秋の味覚と言えば、干し柿が真っ先に思い浮かびます。甘くて柔らかな食感、そして芳醇な香りは、実に贅沢な味わいです。しかし、この干し柿・あんぽ柿の美味しさには、ささやかな秘密が隠されています。それは、柿の成熟過程で起こる奇跡的な変化にあります。今回は、その秘密に迫りながら、干し柿の作り方についても詳しく解説していきます。旬の柿を存分に楽しむための、貴重な情報がここにあります。
干し柿の魅力に迫る
古風な雰囲気を漂わせる干し柿は、実はとても栄養価が高く、多くの効能を持っています。渋柿を干すことで渋みが甘さへと変化し、ねっとりとした食感が楽しめるのが特徴です。
近年、干し柿の効果が注目を集めており、「干し柿にはどんな効果があるの?」と質問する人も多くいます。若年層の間でもダイエットの強い味方として、また美容に良いと干し柿を意識して食べる人が増えています。
干し柿が持つ豊富な栄養素
干し柿には、βカロテン、カリウム、食物繊維、タンニンなどの栄養素が含まれています。日本人が不足しがちな食物繊維を摂取できるため、毎日干し柿を食べるのがおすすめです。干し柿の便秘解消効果は、食物繊維のおかげです。
一方、渋柿に含まれるイメージがあるタンニンですが、干し柿にもタンニンが残っています。タンニンはポリフェノールの一種で、抗酸化作用があり細胞を酸化から守ります。
干し柿の栄養素は適量なら効果がありますが、過剰に摂取すると体に悪影響を及ぼす可能性があります。これが、干し柿が体に悪いと言われる理由です。どんな食べ物も適量を守って食べることが大切です。
干し柿に含まれる栄養素とは?
干し柿は豊富なビタミンAを含んでいます。このビタミンAは、β-カロテンが体内で変換されて生成されるものです。ビタミンAは皮膚や粘膜の健康維持、視覚機能の維持などの重要な役割を担っています。さらに、抗酸化作用もあり、干し柿の美容効果を高める働きがあります。
一方で、ビタミンAは脂溶性なので体内に蓄積される可能性があり、過剰摂取には注意が必要です。ただし、一般的な柿の摂取量では、ビタミンAの推奨量を大きく超えることはまれでしょう。
【参考】ビタミンAの機能と適正な1日摂取量については、公益財団法人長寿科学振興財団をご覧ください。
柿の美味しさの裏側にある注意点
柿は基本的に甘く美味しい果物ですが、同時にやっかい者でもあります。なぜなら、柿には「タンニン」という渋みを引き起こす成分が含まれているからです。タンニンには二日酔いや高血圧に効果があると言われていますが、口の中で溶けるかどうかによって柿の味が変わってしまうのです。
通常、タンニンは可溶性なので口の中で溶けますが、柿が熟すにつれて不溶化し、口の中で溶けなくなります。それが柿を甘くする理由です。つまり、タンニンが溶けると渋味が広がり、食べられなくなる「渋柿」になってしまうのです。しかし、そんな渋柿でも、甘くする方法があるのです。
干し柿の健康への影響を探る
干し柿は健康にとって良いものですが、食べ過ぎると胃に負担をかける可能性があります。干し柿に含まれるタンニンの主成分「シブオール」が胃酸で溶けづらくなり、他の食物残渣と結合して「柿胃石」ができてしまうためです。柿胃石は消化管の通りを悪くするとされています。
一方で、柿にはビタミンなどの栄養が豊富に含まれており、干し柿にはβカロテンも豊富で、癌の予防にも期待ができます。適量を守れば、柿の栄養を手軽に摂取できる食品といえます。1日あたり1個から1.5個程度に抑えれば、柿胃石のリスクを避けられるでしょう。
干し柿とドライ果実の違いとは?
ちなみに、干し柿に似た食べ物としてドライ柿があります。干し柿は渋柿の皮をむいただけのものを乾燥させるのに対し、ドライ柿は柿の実を切って乾燥させたものです。ドライ柿の場合は甘柿も渋柿も使われます。
あんぽ柿とは
あんぽ柿は、日本の福島県伊達市を中心に生産される特産品で、干し柿の一種です。一般的な干し柿と比べて水分が多く、約50%の水分を含み、柔らかくジューシーな食感が特徴です。羊羹のような柔らかさと和菓子のような上品な甘さを持ち、ビタミンAやB群、カリウム、食物繊維を豊富に含むため、美容や健康に良いとされています。
主に渋柿の「蜂屋柿」や「平核無柿」といった大粒で甘みの強い品種が原料として使用されます。製法としては、皮をむいた柿を硫黄で燻蒸し、その後乾燥させることで作られます。この工程により、柿の酸化が抑えられ、鮮やかなオレンジ色が保たれます。
あんぽ柿の製法は1922年に福島県伊達市で確立されましたが、その起源は江戸時代にまで遡ります。名前の由来は「天干し柿(あまほしがき)」が転じたものとされています。福島県の冬の風物詩として知られ、地域の重要な産品であると同時に、地理的表示保護認証(GI認証)を受けています。このように、あんぽ柿は独特の製法と長い歴史を持つ、日本の伝統的な食文化の一つといえるでしょう。
渋柿を美味しく食べられるようにする秘訣
柿の新しい魅力を発見!干し柿にすると味わえる驚きの変化
渋い柿が干し柿になると甘くなる理由がわかりました。しかし、いちいち渋柿から干し柿にせずに、普通の甘い柿を食べればよいのではないかと考える人もいるでしょう。しかし、柿と干し柿には成分と甘さの違いがあります。
柿を干すことで水分が失われ、しわくちゃに縮んだ干し柿は、もとの柿の大きさの約3分の1になります。水分の減少によりビタミンCも減りますが、その代わりにβカロテンとビタミンAが普通の柿よりも大幅に増え、血行を良くし、胃腸を丈夫にすると言われています。
何より、干し柿の甘さは濃縮され、砂糖の1.5倍ほどの甘さになるそうです。その甘さの濃さが想像できるでしょう。
自家製干し柿の作り方
さて、干し柿をどのように作るのか、実際のプロセスを見ていきましょう。
まず、渋柿の皮をむき、ビニールひもでむいた柿同士を適度な間隔を空けて結び連結します。次に、結んだ柿を熱湯に10秒ほど浸け、殺菌を行います。その後、柿の水分をきれいに拭き取り、風通しと日当たりの良い場所で2週間ほど干し上げれば、干し柿の完成です。カビの発生を防ぐため、気温が低く空気が乾燥しやすい晩秋から初冬が干し柿作りに最適な時期とされています。
自宅で簡単にできる柿の保存術
普通の柿でも干し柿を作れないわけではありません。
ただし、渋柿以外の柿は干し柿作りに向いていないと言われる理由が2つあります。1つ目は糖度の違いで、実は柿よりも渋柿の方が糖度が高いのです。渋柿はそのままでは渋みが強く甘さを感じられませんが、干すことで本来の糖度が際立ちます。2つ目は作りにくさです。熟し過ぎた普通の柿を干すと、水分が多すぎてカビが生えやすく、干し柿になる前に傷んでしまうのです。昔の人の知恵には理があったのですね。
干し柿の産地で有名な場所は?
日本各地で干し柿が生産されていますが、特に長野県と福島県での生産量が多いです。長野県では市田柿という品種が、福島県では甲州百目と堂上蜂屋という品種がそれぞれ干し柿用として広く利用されています。もちろん、これら2県以外にも干し柿の産地が全国に点在しており、多種多様な品種が使われています。
干し柿の美味しい品種とは
干し柿には多くの品種がありますが、ここでは出荷量上位3品種を紹介します。3位は平核無(ひらたねなし)で、和歌山県・山形県・新潟県・奈良県などで広く栽培されています。2位は甲州百目で、福島県・山梨県・富山県など多くの地域で生産されています。そして1位は、長野県で栽培されている小ぶりの渋柿・市田柿でした。水分が少ないため冷凍保存に適し、干し柿のほか熟したものはシャーベットにも加工されるそうです。人気の品種は出荷量も多く、名産地の柿として知られています。
世界の柿産業の現状
柿は、世界中で広く生産されている食べ物です。生産量世界1位は中国で、2位が韓国、3位がスペインと続きます。日本の柿生産量は世界で4位となっています。また、5位にブラジル、6位にアゼルバイジャンもランクインするなど、アジアだけでなく南米やヨーロッパでも柿が浸透しています。中国や韓国では、干し柿も作られており、中国の干し柿は乾燥度が高く、水に戻して料理に使われます。一方、韓国の干し柿は、日本で一般的なあんぽ柿のようなものが多く生産されているようです。このように、柿はグローバルな食材として世界中で愛されています。
乾燥した柿が持つ健康上の恩恵
ダイエット中のおやつとして人気がある干し柿には、2つの大きな効果があります。ひとつ目は食物繊維が血糖値の上昇を緩やかにする効果、そして二つ目は満腹感を得られる効果です。さらに、美容効果や便秘解消の効能も期待できます。
しかし、干し柿にはカロリーと糖質が含まれているため、太る可能性があると考える人もいます。事実、干し柿の100gあたりのカロリーは274kcal、糖類は58.7gと高めです。ただし、他のドライフルーツと比べるとカロリーや糖類は低め。ダイエット中におすすめです。1個分であれば100kcal程度です。
ただし、干し柿を食べるタイミングには注意が必要です。ダイエット中の適切な干し柿の食べ頃は14〜15時頃です。脂肪になりやすい夜は避け、食べ過ぎにも気をつけましょう。
干し柿の潜在する美容パワー
干し柿には、ダイエットだけでなく、美容にも役立つ効果が期待できます。その秘密は、干し柿の持つ抗酸化力にあります。干し柿に含まれるビタミンAは抗酸化ビタミンであり、また干し柿に含まれるタンニンもポリフェノールの一種なので、抗酸化作用を持っています。
従って、干し柿の効能として、抗酸化作用による細胞の酸化防止が期待できます。活性酸素が過剰になると、老化の進行やシミ、しわのリスクが高まります。毎日抗酸化物質の多い食品を摂取することで、美容効果を得られるでしょう。
加えて、干し柿に含まれる食物繊維は腸を刺激する働きがあり、便秘解消にも役立ちます。デトックス効果により、肌荒れの改善も期待できます。ただし、干し柿の摂取タイミングと量には気をつける必要があります。
乾燥した柿の実、高血圧症予防に一役
干し柿には、体内の余分な塩分と水分を排出する作用があり、高血圧の予防に効果的です。干し柿に豊富に含まれるカリウムは、高血圧予防に役立つ栄養素です。WHOのガイドラインでも、生活習慣病の予防のために、カリウムを十分に摂取することが推奨されています。脳卒中や心血管疾患のリスクを下げるためには、干し柿などのカリウム源の食品を毎日摂取することがお勧めです。ただし、腎臓に障害がある方は、カリウム摂取に注意が必要です。
干し柿の摂取量は適量を心がけましょう
干し柿は健康上の懸念があるものの、適量を守れば日々の食生活に取り入れても問題ありません。カロリー控えめで食物繊維が豊富なため、ダイエットにも最適です。また、カリウム、ポリフェノールが豊富に含まれているため、高血圧予防にも役立ちます。干し柿の様々な効能を得るには、少量ずつ継続的に摂取することをおすすめします。