カカオは、チョコレートの主要成分として世界中で愛されている作物ですが、その多様な風味は、その故郷である産地ごとの風土に大きく影響されています。この記事では、一口にカカオと言っても、どのような産地がどのような個性を持つカカオを育むのかを探ります。そして、それぞれの地域がカカオに与える独自の特徴や風味を掘り下げながら、その背後にある自然環境や農法についても考察していきます。
カカオの起源とは?多様な品種の特性、収穫からチョコレートまでの過程を解説
なごむような甘い香りと味が魅力のチョコレート。原料であるカカオ豆は多くの人に知られていますが、産地や種類によって味わいや香りが変わることは意外と知られていません。この記事では、特定の地域で栽培されるカカオについて、地域ごとの特徴や代表的な種類、収穫からチョコレートになるまでの過程を解説します。
カカオ豆に関する基本情報
カカオは、特定の地域でのみ育つ植物であり、チョコレートの原料として重要な役割を果たしています。ここで、カカオに関する基本情報をご紹介します。

カカオ豆について:カカオの果実内にある種子
カカオの木からぶら下がるラグビーボールの形をした実、これがカカオポッドです。カカオポッドの中には、30〜40粒程度のカカオ豆が、白いパルプと共に包まれています(※品種や産地によって異なります)。このカカオ豆は、チョコレートの重要な原材料です。カカオ豆の胚乳には、ココアバターと呼ばれる脂質が50〜57%も含まれているのが特徴です。土壌にカカオ豆を植えると芽が出て、ラグビーボールのような実が収穫できるカカオの木に成長します。世界のカカオ豆の生産量は約502万トンで、コーヒー豆の約989万トンに比べるとかなり少ないです。
カカオが育つためには高温多湿が不可欠
カカオの木は、高温かつ湿度の高い気候を好み、成長できるのは赤道付近の限られたエリアです。これを「カカオベルト」と称します。ただし、どこでも育つわけではなく、特に適した条件としては、高度30~300m、年間平均気温が約27℃に保たれ、温度差が少ないこと、年間降水量が最低1000㎜以上あることが挙げられます。この条件を満たす地域は主に中南米、西アフリカ、東南アジアに集中しており、とりわけアフリカは世界のカカオ生産の約77%を担っています。
カカオ豆の主な3品種
カカオ豆は複数の品種に分類されますが、その中で特に有名なのは、クリオロ種、フォラステロ種、そしてトリニタリオ種の3種類です。それぞれの特徴を以下に説明します。
穏やかな風味の「クリオロ種」
クリオロ種は、南米のアマゾン川上流域が起源とされていますが、中米のメキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、ベリーズなどで栽培されていた記録があります。その栽培は病害虫に弱いため困難で、現在ではベネズエラやメキシコなど限られた地域でしか行われておらず、生産量も少ないことから「幻のカカオ」と称されています。このカカオは、渋みの少ないマイルドな味わいに加え、ナッツのような香りを持つのが特徴で、優れた風味から「フレーバービーンズ」とも呼ばれています。
力強い渋味と苦味が特徴の「フォラステロ種」
フォラステロ種は、アマゾン川上流やベネズエラのオリノコ川流域を原産地とします。現在では、ガーナをはじめ西アフリカ、ブラジル、そして東南アジアで広く栽培されています。この種は成長が速く、病害虫に対する強い抵抗力があるため、多くの農家で育てやすい品種とされています。世界のカカオ生産の大部分、具体的には約80~90%をこのフォラステロ種が占めています。特徴として、渋味と苦味が強いですが、カカオの風味がしっかり感じられ、チョコレートの基盤やブレンドには欠かせないベースの役割を果たしています。
果実の風味が特徴の「トリニタリオ種」
トリニタリオ種は、カリブ海のトリニダード島で生まれたことにちなんで名付けられました。この品種は、クリオロ種とフォラステロ種の自然交配によって生じたもので、両者の特性を兼ね備えています。育てやすく、質の高い豆が得られることが魅力で、中南米やベトナムなどで広く栽培されています。多くの場合、フルーティーな酸味があり、チョコレート製品に風味を加えるためのフレーバービーンズとして利用されています。
【産地にもとづく】カカオ豆のユニークな特性
同じ種類のカカオ豆でも、異なる地域で栽培されると香りや風味に違いが出ると言われています。ここでは、地域ごとのカカオ豆の特徴をご紹介します。各地の違いを理解して、様々なチョコレートの風味の違いを楽しんでみてください。
【コートジボワール/西アフリカ】ヨーロッパ主要カカオ生産地
コートジボワールは、世界最大の生産国で、2020/21年には約44%を占めていました。多くのヨーロッパ製チョコレートは、コートジボワールのカカオを使用しており、その味わいは世界中で愛されています。特徴として、穏やかな苦味と重厚な風味があります。
【ガーナ/西アフリカ】日本に親しまれているカカオ豆
ガーナはコートジボワールに次ぐカカオ生産第2位の国で、その風味はコクと香ばしさがあり、酸味や苦味、渋味が絶妙に調和しています。ガーナ産のカカオは日本の輸入量の約79%を占めており、これは日本人にとって馴染みのある味わいです(2020年)。
【エクアドル/中南米】豊かな香りが魅力
エクアドル産のカカオ豆は、その独自の風味で知られています。フローラルな香りと、濃厚なカカオの味わいがジャスミンを思わせることもあります。さらに、適度な渋味が後味として楽しめるのが特徴です。この地域は、フォラステロ種から派生したナシオナル(アリバ)種という品種の主要な生産地でもあります。
【ベネズエラ/中南米】優れたカカオ豆を生産
ベネズエラは優れたクリオロ系のカカオ豆の産地として知られています。そのカカオ豆は、ナッツのような香ばしい香りが際立ち、「ナッティー」と表現される豊かな味わいが特徴です。酸味、渋味、苦味が絶妙に調和し、深いコクがあり、余分な雑味がほとんどないことでも高く評価されています。
カカオの収穫からチョコレートになるまでの工程
カカオ豆がチョコレートになるまでには、多くのステップが必要です。ここでは、その収穫からチョコレートになるまでの過程をご案内します。