秋の味覚として親しまれている柿は、地域経済を支える重要な農産物です。本記事では、農林水産省が発表した最新データ(2023年)をもとに、柿の生産量を都道府県別、さらに市町村別にランキング形式で詳しく解説します。また、日本の柿生産が抱える課題である、労働力不足、生産者の高齢化、価格競争などの問題点に焦点を当て、各産地で行われている先進的な取り組み事例を紹介します。例えば、和歌山県伊都地域におけるオリジナル品種の導入や省力化技術、奈良県五條市における地域活性化と6次産業化、天理市における人材マッチングシステムの導入など、収益向上と省力化を実現するための具体的な戦略を解説します。この記事を通して、柿生産の現状と展望、持続可能な農業経営のためのヒントを得ていただければ幸いです。
柿とは?分類と国内生産の現状
柿は、渋み成分であるタンニンの性質によって、大きく甘柿と渋柿に分けられます。また、その中間の性質を持つ不完全甘柿や不完全渋柿も存在し、それぞれの特徴を活かして様々な形で消費者に届けられています。
甘柿と渋柿の特徴と代表的な品種
甘柿は、不溶性タンニンを含む品種のことで、渋みを感じることなく生で食べられます。代表的な品種としては、次郎柿や富有柿などが挙げられ、その甘さと滑らかな食感が人気です。一方、渋柿は水溶性タンニンを含む品種であり、生のままでは強い渋みがあるため、渋抜き処理や干し柿などの加工を施してから出荷されます。
日本の柿生産量の推移
近年、日本の柿生産量と栽培面積は減少傾向にあります。農林水産省の統計データによると、全国の柿の収穫量は2019年の20万8千トンから2023年には17万1千トンに減少しました。また、栽培面積も2019年の1万7,800ヘクタールから2023年には1万5,500ヘクタールに減少しています。このように、柿の生産量は全体として減少傾向にありますが、全国シェア2位の奈良県のように、生産量を増やしている地域も存在します。
【2024年版】日本全国 柿の生産地ランキング
日本の柿栽培は、特定の地域に集中する傾向があり、それらの地域が長年にわたり主要な産地としての地位を築いています。ここでは、農林水産省が発表した2023年のデータを基に、都道府県別および市町村別の柿生産量ランキングを詳細にご紹介します。
都道府県別 柿の収穫量ランキング ベスト10(2023年)
農林水産省の統計データによれば、2023年の都道府県別柿収穫量において、和歌山県が45年連続で全国トップの座を維持しています。温暖な気候と恵まれた日照条件が、柿の生育に理想的な環境を提供し、長期間にわたる首位の座を支えています。
和歌山県に続き、奈良県、福岡県、岐阜県、愛知県が上位にランクインしています。これらの上位5県の収穫量を合計すると、日本全体の柿生産量の過半数を占めており、柿の生産がこれらの地域に大きく依存していることが明らかになります。
2023年 都道府県別 柿の収穫量ランキング
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1位: 和歌山県
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2位: 奈良県
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3位: 福岡県
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4位: 岐阜県
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5位: 愛知県
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…(詳細なデータは元の記事に記載されているはずですが、ここでは順位のみを示します)
市区町村別では奈良県五條市がトップの生産量を誇る(2023年)
市区町村別の柿の収穫量を見ると、奈良県五條市が日本一となっています。特にハウス栽培の柿においては、五條市が全国シェアの約7割を占めるという圧倒的な強さを示しています。「日本一の柿のまち」を宣言する五條市は、柿の栽培から販売促進、イベント開催に至るまで、多岐にわたる取り組みを通じて地域ブランドを強化し、その地位を確立しています。
有名産地徹底解説!地域ごとの特徴と取り組み
日本の柿の生産をリードする主要な産地は、それぞれの土地が持つ自然条件や歴史的な背景を最大限に活かし、様々な問題の解決とブランド力の向上を目指した取り組みを積極的に行っています。ここでは、和歌山県、奈良県、福岡県、岐阜県といった名高い産地の特色と、具体的な施策について詳しく解説します。
和歌山県:45年連続日本一を支える秘訣と革新
2023年の都道府県別柿生産量において、45年もの間、連続で全国1位という輝かしい記録を保持している和歌山県。その圧倒的な地位は、確固たるものとなっています。2019年のデータによれば、年間の生産量は43,510トンに達し、全国のシェアの20.8%を占めています。柿の栽培面積を示す結果樹面積も2,190haと広大で、都道府県の面積に対する柿の結果樹面積の割合においても日本一です。これは、和歌山県全体の約0.531%に相当し、「和歌山県の約188分の1が柿畑」という計算になるほどの規模です。
和歌山県の恵まれた地理的条件と強固な生産基盤
和歌山県は、温暖な気候と十分な日照時間に恵まれており、柿の栽培にとって理想的な環境が整っています。特に、県内北東部に位置する伊都地方は、柿の有名な産地として知られています。この地域は、多様な地質が層状に重なる肥沃な土壌であることや、一日の寒暖差が大きいことなどから、甘みが強く、色鮮やかな高品質な柿が育ちます。県内で生産される柿の約6割がこの伊都地方で栽培されており、柿を丁寧に串に刺して作られる「串柿」が軒先に連なる風景は、晩秋の風物詩として親しまれています。
ブランド力強化のためのオリジナル品種「紀州てまり」
和歌山県伊都地方では、さらなる収益の向上を目指し、県が独自に開発した品種「紀州てまり」の栽培を積極的に推進しています。紀州てまりは、大玉で見た目にも美しく、甘くてジューシーでありながら、しっかりとした食べ応えのある柿です。この品種の導入により、ブランドイメージの向上と販売価格の上昇が期待されています。また、主要品種である「刀根早生」への依存度を下げる対策としても重要な役割を担っています。和歌山県は柿の輸出にも注力しており、現在は主にアジア地域への販売を強化することで、国際市場における競争力の強化を図っています。
省力化を目指す「結果母枝の先端カット技術」
伊都地域では、労働者不足に対応するため、省力化に繋がる「結果母枝の先端カット技術」が積極的に導入されています。この技術は、冬の剪定時期に結果母枝の先端にある芽をカットすることで、花芽の数を調整し、摘蕾作業の負担を減らすものです。導入の結果、摘蕾作業の効率が2割アップし、1本の木あたりの摘蕾作業時間が約2割短縮されるという成果が出ています。ただし、この効果は「刀根早生」などの特定の品種で確認されており、他の品種については、さらなる研究が進められています。
耕作放棄地の再生と収入源の多様化を目指す「省力型栽培」
さらに、伊都地域では「省力型栽培」も推進されています。これは、柿の栽培や収穫にかかる手間を削減しつつ、柿の葉や摘果したばかりの若い果実など、これまで廃棄されていた部分も有効活用して収入を増やす試みです。例えば、摘果した柿を使ってジャムやコンポートなどの加工品を製造・販売するなどの取り組みが行われています。これにより、栽培の効率化と収入源の多様化を同時に実現し、耕作放棄地の再生にも貢献することが期待されています。
奈良県:「柿の里」が描く未来
2023年の柿の収穫量で全国第2位の奈良県は、特に五條市が市町村別で全国トップクラスの収穫量を誇り、ハウス柿においては国内シェアの約7割を占める「柿の里」として知られています。2019年の年間収穫量は31,790トンで、栽培面積は1,830ヘクタールでした。これは奈良県全体の約0.485%を占め、「奈良県の約206分の1は柿畑」という計算になります。農産物の収穫量ランキングで奈良県が上位に入るのは珍しいとされています。
過去の課題を乗り越え、生産体制を強化
奈良県五條市は、かつて良質な農地の不足、小規模な農業経営、安定的な水の確保の難しさといった問題に直面していました。しかし、これらの問題を克服するため、果樹園の造成、規模拡大による省力化、畑地灌漑設備の整備などを積極的に行い、強固な柿の生産体制を構築してきました。国内全体の柿の収穫量が減少傾向にある中、奈良県の柿の収穫量は増加傾向にあるという点も注目すべき点です。
地域活性化と消費拡大に向けた取り組み
五條市では、柿の魅力を発信するイベント「柿の里まつり」を毎年開催し、地域を盛り上げています。会場では、柿を使った多彩な料理を味わえるブースや、人気の柿詰め放題など、家族みんなで楽しめる企画が満載です。さらに、地元の若手農家たちが中心となり、積極的に研修会や勉強会を開催するなど、意欲的な活動が展開されています。これらの取り組みを通して、柿の産地としての活力を高め、ブランドイメージを向上させ、「日本一の柿のまち」としての地位を確固たるものにしようとしています。
高付加価値化と6次産業化の好例:石井物産の取り組み
五條市に拠点を置く柿専門店の石井物産は、通常は廃棄されてしまう規格外の柿を有効活用し、年間を通して高い価値を生み出す販売方法を確立しました。農家から規格外の柿を適正な価格で買い取ることで、農家の収入を安定させるとともに、廃棄される柿の量を減らすことに貢献しています。さらに、加工品として販売する際には、商品の付加価値を高めることに注力しています。その結果、規格外の柿を原料とした和菓子「郷愁の柿」は、観光庁主催の「世界にも通用する究極のお土産」に選ばれるなど、地域を代表する特産品としての地位を確立しました。この事例は、柿農家が6次産業化に挑戦する際の参考となる、優れたモデルケースと言えるでしょう。
刀根早生柿発祥の地としての伝統と革新
奈良県は、現代の渋柿の主要品種である「刀根早生柿」のルーツであり、特に天理市がその発祥の地として知られています。天理市は、大阪や京都からのアクセスも良く、柿の主要品種「刀根早生」発祥の地としても有名です。また、かつては天皇や将軍への献上品にもなっていたという「御所柿」も、御所市が原産です。正岡子規の有名な句「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」に登場する柿も、この御所柿であると言われています。時代の変遷とともに、栽培しやすく収穫量の多い「富有柿」などが主流となり、御所柿の生産量は大きく減少しましたが、近年では御所柿を復活させようという動きも出てきています。
さらに、収穫時期の人手不足を解消するために、農家と旅行者を結びつけるシステム「おてつたび」を活用した、新しい試みも始まっています。このシステムは、農業未経験者に農業に触れる機会を提供すると同時に、農業分野における新しい働き方を創造する可能性を秘めています。
福岡県:新たなブランド「秋王」への挑戦
2023年の柿生産量で全国3位にランクインした福岡県は、国内でも有数の柿の産地です。2019年の年間生産量は16,220トン、栽培面積は1,000ヘクタールに及びました。これは福岡県全体の約0.245%を占め、「福岡県の約409分の1が柿畑」という計算になります。
オリジナル品種「福岡K1号(秋王)」の開発とブランディング戦略
福岡県では、2012年に甘柿のオリジナル品種「福岡K1号」を開発し、品種登録を行いました。この品種は、「秋王」という名称で商標登録されており、福岡県が権利を有しています。福岡県の公式ウェブサイトなどを見ると、「秋王」の積極的なプロモーションが展開されており、独自のブランド戦略に注力していることがわかります。
岐阜県:富有柿と伝統製法による干し柿、地理的表示保護制度
2023年の柿生産量において全国第4位に位置する岐阜県は、全国シェアの6.9%を占める柿の重要な産地です。
「富有柿」発祥の地とその魅力
現代の甘柿の主要品種である「富有柿(ふゆうがき)」は、岐阜県瑞穂市居倉地区が発祥の地とされています。富有柿は、とろけるような甘さと滑らかな食感が特徴で、その美味しさから日本全国で広く親しまれています。
美濃加茂市の伝統的な干し柿「堂上蜂屋柿」と地理的表示(GI)登録
さらに、美濃加茂市で栽培される渋柿の一種「蜂屋柿(はちやがき)」を原料とした干し柿「堂上蜂屋柿(どうじょうはちやがき)」は、高級贈答品として珍重されています。その卓越した品質と長年にわたる伝統が評価され、地域ブランドを保護する「地理的表示(GI)」に登録されており、地域特有の貴重な産品としての地位を確立しています。
日本の柿農家が直面する3つの重要な課題と対応策
国内における柿の生産量と栽培面積が減少傾向にある背景には、主に3つの問題が挙げられます。これらの問題に対し、各地の生産地では様々な対策が講じられており、日本の柿産業の将来を拓くための重要な取り組みとなっています。
栽培管理における過重な労働負担
高品質な柿を安定的に生産するためには、摘蕾(余分なつぼみを摘み取る作業)や摘果(果実の間引き)が欠かせませんが、これらの作業は非常に手間がかかります。この栽培管理に伴う大きな労働負担が、柿の生産量減少の大きな要因の一つと考えられています。特に、これらの作業には熟練した技術と経験が必要となるため、新規参入者にとってはハードルが高いのが現状です。
これに対し、和歌山県伊都地域では「結果母枝先端せん除技術」を導入し、冬季剪定の際に結果母枝の先端にある芽を剪除することで、花芽の数を抑制し、摘蕾作業の負担を軽減しています。この技術導入により、摘蕾作業の効率が2割向上し、1本の木に対する摘蕾作業時間を約20%短縮する効果が確認されており、労働負担軽減のための有効な解決策として期待されています。
高齢化による担い手不足と後継者難
次に、農業全体に共通する問題ですが、柿農家においても高齢化による担い手不足と後継者不足が深刻化しています。長年にわたって培われてきた柿栽培の技術やノウハウの継承が困難になり、産地全体の維持が難しくなる事例が増えています。
この問題に対し、奈良県五條市では若手農家を中心に研修会や勉強会を開催し、技術・知識の伝承と新たな担い手の育成に力を入れています。また、奈良県天理市で導入された「おてつたび」のような、農家と旅行者を結びつけるシステムは、都市部の若者や未経験者に農業を体験する機会を提供し、収穫期の労働力不足の解消に貢献しています。この取り組みは、農業分野において新たな雇用形態を確立する可能性を秘めており、人手不足や後継者不足の解消に繋がる新たなモデルとして注目されています。
出荷時期の集中と小玉果の増加による価格低迷
さらに、出荷時期の集中や小玉果の増加による販売価格の低下も深刻な問題です。これは気候変動の影響を大きく受けており、地球温暖化による開花時期の変動や、異常気象による品質低下などが原因と考えられます。加えて、新たな病害虫の発生や、既存の防除方法の効果が薄れるといった問題も発生しており、生産コストの増加と販売価格の低迷という二重の苦境に立たされている農家も少なくありません。
この問題に対し、和歌山県はオリジナル品種「紀州てまり」の導入によってブランド力を高め、高価格帯での販売を目指す戦略を採っており、アジア地域への輸出を促進することで販売ルートの多様化を図っています。また、奈良県五條市に拠点を置く「石井物産」のように、規格外となった柿を加工して「郷愁の柿」のような高付加価値商品として販売することは、販売価格の低迷を防ぎ、農家の収入を安定させる有効な手段です。和歌山県伊都地域における「省力品目化」のように、柿の葉や摘果柿といった従来廃棄されていた部分を有効活用し、ジャムやコンポートなどの加工食品として製造・販売することも、収益の多角化と向上に大きく貢献します。
まとめ
日本の食文化に深く根ざした柿栽培は長い歴史を持ちますが、現代の柿産業は、生産量の減少、労働力不足、後継者難、そして価格の低迷など、多くの問題に直面しています。しかし、和歌山県の独自品種「紀州てまり」の開発、省力化技術である「結果母枝の先端せん除技術」の普及、奈良県の「おてつたび」を通じた労働力確保、五條市の「石井物産」による6次産業化と高付加価値戦略など、各地で革新的な取り組みが進められています。
柿農家が収益を向上させるためには、個々の問題に対処するだけでなく、地域全体での連携を強化し、6次産業化を見据えた経営戦略を策定することが重要です。伝統を守りながら現代の課題に対応し、新たな価値を創造することが、日本の柿産業が持続可能な未来を築くための鍵となります。
Q1. 日本で最も柿の生産量が多い都道府県はどこですか?
A1. 2023年の農林水産省の統計データによれば、和歌山県が45年連続で柿の生産量において日本一の地位を維持しています。
Q2. 柿にはどんな種類が存在しますか?
A2. 柿は、渋みの元となる「タンニン」の性質により、「甘柿」(不溶性タンニンを含み、そのまま食べられる)と「渋柿」(水溶性タンニンを含み、渋抜きや加工が必要)に大別されます。甘柿の代表例としては「富有柿」や「次郎柿」、渋柿としては「刀根早生柿」などが挙げられます。
Q3. 日本の柿生産が直面している主な問題点は何ですか?
A3. 日本の柿生産は、主に3つの課題を抱えています。第一に、摘蕾や摘果といった栽培管理における労働負担の大きさ。第二に、高齢化に伴う担い手の減少と後継者不足。そして第三に、出荷時期の集中や小玉果の増加、気候変動の影響による販売価格の下落です。
Q4. 柿の栽培における作業負担を軽くする工夫はありますか?
A4. ございます。例えば、和歌山県の伊都地域では、「結果母枝の先端切除技術」が普及しています。これは、冬季剪定の際に結果母枝の先端にある芽を意図的に取り除くことで、花芽の数を調整し、摘蕾作業の効率を約2割改善、結果として1本の木に対する作業時間を約2割削減できるとされています。
Q5. 基準を満たさない柿はどのように利用されていますか?
A5. 規格外の柿は、付加価値の高い加工品として再利用されることがあります。奈良県五條市の石井物産では、基準外の柿を原料に和菓子「郷愁の柿」を製造・販売しており、観光庁が推奨する「世界にも通用する究極のお土産」にも選ばれるなど、新たな収入源となっています。さらに、柿の葉や摘果された若い柿をジャムやコンポートに加工する試みも行われています。
Q6. 柿農家は、高齢化や後継者不足という課題にどのように取り組んでいますか?
A6. 各地域で様々な対策が講じられています。奈良県五條市では、若い世代の農家を対象とした研修会が開催され、栽培技術の伝承と新たな担い手の育成が進められています。また、奈良県天理市では、農家と旅行者を結びつける「おてつたび」という仕組みを活用し、外部からの労働力を誘致することで、労働力不足の解消を図るとともに、新しい雇用形態の創出を目指しています。













