アボカドとは?森のバターと呼ばれる栄養満点の果実を徹底解説

「森のバター」という愛称で親しまれるアボカド。クリーミーで濃厚な味わいはもちろん、その栄養価の高さも魅力です。一体どんな果物なのでしょうか?この記事では、アボカドの基本情報から、豊富な栄養素、美容と健康への効果までを徹底解説します。毎日の食生活に取り入れて、アボカドのパワーを実感してみませんか?アボカドの知られざる魅力を、一緒に探求していきましょう。

アボカドとは?概要と「森のバター」と呼ばれる所以

アボカド(学名:Persea americana)は、クスノキ科のワニナシ属に分類される常緑樹、そしてその実のことです。日本では「ワニナシ(鰐梨)」という名でも知られています。アボカドは、際立って高い栄養価を持ち、特に良質な脂質を豊富に含むことから、「森のバター」という愛称で広く知られています。アボカドの果肉には、およそ18~25%の脂肪が含まれており、果物としては非常に高カロリーですが、そのカロリーの約77%が脂肪由来です。これらの脂肪は、主に健康に良いとされる一価不飽和脂肪酸(全体の67%を占めます)で構成されており、さらに、ビタミンE、K、C、B群など10種類以上のビタミン類、カリウム、マグネシウムなど11種類のミネラル、食物繊維、葉酸、タンパク質といった多種多様な栄養素をバランス良く含んでいます。とりわけビタミンEの含有量は特筆すべきで、アボカドおよそ1個半で、成人の男性が1日に必要とするビタミンE(10mg)を摂取できると言われています。また、カリウムの含有量もバナナよりも多いことで知られています。これらの豊富な栄養素がアボカドの脂肪分に凝縮されていることが、「森のバター」と呼ばれる所以であり、そのクリーミーな食感と高い栄養価に由来しています。甘味や酸味は控えめで、かすかに塩味を感じる果肉は、きめが細かく、なめらかで濃厚な口当たりが特徴です。原産地はメキシコや中南米で、低温には弱く、主に熱帯や亜熱帯地域の湿潤な低地の森林で育ちます。

アボカドはギネス認定「世界一栄養価の高い果実」

アボカドの優れた栄養価は、世界的に認められており、ギネス世界記録には「世界一栄養価の高い果実」として登録されています。この認定は、アボカドが単一の果実として、極めて多くの種類のビタミン、ミネラル、そして質の高い脂肪酸をバランス良く含有している点に基づいています。特に、健康に良いとされる不飽和脂肪酸が豊富であり、食物繊維や抗酸化作用のあるビタミンEも豊富に含むため、日々の健康維持をサポートする「スーパーフード」として、世界中で注目を集めています。このような包括的な栄養特性が、アボカドを単なる食品以上の価値を持つものとして確立しています。

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アボカドは野菜?それとも果物?農林水産省とギネスの定義

アボカドが野菜なのか果物なのかという疑問は、しばしば議論の対象となりますが、植物学上の定義と流通における慣習には相違が見られます。植物学的な観点から見ると、果樹から収穫される果実は、一般的に果物(果実的野菜)に分類されます。この基準に沿って、日本の農林水産省は、「畑で栽培されるものを野菜、樹木に実るものを果物」と定義しており、木になるアボカドは「果物」として扱われます。実際、ギネスブックにおいても、アボカドは「世界一栄養価の高い果実」として認定されています。しかしながら、スーパーマーケットなどではサラダの材料として販売されることが多いため、一部では「野菜」として認識されることもあります。甘みが少なく、食卓では主菜やサラダに使われることが多い点も、消費者が野菜と認識しがちな理由の一つです。しかし、厳密な定義においては、アボカドは明確に果物であり、その豊富な栄養価は「森のバター」という異名とともに、果物の中でも特別な存在感を放っています。

アボカドの名称と語源の深淵

アボカドの名称は、その原産地である地域によって多様なバリエーションが存在します。例えば、ペルー、メキシコ、中米のスペイン語圏では「アグアカテ」(aguacate)あるいは「アワカテ」(ahuacate)と呼ばれており、チリやアルゼンチンなどのスペイン語圏では「パルタ」(palta)、ブラジルでは「アバカテ」(abacate)という名称で親しまれています。これらの名称は、古代アステカ文明のナワトル語で「アフアカトル」(āhuacatl)に由来すると考えられていますが、この語形自体が周辺の言語からの借用であるという説も存在します。日本語名の元となった英語名の「avocado」は、スペイン語の「aguacate」(アボカド)と「abogado」(弁護士)が混同された結果であると言われています。現代スペイン語において「abogado」はアボカドの意味を持ちませんが、フランス語では「アボカド」と「弁護士」は同じスペル(avocat)の単語として存在します。アボカドの果実が19世紀末にカリフォルニアやフロリダに導入された際、その外観が爬虫類を連想させることから「alligator pear(アリゲーターペア/ワニナシ)」と呼ばれていました。しかし、1920年代に入ると、アボカドの生産者たちは「危険な動物」を連想させるこの名称を避け、「avocado」という新しい名称を考案しました。日本においては、「alligator pear」を直訳した「ワニナシ」という名称も用いられますが、現代では「アボカド」という名称が一般的です。

アボカドの生物学:生態と植物的な特徴

アボカドは、そのルーツを中央アメリカ、とりわけメキシコ南部に持つ植物です。寒さに弱い性質を持ち、主に熱帯・亜熱帯地域の湿潤な低地林に自生しています。生育が早く、自然な環境下では20メートルに達する高木へと成長します。商業栽培においては、剪定が行われるため、そこまで高くはなりませんが、それでも10メートルほどの高さになることも珍しくありません。アボカドの木は、光沢のある濃緑色の葉を豊富に茂らせ、独特な形状の樹冠を形成します。樹の形は品種によって異なりますが、古い葉の寿命は約1年と短く、新しい枝が伸びる時期には大量の葉が落ちるのが特徴です。葉の表面は深緑色、裏面は黄緑色で、手で揉むとアニスに似た独特の香りが漂います。果実は一般的に洋梨のような形をしており、品種によって様々な形状が見られます。厚みのある皮に覆われ、濃い緑色から紫がかった黒色の表皮を持ち、内部には大きな丸い種子が1つ存在し、その周りをライムグリーンの固い果肉が包んでいます。果肉は、皮に近いほど色が濃くなる傾向があります。野生のアボカドは、黒くて小さい果実が多いですが、栽培品種の中には2キログラムを超える巨大なものも存在します。果実が成熟するには10ヶ月から15ヶ月もの長い期間が必要で、大量の栄養分を消費するため、アボカドの枝は一年おきに実をつける傾向があります。品種によっては木全体で隔年結実するものと、枝ごとに隔年結実するため木全体としては毎年実をつけるものがあります。アボカドの種子は、果実の大きさに比べて比較的大きいことが特徴です。これは、かつて存在した巨大動物(例えば、先史時代のオオナマケモノである「メガテリウム」など)がアボカドを丸ごと食べ、遠くまで移動して排泄することで種子を散布していたと考えられています。これらの巨大動物は絶滅しましたが、現代では人間がアボカドの種子散布の役割を担っています。中南米原産の植物でアボカドと最も近い関係にあるのはモクレン科の植物であり、クスノキ科の植物の葉を食べるコアラやその近縁種の食料としても知られています。

アボカド特有の繁殖戦略:雌雄異熟という現象

アボカドの花は、一つの花に雄しべと雌しべの両方を持つ両性花ですが、自ら受粉することが難しい、独特な繁殖戦略を持っています。これは「雌雄異熟」と呼ばれる現象で、一つの花の中で雌しべが成熟する時期と雄しべが成熟する時期が意図的にずらされています。具体的には、アボカドにはAタイプとBタイプの2種類の開花パターンが存在します。Aタイプの花は、開花初日の午前中に雌しべが成熟して受粉可能な状態になり、いったん花を閉じます。そして翌日の午後に再び開花し、今度は雄しべが成熟して花粉を放出します。一方、Bタイプの花は、開花初日の午後に雌しべが成熟して受粉に適した状態になり、いったん閉じた後、2日目の午前中に再度開花して雄しべが花粉を放出します。このように、同じ木の花はすべて同じタイミングで開閉するため、1本の木だけを植えても、雌しべが成熟している時にはその木から花粉が出ず、花粉が出ている時には雌しべはすでに受粉期を終えているため、ほとんど実を結ぶことはありません。そのため、アボカドの果樹園では、効率的な受粉を促進するために、AタイプとBタイプの異なる品種の木を一緒に植えることが不可欠です。小規模な果樹園では、この混植がなければほとんど収穫は期待できません。ただし、メキシコのような非常に大規模な果樹園では、同一品種であっても個体差によって開花時期がわずかにずれることがあり、また花粉を運ぶ昆虫が雌花の開花期まで花粉を持ち越すこともあるため、ハス種のように同一品種のみでも実をつけることがあります。主なAタイプ品種としては、ハス種、アナハイム種、デューク種、マッカーサー種、メキシコーラ種、ピンカートン種などがあり、Bタイプ品種には、ベーコン種、クリフトン種、エドノール種、フェルテ種、ズタノ種、サンタナ種などがあります。

アボカドが動物に与える影響:毒性と安全性について

アボカドの果実、種子、そして葉には「ペルシン」と呼ばれる脂肪酸誘導体が含まれており、人間以外の特定の動物に対して有害な反応を引き起こす可能性があります。人間の場合は、ラテックスアレルギーを持つ人が、アボカドに対して交差反応としてアレルギー症状を起こすことが報告されています。特に、鳥類、馬、牛、ヤギ、ウサギなどの多くの動物に与えると、心臓障害、浮腫、壊死、呼吸困難といった重篤な症状を引き起こす場合があります。また、猫、犬、ハムスター、モルモットに対しても有害性を示すことがあるとされています。しかしながら、一方でアボカド入りの犬猫用フードや馬用サプリメントも市場に出回っており、製造企業は「健康被害の事例はない」と報告しています。したがって、アボカドの動物に対する毒性については、まだ不明な点が多く、科学的な見解が一致しているわけではありません。未熟な果実や種子、葉にはペルシンの他にタンニンやサポニンといった物質も含まれており、アボカドの種子を粉砕したものがハエの駆除剤として試されることもありますが、その効果は限定的です。アボカドの毒性は一般的に非常に強いものではないと考えられていますが、過去にはアボカドの葉を大量に食べたヤギが死亡した事例も報告されており、ペットや家畜への与え方には十分な注意が必要です。

アボカドの長い歴史:古代から世界へ

アボカドがいつ頃から食用として利用されていたのか正確な時期は特定されていませんが、紀元前500年にはメキシコ中部のテワカンで最初の栽培記録が確認されています。アボカドは熱帯コロンビア、エクアドル、メキシコ南部に自生していたものが、古代アステカ族によって栽培されるようになりました。その後、紀元前500年以降、アボカドはメキシコや中南米地域に住む人々の重要な食料源の一つとなりました。13世紀末のインカ王の墓からは、数々の歴史的な発見とともにアボカドの種も発見されており、何世紀も前のインカ帝国の時代から、アボカドが貴重な食料として栽培されていたことがわかります。16世紀に入ると、スペイン帝国から派遣された征服者たちが、アステカ族が栽培していたアボカドを発見しました。1519年にエルナン・コルテスがヨーロッパ人として初めてメキシコに足を踏み入れた際、この果実に出会ったとされています。1526年には、スペイン帝国の歴史家ゴンサロ・フェルナンデス・デ・オビエド・イ・バルデスがアボカドについて詳細な記録を残しており、「果実の中心には、皮を剥いた栗のような種があり、これと皮の間には豊富な食用部分がある。それはバターのようなペースト状で、非常に美味である」と記述しています。アステカ人はこの果物を「アグワカタール」と呼んでいました。アボカドはメキシコからペルーへと伝わり、紀元前291年頃のものとされるアボカドの実を模した水差しがナスカの遺跡から出土していることから、その歴史の深さを知ることができます。マヤ文明の言語では、アボカドは āhuacatl (アフアカトル=「睾丸の木」の意味)と呼ばれていました。17世紀には、イギリスの園芸家ウィリアムズ・ヒューズがアボカドを「体に栄養を与え、強くする…性欲を非常に強くする」と称賛し、カリブ海の修道士も同様の結論に至り、庭での栽培を禁じたという逸話も残っています。1672年にはアボカドの名前が初めて英語の文献に登場し、1696年にはイギリスでメキシコの樹木とともに初めて紹介されました。一部の消費者に広まるのは困難でしたが、アボカドが性欲を増進するという噂が広まり、アボカド業界は生産者にこの噂を否定させることで、逆に人々の関心を煽ったとも言われています。栽培に関しては、中南米で果樹として数百年以上にわたって栽培され続けており、少なくとも13世紀から15世紀の古代にはすでに栽培が行われていたと考えられています。少なくとも15世紀末までには、南北アメリカ両方の熱帯地域で広く栽培されていました。16世紀に入ると、アボカドはアメリカ大陸へと伝わりました。日本へは江戸時代に伝来しましたが、一般には普及せず、昭和後期以降になってから本格的に広まりました。

アボカドの多彩な品種と市場を席巻するハス種

アボカドは、メキシコ系、グアテマラ系、西インド系の3つの主要な系統に分類され、それらを合わせると500種以上、場合によっては1000を超える品種が存在するとも言われています。中南米を原産とするアボカドは、非常に多様な品種を誇ります。しかし、私たちが日頃スーパーで見かけるアボカドのほとんどは、「ハス種(Hass)」と呼ばれる、表面がデコボコしていて、熟すと黒くなる品種です。特にメキシコ産のハス種は食用として広く利用されており、日本市場の約9割を占めています。ハス種が世界中で広く栽培・販売されるようになったのは、その厚い皮が長距離輸送に適していること、栽培が比較的容易であること、そして熟成具合が皮の色で判断できるという、消費者にとって分かりやすい利点があるためです。ハス種の原産はメキシコとされていますが、系統的にはグアテマラ系に属します。生産量では他の品種を圧倒していますが、特徴的なゴツゴツとした厚い皮と、熟すと黒くなる性質は、アボカド全体で見るとむしろ少数派です。ハス種は寒さに弱いため、日本の気候での栽培はあまり適していません。そのため、日本ではベーコン種やフェルテ種、ヤルナーといった、より耐寒性のある品種が栽培されており、高知、和歌山、南九州などで少量ながら国産アボカドが生産されています。これらの品種は、ハス種とは異なり、皮が滑らかで熟しても緑色のままのことが多いです。イスラエルではフェルテ種の栽培が盛んです。アボカドの大きさは品種によって大きく異なり、小さいメキシコーラ種では100グラム前後、大きいアナハイム種では500グラムから900グラムにもなります。カリフォルニア州には1キログラムを超える品種も存在しますが、市場では大きすぎる、あるいは小さすぎる品種は、取引されにくい傾向にあります。世界で最も多く生産され、日本の市場でも主流のハス種は、一般的に200~340グラム程度の大きさです。ハス種に次いで流通量の多いフェルテ種は、220~400グラム程度です。このように、アボカドには非常に多くの栽培品種が存在しますが、詳細がまだ解明されていない品種も多くあります。南アフリカ、イスラエル、スペインなどの主要生産国では、ハス種だけでなく、多様な品種が栽培され、市場に出回っています。

最適な食べ頃と保存方法

アボカドは、そのクリーミーな食感と豊富な栄養価から、世界中で様々な料理に使われています。サラダ、サンドイッチ、タコス、スープ、寿司(カリフォルニアロールなど)、パスタ、トーストの具材として利用されることが多いです。アボカドは、数少ない生で食べる果物の一つであり、加熱すると苦味が出て風味が損なわれるため、加熱調理には向きません。アボカドの生産量・消費量ともに世界一のメキシコでは、アボカドを潰してトマト、玉ねぎ、唐辛子、香味野菜、レモン汁、塩などを加えた「ワカモーレ」(グアカモーレ)が、一般的なディップとして親しまれています。ワカモーレは、トルティーヤチップスと一緒に食べたり、様々な料理のソースとして使われたりします。アメリカ合衆国でも、トルティーヤチップスとワカモーレの組み合わせは、国民的な料理として定着しています。日本では、マグロの刺身のように醤油とわさびで食べたり、巻寿司の具材にしたり、パンに塗って食べたりすることがあります。和風ドレッシングのサラダとの相性も抜群です。日本で販売されているアボカドのほとんどはメキシコ産ハス種で、一年中手に入りますが、特に美味しい時期は3月から9月です。一方、ニュージーランド産、チリ産、ペルー産のアボカドも輸入されており、これらは南半球で生産されるため、旬の時期は10月から1月になります。ニュージーランドでは、サラダに入れたり、バターの代わりにトーストに塗ったり、アイスクリームの材料にしたりします。シーフード、特にエビやマグロと合わせて食べるのも一般的です。その他、アメリカ産のアボカドも輸入されることがあります。アボカドは脂肪分が豊富なので、「アボカドオイル」の原料としても使われます。このオイルは食用だけでなく、化粧品や石鹸の材料にもなり、特にメキシコではアボカドで作られた石鹸が多く販売されています。アボカドの実は、収穫後に追熟させることで初めて柔らかくなり、食べ頃を迎えます。日本の店頭で販売されているアボカドは、まだ熟していないものが多いため、購入後は常温で追熟させることで、より美味しく食べられます。追熟が進むと、品種によっては皮の色が黒っぽくなりますが、ベーコン種やフェルテ種のように、熟しても緑色のままの品種もあります。食べ頃の目安は、皮を軽く押して少し柔らかさを感じる程度です。追熟は17℃程度の環境で行うと、皮が黒くなる前に果肉が柔らかくなります。21℃程度が追熟に最適な温度とされており、27℃以上または4.5℃以下の環境では果肉が変色しやすくなります。アボカドの味を最大限に楽しむには追熟が不可欠ですが、保存方法には注意が必要です。特に、4.5℃以下の場所に長時間置いておくと、果肉の細胞構造が変化して追熟が進まず、味が落ちてしまいます。しかし、5〜7℃の環境であれば30日程度保存でき、その後室温に戻すことで正常に追熟させることができます。つまり、アボカドを保存する際には、5℃以下にはしないことが重要です。また、アボカドはエチレンガスを放出する他の果物(リンゴやバナナなど)と一緒に保存したり、密閉された場所に置いたりすると早く柔らかくなるため、長期保存したい場合は換気してエチレンガス濃度を下げる必要があります。ハス種はもともと貯蔵性が高く、貯蔵技術の進歩と、未熟な実を収穫して低温で輸出する農家の努力によって、現在では一年中市場に出回っています。アボカドの果肉はきれいな薄緑色ですが、空気に触れると酸化して茶色く変色しやすい性質があります。切ったアボカドの果肉が変色するのを防ぐためには、切り口にレモン汁やライム汁のような酸性の液体をかけると効果的です。また、使いかけの場合は、種を取らずにそのまま残しておくと、多少は変色を防ぐことができます。切り口にラップを密着させて冷蔵保存するのが望ましいですが、アボカドの風味と鮮度を保つためには、早めに使い切るのがおすすめです。

栄養成分の豊富さと健康維持への貢献

日本市場で広く流通しているハス種のアボカドは、果肉に約18~25%の脂肪分を含んでおり、アボカドの総エネルギーの約77%が脂肪由来という特徴があります。バターのように栄養価が高いのは、果肉の約20%が脂肪分だからと言っても過言ではありません。この脂肪分のうち、健康に良いとされる一価不飽和脂肪酸が67%を占め、残りは多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸で構成されています。具体的な数値では、100gあたり飽和脂肪3.2g、不飽和脂肪17.4gが含まれます。これらの不飽和脂肪酸には、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が含まれており、特に健康的な脂肪として知られています。脂肪分が豊富なことから「森のバター」や「バターフルーツ」と呼ばれることもありますが、糖分はほとんど含まれていません。その代わりに、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンB群(B1、B2、B3、B5、B6、葉酸など10種類を超えるビタミン)、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛など11種類のミネラル、食物繊維やタンパク質といった豊富な栄養素が含まれています。特にビタミンEの含有量が高く、抗酸化作用に優れており、アボカド1個半程度で成人男性の1日あたりの必要量である10ミリグラムを摂取できます。また、カリウムの含有量はバナナよりも多く、体内のナトリウムバランスを調整する上で有効です。ただし、収穫時期が適切でないアボカドは脂肪が少なく、品質が劣る場合があるため、選ぶ際には注意が必要です。

アボカドに含まれる脂肪の種類と健康効果:飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

脂肪の性質を決める脂肪酸には、大きく分けて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。飽和脂肪酸は、バターや牛脂のように、常温で固体の「脂」に多く含まれる脂肪酸です。エネルギー源や細胞膜の材料として利用されますが、過剰な摂取は動脈硬化などの生活習慣病の原因となるため注意が必要です。一方、不飽和脂肪酸は、オリーブオイルや菜種油など、常温で液体の「油」に多く含まれている脂肪酸です。アボカドに含まれる脂肪のほとんどがこの不飽和脂肪酸であり、特に「オレイン酸」が豊富です。オレイン酸は、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を減らさずに悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減らす働きや、動脈硬化などの生活習慣病を防ぐ効果があることで知られています。オリーブ油や菜種油もアボカドと同様に不飽和脂肪酸を多く含み、酸化しにくく熱にも強いため、調理に使うのもおすすめです。アボカドを日常的に摂取することは、様々な健康上のメリットをもたらします。例えば、アボカドを定期的に食べることで、肥満や過体重の人の体重増加が抑えられる傾向があります。アボカドの摂取量が多いほど、肥満になる確率が低くなり、体重が低く、胴囲が細くなる傾向が見られ、メタボリックシンドロームのリスクも低下するという研究結果も出ています。また、良質な脂肪分の摂取量が多いほど、皮膚の弾力性が高まると言われており、アボカドに含まれる成分には傷を治癒する効果や、肌の健康を保護する効果が期待されています。さらに、「アボカド/大豆不鹸化物」(Avocado Soybean Unsaponifiables; ASU)と呼ばれるアボカドと大豆由来の抽出物が、変形性関節症の症状緩和に効果がある可能性についても研究が進められています。ASUは、変形性関節症(Osteoarthritis)における痛みを軽減し、身体機能の改善をもたらすことが示されています。また、ASUは軟骨を保護し、抗炎症作用を持ち、鎮痛剤の服用回数を減らす効果も期待されています。ASUの主成分は抗酸化作用と鎮痛作用を兼ね備えており、特に「ステロール」(Sterol)と呼ばれる成分が抗炎症作用と軟骨の保護作用を持つとされています。さらに、アボカドの種子から抽出される成分には、乳房炎の病原体を抑制する作用が確認されており、アボカドの脂肪分と種子全体には抗炎症作用と免疫を調整する作用があることが分かっています。日々の食事において、糖質が多い食品をアボカドに置き換えることで、血糖値とインスリン(Insulin)の濃度が低下し、膵臓にかかる負担が軽減されるという研究結果もあります。また、アボカドに含まれる「マンノヘプツロース」(Mannoheptulose)には、グルカゴン(Glucagon)の分泌を促し、インスリンの分泌を抑制する作用があることも注目すべき点です。これらの栄養素と生理活性物質の働きにより、アボカドを食事に取り入れることは、様々な疾患のリスクを減らし、健康寿命を延ばす可能性を秘めていると考えられます。

世界の生産量とメキシコの圧倒的な存在感

1980年代後半には、世界のアボカド生産量は約150万トンでしたが、その後も増加の一途をたどっています。2005年には322万トンに達しました。世界の生産量において、メキシコ産の占める割合は大きく、2014年には約30%、2019年には34~45%を占め、年間生産量はおよそ164万トンに及んでいます。2019年時点で、メキシコの農業収入の60%をアボカドが占めており、メキシコは31カ国に輸出、年間輸出総額は20億ドル(約2200億円)に達します。主な輸出先はアメリカの他、カナダ(メキシコ生産量の7%)、日本(同6%)、EU(同3%)であり、近年は中国への輸出も増加傾向にあります。

日本へのアボカド輸入量の変遷と市場の拡大

日本へのアボカド輸入量は、1970年代まではごくわずかでしたが、1970年代後半から増加傾向に転じ、1980年には479トン、1990年には2163トン、2000年には1万4070トン、2005年には2万8150トンと急増しました。2005年時点では、日本に輸入される果実の中で、バナナに次いで3番目に輸入量が多い果物となっています。

日本におけるアボカド栽培の現状と家庭菜園のポイント

日本では、千葉県南部、鹿児島県、愛媛県、和歌山県、宮崎県など、比較的温暖な地域でアボカドが栽培されています。国産アボカドの出荷量は2016年産で約8トンと、輸入量(2018年に約7万4000トン)と比較すると非常に少ないのが現状です。しかし、アボカドの栄養価の高さから需要が増加していることや、温暖な気候を好む柑橘類の栽培施設が利用できることから、国内での栽培は徐々に拡大しています。個人で栽培し、観葉植物として楽しむことは比較的容易であり、寒冷地での地植えを除けば越冬も可能です。栽培方法の一例として、まず種を丁寧に洗い、果肉を完全に取り除きます。種の上端(果実のヘタに近い、やや尖った部分)を上にして、3分の1程度を水に浸し、水耕栽培のように管理します。日当たりの良い場所に置き、水位を保ち、水が腐らないように交換しながら育てると、夏場は約1週間、冬場は約7週間で発根し、さらに発芽します。発芽後は、赤玉土や腐葉土など、保水性の高い土に植え替えます。水の与えすぎは根腐れの原因となるため注意が必要です。発芽後の成長は早く、適切な環境下では1年間で0.5~1メートル程度まで成長しますが、観葉植物として仕立てるためには、成長段階で剪定を行い、樹形を整える必要があります。初夏や夏に種を植えると、十分に成長する前に冬を迎え、枯れてしまうことがあります。そのため、桜の開花時期以降の4月頃に種を植えるのが最適とされています。アボカドは高温多湿で、適度な湿り気のある土壌を好みます。寒さには弱く、地植えの場合は、雪や霜に直接当たらないように注意が必要です。低温や乾燥に弱いため、年間を通して10℃以上を保てる地域でなければ、地植えでの栽培は難しいでしょう。短期間であっても0℃以下になると枯れてしまう可能性が高いため、室内でも10℃以下の環境は避けるべきです。ただし、同じハス種でも品種によって耐寒性に差があり、15℃未満でも成長を続けるものもあれば、落葉して幹だけになってしまうものもあります(幹が枯れていなければ、春以降に再び芽吹く可能性があります)。グアテマラ種の交配種は、比較的低温に強いとされています。開花・結実させることも可能で、早ければ数年で開花に至ります。ただし、雄花と雌花の咲く時期が異なるため、1本の木だけでは受粉させることができません。確実に結実させるためには、ある程度の数の個体が必要となります。

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まとめ

アボカドは「森のバター」と形容されるほど栄養価が高く、特に良質な脂質を豊富に含んでいます。その歴史は古代メキシコにまで遡り、13世紀末のインカ王の墓からも種子が発見されるほど、古くから食料として利用されてきました。多種多様な品種が存在しますが、世界の市場ではハス種が主流となっています。アボカドには雌雄異熟という特殊な繁殖方法があり、適切な受粉を行うためにはAタイプとBタイプの品種を混合して植える必要があります。健康面においては、心血管疾患のリスクを軽減したり、肥満を緩和したり、血糖値のコントロールを助けたり、関節炎の症状を改善するなど、多岐にわたる効果が期待されています。特に、その高い栄養価はギネス世界記録にも「世界で最も栄養価の高い果物」として認定されています。普段の食事にもぜひ取り入れてみてください。

アボカドが「森のバター」と呼ばれるのはなぜですか?

アボカドは、他の果物と比較して非常に脂肪分が豊富であり、その果肉は滑らかで濃厚な食感を持っています。特に、良質な不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、様々なビタミンやミネラルも豊富に含んでいることから、その高い栄養価とバターのような風味、食感が特徴であるため、「森のバター」という愛称で呼ばれています。

アボカドは、どんな点でギネス世界記録に認定されているのですか?

アボカドは、その優れた栄養バランスが評価され、ギネス世界記録において「最も栄養価が高い果実」として登録されています。豊富な種類のビタミンやミネラルに加え、体に良いとされる脂肪酸を豊富に含んでいる点が特徴です。

なぜアボカドは、一本の木だけでは実を付けるのが難しいのでしょうか?

アボカドの木は、一つの花に雄しべと雌しべの両方を持つ両性花を咲かせますが、自家受粉を避けるために、雌しべと雄しべの成熟時期がずれる「雌雄異熟」という仕組みを持っています。さらに、開花のタイミングにはAタイプとBタイプの2種類が存在し、同じタイプ同士では開花時間が重ならないため、受粉が起こりにくいのです。したがって、安定して実を収穫するためには、AタイプとBタイプの異なる品種を近くに植えることが推奨されます。

アボカドの最適な食べ頃の見分け方と、おすすめの保存方法を教えてください。

アボカドは収穫後、追熟というプロセスを経て食べ頃を迎えます。まだ緑色の場合は常温で保存し、軽く押してみて少し柔らかくなったと感じたら食べ頃です。品種によって熟した時の色の変化が異なり、ハス種は黒っぽくなりますが、ベーコン種やフェルテ種は緑色のまま熟します。低温での保存は風味を損なう可能性があるため、冷蔵庫に入れる場合は野菜室(5〜7℃程度)が最適です。カットしたアボカドは、変色を防ぐためにレモン汁を塗り、種を残してラップで密閉し、冷蔵庫で保存して早めに食べきるようにしましょう。

アボカドは野菜なのでしょうか、それとも果物なのでしょうか?

農林水産省の定義によれば、「樹木になるものは果物」と定義されており、アボカドは植物学的には木に実る果実なので「果物」に分類されます。一般的には、甘みが少ないため料理に使われることが多く、野菜と混同されることもありますが、ギネス世界記録では「世界で最も栄養価の高い果実」として認められています。

アボカドに含まれる脂肪はどのような種類で、健康にどう影響しますか?

アボカドに含まれる脂質の大部分は、体に良いとされる不飽和脂肪酸です。中でも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が豊富に含まれています。これらの不飽和脂肪酸は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げる効果があり、動脈硬化をはじめとする生活習慣病の予防に役立つと考えられています。バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸の過剰摂取は避けたいところですが、アボカドの脂質は「健康的な脂質」として、健康の維持に貢献してくれるでしょう。

アボカド