シナモン と は

シナモンは、甘くスパイシーな香りが特徴的なスパイス。お菓子作りにはもちろん、料理や飲み物にも使われ、その風味は世界中で愛されています。しかし、シナモンはただ美味しいだけでなく、健康や美容にも嬉しい効果が期待できる万能スパイスでもあるのです。この記事では、シナモンの知られざる効能から、様々な種類、そして日々の生活に取り入れやすい使い方まで、シナモンの魅力をたっぷりご紹介します。さあ、シナモンの世界を一緒に探求してみましょう。

シナモン

シナモンは、多様なニッケイ属の樹木の、内側の樹皮から採取される香辛料の総称です。世界中で広く使われているカシアや、日本のニッキ飴でおなじみのニッケイもその一種です。シナモンの種類としては、スリランカや南インド原産のセイロンシナモン、中国やインドシナ半島原産のカシア、そして日本原産のニッキなどが挙げられます。独特の香りは、シンナムアルデヒド、オイゲノール、サフロールといった成分によるもので、その芳醇さから「スパイスの王様」と称されることもあります。特にカシアの樹皮は、桂皮という生薬として漢方薬に配合されています。しかし、現代医学においては、その薬効や治療効果を明確に示す証拠はまだ見つかっていません。シナモンは、伝統的に食品として用いられてきたため、通常の使用においては安全とされています。ただし、カシアに多く含まれるクマリンを大量に摂取すると、肝機能に影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。

シナモンの歴史

シナモンは、その歴史を遡ると、世界で最も古いスパイスの一つとされています。古代エジプトでは紀元前4000年頃からミイラの保存に利用され、その抗菌作用が活用されていました。さらに、旧約聖書の『エゼキエル書』や古代ギリシャの詩人サッポーの詩にも、シナモンの存在を示す記録が残されています。中国においては、後漢時代に編纂された薬学書『神農本草経』に、シナモンに関する記述が初めて見られます。この事実は、シナモンが古くから薬としても重宝されていたことを示唆しています。日本へのシナモンの伝来は8世紀前半、奈良時代に遡ります。正倉院には「桂心」という名でシナモンが保存されており、薬として献上されたと考えられています。ただし、シナモンの木が日本に持ち込まれたのは、江戸時代の享保年間になってからのことです。

香辛料

シナモンは、特定の樹木の皮を剥ぎ、乾燥させた香辛料です。特有の甘さと芳香、そして微かな刺激があり、カクテル、紅茶、コーヒーなどの飲み物や、アップルパイ、シナモンロールといった洋菓子の風味付けに利用されます。南アジア、中東、北アフリカでは、料理の香り付けによく使われ、インド料理のガラムマサラには欠かせない材料の一つです。また、インドのチャイにも風味を加えます。一般的に、粉末状のシナモンパウダーと、樹皮を細長く巻いたシナモンスティックが広く販売されています。

由来

シナモンは、独特の茶色を表現する言葉としても用いられます。この名は、クスノキ科ニッケイ属に属する様々な植物、およびそれらから採取される香辛料を指す総称です。多くのニッケイ属植物が存在しますが、商業的に栽培されているのはごく一部です。特にセイロンニッケイは「本物のシナモン」と称されることもありますが、市場に出回るシナモンの大半は、近縁種であるシナニッケイ、別名カシアに由来します。英語における"cinnamon"という単語は、15世紀には使用されていた記録があり、ギリシャ語のκιννάμωμον(kinnámōmon)を起源とし、ラテン語や中世フランス語を経由して取り入れられました。さらに遡ると、このギリシャ語はフェニキア語からの借用で、ヘブライ語のקינמון(qinnamon)と類似しています。一方、「カシアcassia」という言葉は、西暦1000年頃に英語に登場し、ラテン語を通じて、最終的には「樹皮を剥ぐ」という意味を持つヘブライ語に辿り着きます。初期近代英語では、canelやcanellaという名称も使われていました。これらの言葉は、現在のヨーロッパの多くの言語におけるシナモンの名称と類似しており、ラテン語のcannella(「管」を意味するcannaの縮小形)に由来します。これは、シナモンの樹皮が乾燥する際に丸まる形状にちなんでいます。

古代史

シナモンの歴史は非常に古く、紀元前2000年にはエジプトに渡っていた記録があります。ただし、当時の人々はシナモンとカシアを混同していた可能性も指摘されています。古代世界において、シナモンは非常に貴重な品であり、権力者や神々への贈り物として珍重されていました。ミレトスのアポロン神殿への寄贈品としても、その名が刻まれています。シナモンの原産地はインド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマーといった地域ですが、その情報は長らく香辛料貿易を独占する商人たちによって秘匿されていました。カシアに関する最古の記述は、紀元前7世紀の詩人サッポーの作品に見られます。ヘロドトスは、シナモンとカシアがアラビアで、香料、没薬、ラブダナムと共に産出し、翼を持つ蛇に守られていると記述しています。ヘレニズム時代以降のエジプトでは、香料キフィにシナモンとカシアが使用されていました。また、ギリシャの支配者たちが神殿に奉納する品にも、これらの香辛料が含まれていました。古代エジプトでは、シナモンはミイラの防腐処理にも用いられています。シナモンはアラビア半島へ、季節風を利用した簡素な筏で運ばれていました。大プリニウスは、ワインの香りづけにカシアが用いられていたことに触れています。プリニウスによれば、1ローマン・ポンド(約327グラム)のカシア、シナモン、またはserichatumは、最大300デナリウスという高値で取引され、これは当時の労働者の10ヶ月分の賃金に相当しました。ディオクレティアヌスの最高価格令では、1ポンドのカシアの価格は125デナリウスと定められていましたが、それでも当時の日給の5日分に相当する高価なものでした。ローマでは、シナモンは高価すぎて日常的な焚き火には使えませんでしたが、皇帝ネロは妻の葬儀で、都市の一年分のシナモンを燃やしたと伝えられています。古代ローマの料理書『アピキウス』には、マラバトゥルムの葉が料理や、牡蠣のキャラウェイソースに使用する油の蒸留に使われたと記されています。同書によれば、マラバトゥルムは一流の厨房には欠かせない香辛料でした。

中世ヨーロッパ

中世を通して、西洋においてシナモンの起源は謎に包まれていました。ヨーロッパの人々は、ラテン語の文献を通じて、シナモンが紅海を経てエジプトの港に運ばれることを知っていましたが、その正確な産地は不明でした。1248年、ジャン・ド・ジョアンヴィルはルイ9世と共にエジプトへ向かう際、ナイル川の源流付近、世界の辺境(エチオピア)でシナモンが採取されると聞きました。マルコ・ポーロはシナモンの産地について明確な記述を避けています。古代ギリシャの歴史家ヘロドトスをはじめとする著述家たちは、アラビアをシナモンの産地と推測し、巨大なシナモン鳥がシナモンの木から枝を集めて巣を作るという伝説や、アラブ人がそのシナモンスティックを手に入れるための策略を語りました。プリニウスは1世紀に、これは商人が価格をつり上げるために作り上げた話だと指摘しましたが、この物語は14世紀初頭までビザンツ帝国で語り継がれていました。シナモンがスリランカで産出されるという最初の記録は、1270年頃にザカリーヤー・カズウィーニーが著した書物に見られます。その直後、ジョヴァンニ・ダ・モンテコルヴィーノも1292年頃の書簡で同様の記述をしています。インドネシアの船は、モルッカ諸島から東アフリカまでシナモンを直接運び、その後、地元の商人がエジプトのアレクサンドリアまで輸送しました。イタリアのヴェネツィア商人たちは、ヨーロッパにおける香辛料貿易を独占していましたが、マムルーク朝やオスマン帝国の台頭によって貿易が衰退し、ヨーロッパ人は新たな交易ルートを求めてアジアへと進出することになりました。

近世前期

16世紀、探検家フェルディナンド・マゼランはスペインの支援を受け、香辛料を求めて航海に出ました。その過程でフィリピンに到達し、セイロンシナモン(Cinnamomum verum)に類似したCinnamomum mindanaenseという品種を発見しました。これは後に、ポルトガルが支配していたセイロン産のシナモンと市場を争うことになります。17世紀に入ると、1638年にオランダの商人がセイロンに拠点を築き、1640年までにその地の製造施設を掌握、さらに1658年までにはポルトガル勢力を完全に排除しました。当時のオランダ船長は、「セイロンの海岸一帯はシナモンで満ち溢れ、その品質は東洋随一である。島の風下にいれば、8リーグ先でもその芳香が漂ってくる」と記録しています。オランダ東インド会社は、自生するシナモンの採取方法を改善するだけでなく、シナモンの木の栽培にも着手しました。18世紀後半の1767年、イギリス東インド会社のブラウン卿は、インドのケーララ州カンヌール地区、アンジャラカンディー近郊に大規模なシナモン農園を開設しました。このアンジャラカンディーシナモン農園は、当時アジア最大規模を誇りました。その後、イギリスは1796年にオランダからセイロンの支配権を奪取しました。

栽培

シナモンは、年間を通して緑の葉を茂らせる常緑樹であり、卵型の葉と厚い樹皮、そして果実である液果を実らせる特徴があります。香辛料として利用されるのは主に樹皮と葉の部分です。シナモンは植え付けから2年後に一度、根元近くで幹を刈り取るという方法で収穫されます。すると翌年には、切り株から新たな芽が多数生え、成長を続けます。しかし、シナモンの育成には、Colletotrichum gloeosporioides、Diplodia属菌、Phytophthora cinnamomiなどの病原菌による影響を受けることがあります。収穫された幹は、内側の樹皮が乾燥する前に迅速な加工処理が必要です。まず、外側の樹皮を削り落とし、次に内側の樹皮を剥がしやすくするために、枝をハンマーで均等に叩きます。その後、内樹皮を細長いロール状に剥がします。使用されるのは、わずか0.5mmほどの薄い内樹皮のみです。外側の木質部は廃棄され、内樹皮は乾燥させることで、数メートルの長さのシナモンのロール状の断片となります。加工された樹皮は、風通しの良い比較的暖かい場所で4~6時間かけて完全に乾燥させます。乾燥後、樹皮は販売のために5~10cmの長さにカットされます。乾燥状態が不適切だと、樹皮に害虫が発生しやすくなり、燻蒸処理が必要になる場合があります。しかし、燻蒸処理された樹皮は、未処理のものと同等の品質とはみなされません。

市場には様々な種類のシナモンが出回っています。カシアは、その強い香りと風味から、特にシナモンロールのようなパン作りに適しています。中でもチャイニーズシナモンは、赤茶色で木質感が強く、厚みがあるのが特徴です。一方、セイロンシナモンは、より明るい茶色で、きめが細かく、もろいのが特徴です。セイロンシナモンは、カシアよりも繊細な香りがすると言われていますが、加熱によって香りが失われやすいという欠点があります。セイロンシナモンに含まれるクマリンの量は、カシアに比べて非常に少ないことが知られています。これらのシナモンの樹皮は、見た目と構造の両方で区別できます。セイロンシナモンのスティック(クイル)は、薄い層が重なっており、コーヒーミルなどで簡単に粉末にできます。しかし、カシアのスティックはより硬く、インドネシアシナモンは厚い一層でできているため、コーヒーミルを傷つける可能性があります。サイゴンシナモンとシナニッケイは、樹皮が巻けるほど柔軟ではないため、厚い破片として販売されることが一般的です。粉末状のシナモンは区別が難しいですが、ヨウ素チンキで処理すると、純粋なセイロンシナモンはほとんど変化が見られないのに対し、チャイニーズシナモン(カシア)は濃い青色に変化します。

格付け

スリランカでは、シナモンの品質を評価するために、独自の等級分けシステムを採用しています。このシステムでは、シナモンクイルを大きく4つのカテゴリーに分類し、さらに詳細な基準に基づいて細分化されます。例えば、「Mexican」と呼ばれるカテゴリーは、クイルの直径や1キログラムあたりのクイルの数によって、「M00 000 special」、「M000000」、「M0000」といった等級に分けられます。また、長さが106mmに満たないシナモンの破片は「クイリング」として扱われます。「フェザリング」は、シナモンの木の小枝やねじれた茎の内側の樹皮を指します。そして、「チップ」は、クイルを成形する際に切り落とされた端材や、分離できなかった外樹皮と内樹皮、小さな小枝の樹皮などを意味します。

生産

シナモンの世界市場において、インドネシアと中国が圧倒的なシェアを誇り、両国で世界全体の約76%を生産しています。2014年の統計では、世界のシナモン生産量は合計213,678トンに達し、インドネシア(43%)、中国(33%)に加え、ベトナム(15%)、スリランカ(8%)の上位4ヶ国で、実に世界生産量の99%を占めるという状況でした。

食品用途

シナモンの樹皮は、独特の芳香を持つスパイスとして世界中で愛用されています。料理においては、風味付けや薬味として幅広く活用され、特にメキシコではチョコレートの製造に欠かせない材料です。また、鶏肉や羊肉料理など、塩味の強い料理にも深みを加えるために用いられます。アメリカ合衆国では、シナモンと砂糖を混ぜたものが、シリアルやパン、リンゴなどのフルーツの風味付けによく使われ、シナモンシュガーとして市販もされています。トルコ料理では、甘い料理と塩味の料理の両方にシナモンが使われるのが特徴です。さらに、ピクルスやクリスマスの定番ドリンクであるエッグノッグにも、その香りが生かされています。ペルシャ料理においては、シナモンパウダーが重要な役割を果たし、スープや飲み物、デザートなど、様々な料理に独特の風味を加えています。日本でも、江戸時代から菓子などにシナモンが使われており、八ツ橋やニッキ水などが代表例です。ニッキ寒天(岐阜県)、肉桂餅(各地)、梅ヶ枝・おいり(香川県)、けせん団子(鹿児島県)、うんぺい餅(青森県)など、各地の郷土菓子にもその風味は根付いています。1998年にはシナモンロールブームが起こり、翌年にはハワイの人気店「シナボン」が吉祥寺にオープンしました(後に閉店、2015年に再上陸)。スターバックスなどのコーヒーチェーン店でもシナモンが提供されており、現在も様々な形で親しまれています。

風味、芳香、味

シナモンの独特な香りは、その0.5〜1%を占める芳香性の高い精油に由来します。この精油は、シナモンの樹皮を砕いて細かくし、水に浸した後、水蒸気蒸留という手法で抽出されます。採取されたばかりの精油は淡い黄色をしていますが、時間経過とともに酸化が進み、色が濃くなり、樹脂状の物質が生成されます。シナモンには約80種類の化合物が含まれており、その一つにオイゲノールが挙げられます。

アルコール香料

シナモンは、ファイアボールのようなシナモンウイスキーをはじめ、様々なアルコール飲料の風味付けに広く用いられています。ギリシャの一部地域では、シナモンとブランデーを組み合わせた「シナモンリキュール」という飲み物が親しまれています。また、ヨーロッパでは、クルマバソウで風味を加えたメイワインや、セイヨウコウボウで香りづけしたズブロッカなどが人気です。

毒性

シナモンの一種であるカシアには、クマリンという成分が豊富に含まれています。このクマリンを大量に摂取し続けると、肝臓に悪影響を及ぼす危険性があることが指摘されています。一方、セイロンシナモンはクマリンの含有量が少ないことで知られていますが、市場に出回っているシナモン製品の多くは、カシアを主に使用しているのが現状です。欧州食品安全機関(EFSA)は、2008年にクマリンの安全性に関する評価を行い、一日あたりの摂取量として、体重1kgあたり0.1mgを超えないように推奨しています。これを受け、EUでは食品中のクマリン含有量に関する基準値を設定し、例えば季節限定の焼き菓子生地では1kgあたり50mg、日常的に摂取する焼き菓子では1kgあたり15mgという上限が設けられました。東京都が行った調査によると、シナモンスパイスに含まれるクマリンの量は、カシアで1gあたり平均3.26mg、セイロンシナモンで1gあたり平均0.014mgでした。通常の食品やスパイスとしてシナモンを摂取する分には、健康に影響が出るほどの量にはならないと考えられますが、サプリメントから摂取する場合は、推奨される一日摂取量を超える可能性があると注意喚起されています。ヨーロッパやアメリカの研究においても、シナモンの種類や製品によってクマリンの含有量に大きな差があることが確認されています。

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