パン グルテン

パン グルテン

パン グルテン

パンのおいしさと食感は、小麦粉に含まれるたんぱく質「グルテン」が大きな役割を果たしています。グルテンは、生地を練ると糸のように伸びて網目状の構造をつくり、パンに弾力となめらかな食感を与えます。しかし、近年、グルテンに関する疑問や問題が指摘されるようになりました。本稿では、パンの風味と品質を左右するグルテンの働きと、グルテンを避ける必要がある方々の対策について解説します。

グルテンは、小麦粉のたんぱく質

小麦粉に含まれるたんぱく質であるグルテニンとグリアジンが、水と物理的な力を受けることで結合し、グルテンという弾力性と粘性を併せ持つ物質を形成します。グルテンは、パンやパスタの生地に適度な食感と形状を与える重要な役割を果たしています。

強力粉は小麦粉の中でも特にたんぱく質含有量が高く、グルテニンとグリアジンの割合が多いため、グルテン形成に適しています。一方で、薄力粉のたんぱく質量では十分なグルテンが生成されないため、パン生地には不向きです。

このように、小麦粉の中でも製品の用途に合わせてたんぱく質含有量が違うものが使い分けられており、製パン用には強力粉が最適とされています。グルテンは食品加工に欠かせない存在ですが、同時に一部の人にアレルギー反応を引き起こすこともあり、近年は「グルテンフリー」の食生活も広まっています。

パン グルテン

グルテンは、パンの骨格

グルテンは、パンの骨格を形作る重要な役割を担っています。建物に例えると、グルテンが鉄筋の役割を果たし、でんぷんがコンクリートに相当します。グルテンは水と小麦粉のたんぱく質が絡み合うことで形成される、ゴム状の網目構造をしています。

この網目の中に、でんぷんやパン酵母が包み込まれ、パン酵母が生成する発酵ガスが気泡として保持されることで、パン生地が膨らみます。グルテンの強度とパン酵母の発酵力がバランスよく連携することが、上質なパンを焼くための鍵となります。

ミキシングの段階でグルテンを形成し、その後の工程で伸ばしたり絡ませたりすることで、グルテンの網目構造を強化していきます。一次発酵では発酵ガスの力でグルテンが伸び、パンチや分割、丸めなどの操作でグルテンを絡ませることにより、強くしなやかな網目ができあがります。

グルテンの強さや絡まり具合は、焼き上がったパンの食感を左右します。食パンのようにふんわりソフトな食感を求める場合は、しっかりと絡みあったグルテン網目が必要ですが、バゲットのようなパリッとしたパンを作る際は、緩やかなグルテン網目が適しています。このように、グルテンの状態を上手に調整することで、求める食感のパンを焼くことができるのです。

プロのベーカーはグルテンの重要性を熟知し、グルテン量の調整やグルテン網目の形成に細心の注意を払っています。パンづくりにおいて、グルテンこそが食感を決定づける要であり、骨格としての存在なのです。

グルテンを抽出してみよう!

グルテンについて学んだ後、実際に生地を作り、グルテンを抽出する体験をしてみましょう。興味のある方は、ぜひ実験してみてください。


3-1. 方法

100gの粉に60%の水(26℃)を加えて捏ねる。

捏ね上がった生地の重さを計る。

生地を30分間水に浸ける。

白濁がなくなるまで揉み洗いする。

揉み洗い後に採取したグルテンの塊(湿麩)の重さを計る。

【補足】

揉み洗いは白濁色から透明になるまで(約15分)行います。実際には、水が透明になった時点で揉み洗いを終了しますが、やめどころは難しいです。


条件

今回は3つの条件で生地を作り、グルテンに違いが出るか検証しました。捏ねるのにはキッチンエイドのハンドミキサーを使用しました。


よく捏ねる条件

強力粉の生地を表面が滑らかになるまでよく捏ねる。

捏ね時間:キッチンエイドで5分、その後手で200回叩き捏ね。

まとめる条件

強力粉の生地をまとめるだけ。

捏ね時間:キッチンエイドで3分、その後手で20回ほどまとめる。

薄力粉条件

薄力粉をよく捏ねる。

捏ね時間:キッチンエイドで5分。

3-2. 結果と比較表

結果を先にお伝えします:


条件 捏ね上がりの生地の重量 揉み洗い後のグルテンの重量 湿麩%(グルテン)

よく捏ね条件(強力粉) 140g 39g 27.8%

まとめた条件(強力粉) 155g 47g 30.3%

薄力粉条件 153g 21g 13.7%

ご覧の通り、見た目も抽出量も全く異なる結果となりました。各条件ごとのグルテン抽出量を見てみましょう:


①よく捏ね条件が一番グルテンが形成されているように見えますが、実際には②まとめた条件の方がやや多い結果となりました。

③薄力粉条件のグルテン量は、①②の強力粉に比べてかなり低いです。

揉み洗いが結果に影響を与えている可能性がありますが、水が透明になるまで洗う基準で行ったので多少の誤差があるかもしれません。


次に感触と見た目を比較してみます。


条件 見た目 触った感触

よく捏ね条件(強力粉) なめらか つるつる、弾力があり、よく伸びる、均等な薄膜、弾力<伸展性

まとめた条件(強力粉) ぼこぼこ むぎゅっとして弾力が強い、ゆっくり伸びるが弾力で戻る力が大きい、薄膜だがグルテン膜はまばら、弾力>伸展性

薄力粉条件 ぼこぼこ ぐにぐに、弱くすぐ切れる、少し置くと弾力が出るが伸ばすと切れやすい、弾力>伸展性

次に、各条件の詳細を見ていきましょう。


3-3. 条件① 強力粉の【よく捏ね条件】

捏ね時間:キッチンエイドで5分、手で200回叩き捏ね。

捏ね上がり重量:140g

揉み洗い後重量:39g(生地量の27.8%)

見た目・感触:伸展性も弾力性もあり、グルテン膜は薄く均等。見た目もなめらか。噛んだ後はチューインガムのよう。

3-4. 条件② 強力粉の【まとめた条件】

捏ね時間:キッチンエイドで3分、その後手で20回捏ね。

捏ね上がり重量:155g

揉み洗い後重量:47g(生地量の30.3%)

見た目・感触:表面はごつごつしている。伸ばすと戻る力が強く、弾力性が伸展性よりも強い。

3-5. 条件③ 【薄力粉条件】

捏ね時間:キッチンエイドで5分。

捏ね上がり重量:153g

揉み洗い後重量:21g(生地量の13.7%)

見た目・感触:ぐにぐにしていて、見た目はぼこぼこ。伸ばすとすぐにちぎれる。弾力性が強い。

まとめ

グルテンは確かにパンの風味と食感を左右する重要な役割を果たしています。しかし、一部の人にとってグルテンは健康上の問題をもたらす可能性があります。そういった方々は、グルテンフリーのパンを選ぶなどして対応する必要があります。一方、多くの人にとってグルテンは問題ありません。グルテンの働きを理解し、適切に摂取することが大切です。