夏の訪れとともに、和菓子の一端を担う「上生菓子」は、その美しさと繊細な味わいで私たちの五感を魅了します。緻密な職人技によって生み出されるこれらの和菓子は、季節ごとの風物詩や自然の美を巧みに表現し、日本の伝統文化を堪能するのに最適です。特に、夏の涼を感じさせるデザインや味わいが楽しめるこの時期ならではの上生菓子は、見た目の美しさはもちろん、その奥深い味わいも楽しみの一つです。そんな上生菓子の魅力と楽しみ方を、今回は詳しくご紹介します。
上生菓子の種類 || 煉 切 ||
白生餡に砂糖や山芋、餅粉を一緒に加え、熱しながら丁寧に練り上げます。こうして作られた生地に色を染め、四季の花や風景にちなんだ形に仕上げたものが煉切です。
煉切の細工には「絞り」「型打ち」「巻物」「ヘラ」など、様々な技術が息づいています。特に、「絞り」の技法は、布巾で生地を包み込み、引き締める力や方向を微調整して風景を表現することが求められます。さらに、「型打ち」の技は、希少な木型を熟練職人の手で作られた伝統的な道具を活用しています。和菓子の中でも煉切は、その店の伝統や技術が反映される特別な存在です。
上生菓子の種類 || きんとん ||
かつては「こんとん」という唐菓子が変遷してこの形になったとされています。「こんとん」とは、練った小麦粉に砂糖やキャンデーを加えたものでした。今見られるようなスタイルのきんとんは、江戸時代の中期頃に確立されたと考えられています。餡を芯にし、そぼろ状にした餡を箸で取って外側に丁寧にのせて形作ることで、四季折々の情景が繊細な色遣いで表現される上生菓子です。このときに使用する箸は「きんとん箸」と呼ばれ、職人が一人一人、自ら竹を削ることで作られ、手に馴染むよう工夫されています。箸の先を非常に細かくし、その箸をまるで自分の指の延長のように自在に操ることができて初めて、見事なきんとんが完成すると評されています。
上生菓子の種類 || 外郎 ||
ういろうは、うるち米やもち米の粉に砂糖を加えて蒸し上げた和菓子です。この菓子は、和菓子屋で生菓子の一つとして使用されています。場合によっては、上品な味わいを出すために葛を加えることもあります。生地は熱いうちに迅速かつ正確に形作る必要があり、あんこが中で透けて見えるように均等な厚さで包むためには熟練した技術が求められます。もっちりとした食感ながら、すっきりと滑らかな味わいが特徴です。
上生菓子の種類 || 薯蕷 ||
薯蕷饅頭は芋ををすりおろし、米粉と砂糖を組み合わせた生地であんこを包み、じっくりと蒸して完成させます。蒸すことで、ふんわりとした食感に仕上がり、上品で柔軟な薯蕷饅頭が生まれます。この和菓子を味わうことで、その店の実力を知ることができると言われています。
上生菓子の種類 || 羹 ||
錦玉羹、薯蕷羹、葛羹。これらは主に夏の涼しさを視覚で表現するための素材として使用されます。澄んだものやほんのりと透けるもの、季節感に応じて葛や寒天、薯蕷を選び、職人たちは見事な涼の世界を創造します。
初夏に愉しむ上生菓子
・清流(ねりきり・粒あん製)俊恵法師の歌「筏下ろす清滝川に澄む月は棹に触らぬ氷なりけり」をテーマに作られた幻想的な和菓子です。
・手毬花(錦玉・白あんと粒あんの二重あん製)手毬花は紫陽花やこでまりと同意とされ、古くから女性に愛され続ける手毬への愛が詰まったお菓子です。
・枇杷(ういろう・備中白あん製)ほんのり黄色がかった小さな枇杷を模したお菓子で、みずみずしい外見が本物と見紛うほどの出来映えです。
・撫子なでしこ(ねりきり・こしあん製)『枕草子』に賞賛された撫子の花を模し、その美しい色と愛らしい大きさをお菓子に表現しました。
・紫陽花あじさい(きんとん・粒あん製)六月の雨に濡れる紫陽花の花を、穏やかな色彩で表現した和菓子です。
・若鮎わかあゆ(薯蕷・こしあん製)古くから日本で愛される鮎を模した和菓子で、歴史ある魚にまつわる故事にちなみ作られています。
夏のはじまりから立秋までの上生菓子
・岩清水(錦玉製)渓流の透明な水を思わせる菓子で、川原の石を小豆で表現しています。
・露の宿(ねりきり・こしあん製)朝顔の瑞々しい雰囲気をそのままに、優しい甘さで包みました。
・露草(きんとん・粒あん製)涼やかな色彩と凛とした姿を湛える露草を、その美しさで再現しました。
・涼風(きんとん・粒あん製)青葉が風にそよぐ様子を見事に描いた甘味です。
・山野やまの(ういろう・備中白あん製)夏の山に咲くユリを想起させる色合いの外郎を活かした逸品です。
・青楓あおかえで(薯蕷・こしあん製)清涼感溢れる青もみじをイメージした、薯蕷まんじゅうの逸品です。