じゃがいも名前の由来:身近な万能野菜の意外なルーツ
食卓に欠かせない万能野菜、じゃがいも。フライドポテトやポテトチップスなど、老若男女問わず愛される加工品も多く、私たちの食生活に深く根ざしています。そんな身近な存在であるじゃがいもですが、その名前の由来をご存知でしょうか?実は、意外なルーツが隠されているのです。この記事では、じゃがいもの名前の由来を探るとともに、世界中で愛されるようになった背景や、知っておきたい栄養と注意点についてもご紹介します。

じゃがいもとは?基本情報と栄養価、注意点

じゃがいも(学名:Solanum tuberosum、英語名: potato)は、南米アンデス山脈の高地が原産のナス科ナス属の多年草です。その地下茎である塊茎にはデンプンが豊富に蓄えられており、食用として利用されてきました。採取された野生種は北米にも広がり、食用とされてきました。アンデス地方で生まれた栽培品種は世界中に広まり、今では私たちの食生活に欠かせない主要な野菜の一つとなっています。日々の食卓に欠かせないじゃがいもは、手頃な価格で入手しやすく、様々な料理に使える万能な食材です。焼く、蒸す、茹でる、煮るなどの調理法のほか、ポテトチップスやフライドポテトといった加工食品にも広く利用され、デンプンの原料としても重要な役割を果たしています。保存がきく食材である一方、飢饉の際には人々の命を支える重要な食糧となり、ビタミンCやカリウムなどの栄養素を豊富に含んでいます。ただし、じゃがいもから生えた芽や、光に当たって緑色になった部分には、ソラニンやチャコニンという天然の有害物質が含まれており、摂取すると食中毒を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

じゃがいもの多様な名称とその由来

じゃがいもは、地域や機関によって様々な名前で呼ばれており、その背景には興味深い歴史と文化が隠されています。日本で一般的に使われている「じゃがいも」という名前は、17世紀初頭にオランダ船によってインドネシアのジャカトラ(現在のジャカルタ)から日本に伝わった際、「ジャガタライモ」と呼ばれていたものが変化して「じゃがいも」になったと言われています。さらに詳しく語源を辿ると、ジャガイモは「爪哇加陀羅芋」とも書き表され、これは「ジャワのガタラ」と呼ばれたジャカトラに由来します。一方、植物としての正式名称である「馬鈴薯」(ばれいしょ)も広く使われており、行政機関などではこの名称が用いられることが多いです。この名前は中国から伝わったもので、中国語では「マーリンシュー」(mǎlíngshǔ)と発音します。日本では18世紀に本草学者の小野蘭山が著書『耋筵小牘』(1807年)の中で命名したとされています。一説によると、じゃがいもの形が馬につける鈴に似ていることが名前の由来とされています。中国ではその他にも、「土豆」(トゥードウ)、「洋芋」(ヤンユー)、「薯仔」(シューザイ)など、様々な呼び方があります。国際的な視点で見ると、英語の「ポテト (potato)」は、カリブ海のタイノ族の言葉でサツマイモを意味する「batata」が、スペイン語で「patata」に変化したものに由来するとされています。じゃがいもの原産地であるアンデス地方で使われているケチュア語では、「papa」という単語がじゃがいもを意味し、これは中南米のスペイン語圏でそのまま使われています。スペイン語で「batata」が「patata」に変化したのは、「papa」の影響だと考えられています。また、「Papa」という言葉がカトリックの教皇を意味する単語と同じであったため、それを避けて「Patata」に変遷したという説もあります。

日本におけるじゃがいもの地方名

江戸時代以降、米作りに適さない山間部や寒冷地でじゃがいもの栽培が広まったため、日本各地には独自の地方名が数多く存在します。これらの地方名は、その土地の気候や文化、あるいはじゃがいもの利用法を反映していることが多く、地域の食文化の多様性を示しています。例えば、北海道や東北地方では「馬鈴薯」という呼び方が一般的である一方、九州地方の一部では「ランイモ」と呼ぶ地域もあります。このように、地域ごとの言葉の違いがじゃがいもの呼び名にも表れています。これらの地方名は、じゃがいもが日本各地の人々の生活に深く根付き、それぞれの地域で独自の文化を育んできた証と言えるでしょう。

ジャガイモの利用史の発祥

じゃがいもの起源は、現在のペルー南部からボリビア西部にかけて広がるアンデス中央南部、特にチチカカ湖周辺だと考えられています。この地域では、約8,000年前から小さなイモの原種が栽培され、インカ帝国以前の時代から主要な食料として利用されてきました。最初に栽培されたのは、Solanum stenotomumという2倍体の野生種で、その後4倍体のSolanum tuberosumが栽培化され、現在世界中で広く栽培されるようになりました。アンデス地方の厳しい高地環境に適応し、霜害に強い品種や、長期保存を可能にするチュニョ(乾燥じゃがいも)といった加工技術が開発されるなど、じゃがいもは現地文明の発展に大きく貢献しました。現在でもこの地域では数千種類ものじゃがいもが栽培されており、その遺伝的多様性は世界のじゃがいも栽培の基盤となっています。

世界各地への伝播と栽培の広がり

じゃがいものルーツは、南米アンデス山脈の標高の高い地域です。そこには、小型のじゃがいもの原種が自然に生息していました。このじゃがいもがヨーロッパに伝わったのは、大航海時代の15世紀から16世紀頃のことだと考えられています。具体的には、16世紀にスペイン人がアメリカ大陸からヨーロッパへ持ち帰ったとされています。当初は、珍しい観賞植物として扱われていましたが、1586年頃にはフランシス・ドレークがじゃがいもをイギリスに持ち帰ったとされ、新大陸からの「贈り物」として、船員や兵士たちによってもたらされたと考えられています。しかし、「いつ」「誰が」伝えたのかを明確に示す資料は残っていません。さらに、1600年頃にはスペインから他のヨーロッパ諸国へ広まっていきますが、その経路についても定説はなく、詳細は不明です。
当初、インカ帝国の主要な食糧はトウモロコシであると考えられていましたが、ペドロ・シエサ・デ・レオンが1615年に残した記録や、アンデスの段々畑遺跡の研究、気象や地理条件、食生活の分析など、多角的な調査の結果から、じゃがいもが食糧基盤であったという見方が強まっています。いずれにしても、16世紀末から17世紀にかけては、植物学者によって菜園で栽培されることが主でした。ヨーロッパの一般家庭で食料として普及するには、もう少し時間が必要でした。じゃがいもの普及が進んだのは、三十年戦争によってヨーロッパが荒廃し、飢饉が頻発した際に、国王の命令によって作付けが強制・奨励されたことがきっかけでした。また、踏み荒らされると収穫が激減する麦と異なり、地中で育つじゃがいもは踏み荒らしの影響を受けにくいため、農民に受け入れられやすく、ヨーロッパ各地に急速に広がりました。
プロイセン王国(ドイツ)でじゃがいもが広がり、国力が増したという話を聞きつけたフランスでも、じゃがいもを広めようとしました。ルイ16世の王妃が、じゃがいもの花を帽子に飾ったという逸話が残っているように、食用作物としての本格的な栽培が始まったのは17世紀末のことでした。さらに、1621年にはトーマス・ハーリオットによって北アメリカに持ち込まれ、入植地における兵士たちの食料源として重要な役割を果たしました。その後、世界中で品種改良が重ねられ、現在のような大型で病害虫に強く、様々な気候に適応できる品種が開発され、世界中の地域で広く栽培されるようになりました。寒冷地や痩せた土地でも比較的育てやすいことから、「貧者のパン」とも呼ばれ、世界中で食料安全保障に貢献する重要な作物となっています。現在、じゃがいもは、米、小麦、とうもろこしに次ぐ、世界で4番目に重要な作物として、世界中の人々の食生活を支えています。

アイルランドとジャガイモ飢饉

アイルランドの農民は、本来は主に麦を栽培していましたが、イングランドによる厳しい植民地支配の下、麦は地代としてイングランドに奪われていました。そこで、地代として奪われることのない、生産性の高いじゃがいもを、自分たちの小さな庭で栽培し始めました。その結果、じゃがいもは貧しい農民にとって唯一の食料となり、飢饉が起こる直前には、人口の3割がじゃがいもに食料を依存する状態になっていました。「アイリッシュ・ランパー」と呼ばれるアイルランドのじゃがいも品種は、寒冷地でもよく育ち、アイルランドの人口増加を支えました。しかし、1845年から1849年までの4年間、ヨーロッパでジャガイモ疫病が大流行し、アイルランドは壊滅的な被害を受けました。じゃがいもを主食としていたアイルランド人の間では大飢饉が発生し、100万人以上もの人々が亡くなったと言われています。また、カナダ、北アメリカ、オーストラリアへ、合計200万人以上が移民したとされています。アメリカ合衆国へ渡ったアイルランド系移民は、アメリカ社会で大きなグループを形成し、経済界や政治の世界で大きな影響力を持つようになりました。この時代にアメリカ合衆国へ移民した人々の中には、第35代大統領ジョン・F・ケネディの先祖も含まれていました。
アイルランドでのジャガイモ飢饉は悲劇でしたが、寒冷地にも強く、年に複数回の栽培が可能で、地中で育つため戦争の影響を受けにくいという特性を持つじゃがいもは、庶民の食料として急速に普及しました。そして、あっという間に米、麦、トウモロコシと並ぶ「世界四大作物」としての地位を確立しました。アダム・スミスは、著書『国富論』の中で、「アイルランドのジャガイモは小麦の3倍の生産量がある」と評価しています。

日本への伝来

日本へは17世紀初頭、オランダ船によってジャカルタから伝来し、当初は長崎や函館といった港町を中心に栽培が始まりました。諸説ありますが、1598年に豊臣秀吉によって持ち込まれたという説もあります。ジャカルタのジャワ島を経由して長崎へ伝来したため、「ジャガタライモ」と呼ばれましたが、それが短縮されて「ジャガイモ」となりました。じゃがいもは保存性が高く、長期間の航海における船乗りたちの食料として重宝された歴史があります。
江戸時代後期の18世紀末には、ロシア人の影響によって千島列島・択捉島に移入され、飢饉対策として栽培されました。北海道での栽培は1706年に箱館で松兵衛という人物が開墾し、じゃがいもを栽培したのが始まりとされています。元禄時代には、ジャガイモの栽培が奨励されました。また、江戸時代後期には、甲府の代官であった中井清太夫がジャガイモ栽培を奨励したとされ、享和元年(1801年)には本草学者の岩崎常正が甲斐国黒平村(現在の甲府市黒平町)においてジャガイモの栽培を記録しています(『甲駿豆相採薬記』)。さらに、江戸時代後期には、北海道のアイヌ民族もじゃがいもを栽培していました。
本格的に導入されたのは明治時代以降で、北海道の開拓に利用されました。アメリカ合衆国で農業を学び、後に「いも」と呼ばれた、初代北海道庁長官である永山武四郎によって普及しました。明治政府のお雇い外国人である、ポートランド・メソジスト教会の宣教師W.S.クラークは、アメリカからアイリッシュ・コブラーという品種を導入し、自身の農場で栽培して普及させました。この品種は、川田男爵の爵位にちなんで「男爵いも」と呼ばれるようになりました。明治期の当初は、でんぷんの原料としての需要が主でしたが、食生活の普及とともに、徐々に肉じゃがやコロッケなど、日本の家庭料理にも取り入れられるようになっていきました。しかし、1968年時点で北海道副知事が「半分以上はでんぷんのみとって、残りは飼料」と語るなど、消費拡大は遅かったという歴史があります。

植物としての形態・生態

じゃがいもは、ナス科ナス属の多年草です。直立する茎は、50cmから1m程度の高さまで成長します。茎には稜があり、葉は羽状複葉です。葉の付け根から地下茎が長く伸び、先端に多数の塊茎をつけます。花は星形で、黄色い雄しべと5枚の花弁を持ちます。花の色は品種によって異なり、白から紫まで様々です。花の構造は、ナス科のトマトやナスとよく似ています。受粉能力は低いですが、品種や条件によっては受粉して、ミニトマトに似た小型の果実をつけることがあります。果実は熟するにつれて、緑色から黄色、さらに赤色へと変化しますが、落果しやすく、完熟するものは稀です。果実の中には種子(真正種子と呼ばれる)があり、これを発芽させて成長させることも可能です。じゃがいもの育種および品種改良は、この種子を利用して行われますが、種芋から育たないため、成長しても全体的に小柄です。これを親株と同様の大きさ程度にまで育てるには、3年(3代)程度かかるため、多年生植物としては交配に時間のかかる植物といえます。また、じゃがいもの品種改良は、種子を採取して実生から栽培する方法もありますが、種子1粒ごとに遺伝的な性質が異なり、品質を揃えることが難しいため、一般的には芋を植えて性質が同じ品種を増やす方法がとられます。
晩春に花が咲き始める頃、土の中では新しい芋ができ始めます。芋は、根のように土中の水分や養分を吸収する機能はなく、地下にある茎が肥大したもので、塊茎とも呼ばれます。日中に葉で光合成された養分が、夜になって地下の茎に蓄えられてできたものです。塊茎は、地中に埋められた種芋の上から伸びた茎の第6-8節から発生した匍匐(ほふく)分枝した茎(ストロン)の先が、次第に肥大して芋になります。昼夜の気温差が大きいほど、養分の移行がスムーズになり、芋のデンプン量が多くなります。塊茎の肥大は、昼温約20℃、夜温10-14℃が適温であり、20℃を超えると塊茎は形成されにくくなる性質を持ちます。

毒性

じゃがいもには、ソラニンやチャコニンといった、まとめてポテトグリコアルカロイド(PGA)と呼ばれる有毒なアルカロイドが含まれています。これらの物質はじゃがいも全体に存在しますが、その含有量は品種やサイズによって異なり、特に緑色になった皮の部分、芽、そして果実に多く含まれています。毒性が強いため、葉や茎は食用には適しません。また、果実も塊茎(芋)に比べてPGA含有量が多いため、一般的には食用とされません。ただし、塊茎(芋)自体にはPGAが含まれていないことが多いですが、原種や一部の品種には芋にもPGAが含まれているものがあり、これらは食用には適しません。
安全に食べるためには、芽や緑色に変色した皮は必ず取り除く必要があります。長期保存されたじゃがいもは、皮を厚めに剥いて調理することが推奨されます。PGAは加熱しても分解されにくい性質を持っています。PGAを大量に摂取すると、めまい、吐き気、下痢などの症状を引き起こすことがあります。特に子供は、PGAに対する感受性が高く、少量でも中毒症状を起こす可能性があります。家庭菜園や学校菜園で栽培された発育不良の小さなじゃがいもはPGA含有量が多い場合があり、注意が必要です。過去には、芽を大量に食べて死亡した事例も報告されています。
中毒を防ぐためには、じゃがいもを日光に当てず、冷暗所で保管し、芽や緑色になった皮の部分を完全に取り除くことが重要です。PGAは水溶性であるため、皮を剥いて茹でたり、水にさらすことで、ある程度除去できますが、完全に除去できるわけではありません。電子レンジ調理による中毒例も報告されているため、注意が必要です。

栽培

じゃがいもは比較的簡単に育てられる野菜であり、春に種芋を植えて夏に収穫する春作と、夏に植えて秋に収穫する秋作があります。一般的に、3月から7月にかけて行う春作の方が管理しやすいとされています。大きめのプランターやコンテナでも栽培が可能です。生育期間は約3~4ヶ月と、他の芋類に比べて短いのが特徴です。また、収量も多いため、デンプン質作物として生産効率が高く、農業経営においても有利とされています。原産地は冷涼で乾燥した高地であり、栽培に適した温度は15~22℃と他の芋類よりも低く、冷涼な気候を好みます。連作を嫌うため、ナス科の野菜を3~4年栽培していない畑を選び、石灰と元肥を入れて耕してから植え付けを行います。土壌酸度はpH7.0の中性が理想的ですが、pH5.5程度の酸性土壌でも生育可能です。

種芋の準備と植え付け

一般的な栽培方法では、じゃがいもは「種芋」を植え付けて育てます。植え付けに使用する種芋は、ウイルスに感染していない専用のものを使用します。種芋の数を増やすために、種芋に適切な温度と光を当てて発芽させ、芽を中心に適切な大きさ(半分から数個程度)に切り分けます。切断面を数日乾燥させるか、草木灰などを塗布し、腐敗を防ぎます。植え付けの際は、切断面を下に向けて地面に置き、土を被せます。秋作では、種芋を切ると腐敗しやすいため、小さく切らずに一片だけ切り取るか、丸ごと植え付ける方法が一般的です。切り口を下向きにするのは、雨水が地中へ浸透する際に、切り口が下向きの方が腐敗を防げるためです。種芋を植え付ける畑は、堆肥を入れて耕し、高畝を作り、株間を30cm程度にします。

芽かき・土寄せから収穫まで

植え付け後、一つの種芋から複数の芽が出てきます。芋を大きく育てるために、太い芽を2本(秋植えの場合は1本)残して、他の芽を抜き取る「芽かき」という作業を行います。芽を3本以上残すと収量は増えると言われますが、芋のサイズが小さくなる傾向があります。芋になる地下茎は、種芋よりも上の地表に近い位置にできるため、新しい芋が日光に当たって緑化しないように、また芋がつく場所を確保するために、株元の土を盛り上げる「土寄せ」を行います。土寄せは、芽が5~10cm程度に伸びた時と、30cm程度に伸びた時に2回行い、最終的に畝の高さが30cm程度のカマボコ型になるようにします。花が咲き始める頃からカリウムの吸収が盛んになるため、追肥を行います。種芋の植え付けから約4ヶ月後、葉が黄色くなり、新しい芋が大きくなっていれば収穫時期です。株の周りから掘り起こし、株ごと引き抜いて収穫します。収穫した芋は半日ほど天日干しし、傷があるものは腐りやすいため取り除き、風通しの良い冷暗所で保存します。葉が緑色のうちに収穫した芋(新じゃがいも)は長期保存には向かないため、早めに食べる必要があります。地上部の茎葉が黄色く枯れるまで土中に置いた芋は、長期保存が可能です。大規模な畑では、収穫にハーベスターが使用され、土ごと芋が拾い上げられ、選別台で大きさごとに選別されます。収穫後は、水分蒸散や病原菌の侵入を防ぐために表面処理を行い、低温貯蔵庫で一時保管した後に出荷されます。

病虫害

じゃがいもは、涼しい気候や痩せた土地でも育ちやすい一方で、病気や害虫による被害を受けやすいという一面も持ち合わせています。そのため、トマト、ナス、ピーマンといったナス科の野菜との連作や、近い場所への植え付けは避けるようにしましょう。じゃがいもの地下茎は水分や栄養分が豊富であるため、病原菌が繁殖しやすく、保存状態の悪い種芋や、収穫されずに畑に残った芋は病気の原因となります。このような理由から、日本では種苗法によって種芋の売買が規制されています。
疫病は、生育期の後半に発生し、急速に広がる可能性があります。塊茎の肥大や貯蔵性にも悪影響を及ぼします。ナス科のトマトとも共通の病害が発生しやすく、特に葉に現れる湿った黒褐色の斑点は注意が必要です。発見した場合は、殺菌剤を散布して防除しましょう。また、ジャガイモの代表的な病気としてそうか病があり、土壌のpHが高いほど発生しやすくなるため、注意が必要です。青枯れ病が発生した場合は、速やかに株を抜き取る必要があります。
害虫としては、コロラドハムシ、アブラムシ、ヨトウムシ、テントウムシダマシ(ニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウ)などが挙げられます。特にテントウムシダマシは葉を著しく食害します。これらの害虫は成虫の状態で落ち葉の下などで越冬し、春になるとナス科、特にジャガイモに集まって被害を与え、葉の裏に卵を産み付けます。孵化した幼虫も大きな被害をもたらすため、早めの除去が重要です。食害痕を見つけたら、10日おきを目安に数回、殺虫剤を散布して防除しましょう。日本は、国外からの病害虫の侵入を防ぐため、生食用ジャガイモの輸入を原則禁止していますが、アメリカ合衆国は2020年3月31日に輸入解禁を要請しています。

連作障害

ジャガイモはナス科野菜と同じ畑で栽培すると、そうか病、疫病、青枯れ病などの連作障害が発生しやすいという特性があります。連作を繰り返すと、土壌のバランスが崩れ、生育が悪くなるだけでなく、病害や寄生虫が発生しやすくなります。この性質はジャガイモに限らず、ナス科の植物全体に見られるもので、例えばジャガイモの後にナスを植えた場合にも連作障害が起こることがあります。
特にジャガイモに大きな被害を与える原因の一つとして、ジャガイモシストセンチュウによる生育阻害があります。この線虫は地中で増殖し、密度が高くなるとジャガイモの生育を著しく妨げます。例えば、乾いた土1g中に100個以上の卵が存在するような高密度状態では、収穫量が60%程度まで低下すると言われています。センチュウは宿主となる植物(ジャガイモなど)が存在しなくても、卵の状態(シスト)で10年以上も生存することがあり、シスト状態では薬剤も効きにくいため、根絶が非常に困難です。そのため、卵を含む可能性のある土を移動させない、付着の恐れのある農具や運搬具を洗浄する、といった拡散防止策が重要となります。
長期的な休閑や、センチュウの宿主とならない作物を栽培することも対策として有効ですが、センチュウの密度を大きく減らす効果は期待できません。最も効果的な密度低減対策は、抵抗性を持つ品種を栽培することとされています。センチュウはジャガイモには被害を与えますが、イネには無害です。また、種芋に付着した土や動物の糞から伝染することがあります。そのため日本では、アイルランド経由以外の、検疫を受けていない塊茎類の直接的な持ち込みは禁止されています。種苗法によって種芋の販売が規制され、検査が義務付けられています。
ジャガイモの原産地であるアンデス中央高地では、古くから連作障害の問題が認識されており、長期の休閑と輪作が行われてきました。ジャガイモの後に別の作物を植えるだけでなく、3〜4サイクルで一つの区画を利用した後、長期間の休閑期間を設けます。休閑期間の長さは、人口密度や畑の広さなどによって異なります。
日本国内においては、明治22年(1889年)の地租改正によって共有地が解体され、耕作地が私有地化されたことで、個人が所有する土地の区画が狭くなり、長期的な休閑が困難になったため、シストセンチュウが再び問題となっています。アンデスの地域によっては、マシュア(イサーニョとも呼ばれ、学名:Tropaeolum tuberosum)と呼ばれるナスタチウム属の塊茎類を栽培することで、シストセンチュウの発生を抑制しています。マシュアは、その根からシストセンチュウを避けるための分泌物を放出することが科学的に確認されています。また、インカ時代には、マシュアには男性の性欲を抑える効果があることが知られており、長期間にわたる兵士の出征や労働の際に、性衝動をコントロールする目的で利用されていたという記録が古文書に残されています。

生産

国際連合食糧農業機関 (FAO) の統計資料 (FAOSTAT) によると、2014年の全世界におけるジャガイモの生産量は3億8168万トンであり、主食となるイモ類の中では最大の生産量を誇ります。生産地域は、大陸別に見るとアジアとヨーロッパがそれぞれ4割を占めており、オセアニアを除くといずれも中緯度から高緯度にかけて分布しています。上位5カ国で全生産量の57%を占めており、日本の生産量は245万トン(世界シェア0.64%)です。
ジャガイモは長期間の保存には適していないため、生産量に比べて貿易量は多くありません。貿易の多くは、ヨーロッパ域内などの地域的な近接性によるものがほとんどです。

日本における生産

農林水産省の統計資料によると、平成28年度の都道府県別収穫量では、全国約216万トン中、北海道(道内各地、特にオホーツク地方、十勝地方)が約170万トンと全国の8割を占めています。

利用法

じゃがいものイモ(塊茎)は、その淡白な味わいから、主食にも副食にもなる万能食材として、世界中で広く食されています。主成分はデンプンであり、米、小麦、トウモロコシと並び、地域によっては主要な食糧源となっています。また、ビタミンCが豊富であるほか、片栗粉の原料としても利用されます。市場には一年を通して出回りますが、旬の時期は一般的に、北半球では秋から冬(10月~2月)、新じゃがいもは初夏(5月~6月)とされています。美味しいじゃがいもを選ぶ際は、表面の凹凸が少なく、皮にハリがあり滑らかで、芽が出ておらず、緑色に変色していないものを選ぶと良いでしょう。ただし、じゃがいもの芽、茎、葉、花、果実、そして緑色に変色したイモには、ソラニンという有毒なアルカロイドが含まれているため、食用や薬用には適しません。
じゃがいもの利用方法は、大きく分けて生食、加工食品、原料の3つに分類できます。加工食品としては、ポテトチップス、フライドポテト、マッシュポテト、コロッケ、ポテトサラダ、スープなどが挙げられます。また、じゃがいも由来のデンプンは、片栗粉として販売されている粉末の主要な原料であり、インスタント麺などにも利用されています。近年では、通常廃棄される皮の有効活用に関する研究も進められています。

栄養価

じゃがいもの塊茎には、13~20%のデンプン、1.5~2.6%のタンパク質が含まれており、その他にもビタミンB群、カリウム、リンなどのミネラル類、食物繊維が豊富に含まれています。デンプン質が多い一方で、比較的低カロリーな食品であり、エネルギー量は炊いたご飯の約半分程度です。じゃがいもの約80%は水分で構成されており、残りの大部分は固形分、そのうちの90%がデンプン質です。微量ながらショ糖や果糖も含まれており、独特の風味を醸し出しています。
芋類の中でも特にカリウム含有量が多く、フランスではじゃがいもを「大地のリンゴ(pomme de terre)」と呼び、ドイツ語やオランダ語にも同様の表現が存在します。ビタミンCは熱に弱い性質を持ちますが、じゃがいもの場合はデンプン質に包まれているため、加熱調理による損失が少ないという利点があります。また、長期保存によるビタミンCの減少も少ないのが特徴です。じゃがいもには、動物性脂肪を減らす効果があると考えられており、間接的にコレステロール値の上昇を抑制する効果が期待できます。さらに、可食部100gあたり1.3gの食物繊維が含まれており、便秘の解消や予防に役立つとされています。
このように様々な栄養素を含むじゃがいもですが、アメリカなどではフライドポテトやポテトチップスとして大量に消費される傾向があり、必ずしも健康的な消費方法とは言えません。煮る、蒸す、焼くといった、素材本来の味を活かした調理方法であれば、健康的な食品として積極的に摂取できるでしょう。

料理

じゃがいもは、世界各地で様々な料理に用いられています。その形状、加熱方法、水分量によって食感が大きく変化し、多様な香辛料、油脂、乳製品などとの相性が良いのが特徴です。
日本では、肉じゃが、コロッケ、ポテトサラダなど、じゃがいもを主原料とする料理が家庭料理として親しまれているほか、味噌汁、カレー、シチュー、筑前煮などの具材としても広く利用されています。また、ポテトチップスも国民的な人気を誇るお菓子です。
一方、欧米では、フライドポテト、マッシュポテト、ベイクドポテト、グラタン、ポテトスープ、ローストポテトなど、じゃがいもをメインとした料理が数多く存在し、蒸かしただけのものを主食として食べることもあります。その他、スイスのレシュティなども代表的なじゃがいも料理です。フランスでは、ひき肉とマッシュポテトで作るアッシェ・パルマンティエがよく知られています。中国では、細切りにしたじゃがいもの炒め物が一般的です。また、日本以外では、焼酎(韓国焼酎)やウォッカの原料としても利用されています。

調理上の特性

じゃがいもに含まれるポリフェノールは、酸素に触れると酵素反応を起こし、褐変を引き起こします。そのため、皮を剥いた後の切断面を水にさらすなどの方法で、褐変を防ぐ必要があります。ただし、30分以上水にさらしてしまうと、細胞内のデンプン質と水に含まれる無機質が反応し、細胞膜が強化されて火が通りにくくなるため注意が必要です。
じゃがいもは品種によって特性が異なるため、料理に合わせて使い分けることが重要です。比較的粘りが少ない粉質のじゃがいも(例:男爵薯)は、コロッケや粉ふきいもに適しています。皮付きのまま茹でることで、デンプン質の流出を防ぎ、水っぽくならずにホクホクとした食感を残すことができます。一方、粘りがある粘質のじゃがいも(例:メークイン)は、肉質が緻密で煮崩れしにくいため、煮込み料理やサラダに向いています。
煮崩れは、細胞内のデンプンが水分を吸収して膨張・変形することで発生します。粉質の男爵は加熱するとホクホクした食感になり、粘質のメークインはねっとりとした食感になります。春先に出回る早掘りのじゃがいもは「新じゃがいも」として親しまれ、皮が薄く水分が多いため、小ぶりのものは皮を剥かずに丸ごと調理し、蒸し芋、煮っころがし、揚げ物などに適しています。

保存食

ジャガイモは、その保存性を高めるため、昔から凍結乾燥という手法が用いられ、飢饉への対策として役立てられてきました。アンデス中央部では、先インカ時代に、ジャガイモを凍らせた後、何度も踏みつけることで水分と毒素を取り除く技術が開発され、長期保存が可能になりました。この凍結乾燥させたジャガイモは「チュニョ」と呼ばれています。現在でも、ペルーやボリビアの高原地帯(アルティプラーノ)ではチュニョが食されています。乾燥したチュニョは、まるで小石のような見た目をしています。一般的に、塩味のスープに入れて長時間煮込んで食べられますが、品質の悪いチュニョはカビ臭いことがあります。また、製法や品種は多少異なりますが、チュニョと同様の原理で凍結乾燥させたジャガイモに「トゥンタ」と呼ばれるものがあり、ペルー南部やボリビアなどで広く食されています。
日本国内でも、山梨県甲府市や長野県の一部地域で、ジャガイモを冬の寒さで凍らせ、踏みつける作業を繰り返すことで、水分を減らして保存性を高める方法があります。これらは「しみいも」や「ちぢみいも」などと呼ばれています。北海道のアイヌ民族も、収穫しきれなかったジャガイモや傷ついたジャガイモを畑に放置し、雪に埋もれさせて凍らせます。放置されたジャガイモは、凍結と解凍を繰り返し、水分が抜けて小さくなります。この工程を経て作られた保存食は「ポンイモ」や「ペネコショイモ」などと呼ばれ、水で戻して丸め、団子にして油をひいた平鍋で焼いて食べます。これらの伝統的な保存食とは異なりますが、現代の北海道では、低温で一年半ほど保管し、デンプンを糖化させて甘みを引き出したジャガイモが商品として販売されています。長期保存に適した品種の開発も進められています。

加工食品

加工食品としては、ポテトチップスが広く親しまれています。ただし、揚げ物であるため、アクリルアミドが多く含まれており、焦げ付いた場合に変化することがあるので注意が必要です。ポテトチップス専用の品種も存在します。2014年のジャガイモ収穫量は245万トンで、そのうちポテトチップス用は37万トンでした。特に、カルビーは国内で収穫されたジャガイモの17%を使用しています。

デンプン採取

ジャガイモは、食材として利用されるだけでなく、豊富に含まれるデンプンを抽出したものが片栗粉として販売されています。本来、片栗粉はカタクリのデンプンを粉末にしたものですが、現在市販されている片栗粉のほとんどはジャガイモのデンプンです。

酒造

デンプンが豊富なジャガイモは、ウォッカ、ジン、焼酎、アラック、韓国焼酎(ソジュ)などの原料としても用いられます。日本国内では、近年、北海道で特産のジャガイモを使用したジャガイモ焼酎(焼酎乙類)の生産が盛んに行われるようになっています。また、長崎県でも特産品としてジャガイモ焼酎を製造している酒蔵があります。1979年4月には、北海道の清里町焼酎醸造事業所が、日本初のジャガイモ焼酎「じゃがいも焼酎 清里」を製造販売しました。その後、北海道の多くの焼酎メーカーがジャガイモ焼酎の製造に参入しています。ジャガイモ焼酎は、サツマイモで作る焼酎に比べて、癖が少なく飲みやすい傾向があります。

薬用としての利用

じゃがいもを薬として利用する場合、主に塊茎、つまり私たちが普段食べているイモの部分が用いられます。この際、漢方では洋芋(よういも)と呼ばれることもあります。使用する際には、必ず皮を丁寧に剥き、芽を完全に除去する必要があります。じゃがいもは比較的、体質を選ばずに使用できる生薬としても知られています。特に、体内の余分なナトリウムを排出する作用があるカリウムを豊富に含んでいるため、高血圧の予防に役立つと言われています。
神経痛、リウマチ、関節炎、痔、むくみ、貧血などの症状に対しては、生のじゃがいもをすりおろし、小麦粉と酢を混ぜてペースト状にしたものをガーゼなどに塗り、患部に冷湿布として貼ると、痛みが和らぎ、早期回復を促す効果が期待できるとされています。また、痛風の症状緩和には、日々の食事にじゃがいもを取り入れるとともに、上記のような冷湿布を併用すると、より効果的であると考えられています。
胃潰瘍や胃炎の症状には、じゃがいもをすり下ろし、土鍋で水分を飛ばして真っ黒になるまで加熱したものを、1日に1回、2匙程度服用する方法があります。

じゃがいも×アボカド極上レシピ

今回は、じゃがいもの新たな魅力を引き出す、じゃがいもとアボカドを組み合わせた絶品おつまみレシピを2品ご紹介します。これらのレシピは、じゃがいものほっくりとした食感と、アボカドのまろやかでクリーミーな味わいが絶妙に調和しており、簡単に調理できる上に、いつもの食卓をより豊かなものにしてくれること間違いありません。ビールやワインなどのお酒との相性も抜群なので、おもてなし料理としても喜ばれるでしょう。

お酒のお供に最適!自家製シーズニングのアボカドポテト

このレシピは、揚げたじゃがいもと濃厚なアボカドを主役に、彩り豊かなサニーレタスとミニトマトを添えた、見た目も華やかで食欲をそそる極上の一品です。この料理の鍵となるのは、市販品ではなかなか味わうことのできない、本格的な香りと風味を醸し出す自家製シーズニングです。クミンシード、赤唐辛子、ガーリック塩、コリアンダー、オレガノなど、厳選された8種類のスパイスを独自にブレンドし、フードプロセッサーで細かく粉砕することで、手軽に本格的な味わいを再現することができます。自家製シーズニングを使用することで、自分の好みに合わせてスパイスの配合を細かく調整できるのが大きな魅力です。複雑なスパイスの香りが、じゃがいもの優しい甘みとアボカドの豊かな風味を一層引き立て、ビールやワインなど、様々なお酒との相性も抜群で、一度食べたら病みつきになること間違いなしです。揚げたての熱々を口に運べば、スパイスの芳醇な香りが口いっぱいに広がり、至福のひとときを堪能できるでしょう。

至福の味!アボじゃがサーモンサラダ

お肉料理の付け合わせとしてはもちろん、軽食としても楽しめる、一度食べ始めたら止まらない、まさに「至福の味」のサラダです。ほっくりとしたじゃがいも、とろけるようなアボカド、そして風味豊かなスモークサーモンという、相性抜群の食材を組み合わせ、マヨネーズやレモン汁、そして隠し味として醤油やわさびなどの調味料を、ダーリンのつまさん独自の絶妙なバランスで混ぜ合わせるだけで、簡単に完成します。アボカドとサーモンの黄金コンビが生み出す濃厚な旨味に、じゃがいもの優しい食感が加わり、一口食べるとその美味しさに夢中になってしまうでしょう。クラッカーに乗せておしゃれなカナッペとして楽しんだり、パンに挟んでサンドイッチにするなど、様々なアレンジが可能です。さらに、彩りと食感のアクセントとして加えるケイパーの酸味と独特の風味が、このサラダをより洗練された味わいに仕立て上げ、お酒のおつまみとしても最適な一品となっています。このレシピで使用されているアボカドは、ファーマインドの『真の実 アボカド』です。

主要品種

ジャガイモは、病気への抵抗力や収穫量といった栽培特性、加工のしやすさ、流通・保存のしやすさ、そしてもちろん食味といった様々な側面から、より良い品種を生み出すための品種改良が続けられています。ポテトチップスを作るカルビーでは、最適な品種、栽培方法、貯蔵方法を研究するために専門の研究施設を設け、「ぽろしり」や「ゆきふたば」といった独自の品種を開発しています。ジャガイモは品種によって、皮の色、果肉の色、粉質か粘質かといった性質に違いがあり、花の色も白から紫まで様々です。粉質のジャガイモは、加熱するとホクホクとした食感になり、粘質のジャガイモは、きめが細かく煮崩れしにくいのが特徴です。日本では、「男爵薯」と「メークイン」が二大品種として広く栽培されており、その他に「農林1号」、「デジマ」、「ワセシロ」など、合わせて99品種が登録されています。現在では、公的機関や民間企業だけでなく、農家が自然に発生した突然変異から新しい品種を作り出すこともあります。原産地である南米では、皮や果肉に色素を持つ様々な品種が栽培されており、近年では日本国内でも、色鮮やかなジャガイモが生産されるようになってきました。なお、ここで言う「生食用」とは、家庭や飲食店で調理して食べることを指し、生のまま食べるという意味ではありません。

保存

じゃがいもは寒さに弱い性質を持つため、4℃を下回るとデンプンが変化してしまいます。そのため、冷蔵庫での保存は避け、紙に包むか紙袋に入れ、直射日光を避け、風通しの良い場所で保管するのがベストです。段ボールや紙袋を使用することで、適切な湿度を保ちながら光を遮断できます。冷蔵庫の野菜室も利用できますが、温度が低すぎるとデンプンが糖に変わりやすく、食感が損なわれることがあるため、基本的には常温での保存が推奨されます。涼しく、暗く、適度な湿度がある環境が理想的で、じゃがいもの発芽や緑化を抑え、品質を長期間維持することに繋がります。

品種の影響と貯蔵性

じゃがいもの種類によって貯蔵できる期間が異なり、加工業者は用途や時期に合わせて複数の品種を使い分けています。例えば、「スノーデン」という品種(ポテトチップスの原料として使われることがあります)は、長期保存に適しており、4月から6月頃の原料として利用されます。これは、収穫後のじゃがいもを適切な環境下で保管することで、品質を一定に保ち、長期間にわたって供給することを可能にするためです。

茹でたじゃがいもの保存

茹でたじゃがいもは、冷蔵庫で保存すれば4~5日程度は持ちます。しかし、茹でたじゃがいもをそのまま冷凍すると、水分が分離して食感が悪くなるため、冷凍保存は避けるべきです。ただし、マッシュポテトや水分が少ないフライドポテトは、冷凍しても食感の変化が少ないため、冷凍保存に適しています。

じゃがいもから芽が出た場合、食べても大丈夫?

じゃがいもから芽が出てしまっても、適切な処理をすれば食べられます。ただし、注意が必要な点があります。芽や緑色に変色した部分には、ソラニンやチャコニンといった天然の有害物質が多く含まれているためです。これらの物質は、加熱しても完全には分解されないため、食中毒を引き起こす可能性があります。安全に食べるためには、芽の根元をしっかりと、深めにえぐり取り、緑色の部分は厚く皮をむくことが重要です。特に、小さなお子さんや家庭菜園で育てた小さなじゃがいもは、これらの有害物質を多く含んでいる場合があるので、注意して調理しましょう。大量に摂取すると、吐き気や腹痛、下痢などの症状が出ることがあります。

じゃがいもの上手な保存方法とは?

じゃがいもは、保存方法によって品質が大きく左右されます。光に当たると芽が出やすくなり、緑色に変色しやすいため、光を遮断した冷暗所で保存するのが理想的です。具体的には、風通しの良い場所に、段ボールや紙袋に入れて保存すると良いでしょう。こうすることで、適度な湿度を保ちながら、光を遮ることができます。冷蔵庫に入れる場合は、野菜室が適していますが、温度が低すぎると、じゃがいもに含まれるデンプンが糖に変化し、食感や風味が損なわれることがあります。常温保存が基本と考えましょう。また、りんごと一緒に保存すると、りんごから発生するエチレンガスがじゃがいもの発芽を抑制すると言われていますが、効果は環境に左右されるため、過度な期待は禁物です。

じゃがいもを使った、もっと簡単なレシピは?

じゃがいもは、色々な料理に使える便利な食材です。以前にご紹介したアボカドとの組み合わせ以外にも、簡単でおいしいレシピがたくさんあります。「ジャーマンポテト」や「フライドポテト」、定番の「肉じゃが」などもおすすめです。薄切りにしてフライパンで炒めるだけでも、じゃがいも本来の甘みとホクホクとした食感を楽しめます。他にも、茹でて潰してマッシュポテトにしたり、揚げてコロッケにしたりと、工夫次第でバリエーションは無限に広がります。シンプルに塩茹でしたり、蒸してバターと塩で食べるだけでも、じゃがいもの美味しさを十分に堪能できます。煮崩れしにくいメークインは煮込み料理に、ホクホクとした食感の男爵薯はコロッケや粉ふきいもなどに向いています。

じゃがいもへの放射線照射は安全?

日本では、じゃがいもの発芽を抑制する目的で、放射線照射(ガンマ線照射)が認められています。これは、収穫後のじゃがいもに弱い放射線を当てることで、芽の細胞分裂を抑制し、発芽を防ぐ技術です。放射線照射されたじゃがいもが放射能を帯びることはなく、また、それを食べた人に健康上の問題が起こることもないと、科学的に確認されています。現在、日本国内で放射線照射が許可されている食品はじゃがいものみです。しかし、この技術に対する一般の認知度はまだ低く、安全性や必要性について、より正確な情報提供が求められています。

日本のじゃがいもの主な産地はどこですか?

日本のじゃがいもの主要な産地といえば、やはり北海道です。農林水産省が発表している統計資料(平成28年度)によれば、全国のじゃがいもの収穫量はおよそ216万トンですが、そのうち北海道が約170万トンと、全体の8割を占めています。特にオホーツク地方や十勝地方では、大規模な栽培が行われています。北海道の涼しい気候がじゃがいもの栽培に適しており、広大な土地を利用することで効率的な生産が実現しています。

じゃがいもは薬用として利用できますか?

じゃがいもは、その塊茎(イモ)を「洋芋(ようう)」と呼び、薬用として用いられることがあります。使用する際は、皮をむき、芽を完全に取り除いたものを用いるのが基本であり、比較的体質を選ばない生薬とされています。カリウムが豊富に含まれているため、体内の余分なナトリウムを排出する作用があり、高血圧の予防に役立つと言われています。さらに、神経痛、リウマチ、関節炎、痔核、むくみ、貧血などに対しては、生のじゃがいもをすりおろし、小麦粉と酢を混ぜて患部に冷湿布すると、痛みが和らぎ、早期の治療に繋がるとされています。痛風の場合は、日々の食事にじゃがいもを取り入れるとともに、冷湿布を併用すると効果的です。また、胃潰瘍や胃炎の治療には、じゃがいもをすり下ろして水分を取り除き、黒くなったものを服用するという民間療法も存在します。
じゃがいも