パクチーの原産国はどこ?世界中で愛される香草のルーツを徹底解説

独特の香りで、好き嫌いが分かれるパクチー。エスニック料理には欠かせない存在として、世界中で愛されています。日本では「パクチー」の名で親しまれていますが、実はコリアンダー、コエンドロ、シャンツァイなど、様々な呼び名があるのをご存知でしょうか?この記事では、そんなパクチーの原産国にスポットを当て、そのルーツを徹底解説します。意外と知られていないパクチーの歴史や、世界各地での利用法など、奥深い魅力を紐解いていきましょう。

コリアンダーの基本情報と概要

コリアンダー(学名:Coriandrum sativum)は、地中海地域が原産の一年草で、セリ科に分類されます。その歴史は古く、10世紀頃に日本へ伝わりました。英語名の「コリアンダー」に加え、日本での和名「コエンドロ(胡荽)」、タイ語の「パクチー」、中国語の「シャンツァイ(香菜)」など、地域や用途によって多様な呼び名で親しまれています。独特な香りと風味は、古くから世界中で食用、薬用、香辛料として広く利用され、特にカレーには欠かせないスパイスの一つとして知られています。一般的に、葉だけでなく、成熟した果実(種子)も香辛料として使用されます。また、コリアンダーは旧約聖書の『出エジプト記』にも記述があり、その長い歴史と文化的な重要性が伺えます。

コリアンダーの多様な名称と語源

コリアンダーの属名「Coriandrum」と種小名「sativum」は、それぞれ固有の語源を持っています。「sativum」はラテン語で「栽培された」という意味です。日本での和名「コエンドロ」は、室町時代にポルトガル語の「coentro」が伝わった古い言葉です。それ以前には「コスイ」「コニシ」といった名前も使われており、平安時代の『和名抄』にはすでに「コニシ」という名で栽培されていたことが記録されています。江戸時代の本草書『多識編』(1697年)には、胡荽を「こずい」と読み、「こえんとろ」という南蛮の言葉と共に薬効が記載されています。独特の香りから、「カメムシソウ」という別名もあります。中国植物名は「芫荽」で、漢名では「香荽」や「芝茜」とも表記されます。

香辛料としては、一般的に乾燥させた果実や葉を指して「コリアンダー」(英語:coriander)と呼ぶことが多いですが、1980年代頃からエスニック料理店の増加に伴い、生で食べる葉を指してタイ語由来の「パクチー」(タイ語:ผักชี)という呼び方が日本でも一般的になりました。中華料理で使われる中国語由来の生菜は「シャンツァイ」(中国語:香菜、xiāngcài)と呼ばれ、日本でもかつては「コウサイ」と呼ばれていました。中華料理によく使われることから、「中国パセリ」(英語:Chinese parsley)とも呼ばれますが、これは通常のパセリとは異なる植物です。中国には、漢の武帝の時代に張騫が西域から持ち帰ったとされており、司馬遷の『史記』にも「胡荽」(こすい)の名で記載があります。

英語名の「コリアンダー」(coriander)は、属名でもあるラテン語の「コリアンドルム」(coriandrum)から変化したフランス語の「コリアンドル」(coriandre)に由来し、さらに遡るとギリシャ古語の「コリアノン」(κορίαννον)に行き着きます。後者の原語を指して「ギリシャ語でカメムシを意味する」と説明されることが多いですが、これは誤りで、ギリシャ古語の「コリアノン」も「コリアンダー」を指す言葉です。ギリシャ古語の「コリアノン」自体の語源については、香料を意味する「καρώ/κάρον」(karō/karon)との関連性を指摘する説がある一方、「匂いがカメムシに似ている」ことから、近縁で類似の臭気を持つトコジラミ(南京虫)を意味するギリシャ語の「コリス」(κόρις)と、アニスの実を意味する「アノン」(Annon)に関連付ける説もあります。その他の言語での名称については、各言語の植物名辞典を参照してください。

コリアンダーの原産地と主な産地

コリアンダーの原産地は、南ヨーロッパから東部沿岸に広がる地中海沿岸地域と考えられています。現在では世界中で広く栽培されており、主な産地としては、地中海沿岸からヨーロッパ、中東にかけての一帯、中国、インド、東南アジア、北アフリカ、中央アメリカ、南アメリカ、そしてアメリカ合衆国などが挙げられます。日本でも一部の農家で栽培されていますが、港湾付近で野生化したコリアンダーが見られることもあります。

コリアンダーの植物学的特徴

コリアンダーはセリ科の一年草で、全体に毛がなく、特有の強い香りを放ちます。草丈は30~60cmほどに成長し、大きなものでは90cmに達することもあります。左右には20~30cmほど広がり、茎の断面は円形で中空、縦方向に筋が入っています。葉は1~3回羽状に分かれ、植物の上部に行くほど裂片が細くなり、根元に近い葉と頂上部の葉では全く異なる形状を示します。根生葉には長い葉柄があり、2~3回羽状複葉で、最終裂片は卵形に切り込みがあります。根元に近い葉は幅広く浅い切れ込みがあるのに対し、頂上部の花茎の葉は葉柄が短く、隙間の広い羽状で細かい切れ込みが入り、糸状に細くなるのが特徴です。葉や茎からは独特の芳香が漂います。

コリアンダーの開花期は春から夏にかけてで、枝の先端に3~4個の大きな花柄がつき、その先に10個前後の小さな花柄が出て、白から淡いピンク色の小さな花を10個ほど散形に咲かせます。花の直径は約6mmほどで、花弁は5枚です。花序の中心部では花弁の大きさや形はほぼ同じですが、花序の周辺部では3枚の花弁が大きくなります。特に、大きな花弁3枚のうち1枚は深く2つに裂けているのが特徴です。雄しべは5本、雌しべは1本です。開花後、緑色の果実が熟し始め、秋には球形の茶色い種子を実らせます。果実は直径3~5mmの球形で、表面には10本の粗い筋が見られます。この果実は2つの分果が合着して球形になっていますが、分果は分離しにくい構造をしています。熟した果実からは、レモンとセージを合わせたような独特の香りが漂います。

コリアンダーの茎葉や未熟な果実に含まれる「デカナール」という成分は、カメムシに例えられる独特の臭いの原因です。しかし、果実が成熟するにつれてこのデカナールの臭いは消え、主成分である「リナロール」の心地よい香りに変化します。コリアンダーにはこのリナロールが豊富に含まれているほか、デカナール、デカノール、ゲラニオール、ボルネオールなど、様々な成分が含まれています。この香りの変化が、葉と種子で異なる風味を持つ理由の一つです。

一般的に「ノコギリコリアンダー」と呼ばれる植物は、東南アジアや中南米でコリアンダーと同様に香味野菜として利用されていますが、これはセリ科オオバコエンドロ属(学名:Eryngium foetidum)に属する熱帯アメリカ原産の全く別の植物です。タイでは「ผักชีฝรั่ง(パクチー・ファラン)」、中南米では「culantro(クラントロ)」と呼ばれており、コリアンダーと似た香りを持つため混同されがちですが、植物学的には異なります。

コリアンダーの歴史と世界への広がり

コリアンダーは、3千年以上の歴史を持つ、古くから人々に利用されてきた植物です。紀元前1550年頃のエジプトの医学書「エーベルス・パピルス」や旧約聖書にも、その調理法や薬効に関する記述が見られます。エジプトでは紀元前2000年頃には既に栽培されており、紀元前1000年頃のパレスチナでは、「民数記」に最高品質のコリアンダーはマナ産であると記されています。古代エジプトでは、コリアンダーは料理や医療に用いられ、古代ギリシャやローマでも薬草として珍重されました。「医学の父」ヒポクラテスも、健胃作用や睡眠効果などの薬効を認めています。また、古代ローマの医師は、コリアンダーが男性の性的能力を高める可能性を示唆しました。エジプトでは紀元前1000年頃から、コリアンダーを故人と共に墓に埋葬する習慣があったとされています。

中国へは、漢の武帝の時代(紀元前141~87年)に、張騫が西方地域から持ち帰ったとされ、不老不死の薬として珍重されました。中世ヨーロッパや「千夜一夜物語」には、恋を叶える媚薬の成分としても用いられたと記述されています。イギリスへは、紀元後に侵攻したローマ人によって伝えられ、パンの風味づけや、酢や塩と混ぜて肉の保存に利用されました。古代地中海沿岸地域では料理に頻繁に使われていたコリアンダーですが、中世に入り東洋からのエキゾチックな香辛料がヨーロッパに伝わるようになると、一時的に人気が衰えました。16世紀にはスペイン人によって中南米に伝えられ、現地の料理に深く根付きました。アメリカへは17世紀初頭にイギリスからの最初の入植者が持ち込み、栽培を奨励しました。当時、アメリカではコリアンダーを使った酒も造られていました。現代では、インドやヨーロッパの多くの地域で広く栽培されています。

日本へは10世紀以前に中国から伝来したと考えられており、平安時代中期の法典「延喜式」(927年)に貢物としての記載があり、「和名抄」(930年代頃)には古仁志(こにし)という古名が記されています。日本最古の薬草書である「本草和名」(918年)にも記載があります。「延喜式」や「和名抄」には、当時の日本で生魚を食べる際に必ず用いられる食材として記載されていることからも、その重要性が伺えます。室町時代の「多聞院日記」や、江戸時代の本草学者である貝原益軒の「本朝食鑑」にも記述が見られます。現在では、インド、モロッコ、カナダ、アメリカ、メキシコ、中国などで世界中で栽培されています。

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コリアンダーの育て方と収穫時期

コリアンダーは、冬の時期を除けば、ほぼ一年を通して種まきと収穫が可能です。種まきから開花までの期間は、春まきの場合でおよそ90日、初夏まきの場合でおよそ60日です。ただし、秋に種をまくと開花せず、夏に種をまくと高温のため結実しません。葉を食用とする場合は、種まきからおよそ6週間で収穫できるようになります。スパイスとして種子を収穫したい場合は、春に種をまくのが適しています。コリアンダーは、極端な暑さや寒さには強くない性質があり、発芽にはある程度の高温が必要です。発芽に適した温度は、日中は27度、夜間は22度とされています。水はけが悪く、常に湿度の高い環境を嫌うため、栽培には日当たりの良い、水はけの良い土壌を選ぶことが大切です。また、乾燥にも弱いので、土が乾きすぎないように適切な水やりを心掛ける必要があります。

コリアンダーは、根がまっすぐ下に伸びる性質があり、移植を嫌うため、通常は春に種を直接まくのが一般的です。温暖な地域であれば、秋まきも可能です。夜間の気温が7度以下にならない環境で屋外に種をまくと、2~3週間ほどで発芽します。苗を育てる場合は、育苗ポットに種をまき、双葉が出たら間引き、本葉が3~4枚になった苗を畑に植え付ける方法もあります。また、育苗箱に筋状に種をまき、双葉が出た後に1本ずつ丁寧に掘り起こしてポットに移植し、本葉が4~5枚になったら株間を30cm程度空けて畑に定植する方法も有効です。プランターでの栽培も可能で、ポットに種をまき、18度前後に保つと、5~10日ほどで発芽します。葉を収穫する目的であれば、株間を約5cm空けて、種子を採集する目的であれば約20cmの間隔で間引きを行います。水を好む性質があるため、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えますが、水切れを起こすと生育が悪くなるので注意が必要です。

草丈が20~25cmくらいになったら、葉の収穫時期を迎えます。種まきから30~40日ほどで葉を収穫できますが、コリアンダーの葉は日持ちしないため、使う都度収穫するのが新鮮さを保つコツです。花が咲き始めると、葉や茎が硬くなってしまうため、葉の食感が良い若葉のうちに摘み取るようにしましょう。株ごと引き抜いて収穫しても構いません。

スパイスとなる種子は、夏以降に収穫できます。実が熟して株の上部が重くなってきたら、茎が折れやすいため、支柱を立てて支えてあげると良いでしょう。果実が黄褐色に熟し、種子がこぼれやすくなっている早朝か夕方遅くに、茎ごと刈り取って収穫します。収穫後は、風通しの良い場所で十分に乾燥させてから、袋などに入れて保存します。収穫が遅れると、果皮が黒褐色になり、香りも悪くなるため注意が必要です。

コリアンダーは、病気に関してはほとんど心配する必要はありませんが、気温が高くなり乾燥してくると、アブラムシやハダニなどの害虫が発生する場合がありますので、定期的に観察するようにしましょう。

コリアンダーの品種

コリアンダーの品種は、主に花の色によって白色のものと紅紫色のもの、そして果実の大きさによって大粒のもの(果実の直径が3~5mm)と小粒のもの(1.5~3mm)に分けられます。大粒の品種は、小粒のものに比べて発芽や開花が早く、茎や葉も大きく育つ傾向があります。一方、小粒の品種は、大粒のものよりも精油成分の含有量が多いという特徴があります。

大粒のコリアンダーは、インド、モロッコ、ルーマニア、ウクライナなどの温暖な地域や亜熱帯地域で主に栽培されています。小粒の品種は、インドやエジプトなどで栽培されることが多いです。

コリアンダーの様々な用途:食用と薬用

コリアンダーは、料理と薬用の両方に用いられる、非常に重要なハーブおよびスパイスとして世界中で知られており、インド、タイ、ベトナム、メキシコ、アメリカ、モロッコ、中東、ヨーロッパなど、様々な地域の料理で広く使用されています。植物の種子、葉、茎、根のすべてが利用でき、特に新鮮な葉と乾燥させた種子が、料理で最も伝統的に使用される部分です。風味は、利用する部位によって異なり、葉、茎、根、そして未熟な果実には独特の強い香りがあり、熟した果実には柑橘類を思わせる甘くスパイシーな香りがあります。熟した果実を水蒸気蒸留して得られる精油は、レモン油に似た柑橘系の香りがあり、香料としても広く利用されています。

食用としてのコリアンダー

コリアンダーは、食用として、ヨーロッパでは主に種子(果実)が利用され、独特な風味を持つ葉はあまり使われません。しかし、中国や東南アジアなどでは、葉が重要な香味野菜として広く用いられています。植物全体が食用可能ですが、葉と種子では料理に使用した際の風味が大きく異なります。種子は柑橘系のような優しい香りを持ち、葉は独特の風味と、人によっては強いクセとして感じられる香りがあります。ハーブや葉物野菜として葉を料理に使う場合は、開花前の若い葉が適しています。また、煮込み料理などでは根や茎も使われます。葉の独特な香りを最大限に引き出すには、調理の最後に加えるのがポイントです。さらに、コリアンダーは消化を助ける効果があるとも言われています。

コリアンダーは、カレー、肉料理、魚料理、スープ、お菓子など、幅広い料理に使用されます。葉・茎・根は、特にタイやベトナム料理に不可欠なハーブであり、消化促進効果があると言われています。甘い香りの種子は、ガラムマサラ、カレー粉、チャツネ、ピクルススパイスなどの混合スパイスにも使われます。特に相性の良い食材としては、レンズ豆などの豆類、鶏肉、豚肉、魚、ジャガイモ、トマト、そしてラム肉などが挙げられます。

以前は、日本ではコリアンダーは一般的な食材ではなかったため、スーパーマーケットやデパートの地下食品売り場、大型食材店でも入手が難しい状況でした。しかし、1980年代頃からエスニック料理店、特にタイ料理やベトナム料理店が増加したことで、生のコリアンダー(パクチー)の需要が高まり、栽培も増加したため、現在では比較的容易に入手できるようになりました。ただし、タイやラオス料理においては、コリアンダーのみのサラダや大量に使用する「パクチー料理」というものは存在せず、あくまで薬味として使用するのが基本とされています。アメリカでは、料理にコリアンダーが使われる頻度は比較的少ないようです。

葉の利用法と栄養価

コリアンダーの葉は、主に薬味として使われます。その独特な風味は、アルデヒド類に由来するとされ、好き嫌いが分かれる特徴があります。好む人は、コリアンダーの葉を爽やかで、レモンやライムのような香りと表現する一方、苦手な人はその味と匂いを石鹸や腐ったような、あるいはカメムシのような不快なものだと感じます。茎が伸びる前の若い苗の香りは、欧米人や中国人に好まれ、台湾、東南アジア、インドなどの地域では日常的に食べられています。栄養面では、生の葉はビタミンA(β-カロテン)、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、カルシウム、カリウム、鉄などを比較的多く含んでいます。ただし、「体内に蓄積された毒素を排出するデトックス効果がある」という説がありますが、これは科学的な根拠に基づいたものではありません。

葉の香りを活かした料理は、様々な地域で親しまれています。調理法としては、冷菜の飾り付け、スープや炒め物、肉や魚の臭み消しとして料理に散らすのが一般的です。代表的な料理としては、タイ料理のトムヤムクン、ベトナム料理のフォーや生春巻きなどで、生の葉がそのまま食べられます。中国料理では、肉の臭み消しとして、マトン料理(シュワンヤンロウ)のタレに細かく刻んだ葉を加えるなどの利用法があります。

食用以外では、ニンニクやタマネギを食べた後に手を洗う水にコリアンダーの葉を入れて、手に残る匂いを消す方法もあります。葉は乾燥や熱に弱く、風味が失われやすいため、保存する際はペーパータオルに包んでポリ袋などに入れ、冷蔵庫で保管するのが最適です。

根・茎の利用法

コリアンダーの根は、葉よりも強く、深い風味を持っており、特にタイ料理をはじめとするアジア料理、例えばスープやカレーなどの煮込み料理でよく使われます。香りの強い根や茎は、細かく刻んでカレーペーストや調味料の材料として使われ、料理に独特の深みと風味を加えます。

果実(種子)の利用法と風味特性

植物学的には果実であるコリアンダーの種子を乾燥させたものは、主に香辛料として利用され、そのまま、または砕いて使われます。ヨーロッパやインドでは、香辛料としての利用が非常に一般的です。乾燥したコリアンダーの種子は「コリアンダーシード」や「コリアンダーホール」とも呼ばれ、すりつぶした粉末は「コリアンダーパウダー」と呼ばれています。葉とは全く異なり、オレンジ、セージ、ナツメグ、シナモン、あるいは柑橘類とアニスを合わせたような香りと表現されます。種子は簡単に砕くことができ、家庭でも挽いて粉末にできますが、インドでは軽く焙煎して香りを引き立ててから粉にすることが一般的です。

コリアンダーの種子は、肉料理、卵料理、豆料理などに幅広く利用され、カレーの他、ピクルス、パン、ケーキ、クッキーなどの菓子類の風味付けにも使われます。特にドイツでは小麦ビールの醸造に、中東では挽肉や卵料理、豆の煮込み、チャツネに、ヨーロッパではピクルスやソーセージ用のスパイスとして使われています。肉や魚に漬け込み、マリネやパテにすることも可能です。

インド産のコリアンダーシードが多く流通しており、特にインド産のものは香りに甘みがあるのが特徴です。果実の香りの主な成分は葉の臭い成分とは異なり、モノテルペン類の一種である「リナロール」です。品質の評価は、粒の大きさや、香り成分であるリナロール臭の強さによって決まり、一般的に小粒のものの方が香りが強いとされています。使用する際は、同じ甘い芳香を持つクミン、カルダモン、シナモン、ナツメグ、メース、フェンネルなどのスパイスとの組み合わせが効果的です。

種子を大量に摂取すると、強い眠気を催すことがあるため、コリアンダーは「dizzycorn」(「めまいの実」の意味)と呼ばれることもあります。

薬用としてのコリアンダー

薬草としての利用では、9月~10月頃に熟して黄色くなった果実を採取し、日陰で乾燥させたものが「コリアンダーシード」または「胡荽子(こすいし)」と呼ばれ、用いられます。漢方では、全草を乾燥させたものを「胡荽(こすい)」と呼び、温性で辛味を持つ理気薬として扱います。「胡荽」という名前は、漢の時代(紀元前2世紀~紀元後1世紀)に、中国の使節が中国西方の西域(現在の新疆ウイグル自治区付近)から持ち帰ったことに由来します。

果実に含まれる精油成分(リナロール、ゲラニオール、ボルネオール、アネトール、カンファー、ピネンなど)には、胃液の分泌を促し、腸内のガスを排出する働きがあると言われています。また、口や喉の粘膜を刺激して気道の粘液分泌を促進し、痰を切りやすくする作用もあるとされ、頭痛の緩和や消化不良の改善に役立つと考えられています。かすかなオレンジのような香りは、アロマテラピーにも利用され、不安を和らげる効果が期待されています。民間療法では、胃の調子が悪い時、食欲がない時、お腹がガスで張る時、あるいは下痢の際に、紅茶にコリアンダーシード(胡荽子)を3~5粒加えて混ぜ、数分置いてから飲む方法が知られています。

中国やベトナムでは、料理に使われる葉や茎が「香菜」や「芫菜(げんさい)」として広く使われ、食欲を増進させ、消化を助ける薬味として、中医学の考え方に基づいています。葉や茎の香り成分には、食欲不振の改善、健胃・整腸作用、解毒作用のほか、緊張やストレスの緩和、不眠の解消に役立つとも言われています。コリアンダーは、古くから下痢、赤痢、リウマチなどの治療にも用いられてきました。インドでは、現在でも強壮剤や咳止めの材料として広く使われています。また、有益な植物栄養素や抗酸化作用のある成分を含み、体内から有害な重金属や有害物質を排出する効果が期待されています。ただし、「炎症を和らげる」「精神を安定させる」「体内の毒素を取り除く」といった多くの効能については、現代医学において科学的に信頼できるデータが十分に確立されているわけではありません。

コリアンダーの味と匂いの科学

コリアンダーの葉と種子の香りは、主にアルデヒド類とモノテルペン類によって構成されています。特に、青葉や未熟な果実が持つ独特な、時には不快とも感じられる香りと風味は、「デカナール」という成分が大きく影響しています。しかし、種子が成熟するにつれてデカナールの香りは薄れ、レモンとセージを混ぜたような心地よい香りへと変化します。この成熟した種子が持つ香りの主な成分は「リナロール」と呼ばれるモノテルペンアルコールの一種で、コリアンダー精油の約60~70%を占めています。

コリアンダーの葉の味の感じ方は人によって大きく異なり、非常に好みが分かれるのが特徴です。コリアンダーを好む人は、その葉を気分をリフレッシュさせる、レモンやライムのような香りと表現する一方で、苦手な人はその味と匂いを強く嫌い、石鹸のような、または腐ったような味と匂いだと表現します。特に、葉と未熟な実の独特な匂いは、カメムシの放つ臭いに例えられることもあります。コリアンダーの臭いに対する好き嫌いには、嗅覚受容体遺伝子である「OR6A2」という遺伝的な要因が関わっていることが研究によって明らかになっています。この遺伝子が、コリアンダーの香り成分であるアルデヒド類に対する感受性の違いを生み出していると考えられています。

異なる民族間での嗜好性の違いを示す研究も存在します。例えば、東アジア人の21%、白人の17%、アフリカ系の14%がコリアンダーを嫌いと回答したのに対し、コリアンダーが食材として一般的に用いられる地域の民族集団では、南米人のわずか7%、ヒスパニックの4%、中東の被験者の3%のみが嫌いと答えました。また、一卵性双生児の80%がコリアンダーに対して同じ嗜好性を示す一方で、二卵性双生児で一致したのはわずか半分でした。これらの結果は、コリアンダーの嗜好性に遺伝的な要素が強く関与していることを示唆しています。約3万人を対象とした遺伝学的調査では、コリアンダーの知覚に関連する2つの遺伝的変異が発見され、その中でも最も一般的なものは匂いの感知に関与する「OR6A2」遺伝子でした。この遺伝子は嗅覚受容体遺伝子の集合体の中に位置し、特定の化学物質に対して感受性の高い受容体をコードしています。香りの専門家は、コリアンダーの香りが複数の物質、特にアルデヒド類によって作られていることを明らかにしており、コリアンダーの味を嫌う人は不快なアルデヒドに敏感である一方で、好む人は爽やかに感じる香り成分を区別できない可能性があると指摘しています。その味と、苦味受容体など複数の遺伝子との関連性も解明されつつあります。

コリアンダーによるアレルギー

一部の人々はコリアンダーの葉や種子に対してアレルギー反応を示すことがあります。ある研究では、セリ科植物(コリアンダー、セリ、ニンジン、セロリ)に対する皮膚プリックテストを行った子供の32%、大人の23%が陽性反応を示しました。コリアンダーによるアレルギーは、主に職業的な曝露によるものか、または加工食品などに隠れたアレルゲンとして摂取されることで報告されることが多いです。

日本での受容とブームの歴史

日本でコリアンダーに関する記述が見られる最も古い文献は、平安時代の法令集『延喜式』(927年)や『和名抄』(930年代頃)に「胡荽(こすい)」という表記があるものです。時代が進み、南蛮貿易が行われるようになると、ポルトガル語に由来する名称「コエンドロ」とともに日本に伝わりました。江戸時代の『料理塩梅集』(1697年)には、寿司の薬味としての利用法が紹介されています。ただし、当時のヨーロッパではコリアンダーは種子のみが利用され、葉は使われていなかったため、『料理塩梅集』に見られる葉を薬味として用いる方法は、中国を経由して伝わったものと考えられます。

明治時代にカレー粉が日本に紹介されると、その原料としてコリアンダーの種子が不可欠となり、日本においては「コリアンダー」という名称が定着しました。しかし、西洋料理ではコリアンダーの葉を用いる習慣がなかったため、日本においてもコリアンダーの葉は長い間注目されることはありませんでした。ヨーロッパでコリアンダーの葉が料理に使われるようになったのは、ベトナム戦争などによりアジアの政治情勢が不安定になった1970年代後半に、アジアからの移民が増加したことがきっかけです。彼らがレストランを開き、ヨーロッパでアジア料理のブームが起こったことで、コリアンダーの葉を料理に使う習慣が広まりました。アメリカ合衆国でもほぼ同時期にアジア料理ブームが起こり、日本には数年遅れて欧米の影響を受ける形でブームが到来することになります。

日本でのアジア料理ブームは1990年代に始まり、1990年代後半から2000年代初頭にかけてタイ料理やベトナム料理が人気を集めました。特にベトナム料理のフォーのトッピングや生春巻きの具材としてコリアンダーの葉、すなわち「パクチー」が使われるようになり、「パクチー」という言葉はアジア料理の食材というイメージとともに日本に定着していきました。2010年には、東京に世界初のパクチー専門店「パクチーハウス東京」がオープンしました(2018年閉店)。パクチーハウス東京では、アジア料理などからヒントを得て独自に考案した「パクチー料理」を提供し、そのレシピをインターネット上で公開しました。2010年代半ばには、パクチー専門店が次々とオープンするなど、その人気はさらに高まりました。この時期には「パクチスト」と呼ばれる熱狂的なファンも現れ、パクチーフェスが開催されるほどの盛り上がりを見せました。

2010年代には、本場タイでは見られないような、パクチーを山盛りにした料理が日本で一大ブームとなりました。2016年のトレンド鍋(ぐるなび調べ)には「草鍋」が選ばれました。草鍋とは、青菜、セリ、パクチーなどの緑黄色野菜をメインに、さまざまな種類の野菜をたっぷり入れた鍋の総称です。ハウス食品やエスビー食品などからは、パクチーペーストやパクチーソースといった調味料が数多く発売され、レトルト食品やスナック菓子なども市場に出回るようになりました。雑誌『オレンジページ』(2017年)はパクチー料理の特集を組み、NHKの『きょうの料理』でもパクチー料理のレシピが特集されました。なお、『きょうの料理』でパクチーを使ったレシピが紹介されたのはこれが初めてではなく、以前は中国語由来の「香菜(シャンツァイ)」という名称が用いられていました。

国産コリアンダーの現状

国内では、静岡県がコリアンダー栽培の先進地として知られています。JA遠州中央(袋井市、磐田市、森町)のエリアでは2000年から栽培が開始されました。その後、2019年頃からは千葉県や茨城県などでも栽培が見られるようになり、国内生産量の増加に伴い、身近なスーパーの野菜売り場でも手頃な価格でパクチーが手に入るようになりました。

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パクチーを使った豊富なレシピ

独特の香りが魅力的なパクチーは、アジアン料理に欠かせない存在です。パクチー専門店ができたり、様々な飲食店でパクチーを使ったメニューが提供されるなど、ブームを巻き起こしました。好き嫌いは分かれるものの、熱狂的なファンを生み出すほどの人気ぶりです。市販のパクチーは少量で値段が高いと感じることもありますが、実は家庭菜園でも簡単に育てられます。自宅で栽培すれば、いつでも新鮮なパクチーを好きなだけ味わうことができます。ここでは、家庭でパクチーを存分に楽しむためのレシピや、様々な料理への活用方法を紹介します。

パクチーと鶏肉のエスニックサラダ

【材料(2人分)】 ・パクチー…1束 ・鶏むね肉(またはささみ)…1枚 ・玉ねぎ…1/4個 ・ナンプラー…小さじ2 ・レモン汁…大さじ1 ・砂糖…小さじ1 ・ごま油…小さじ1 ・塩・こしょう…少々

【作り方】

  1. 鶏肉は茹でて細かく裂き、粗熱を取ります。
  2. 玉ねぎは薄切りにして水にさらし、水気をよく切ります。
  3. ボウルに鶏肉・玉ねぎ・ざく切りにしたパクチーを入れ、ナンプラー・レモン汁・砂糖・ごま油を加えて和えます。
  4. 味をみて塩・こしょうで調え、器に盛り付けて完成。

爽やかな酸味と香りが広がる、食欲をそそるサラダです。

パクチー香るガパオライス風炒めご飯

【材料(2人分)】 ・合いびき肉(または鶏ひき肉)…150g ・にんにく…1片 ・赤唐辛子…1本(お好みで) ・パプリカ…1/2個 ・オイスターソース…大さじ1 ・ナンプラー…大さじ1 ・砂糖…小さじ1 ・パクチー…1束 ・ごはん…2膳分 ・卵…2個

【作り方】

  1. フライパンに油を熱し、にんにく・赤唐辛子を炒め、香りが立ったらひき肉を加えて炒めます。
  2. 肉の色が変わったら、細切りにしたパプリカを加えて炒めます。
  3. オイスターソース・ナンプラー・砂糖で味をつけ、火を止めてからざく切りのパクチーを加えて軽く混ぜます。
  4. 目玉焼きを作り、ごはんに炒めた具材をのせ、目玉焼きとともに盛り付けて完成。

ピリ辛な香りとパクチーの清涼感がクセになる一品です。

パクチーとエビのスープ(トムヤム風)

【材料(2人分)】 ・むきエビ…100g ・パクチー…1束 ・トマト…1個 ・レモングラス(あれば)…1本 ・ナンプラー…大さじ1 ・レモン汁…大さじ1 ・鶏ガラスープの素…小さじ2 ・水…400ml

【作り方】

  1. 鍋に水・鶏ガラスープの素・レモングラスを入れて火にかけます。
  2. 沸騰したらトマトとエビを加え、エビの色が変わるまで煮ます。
  3. ナンプラー・レモン汁で味を調え、火を止めた後にパクチーを加えて軽く混ぜます。
  4. 器に盛り付け、仕上げに追加でパクチーをトッピング。

香り高く、さっぱりした味わいで体が温まるスープです。

まとめ

コリアンダーは、世界各地で異なる名前と用途を持つ、長い歴史を持つ植物です。その独特な香りと風味は、古くから食用、薬用、香辛料として珍重されてきました。特に日本では近年「パクチー」として人気が高まり、栽培も広がっています。葉と種子では香りの成分が異なり、その風味の感じ方には遺伝的な要素が関係していることが、科学的にも明らかになりつつあります。多様な料理に使われるだけでなく、伝統医学では消化促進や薬効が認められていますが、現代医学による更なる研究が期待されています。また、昨今のパクチーブームは、その独特な香りが和食や洋食にまで浸透し、数多くのオリジナルレシピやパクチー専門店を生み出しました。家庭菜園でも手軽に育てられ、新鮮なパクチーを思う存分楽しめるようになったことで、これからも世界中の食卓や健康維持に貢献していくでしょう。

コリアンダー、パクチー、香菜は同じものですか?

はい、コリアンダー、パクチー、香菜はすべて同じ植物「Coriandrum sativum」を指す別の呼び名です。英語圏では乾燥させた種子や植物全体を指す場合に「コリアンダー」、タイ語をルーツとする名称で生の葉を指す場合に「パクチー」、中国語をルーツとする名称で生の葉を指す場合に「香菜(シャンツァイ)」と使い分けることが一般的です。

コリアンダーの葉が苦手な人がいるのはなぜでしょうか?

コリアンダーの葉が持つ独特な風味は、主に「アルデヒド類」という成分によるものです。このアルデヒド類に対する嗅覚受容体遺伝子「OR6A2」の感受性の違いにより、ある人にとっては石鹸のような、あるいはカメムシのような不快な臭いとして感じられることがあります。これは遺伝的な要因が深く関わっているため、好き嫌いがはっきりと分かれる傾向があります。

コリアンダーの種子(コリアンダーシード)は葉と風味は同じですか?

いいえ、コリアンダーの種子と葉は、風味の点で大きく異なります。葉が持つ独特で強い香りとは対照的に、乾燥させた種子は、甘く、スパイシーな香りを放ちます。その香りは、オレンジ、セージ、ナツメグ、シナモン、あるいは柑橘類とアニスを組み合わせたものに例えられることもあります。この違いは、種子の主要な香気成分が「リナロール」であるのに対し、葉は「デカナール」を主成分としていることに起因します。

コリアンダーにはどんな栄養素が含まれていますか?

生のコリアンダーの葉には、ビタミンA(β-カロテン)、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、カルシウム、カリウム、鉄分などの栄養素が豊富に含まれています。ただし、「体内の毒素を排出するデトックス効果」があるという情報は広く知られていますが、科学的な根拠に基づいたものではありません。

コリアンダーを育てる際に気をつけることはありますか?

コリアンダーは、日当たりが良く、水はけの良い土壌を好みます。耐暑性、耐寒性はそれほど高くなく、発芽にはある程度の温度が必要です。直根性のため、移植には適しておらず、種を直接まくのが一般的です。また、乾燥にも弱いので、土壌が乾燥しすぎないように適切な水やりが大切です。アブラムシやハダニなどの害虫が発生することもあります。

コリアンダーは昔から薬として使われていたのでしょうか?

はい、コリアンダーは3000年以上も前から薬用植物として利用されてきました。古代エジプトの医学書や旧約聖書にも記述があり、古代ギリシャの医者ヒポクラテスも、健胃作用や睡眠を促す効果があるとしてその薬効を認めています。漢方医学では「胡荽子(こすいし)」と呼ばれ、胃液の分泌を促進したり、腸内のガスを排出したり、痰を取り除く効果があるとされています。ただし、現代医学において、これらの効果を裏付ける信頼できる科学的データはまだ十分に確立されていません。

パクチーを活用した個性的なレシピはありますか?

もちろん、パクチーはアジアン料理に限らず、日本の食卓や西洋料理にも意外なほどマッチします。例えば、豆腐にレモンとパクチーを添えるだけで、爽やかな一品になります。また、エビ餃子の具材に刻んだパクチーを混ぜたり、トマトソースパスタやスパイシーなかき揚げの材料として利用するのもおすすめです。さらに、ミントの代わりにパクチーを使ったモヒート風ドリンクなど、アイデア次第で様々なバリエーションが楽しめます。

パクチー