メキシコ料理と言えば、タコスやエンチラーダを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、メキシコの家庭で愛され続ける伝統的なソース、「モレ」はご存知でしょうか。この複雑で芳醇な風味を持つソースは、何世紀にもわたりメキシコの食文化を彩ってきました。モレは、カカオ、チリ、スパイス、ナッツなどを組み合わせた独特の味わいを持ち、各家庭や地域ごとにそのレシピが異なります。メキシコのソウルフード「モレ」の魅力を探ってみましょう。
メキシコの心を映す味！？「モレ」を探る
長年メキシコの人々と会話を交わす中で、一つの事柄がどうしても気にかかっている。それは「モレ」について。メキシコ料理を語る際に「色々あるけど、やっぱり“モレ“が最高だよ。」とか「モレって知ってる？あーー、おいしい、あーーーモレが食べたい！」、「メキシコ料理を振る舞うならモレが最適だね。」といった声がよく聞かれる。その言葉を思い出す度に、彼らの目は遠くを見つめる。ところで、モレとは一体何なのか？そんなに魅力的なものなの？日本のメキシコ料理に詳しい人に尋ねると、「ああ、チョコレートソースでチキンを煮る感じかな」と答えられたが、それをメキシコ人に話すと微妙な表情で「チョコレートだけじゃないんです！」と少し怒られた。では、モレとは一体何なのだ？
最近では、日本のメキシコ料理店でもモレを味わえるようになった。一見チョコレートっぽい見た目だが、甘いというわけではなく、なんとも表現し難い複雑で癖のある、日本ではあまり遭遇しない味だ。確かに、慣れてくると時折無性に食べたくなる。モレを知って十数年が過ぎ、いろいろな機会に手作りやレトルトのモレを楽しんだが、ふと気付いたのは「モレの材料とは何か？」という疑問がまだ解けていないことだった。なぜ、メキシコ人にとって（地域による異なりもあるかもしれないが）そんなに特別な料理なのか、改めて考えてみた。そこで、メキシコのテレビ番組でモレを紹介している動画をYouTubeでいくつか視聴し、その魅力的な料理の奥深さに改めて驚かされた。
メキシコの心の味「モレ」
モレの起源は、ナワトル語でソースを意味する「muli」または「moli」に由来しています。そして、主にプエブラ州やオアハカ州で作られています。モレの種類には、プエブラのモレ「モレ・ポブラーノ」、黒いモレ「モレ・ネグロ」、緑のモレ「モレ・ベルデ」、ラッカセイを基にした「モレ・デ・カカワテ」などがあり、使用する材料によって色や味が異なります。黒いモレは、材料を黒くなるまで炒めたり焼いたりして作ります。伝統的な方法では、数十種類の材料を石の道具で細かく砕いて混ぜ合わせ、何日もかけて作り上げます。そのため、お祭りや結婚式、誕生日などの特別な場面で作られるのです。たくさんのレシピが存在しますが、ここではその一部を紹介します。
モレに必要な材料は以下の通りです。① チレ・モラート② チレ・パシージャ③ チレ・アンチョ④ 豚のラード⑤ にんにく⑥ 玉ねぎ⑦ 乾燥トルティージャ⑧ メキシコパン「ボリージョ」⑨ レーズン⑩ アーモンド⑪ 辛み付け用の唐辛子の種⑫ ごま⑬ アニスの種⑭ クローブ⑮ シナモン⑯ バナナ⑰ カカオのタブレット⑱ 黒こしょう⑲ 砂糖⑳ 塩
また、カボチャの種やナッツを追加することもあります。ただし、これらの材料を全て揃えるのは一苦労です。それをすりつぶし、炒め、煮てソースを作るのですから、大変な作業であり、通常女性が行います。間違いなく特別な料理であり、母や祖母の気持ちがこもった食べ物です。
さて、このモレが日本に浸透することがあるのでしょうか。アントニオ・ゴディネスに聞いてみました。私「モレは食べると美味しいけど、見た目が少し独特で、日本の人々には馴染みがないでしょう。」ゴディネス「以前のメキシコの年配者にとっては、生の魚を食べる寿司がまさに同じ状況でした。でも今の若者は寿司を楽しんでいます。」私「なるほど、しかし作るのも出すのも手間がかかりますよね。」ゴディネス「私はモレが日本に根付くことを信じています！」彼の母はオアハカ州出身であり、モレは彼にとっても心の料理なのでしょう。
ゴディネスがメキシコの日本企業で働いていた際、ある自動車メーカーとのプロジェクトを進めるため、プロジェクトチームで自動車メーカーを接待しました。その際のメニューにはもちろんモレ料理が含まれていました。期待に胸を膨らませてメキシコのチームは大喜びしてもらえることを願っていました。しかし、担当者は驚くことにモレにライムをかけました。メキシコ人は驚愕し、モレには絶対にライムをかけないのです。ライムをかけた担当者を見守るしかなかったようです。あなたももしモレを試す機会があれば、ライムをかけないようご注意ください。ただし、メキシコ人はライムが大好きです。