

家庭菜園でさくらんぼを育てるなら、コンテナ栽培がおすすめです。大きめの鉢やプランターで育てることで、雨から守ったり、鳥や虫対策のネットを張ったりするのが容易になります。「暖地桜桃」は一本でも実がなるため、人工授粉の手間も不要。実も小ぶりなので摘果も必要ありません。プランターで育てたさくらんぼの木は、お家の雰囲気を彩り、思い出に残るシンボルツリーとなるでしょう。

さくらんぼの盆栽:鑑賞価値

さくらんぼは、盆栽としても楽しまれています。白い花が咲き終わった後、実がなり、4月から6月にかけて観賞できます。実ったさくらんぼは食べられますが、味はそれほど期待できないかもしれません。しかし、蕾が膨らみ、美しい花を咲かせ、実が赤く色づいていく様子を間近で見られるのは、観賞用ならではの醍醐味です。落葉後の冬場は、枝ぶりを鑑賞して楽しみます。

さくらんぼ狩り:旬の味を満喫

さくらんぼの旬は6月~7月頃。この時期には、各地の農園でさくらんぼ狩りが楽しめます。自分で収穫したばかりの新鮮なさくらんぼは、特別な味わいです。山形県をはじめ、全国各地にさくらんぼ狩りができる農園があるので、ぜひ足を運んでみてください。

まとめ

愛らしい姿と甘酸っぱい風味で私たちを魅了するさくらんぼ。その栽培には手間と愛情が不可欠ですが、実を結んだ時の喜びはひとしおです。この記事を参考に、さくらんぼ栽培に挑戦したり、旬の味覚を堪能したりと、様々な角度からさくらんぼの世界をお楽しみください。

さくらんぼの木は一本で実がなるのでしょうか?

多くの場合、さくらんぼは自家不和合性という性質を持つため、一本の木だけでは結実しません。受粉を助けるために、異なる品種の木を近くに植える必要があります。ただし、「暖地桜桃」のように、一本でも実をつける品種も存在します。

さくらんぼの栽培は手軽にできますか?

さくらんぼの栽培は、一般的に難易度が高いと言われています。気候の影響を受けやすく、病害虫対策も必須となるため、安定的な収穫には丁寧な管理が求められます。しかし、家庭菜園で鉢植え栽培を行うなど、工夫次第で初心者の方でも育てることが可能です。

さくらんぼの花と桜の花、その違いとは?

さくらんぼの花は、一般的に白色をしており、つぼみの段階から密集して咲くため、小さなブーケのような愛らしい姿を見せてくれます。対照的に、桜の花は、淡い白色から華やかなピンク色、さらに濃厚なピンク色まで、その色彩は実にバリエーション豊かです。また、花びらの数にも注目すると、「一重咲き」「半八重咲き」「八重咲き」といった、異なる咲き方を楽しむことができるのが特徴です。
さくらんぼ