洋梨の王様、ラ・フランス - 芳醇な香りと甘みの秘密

フランス生まれの高級洋梨、ラ・フランスの魅力に迫ります。独特の香りと滑らかな食感、そして濃厚な甘みが人気の秘密。栽培の難しさや最適な食べ頃、おいしい選び方まで、ラ・フランスの魅力を余すところなくお伝えします。

ナシの代表的な品種、洋ナシ(西洋ナシ)の特徴

ラ・フランスは洋梨の品種の一つです。洋梨とは、ヨーロッパ原産のバラ科ナシ属の樹に実る果実の総称です。別名は西洋梨とも呼ばれています。

洋梨の起源は中国ですが、のちにヨーロッパに伝わり、16世紀ごろにはドイツやイギリスなどで栽培されていました。現在では、ヨーロッパはもちろん、日本国内を含めた世界各国で広く栽培されています。

洋梨は和梨と比べると、品種によって異なりますが、多くは縦長のいびつな形をしています。また、食感はとろりとした舌触りで、熟すと芳醇な香りが漂うのが特徴です。

洋梨には現在世界に4000品種ほど存在しているそうですが、日本で栽培されているのは20品種程度です。その中の一つがラ・フランスなのです。

山形で愛される"ラ・フランス"の魅力と歴史

ラ・フランス(ラフランス/lafrance)は、洋梨の品種の一つです。その名前の通り、フランス生まれの洋梨で、1864年にクロード・ブランシュ氏が発見しました。

ブランシュ氏はその美味しさに感動し、フランスを代表する果物にふさわしいと賞賛したことから「ラ・フランス」と名付けられました。

日本には1903年に、山形県には大正初期に渡ってきましたが、当時は見た目が悪く栽培が手間がかかったため、主役だったバートレットの受粉樹としての役割に留まり、長い間一般に流通することはありませんでした。

生食として世に知られるようになったのは1980年代以降のことで、ラ・フランスの長い歴史から考えると、注目されるようになったのは意外と最近のことなのです。

洋梨は比較的冷涼で雨の少ない地域が栽培に適しているとされています。山形県の内陸地方はこの環境に最適なため、100年以上前から洋梨栽培が盛んに行われてきました。山形県はラ・フランスの生産量が全国第一位で、全国生産量の約80%を占めています。

珍しい存在となった故郷フランスの貴重な生物

フランス語の "la(ラ)" は、英語で "The(ザ)" に相当する冠詞です。この "ラ・フランス" という名称は、フランスという国名に由来していますが、実はフランス本国では1900年代初頭にはほとんど栽培されなくなってしまいました。

その理由は2つあります。1つ目は、他の洋梨に比べて実をつける期間が約1ヶ月長いことです。2つ目は、病気に弱く手間がかかることです。ヨーロッパ各地の気候がラ・フランス栽培に適さないこともあり、現在この品種を栽培しているのは世界中で日本だけとなっています。

明治時代の山形での洋梨栽培の歴史

西洋なしは、16世紀頃からドイツやイギリスで栽培が始まり、18世紀のイギリスでバートレットという代表的な品種が発見されました。この西洋なしは、明治初期に日本に入ってきたと言われています。

ラフランスが山形県に導入された明治36年よりも相当早い時期から、山形県の古くからの和梨の産地である東置賜郡屋代村(現在の高畠町)では、明治8年にバートレットの栽培が始められたという説があります。

それまでの日本人は和梨の味しか知らなかったため、最初は西洋なしの実を食べた人は「樹に実がなっているのを食べたら不味くて食べられなかったが、時間が経つと黄色くなり香りが出てきたので拾って食べたらおいしかった」と述べています。

大正天皇の地方行幸が追い風となる

山形県屋代村相森の古文書によると、明治42年(1909年)に行われた大正天皇(当時は皇太子)の東北行幸の際、同村が献上した特産の日本なしを大変ご賞味いただき、金一封とバートレット種の苗木をお下げになったそうです。これが山形県における西洋なし栽培の始まりだと伝えられています。

このことから、明治初期には確かにバートレット種の苗木が存在していたものの、皇太子行啓が契機となり、明治42年頃から山形での本格的な西洋なし栽培が急速に広まったと推察されます。

新しい食べ物が人々に受け入れられるためには、しっかりとした理由や背景があることが重要だと考えられ、その点で上記の経緯は納得がいくものです。

長きにわたるバートレット家の歴史

その後バートレットは缶詰加工用として盛んに作られるようになりました。現在ではほとんど見られなくなった缶詰用のバートレットの黄金時代でした。

一方、このバートレットが缶詰用洋梨として表舞台に立った約100年間、ラ・フランスは表舞台に出ることはありませんでした。バートレット畑では受粉樹として細々と植えられていたのが、当時のラフランスだったのです。

一般的に果樹は単一品種だけでは実がなりにくいため、別の品種を交配用の受粉樹として畑に植え、実を結ぶ確率を高める栽培手法がとられます。例えばバートレット20本に対して1本のラフランスの受粉樹を植えるといった具合です。

そして、ラ・フランスは生まれつきの見た目の悪さから「みだぐなす」と山形の方言で呼ばれ、軽視され続けました。お金にならない上に栽培に手間がかかることから、バートレットという西洋なしの受粉樹という日陰の立場に甘んじているうちに、時間だけが100年ほど過ぎていきました。

しかし、爽やかな香りとクリーミーな口当たりは完熟ラフランスならではのものです。

ラフランス農法の確立

ラフランスの栽培は病気に弱いため、簡単ではありませんでした。ラフランスは西洋なしの中で開花が最も早いものの、実をつけるまでに時間がかかります。

生育期間が長いほど手間がかかり、病害虫や台風の影響も受けやすくなります。フランスでラフランスの作付けが中止された理由は、この「病気への抵抗力の低さと長い栽培期間」にありました。

ラフランス栽培には、土作りから始まり、せん定、防除、つぼみと実の数の調整など、様々な作業が必要でした。

その後、これらの条件を重視し丁寧に育てる「官民一体の研究努力」の結果、ラフランスの生産体制が昭和60年頃に安定しました。以降、栽培面積と収量が大幅に伸びました。

近年、ラフランスの母国フランスでは、栽培の難しさと病気の蔓延により、ラフランスが絶滅の危機に瀕していると悲しい話を耳にすることになりました。

国産洋梨の代表種は「ラ・フランス」!日本で栽培されている主な品種を紹介

ラ・フランスは、日本国内で最も栽培されている洋梨です。洋梨の総栽培面積に占めるシェアは56.8%と高く、洋梨といえばラ・フランスというイメージを持つ人が多いのも理解できます。

一方で、日本には他にも様々な洋梨品種が栽培されています。それらの品種について詳しく見ていきましょう。

フランス国内で栽培量第2位の栗品種「ル・レクチェ」

栽培地の中心が新潟県にあり、フランス生まれの洋梨「ル・レクチェ」。明治時代に日本に渡ってきましたが、栽培が難しいため長らく地元での消費にとどまっていました。しかし近年、栽培技術の向上により生産量が増加し、スーパーなどでよく見かけられるようになりました。ラ・フランスより一回り大きく、香りが強いのが特徴です。市場に出回る8割以上が新潟県産とされています。

日本の主要ナシ品種「バートレット」 国内栽培面積の5.2%を占める

イギリス生まれの洋梨「バートレット」は、世界で最も栽培されている品種です。甘みが控えめで柔らかな酸味があり、硬めの果肉が特徴です。加熱しても形を保つため、缶詰などの加工に適しています。日本国内では北海道や青森で盛んに生産されており、栽培面積は第3位となっています。

栽培面積が日本国内で第4位の「オーロラ品種」 シェアは3.3%

オーロラは、マルゲリット・マリーラとバートレットの品種を掛け合わせて作られた洋梨で、アメリカのニューヨークで誕生しました。日本では1980年代に導入された品種で、濃厚な甘みとなめらかな食感が特徴です。早生品種で9月上旬頃が旬を迎え、山形県が国内有数の生産地となっています。全国の出荷シェアは6割以上を占める人気品種です。

人気品種ゼネラル・レクラーク - 栽培面積で国内トップ5に入る

フランスで1950年代に発見された「ゼネラル・レクラーク」は、一般的な洋梨よりも400~600グラムと大きめのサイズが特徴です。果汁が豊富でジューシーな味わいが魅力の品種です。日本では1977年に青森県に初めて導入され、現在は青森県が最大の産地となっています。山形県も生産量で全国第2位を誇ります。

第6位の切り花「マルゲリット・マリーラ」 日本国内の生産量は2.6%

フランスで生まれた「マルゲリット・マリーラ」は、1913年にベルギーから日本に伝わった大玉の洋梨品種です。発見者であるマリーラ氏の名前に由来しており、「マリゲット・マリラ」と呼ばれることもあります。オーロラの親品種に当たり、9月から10月にかけて旬を迎える早生品種です。マルゲリット・マリーラの国内栽培面積の約半分が山形県で占められています。果汁が豊富で、とろけるような滑らかな舌触りが特徴的な洋梨品種です。

甘味を引き立てる"追熟" プロが教える果物の"旬(食べ頃)"

もぎたての西洋なしは、デンプンが約2%しか含まれておらず、クエン酸などの酸が多く含まれています。時間をかけて追熟していくと、デンプンが果糖やショ糖、ブドウ糖などの糖分に分解され、ビタミンBやCも増加する。

また、果肉中のペクチンが水溶性のペクチンに変わるため、肉質はなめらかでとろける状態になリマス。追熟の期間は、ラ・フランスなどでは常温で2〜3週間が一般的です。食べ頃は、果皮の色では分からない場合、軸の周りの「肩」と呼ばれる部分を指で押して、耳たぶぐらいの柔らかさであればOKです。

ただし、店先の商品を指で押すのはマナー違反なので、店員に確認することが望ましいです。産地では、西洋なしの食べ頃を分かりやすくするため、出荷ケースごとに「予冷」をかけることが一般的である。収穫直後に2〜5度の低温貯蔵庫に入れ、10日間ほど呼吸作用を抑制する。これを常温に戻せば一斉に呼吸を始め、デンプンが糖分に変わる。約2週間後が食べ頃となります。

主要な生産地域

天童市、東根市、上山市、高畠町、大江町、山形市、南陽市、寒河江市、中山町、朝日町をはじめとする山形県内の市町村が対象エリアとなります。

まとめ

ラフランスは1900年代初頭に日本に持ち込まれ、間もなく山形県に根付いたと考えられています。缶詰用バートレット梨が約100年間の全盛期を迎えた後、1980年代に遂に生食用ラフランスの時代が到来し、一気に注目を集めるようになりました。今となっては、日本人に馴染みの深いフルーツとなりましたが、それにはさまざまな変遷がありました。ぜひ、今回の記事と一緒にラフランスを召し上がってみてください。

ラフランス