ジャガイモとは?知られざる魅力と栄養、調理法を徹底解説

食卓の定番、ジャガイモ。その魅力は、ホクホクとした食感と、どんな料理にも合う万能さにあります。しかし、ジャガイモの魅力はそれだけではありません。実は、ビタミンCやカリウムなど、私たちの健康を支える栄養素も豊富に含んでいるのです。この記事では、ジャガイモの知られざる魅力と栄養、そして様々な調理法を徹底的に解説します。ジャガイモの新たな一面を発見し、食卓をさらに豊かにしてみませんか?

ジャガイモとは:概要、用途、栄養価

ジャガイモ(英語名:potato、学名:Solanum tuberosum)は、ナス科ナス属に分類される植物です。原産地は南米のアンデス山脈地域であり、古代よりデンプンを豊富に含む塊茎が食料として利用されてきました。一部の野生種は北米にも分布し、同様に食用とされてきた歴史を持ちます。アンデス原産の栽培種は世界各地に広がり、今日では重要な食糧作物として広く栽培されています。

ジャガイモの食用部分は主に地中の塊茎(イモ)であり、独特のクセがないため、主食としても食材としても重宝されます。主成分はデンプンであるため、米、小麦、トウモロコシなどと同様に、一部の国や地域では主食として扱われています。調理方法は非常に多様で、焼く、煮る、蒸す、揚げるなどの一般的な調理法のほか、ポテトチップスやフライドポテトといった加工食品の原料としても広く利用されています。また、工業的にはデンプンの原料としても重要な位置を占めています。保存性に優れるため、食糧危機における重要な備蓄食料としての役割も担っており、ビタミンCやビタミンB群など、様々な栄養素を豊富に含んでいる点も特徴です。ジャガイモの利用形態は大きく分けて、生鮮食品としての利用、加工食品としての利用、そして工業原料としての利用の3つに分類できます。加工食品としては、ポテトチップス、フライドポテト、マッシュポテト、ポテトサラダ、ポテトコロッケなどが挙げられます。デンプンは、片栗粉として販売されている粉末の原料であり、インスタントラーメンなどの製造にも用いられます。旬の時期は地域によって異なりますが、一般的には秋から冬(10月~2月頃)と、新ジャガイモが出回る初夏(5月~6月頃)とされています。選ぶ際には、表面の凹凸が少なく滑らかで、芽が出ておらず、緑色に変色していないものを選ぶと良いでしょう。近年では、通常は廃棄されるジャガイモの皮の有効活用に関する研究も進められています。

ジャガイモの塊茎(イモ)には、13~20%のデンプン、1.5~2.6%のタンパク質が含まれており、ビタミン類も豊富で、ビタミンC(アスコルビン酸)のほか、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6などが含まれます。また、カリウムも豊富に含んでいます。デンプン質が多い一方で、100gあたり71kcalと比較的低カロリーであり、炊いたご飯の約半分程度のエネルギー量です。水分は約80%を占め、残りの大部分は固形分で、その炭水化物の90%がデンプン質です。少量ですが、ブドウ糖や果糖も含まれており、独特の風味を形成しています。特にビタミンCが豊富に含まれていることから、フランスでは「大地のリンゴ」(pomme de terre)と呼ばれており、ドイツ語やオランダ語にも同様の表現が存在します。ビタミンCは熱に弱い性質を持ちますが、ジャガイモの場合はデンプン質に包まれているため、加熱調理による損失が比較的少なく、長期保存による損失も少ないという特徴があります。ジャガイモには、動物性コレステロールを減らす効果があるとされており、間接的にコレステロール値の上昇を抑制する効果が期待できます。また、可食部100gあたり1.3gと食物繊維も豊富に含まれており、便秘の解消や予防に効果があることが知られています。ただし、注意点として、発芽した芽や、光に当たって緑色になった皮には、ソラニンなどの有害物質が含まれているため、必ず取り除く必要があります。栄養価の高い食品であるジャガイモですが、アメリカなどではフライドポテトやポテトチップスとして大量に消費されているため、必ずしも健康的な消費方法とは言えません。煮る、蒸す、焼くなど、素材の味を活かした日本的な調理法であれば、健康に良い食品と言えるでしょう。

中国の古典的な植物学書である李時珍の『本草綱目』にも、解説されている植物の一つです。

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ジャガイモの多様な名称と由来

ジャガイモの呼び名は、地域、行政、言語によって様々です。これらの名称の由来を知ることで、ジャガイモが世界中でどのように広がり、人々の生活に深く根付いてきたのかを理解することができます。

日本における「ジャガイモ」と「馬鈴薯」の語源

日本には17世紀初頭に、インドネシアのジャガトラ(現在のジャカルタ)から船によって伝来し、「ジャガタライモ」と呼ばれていたものが変化して「ジャガイモ」になったとされています。「ジャガイモ」の語源は、ジャワのガタラ(ジャガトラ)を意味する「爪哇加陀羅芋」に由来します。一方、植物名としての「馬鈴薯」(ばれいしょ)という呼び名も広く用いられており、日本の行政機関ではこの名称を使用しています。この名称は、中国語の発音ではマーリンシュー(mǎlíngshǔ)となります。日本では18世紀に、本草学者の小野蘭山が『耋筵小牘』(1807年)の中で命名したとされています。一説によると、ジャガイモの形が馬につける鈴(馬鈴)に似ていることから、この名前になったと言われています。中国では他に、「土豆」(トゥードウ)、「洋芋」(ヤンユー)、「薯仔」(シューザイ)などとも呼ばれています。

「ポテト」の語源と世界への広がり

英語の「ポテト」(potato) の語源は、カリブ海のタイノ族の言語でサツマイモを意味する「batata」が、スペイン語で「patata」に変化したことに由来します。ジャガイモの原産地である南米アンデス地域で用いられているケチュア語では、「papa」という呼び名が使われており、この言葉は中南米のスペイン語でジャガイモを意味する単語としてそのまま使われています。スペイン語で「batata」が「patata」に変化したのは、このケチュア語の「papa」の影響だと考えられています。また、「papa」という単語が「教皇」を意味する単語と同じであったため、この重複を避けて「patata」に変遷したという説も存在します。

日本におけるジャガイモの地方名

ジャガイモは、明治時代以降、稲作に適さない山間地域や寒冷地を中心に全国で栽培されるようになりました。そのため、特に東北地方や北海道地方には、地域独特の呼び名が数多く存在しています。

ジャガイモの歴史:アンデス山脈から世界へ

ジャガイモの原産地は南米のアンデス山脈で、もともとは小さく野生のイモが自生していました。その歴史は非常に古く、ペルー南部からボリビア南部に位置するティティカカ湖周辺が発祥の地とされています。紀元前8000年頃には、アンデス山脈の標高3,000メートルほどの高地で栽培が始まったと考えられており、最初に栽培されたのは24本の染色体を持つSolanum stenotomumという種でした。その後、現在世界中で栽培されている四倍体のSolanum tuberosumが栽培されるようになりました。インカ帝国の食糧基盤は、当初トウモロコシだと考えられていましたが、1615年にスペイン人歴史家のガルシラソ・デ・ラ・ベーガが残した記録や、アンデス地方の段々畑の遺跡研究、気象条件、当時の食生活の分析などから、ジャガイモが主要な食糧であったという見方が強まっています。大航海時代には世界中に広がり、保存がきくため船乗りたちの貴重な食料となりました。栽培を重ねるうちに、現在のような大きなイモをつける品種が開発され、世界中で広く栽培されるようになりました。ジャガイモは多くの人々を飢餓から救ったと言われ、2005年にはペルーが国連食糧農業機関(FAO)に提案した「国際ポテト年(IYP)」が承認され、2008年をジャガイモ栽培8000年を記念する年として、FAOなどが普及と啓発を各国に呼びかけました。

ヨーロッパへの伝来と普及

ジャガイモがヨーロッパに伝わったのは、大航海時代の15世紀から16世紀頃と考えられています。「いつ」「誰が」伝えたのかを特定する資料は残っていませんが、スペインが1570年頃にジャガイモを本国に持ち帰り、新大陸の「お土産」として船員や兵士が持ち帰ったと推測されています。1600年頃にはスペインからヨーロッパ各国に伝わりましたが、その経路は定かではありません。当初、ジャガイモは見た目の悪さ(現在より小さく黒かったと言われる)、聖書に記載がないこと、種芋で増えることから「悪魔の作物」として敬遠され、一般家庭に普及するまで時間がかかりました。16世紀末から17世紀にかけては、主に植物学者が庭園で栽培する程度でした。しかし、ヨーロッパの主要作物よりも寒さに強く、痩せた土地でも育ち、単位面積あたりの収穫量が多いことから、17世紀に三十年戦争などで国土が荒廃し、飢饉が頻発すると、各国の王はジャガイモの栽培を奨励しました。特に寒冷で農業に適さないプロイセンや北ドイツでは、食文化が変わるほど普及しました。地中で育つジャガイモは、麦などと違って戦火で畑が荒らされても収穫でき、農民がジャガイモを食べることで領主が麦の取り分を増やそうとしたことも背景にあったとされます。プロイセン王国(現在のドイツ)での普及で国力を増したことを知ったフランスでも、農学者アントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエの提案により、マリー・アントワネット王妃がジャガイモの花を帽子につけて夜会に出席し、貴族の関心を集めたと伝えられています。食用作物としての本格的な栽培は17世紀にヨーロッパ全域で始まり、1621年にはイギリス人によってアイルランドに持ち込まれ、イギリス軍の食料源となりました。

アイルランドとジャガイモ飢饉

アイルランドの農民は主に小麦を栽培していましたが、イギリスの植民地支配下では、小麦は地代としてイギリスに奪われていたため、地代として奪われない生産性の高いジャガイモを自分たちの畑で栽培し始めました。気候がジャガイモの生育に適していたこともあり、アイルランドは南米以外で初めてジャガイモを農作物として本格的に栽培する地域となりました。栽培の容易さや収量だけでなく、支配者であるイングランド貴族が、ジャガイモの栽培を増やして農民がそれを食べるように仕向ければ、自分たちが収奪する麦の分量が増えると考えたことも普及を後押ししました。こうしてジャガイモはアイルランド人の主食となり、1650年頃から1840年頃まで極めて重要な食料源となりました。飢饉直前にはアイルランドの人口の3割がジャガイモに依存していたと言われています。特に「アイリッシュ・ランパー」と呼ばれるアイルランドのジャガイモ種は寒冷地でもよく育ち、アイルランドの人口増加を支えました。しかし、1845年から4年間、ヨーロッパでジャガイモの疫病が蔓延し、アイルランドは壊滅的な被害を受けました。ジャガイモを主食としていたアイルランドでは、100万人以上が餓死したと言われています。また、アイルランドからイギリス、北アメリカ、オーストラリアへ、200万人以上が移住したとされています。アメリカ合衆国に移住したアイルランド移民は、アメリカ社会で大きなグループを形成し、経済界や政界で大きな影響力を持つようになりました。第35代アメリカ合衆国大統領となるジョン・F・ケネディの曽祖父パトリックも、この時代にアメリカに移住したアイルランド移民の一人です。アイルランドでのジャガイモ飢饉という悲劇はありましたが、寒冷地にも強く、年に複数回の栽培が可能で、地中で育つため戦争の影響を受けにくいジャガイモは、庶民の食料として急速に普及し、米、小麦、トウモロコシに並ぶ「世界四大作物」としての地位を確立しました。経済学者のアダム・スミスは『国富論』で「小麦の三倍の生産量がある」と評価しています。

イングランドにおける初期の誤解と中毒事例

16世紀の終わり頃、フランシス・ドレーク卿によってイングランドに持ち込まれたとされています。当時、ヨーロッパには「芋」という概念が浸透していなかったため、地中の塊茎を食用とする発想がありませんでした。その結果、誤って有毒なジャガイモの葉や茎を食べるように指示する料理本が出版され、それを信じた人々がソラニン中毒を起こすという出来事がありました。

ドイツにおける普及と食文化

ドイツではジャガイモが広く利用されており、皮付きのまま茹でるシンプルな調理法から、ピューレ、団子(クネーデル)、パンケーキ(カルトッフェルプッファー)、グラタン(アウフラウフ)、パン生地に混ぜる(カルトッフェルブロート)など、様々な料理に用いられています。600種類以上ものジャガイモを使った伝統的なレシピが存在すると言われ、かつては「女性は200種類のジャガイモ料理を知らなければ結婚できない」という言葉もあったほどです。ドイツで最初にジャガイモが普及したのはブランデンブルク地方でした。プロイセンの支配下にあったブランデンブルクは、南ドイツと異なり寒冷で痩せた土地が多く、食糧不足に悩まされていました。そのため、荒地でも育つジャガイモは食糧難を克服する手段として重視され、フリードリヒ2世が栽培を積極的に奨励しました。しかし、他のヨーロッパ諸国と同様に、その外見から人々には好まれなかったため、フリードリヒ2世は自ら領地を巡り、ジャガイモの普及を訴えたり、毎日ジャガイモを食べたりしたと伝えられています。ドイツでは、茹でたジャガイモをフォークなどで潰して食べる習慣があり、第二次世界大戦中にフランスに潜伏していたドイツのスパイが、レストランでジャガイモを潰して食べたために正体がばれたというジョークも存在します。また、ドイツ軍が第二次世界大戦以降に使用した手榴弾は、その形状が似ていることから「イモ潰し器」(カルトッフェルプッファー)と呼ばれていました。

フランスでの普及戦略とパルマンティエ

フランスでは、プロイセンでジャガイモを知った農学者アントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエの進言により、マリー・アントワネット王妃がジャガイモの花を帽子に飾って夜会に出席したことがきっかけで、貴族たちの関心を集めました。しかし、食用としては他の国々と同じように、当初は庶民に受け入れられませんでした。そこで、パルマンティエはジャガイモを広めるために、王が作ったジャガイモ畑に昼間だけ衛兵を配置して厳重に警備し、夜間は警備をしないという策略を用いました。王が厳重に警備しているのだから美味しいのだろうと考えた人々が、夜中に畑にジャガイモを盗みに入るようになり、結果的にジャガイモは民衆の間に広まっていきました。この出来事から、フランスではジャガイモを使った料理に「パルマンティエ」という名前が付けられるようになりました。特に、ひき肉とマッシュポテトで作る「アッシ・パルマンティエ」は有名です。

北朝鮮の「ジャガイモ革命」

北朝鮮では、1990年代後半から深刻な食糧危機が発生しましたが、その際、政府(朝鮮労働党)は「ジャガイモ革命」を提唱し、ジャガイモの生産拡大を国策としました。同時に、種子改良と耕作法の改善を徹底しました。ジャガイモは、白米に比べて気候や土地に左右されず、大量に生産できるという特性があるため、食糧問題の解決策として用いられることがあります。

ベラルーシにおける圧倒的な消費量

2019年のデータによると、ベラルーシは国民一人当たりのジャガイモ消費量で世界を大きくリードしており、2位の国を大きく引き離しています。この事実は、ベラルーシの食文化において、そして国民の食料確保において、ジャガイモが非常に重要な役割を果たしていることを明確に示しています。

日本への伝来と普及の歴史

ジャガイモが日本にいつ伝わったかについては様々な説が存在しますが、一般的には1598年にオランダ人が持ち込んだとされています。当初、ジャガイモはインドネシアのジャガトラ(現在のジャカルタ)を経由して日本に渡来したため、「ジャガタライモ」と呼ばれていましたが、その名前が略されて「ジャガイモ」という名称になりました。江戸時代後期に入ると、18世紀末にはロシアの影響を受けて樺太や千島列島に導入され、飢饉対策として栽培されるようになりました。北海道におけるジャガイモ栽培の記録としては、1706年に箱館(現在の函館)で松兵衛という人物が開墾を行い、馬鈴薯を栽培したというものが残っています。江戸幕府の第11代将軍である徳川家斉は、ジャガイモの栽培を積極的に奨励したと伝えられています。また、江戸時代後期には、甲斐国(現在の山梨県)の代官であった中井清太夫がジャガイモ栽培を推奨し、享和元年(1801年)には植物学者の宇田川榕菴が甲斐国黒平村(現在の山梨県甲府市)でジャガイモの栽培を記録しています(『甲駿豆相採薬記』)。さらに、同じく江戸時代後期には、北海道のアイヌ民族もジャガイモを栽培していました。本格的なジャガイモ栽培が始まったのは明治維新後であり、北海道の開拓に大きく貢献しました。アメリカで農業を学び、後に「いも男爵」として知られるようになった川田龍吉初代男爵は、ジャガイモの普及に尽力しました。彼はアメリカからアイリッシュ・コブラーという品種を導入し、自らの農場で栽培して広く普及させました。この品種は、川田男爵の爵位にちなんで「男爵いも」と呼ばれるようになったという逸話は広く知られています。明治時代初期には、ジャガイモは主にデンプン製造の原料として利用されていましたが、食生活の欧米化が進むにつれて、肉じゃが、カレー、コロッケなど、日本の家庭料理にも徐々に取り入れられるようになりました。しかし、1968年の時点で北海道副知事が「半分以上はでんぷんのみとって、残りは飼料」と述べていることからもわかるように、当初の日本国内での消費拡大は比較的緩やかであったと言えます。

植物としての形態と生態

ジャガイモはナス科に分類される多年生の植物で、栄養繁殖によって増えます。直立する茎は、通常50センチメートルから1メートル程度の高さまで成長します。葉は羽状複葉であり、葉の付け根からは花茎が長く伸び、その先端に多数の花を咲かせます。花は星形をしており、黄色い葯と5枚の花弁を持っています。花の色は品種によって異なり、白から紫まで様々な色があります。花の構造は、同じナス科に属するトマトやナスの花と非常によく似ています。受粉能力はあまり高くありませんが、品種や環境によっては受粉し、ミニトマトに似た小さな果実をつけます。果実は成熟するにつれて緑色から黄色、そして赤色へと変化しますが、自然に落下しやすく、完全に熟すことは稀です。果実の中には種子(一般に真正種子と呼ばれます)があり、これを発芽させて育てることも可能です。ジャガイモの原種保存や品種改良は、この種子を利用して行われますが、種芋から育つものとは異なり、成長しても全体的に小さくなります。親株と同じくらいの大きさに育てるには、3年(3世代)程度の時間が必要となるため、交配に時間がかかる植物と言えます。また、ジャガイモの品種改良には、種子を採取して播種する方法も用いられますが、種子ごとに遺伝的な性質が異なるため、品質を均一に保つことが難しいことから、一般的には芋を植えて性質の変わらない品種を増やす栄養繁殖の方法が採用されます。晩春に花が咲き始める頃、土の中では新しい芋が形成され始めます。この芋は、根のように土中の水分や養分を吸収する機能は持っておらず、地下にある茎の先端にデンプンなどの栄養分を蓄積して大きくなったもので、肥大した地下茎であり「塊茎」とも呼ばれます。これは、日中に葉で光合成された養分が、夜間に地下の茎に蓄えられてできるものです。塊茎は、地中に埋められた種芋の上から伸びた茎の第6~8節から発生した匍匐(ほふく)する分枝した茎(ストロン)の先端が、徐々に肥大して芋になります。昼夜の寒暖差が大きいほど、養分の移動がスムーズになり、芋のデンプン量が増加します。塊茎の肥大に適した温度は、昼間が約20度、夜間が10~14度であり、20度を超えると塊茎が形成されにくくなるという特性があります。

毒性について

ジャガイモには、ポテトグリコアルカロイド(Potato Glycoalkaloids; PGA)と総称されるソラニンやチャコニン(α-chaconine)、ソラマリン、コマソニン、デミツシンなどの有毒なアルカロイドが含まれています。これらの物質はジャガイモ全体に存在しますが、含有量は品種や大きさによって異なり、特に光にさらされて緑色になった皮の部分、発芽した芽、そして果実に多く含まれています。毒性が強いため、ジャガイモの葉や塊茎(芋)以外の茎は食用には適しません。また、果実も、芽ほどではありませんが、塊茎に比べてPGAの含有量が高いため、食用には向きません。ただし、塊茎(芋)の部分にはPGAがほとんど含まれていないことが多いですが、ジャガイモの原種や一部の品種には芋自体にPGAが含まれているものがあり、これらは食用には適さないため注意が必要です。食用にする際には、芋から発芽した芽や、光に当たって緑色になった皮は必ず完全に取り除く必要があります。長期間保存された芋はPGAが蓄積しやすいため、調理の際には皮を厚めに剥いて使用する方が安全です。PGAは加熱による分解が少ないという特性があるため、調理方法だけでは完全に毒性を除去できない場合があることを認識しておく必要があります。

PGAを大量に摂取した場合の中毒症状としては、腹痛、下痢、吐き気、めまい、耳鳴り、呼吸困難などの消化器系や神経系の症状が現れることがあります。毒性はそれほど強くはありませんが、小児は発症量が成人の約10分の1程度と少なく、自家栽培による発育不良の小さな芋や未熟な芋は、特にPGAの含有量が多いため中毒例が多い傾向にあります。過去には、芽を大量に食べて死亡した事例も報告されています。ジャガイモ中毒の対策としては、ジャガイモを日光に当てない冷暗所で保存することが基本であり、これによりPGAの生成を抑制することができます。また、調理前には芽や緑色になった皮の部分は徹底的に取り除くようにしてください。PGAは水溶性のため、皮をむいて茹でたり水にさらすことによってある程度除去することができますが、十分な処理を行っても重症の中毒例が報告されているように、完全に除去できない場合があるため、見た目での判断と適切な下処理が不可欠です。特に、家庭菜園などで収穫したジャガイモや、長期間保存されて芽が出てしまったジャガイモには注意が必要です。

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栽培

ジャガイモは比較的容易に栽培できる野菜として知られており、一般的には春に種芋を植えて夏に収穫する春作と、夏に植えて秋に収穫する秋作があります。日本では、3月から7月にかけて行う春作の方が栽培しやすいとされています。十分な容量のあるプランターやコンテナを使えば、家庭菜園でも楽しむことができます。生育期間は約3〜4か月と比較的短く、他の芋類と比較して栽培期間が短いのが特徴です。また、収穫量が多いことから、デンプン質作物として高い生産効率を誇り、土地の有効活用にも貢献します。ジャガイモは元々、涼しい高地が原産で、栽培に適した温度は15〜22度と他の芋類より低く、冷涼な気候を好みます。高温には弱い性質があるため、注意が必要です。連作を避けるため、ナス科の植物を過去3〜4年栽培していない畑を選び、堆肥と元肥を混ぜて深く耕してから植え付けを行います。土壌のpHは中性(pH 7.0)が理想ですが、pH 5.5程度の弱酸性土壌でも生育可能です。一般的には、ウイルスに感染していない専用の種芋を使用し、発芽した芽を中心に適切な大きさに切り分けます。切り口からの腐敗を防ぐために、切断面を数日間乾燥させるか、草木灰などを塗布し、切断面を下にして土に植えます。秋作の場合は腐敗しやすいため、種芋を丸ごと植えるか、最小限に切り取る方法が一般的です。切り口を下向きにするのは、雨水が土中に浸透する際の腐敗を予防するためです。種芋を植え付ける畑には、堆肥と元肥を施して耕し、高畝を作ります。株間を30センチメートル程度空けて、畝の中央に種芋を植え付けます。

生育管理と収穫

植え付け後、一つの種芋から複数の芽が出てくるため、芋を大きく育てるために太い芽を2本(秋植えの場合は1本)程度残して、他の芽を摘み取る「芽かき」を行います。3本以上の芽を残すと収穫量は増えるといわれますが、個々の芋が小さくなる傾向があります。芋になる地下茎は種芋よりも上の地表に近い場所にできるため、日光に当たって芋が緑色にならないように、また、芋が育つスペースを確保して収穫量を増やすために、株元の土を高く盛り上げる「土寄せ」(培土)を行います。土寄せは、芽が5〜10センチメートルほどの高さになった時と、30センチメートルほどの高さになった時の2回行い、最終的に畝の高さが30センチメートル程度のかまぼこ型になるようにします。開花時期になると、養分の吸収が活発になるため、適切な水やりを行います。種芋の植え付けから約4か月後、葉が黄色くなり、新しい芋が十分に大きくなったら収穫時期です。株の周りから丁寧に掘り起こし、株ごと引き抜いて収穫します。収穫した芋は半日ほど天日干しし、傷のある芋は腐りやすいため取り除き、風通しの良い涼しい場所で保存します。葉がまだ緑色のうちに収穫した芋(新じゃがいも)は長期保存には向かないため、早めに食べるようにしましょう。地上部の茎葉が黄色く枯れるまで土中に置いておいた芋は、長期保存に適しています。大規模な農地では、収穫作業にジャガイモハーベスターを使用し、土ごと芋を掘り起こして、選別台で大きさごとに選別します。収穫後、芋の水分蒸発を防ぎ、病原菌の侵入を防止するための表面処理を行い、低温貯蔵庫で一時的に保管してから出荷されます。

病害虫対策と連作障害

ジャガイモは冷涼な気候や痩せた土地でも育ちやすいですが、病害虫の被害を受けやすく、連作障害が発生しやすい作物でもあります。そのため、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科野菜との連作や、近い場所への植え付けは避けるように注意が必要です。ジャガイモの地下茎は水分と栄養分が豊富であるため、病原菌が繁殖しやすく、保存状態の悪い種芋や、収穫されずに土中に残った芋は、翌年の病害の原因となります。そのため、日本ではジャガイモが国の指定種苗となっており、種芋の販売には規制があります。

疫病は、生育期間の後半に発生しやすく、急速に広がり、芋の肥大や貯蔵性に悪影響を及ぼします。同じナス科のトマトにも発生する病害で、特に葉に湿った黒褐色の斑点が出る疫病は大きな被害をもたらすため、発見したら殺菌剤を散布して防除します。ジャガイモの代表的な病気にはそうか病があり、そうか病は土壌のpHが高いほど発生しやすくなるため注意が必要です。青枯れ病が発生した場合は、発見次第株を抜き取ります。害虫としては、アブラムシ、ハモグリバエ、コガネムシの幼虫、ニジュウヤホシテントウなどが挙げられます。特にニジュウヤホシテントウは葉を著しく食害します。これらの害虫は成虫で落ち葉の下などで越冬し、春になるとナス科、特にジャガイモに集まって被害を与え、葉の裏に卵を産み付けます。孵化した幼虫も大きな被害を与えるため、早めの駆除が必要です。食害の痕跡を見つけたら、10日おきに数回殺虫剤を散布して防除します。日本は国外からの病害虫の侵入を防ぐため、生食用ジャガイモの輸入を原則として禁止していますが、アメリカ合衆国は2020年3月31日に輸入解禁を要請しました。

連作障害とジャガイモシストセンチュウ

ジャガイモをナス科野菜と同じ畑で栽培すると、そうか病や疫病、青枯れ病などの連作障害が発生しやすくなります。連作を行うと、土壌のバランスが崩れ、生育が悪くなるだけでなく、病害や寄生虫が発生しやすくなります。ジャガイモに限らず、ナス科の植物は連作障害を起こしやすく、例えばジャガイモの後にナスを植えた場合にも連作障害が発生します。特にジャガイモに大きな被害を与える連作障害の原因として、ジャガイモシストセンチュウによる生育阻害があります。この線虫は土の中で増殖し、密度が高くなるとジャガイモの生育を著しく妨げます。例えば、乾いた土1グラム中に100個の卵が存在する状態(高密度)では、収穫量が60%程度低下します。センチュウは宿主(ジャガイモなど)がいない状態でも、卵が入った袋(シスト)の状態で10年以上も生存し続けることがあり、シストの状態は薬剤にも強いため、根絶が困難です。そのため、卵を含む可能性のある土を移動させない、付着の恐れがある農具や運搬具を洗浄する、といった拡散防止策がとられています。また、長期間休耕したり、非宿主作物を植えたりするなどの対策も行われていますが、効果は限定的であり、最も有効な対策は抵抗性品種を作付けすることです。ジャガイモシストセンチュウはジャガイモには被害を与えますが、トウモロコシには無害であるという特徴があります。このセンチュウは、種芋に付着した土や動物の糞などから伝染します。そのため、日本ではアイルランド経由以外の検疫を受けていない芋類の持ち込みは禁止されています。ジャガイモは国の指定種苗であり、種芋の販売は規制され、検査が義務付けられています。

アンデス地方における伝統的な連作障害対策

ジャガイモの故郷であるアンデス山地の中央部では、昔から連作障害が問題視されており、現代の農業技術にも通じる長期的な休閑と輪作が昔から行われています。ジャガイモの後に別の種類の作物を植えるだけでなく、約3年から4年のサイクルで畑を使い、その後、長い期間休ませるという習慣があります。休閑期間の長さは、人口密度や畑の広さによって異なりますが、これによって土壌の回復を促しています。日本国内では、明治時代(1889年)の地租改正によって、共有地が解体され耕作地が私有地となり、個人が持つ畑の区画が狭くなったため、長期的な休閑が難しくなり、ジャガイモシストセンチュウが再び問題視されるようになりました。このような問題に対し、アンデスのいくつかの地域では、マシュア(イサーニョとも呼ばれ、学名:Tropaeolum tuberosum)というノウゼンハレン科の塊茎作物を栽培することで、シストセンチュウの発生を抑制するという昔からの知恵が活かされています。マシュアは、根からシストセンチュウを寄せ付けない物質を分泌することが科学的に証明されています。さらに、インカ帝国の時代には、このマシュアが男性の性欲を抑える効果があることが知られており、長期間にわたる兵士の遠征や強制労働の際に、性欲を抑制する目的で使用されていたことが、スペインの文献に記録されています。

生産と流通

国際連合食糧農業機関(FAO)の統計データ(FAOSTAT)によると、2014年の世界のジャガイモ生産量は3億8168万トンであり、主食となるイモ類の中で最も多い生産量です。生産地域は、大陸別に見るとアジアとヨーロッパがそれぞれ約4割を占めており、南極大陸を除いたすべての大陸で中緯度から高緯度地域にかけて分布しています。上位5カ国で全生産量の57%を占めています。長期保存には向かないため、生産量と比較して、貿易量は多くありません。貿易の大部分は、ヨーロッパ域内などの地理的に近い地域間で行われています。

日本のジャガイモ生産と北海道の役割

農林水産省の統計データによると、平成28年度の都道府県別の収穫量では、全国でおよそ216万トンのうち、北海道(道内各地、特にオホーツク地方、十勝地方)が約170万トンと全国の8割を占めています。

日本における生産と流通の現状、課題

日本におけるジャガイモの国内需要(2021年)は約330万トンで、そのうち国内生産量は220~240万トンで推移しており、不足分は輸入ジャガイモ(生いも換算)によって補われています。国内で生産されたジャガイモの用途(2019年)は、生食用が25.2%、加工食品用が24.0%、でんぷん用が33.2%、その他が17.6%となっており、ポテトチップスやポテトサラダなどの加工食品向けの使用が増加傾向にあります。その一方で、ジャガイモの作付面積は年々減少しており、それに伴って生産量も減少しています。作付面積が減少している理由としては、より利益率の高い別の作物への転換や、生産者の高齢化による作付けの中止、規模の縮小などが挙げられます。農業人口の減少に伴い、労働力の確保が難しくなってきているため、作業プロセスの改善やロボット・AI・IoTなどの技術を活用したスマート農業の導入が求められています。

食料としてのジャガイモの特性と品質

ジャガイモのイモ(塊茎)は、その淡白な風味から、主食としても食材としても重宝される食品です。一年を通して手に入りますが、最も美味しい時期は、一般的に秋から冬(10月~2月)にかけてと、新ジャガイモが出回る初夏(5月~6月)です。良質なジャガイモは、表面に傷がなく、ハリと滑らかさがあり、芽が出ておらず、緑色に変色していないものが良いとされます。芽や茎、葉、花、果実、そして日光に当たって緑色になったイモには、ソラニンなどの有毒なアルカロイドが含まれているため、食用には適しません。

栄養価と健康効果

ジャガイモは、でんぷん、ビタミンCに加え、カリウムなどのミネラルも豊富で、食物繊維も多く満腹感が得やすい野菜です。ここでは、ジャガイモに含まれる代表的な栄養成分について解説します。※以下の数値は、皮なし/水煮/可食部100gあたりのジャガイモのものです。ジャガイモの塊茎には、13~20%のデンプン、1.5~2.6%のタンパク質が含まれています。また、ビタミンCの他に、ビタミンB1、B2、B6などのビタミン類やカリウムも豊富です。デンプンを多く含む一方で、エネルギーは71kcalと比較的低カロリーであり、炊いたご飯の約半分です。特にビタミンCは18mgと豊富で、デンプン質に包まれているため、加熱による損失が少ないというメリットがあります。カリウムも340mgと、バナナと同程度の量が含まれています。ジャガイモは約80%が水分で、残りのほとんどが固形分であり、炭水化物の約90%がデンプンです。少量ですが、ブドウ糖や果糖も含まれており、独特の風味を形成しています。芋類の中でもビタミンCが豊富に含まれることから、フランスでは「大地のリンゴ」(pomme de terre)と呼ばれ、同様の表現はドイツ語やオランダ語にも存在します。一般的にビタミンCは熱に弱い性質がありますが、ジャガイモの場合はデンプン質に保護されているため、加熱調理でも損失しにくいのが特徴です。また、長期保存による損失も少ないとされています。ジャガイモは動物性コレステロールを減少させる効果があり、間接的にコレステロール値の上昇を抑制する効果が期待できます。さらに、可食部100gあたり1.3gの食物繊維が含まれており、便秘の解消や予防に役立ちます。このように栄養豊富なジャガイモですが、アメリカなどではフライドポテトやポテトチップスとして大量に消費されており、必ずしも健康的な消費方法とは言えません。煮たり、蒸したり、焼いたりといった調理法であれば、健康に良い食品として活用できます。

世界のジャガイモ料理

ジャガイモは世界各地で様々な料理に使われています。形状、加熱方法、水分量によって食感が変化し、肉、油脂、調味料との相性が良いのが特徴です。日本では、肉じゃが、カレーライス、コロッケ、粉ふきいもなど、ジャガイモが主役の家庭料理の他、味噌汁、煮物、ポテトサラダ、炒め物、魚の煮付けなどにも具材として広く使われます。フライドポテトも人気です。欧米では、ポテトサラダ、マッシュポテト、グラタン、スープ、フライドポテト、ポテトパンケーキなど、ジャガイモをメインとした料理が多く、蒸かしたものを主食として食べることもあります。その他、ニョッキなどもジャガイモ料理として知られています。中国では、千切りにしたジャガイモの炒め物が一般的です。また、日本以外では、ウォッカ(フィンランド、ポーランド、ロシア)、ジン、ウイスキー、焼酎(韓国焼酎)などのアルコール飲料の原料としても使用されています。

調理上の特性と品種の選び方

ジャガイモに含まれるポリフェノールは、空気に触れると酸化酵素によって褐変するため、皮を剥いた後の切断面を水にさらすなどの方法で褐変を防ぎます。ただし、30分以上水にさらすと、細胞内のペクチンと水中のミネラルが反応し、細胞膜が硬くなり、火が通りにくくなるため注意が必要です。品種によって特性が異なるため、料理に合わせて使い分けるのがおすすめです。比較的粘りの少ない粉質のジャガイモ(男爵薯など)は、コロッケや粉ふきいもに適しています。皮付きのまま茹でると、デンプン質の流出を防ぎ、水っぽくならずにホクホクとした食感を保てます。粘り気のある粘質のジャガイモ(メークインなど)は、煮崩れしにくいため煮込み料理に向いており、サラダにも適しています。煮崩れは、細胞内のデンプンが水分を吸収し膨張することで起こります。粉質の男爵は加熱するとホクホクとした食感になり、粘質のメークインはねっとりとした食感になります。春先に出回る早掘りのジャガイモは「新じゃがいも」として親しまれ、皮が薄く水分が多いため、小ぶりのものは皮を剥かずに丸ごと調理し、蒸し芋、煮っころがし、揚げ物などに適しています。

アンデスの知恵と日本の伝統食

ジャガイモは、昔から独自の乾燥技術によって保存性を高め、貴重な保存食として重宝されてきました。特にアンデス中央部では、インカ帝国以前に、凍らせたジャガイモを何度も踏みつけることで水分と有害物質を取り除くという画期的な方法が開発され、長期保存と備蓄を可能にしました。この凍結乾燥されたジャガイモは、アンデス地域で「チューニョ」と呼ばれています。現在でも、ペルーやボリビアの高地(アルティプラーノ)ではチューニョが食されています。乾燥したチューニョは、まるで小石のような見た目で、塩味のスープに入れて長時間煮込んで食べられますが、品質の良くないものは魚のような臭いがすることがあります。また、製法や品種は異なりますが、同様の原理で作られる凍結乾燥ジャガイモに「トゥンタ」と呼ばれるものがあり、ペルー南部やボリビアなどで広く親しまれています。日本でも、山梨県の都留地域や長野県の一部地域では、ジャガイモを冬の寒さの中で凍らせ、踏みつける作業を繰り返すことで水分を抜き、サイズを小さくして保存性を高める技術が存在します。これらは「しみいも」や「ちぢみいも」と呼ばれています。北海道のアイヌ民族も、収穫しきれなかったジャガイモや傷ついたジャガイモを畑に放置し、雪の中で自然に凍らせます。凍結と解凍を繰り返すことで水分が抜け、干からびて小さくなったジャガイモは、「ふきいも」や「ペネコショイモ」と呼ばれ、水で戻して丸め、団子にして焼いて食べられています。一方、現代の北海道では、これらの伝統的な保存方法とは異なり、低温で長期間(約1年半)保管して熟成させ、デンプンを糖化させて甘みを引き出したジャガイモが商品として販売されています。また、長期保存に適した品種の開発も進んでいます。

加工食品とデンプンの活用

加工食品としては、ポテトチップスが広く普及しています。ただし、ポテトチップスにはアクリルアミドが含まれており、焦げ付きによって変化することがあるため注意が必要です。ポテトチップスに適した品種も栽培されています。2014年の日本のジャガイモ収穫量は約245万トンで、そのうちポテトチップス用は約37万トンでした。特にカルビーは、国内で収穫されるジャガイモの約17%を使用しています。ジャガイモは、食材としてだけでなく、豊富に含まれるデンプンを抽出したものが片栗粉として販売されています(本来、片栗粉はカタクリのデンプンを原料としていますが、現在市販されている片栗粉のほとんどはジャガイモデンプンです)。

お酒造りへの応用

豊富なデンプンを持つジャガイモは、ウォッカ(フィンランド、ポーランド、ロシア)、ジン、ウイスキー、焼酎(韓国焼酎)などのアルコール飲料の原料としても利用されています。日本でも、近年、北海道では特産のジャガイモを使ったジャガイモ焼酎(焼酎乙類)の製造が盛んに行われるようになりました。また、長崎県でもジャガイモ焼酎を製造している酒蔵があります。1979年4月には、北海道の清里町焼酎醸造事業所が、日本初のジャガイモ焼酎「じゃがいも焼酎」を製造販売しました。その後、北海道の多くの焼酎メーカーがジャガイモ焼酎の製造に参入しています。ジャガイモ焼酎は、サツマイモ焼酎に比べてクセが少なく飲みやすいのが特徴です。

ジャガイモの薬効

薬用としてジャガイモを使用する際は、塊茎(イモ)が用いられ、「洋芋(ようう)」と呼ばれることがあります。使用する際は、皮を丁寧にむき、芽を完全に取り除く必要があります。ジャガイモは、比較的体質を選ばない生薬としても知られています。体内のナトリウムを排出する作用があるカリウムを豊富に含んでいるため、高血圧の予防にも効果があると言われています。民間療法では、神経痛、火傷、切り傷、虫刺され、打ち身、捻挫、痛風に対して、生のジャガイモをすりおろし、小麦粉と酢を混ぜてガーゼなどに塗り、患部に冷湿布すると痛みが和らぎ、早期回復に役立つとされています。痛風の場合は、日々の食事にジャガイモを取り入れるとともに、上記の冷湿布を併用するとより効果的であると考えられています。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍には、ジャガイモをすり下ろして土鍋で加熱し、水分を蒸発させて黒くなったものを1日に2グラム程度服用する方法もあります。

品種改良の現状と多様な特性

ジャガイモの品種改良は、栽培のしやすさ(病気への強さ、収穫量)、加工への適性、流通・保存のしやすさ、食感や風味など、多岐にわたる視点から進められています。例えば、大手菓子メーカーであるカルビーは、ポテトチップスに最適な品種、栽培方法、貯蔵技術を追求するため、専門の研究機関を設立し、独自の品種(例えば、ぽろしり、ゆきふたばなど)を開発しています。

ジャガイモは、品種によって皮の色、果肉の色、そして粉質か粘質かといった性質に違いがあり、花の色も白から紫まで様々です。粉質の品種は、加熱するとホクホクとした食感が特徴で、粘質の品種は、果肉がきめ細かく、煮込んでも煮崩れしにくい性質を持っています。

日本では、男爵薯とメークインが特に広く知られており、作付面積の大部分を占めています。その他にも、農林1号、デジマ、ワセシロなど、多数の品種が国の登録を受けています。近年では、公的機関や民間企業だけでなく、農家が自然に発生した突然変異をもとに新しい品種を育成するケースも見られます。

原産地であるアンデス地域では、皮や果肉に色素を持つ、バラエティ豊かな品種が栽培されています。日本国内でも、近年、皮や果肉に色がついた品種が生産されるようになってきました。

なお、ここでいう「生食用」とは、家庭やレストランなどで調理されることを指し、生のまま食べるという意味ではありません。

適切な保存環境と温度管理

ジャガイモは寒さに弱く、4℃以下の環境に置くと、でんぷんが糖に変化して品質が低下します。そのため、冷蔵庫での保存は避けるのが一般的です。保存する際は、直射日光を避け、風通しの良い涼しい場所(理想的には10~15℃程度。0℃以上5℃前後でも適切に保存できるとされています)で、段ボール箱や厚手の紙袋に入れて保存しましょう。

乾燥を防ぐためには、ポリ袋に入れて軽く口を閉じ、冷蔵庫の野菜室で保存することも可能です。ただし、袋の口を完全に閉じず、ジャガイモが呼吸できるように注意してください。

茹でたジャガイモの場合は、冷蔵庫で4~5日程度保存できます。ただし、茹でたジャガイモをそのまま冷凍すると、解凍時に水分が分離し、食感が損なわれるため、通常の用途では冷凍保存は推奨されません。マッシュポテトや、水分が少ないフライドポテトなどは、冷凍しても比較的品質が保たれます。

ジャガイモが日光や蛍光灯などの光にさらされると、表面が緑色に変色したり、芽が出始めたりすることがあります。これらの緑色になった部分や芽には、グリコアルカロイド(ソラニン、チャコニン)という有害な成分が含まれており、大量に摂取すると腹痛や吐き気などの症状を引き起こす可能性があります。そのため、緑色に変色した部分や芽は、必ず厚く剥いて取り除いてから使用してください(詳細については、『毒性』の項目を参照)。

品種による貯蔵性の違いと加工利用

ジャガイモは品種によって貯蔵期間が異なり、加工業者は使用する時期に応じて、いくつかの品種を組み合わせて利用することがあります。例えば、長期保存に適した「スノーデン」という品種は、ポテトチップスの原料として、主に4月から6月頃に使用されます。

長期貯蔵における発芽抑制技術

ジャガイモは収穫後、通常2~3ヶ月間は休眠期間に入り、適切な温度や湿度の条件下にあっても発芽しません。しかし、休眠期間が過ぎると、本来、繁殖器官である塊茎から発芽が始まります。

発芽すると、生食用としては商品価値が低下し、加工用やデンプン原料用としては、品質劣化や重量の減少につながるため、貯蔵中の発芽を抑制することが重要な課題となります。この課題を解決するために、様々な技術が用いられています。

低温貯蔵による発芽抑制

一般的に、3℃~10℃の低温環境下で保管することで、ジャガイモの発芽を抑制します。最適な保存温度は品種によって異なり、低温で保存するとジャガイモに含まれる水溶性糖の量が増加するという特徴があります。

CA貯蔵(空気調整貯蔵)

CA貯蔵(Controlled Atmosphere貯蔵)とは、貯蔵庫内の気体組成、湿度、温度を調整し、鮮度を維持する技術です。リンゴなどの果物でよく用いられる長期保存法であり、ジャガイモにも応用されています。これにより、8ヶ月から10ヶ月の長期にわたる保存が可能になります。

化学的発芽防止剤の利用と日本の規制

欧米諸国などでは、収穫後のジャガイモにクロルプロファム(CIPC)を散布し、発芽を抑える方法が採用されています。日本では、クロルプロファムは農薬として登録されていますが、ジャガイモの発芽防止を目的とした使用は許可されていません。この薬剤は、アメリカをはじめとするジャガイモ主要生産国で、フライドポテトやポテトチップスなどの加工用ジャガイモに散布されることが多いため、これらの国から輸入されるジャガイモ加工製品からは、ほぼ確実に検出されます。

放射線照射による発芽抑制

放射線の一種であるコバルト60やセシウム137を照射する方法も存在します。収穫後のジャガイモに、ごくわずかな放射線を照射することで、長期保存しても芽が出ないようにします。コバルト60から放出されるガンマ線が、芽の組織における細胞分裂を抑制することで発芽を防ぎます。ジャガイモへの放射線照射は、1972年に厚生省(現在の厚生労働省)によって認可されましたが、実際に実施されているのは、1974年1月以降、北海道の士幌農業協同組合のみとなっています。放射線を照射したジャガイモが放射能を持つことはなく、また、それを摂取した人に健康被害が生じることもないとされています。なお、日本国内において、放射線照射が食品への利用を認められているのは、ジャガイモに限られています。ジャガイモの発芽防止を目的とした放射線照射についての認知度は28%と低く、安全性や必要性など、食品への放射線照射に関する基本的な情報提供が不足している点が課題として指摘されています。

発芽抑制におけるエチレンガスの活用

かつて、ジャガイモをリンゴと一緒に暗く冷涼な場所に保管すると発芽しにくいという説がありましたが、この効果については異論が多く、効果がないとする報告も見られました。しかし、近年、欧米の研究によって、リンゴなどが放出するエチレンガスがジャガイモの芽の成長を抑制する効果を持つことが実証されました。これにより、工業的に生産されたエチレンガスを用いて、適切な濃度管理を行いながら発芽を抑制する技術が確立されました。ただし、リンゴとの共存によるエチレンガスの濃度調整は難しく、エチレンガスの濃度や保存期間が適切でない場合、逆に芽の成長を促進する可能性も指摘されています。ジャガイモは通常、5℃以下の低温で光の当たらない場所で保管すると、芽が伸びにくいため、そのような環境で保存することが重要です。また、購入時に芽が出ていないジャガイモを選ぶこともポイントです。リンゴとの保存方法については、濃度や時間、温度の管理が難しく、失敗するリスクが高いため、あまり推奨されません。

まとめ

ジャガイモは、南米アンデス山脈が起源であり、およそ8,000年前に栽培が始まったとされる、非常に古い歴史を持つ作物です。スペインの大航海時代にヨーロッパに伝わった後、当初は「悪魔の作物」として避けられていましたが、飢饉や戦乱といった歴史的な背景の中で、その高い生産性と様々な環境への適応力が認められ、プロイセンやアイルランドを中心に世界中に広まりました。特にアイルランドでは国民の主要な食料となり、飢饉が悲惨な結果をもたらした一方で、その後の移民がアメリカ社会に大きな影響を与えるなど、人類の歴史と深く関わっています。イギリスにおける初期の誤解や、ドイツでのフリードリヒ2世による普及活動、フランスのパルマンティエによる巧妙な戦略など、各国での普及には様々な物語が存在します。日本へは江戸時代に伝来し、明治時代以降の北海道開拓において「男爵薯」が普及するなど、地域の食文化と農業の発展に貢献しました。

植物としてのジャガイモは、地下の塊茎が肥大化したもので、品種改良や栽培方法には独自の工夫が凝らされています。また、芽や緑色になった皮には、ポテトグリコアルカロイド(PGA)という有毒な物質が含まれているため、適切な保存と下処理が不可欠です。栽培においては、冷涼な気候を好み、連作障害や病害虫に注意する必要がありますが、適切な土寄せや芽かき、輪作などの対策を行うことで、効率的に多くの収穫が期待できます。ジャガイモシストセンチュウのような特定の病害に対する、伝統的および現代的な対策も研究されており、アンデス地方の伝統的な休閑・輪作やマシュアの利用、日本の明治時代の歴史的背景などが連作障害の問題に影響を与えています。

ジャガイモは、食用としての利用だけでなく、加工食品、デンプン原料、酒造、さらには薬用としても広く利用されています。世界各地で様々な料理に変化し、その調理特性や栄養価は、人々の食生活を豊かにしてきました。日本においては、国内需要の約3分の1を輸入に依存しており、加工食品用の需要が増加する一方で、作付面積の減少や農業従事者の高齢化といった課題に直面しており、スマート農業の導入が急務となっています。また、適切な保存方法が品質を維持する上で重要であり、低温貯蔵、CA貯蔵、化学的な発芽防止剤、放射線照射、エチレンガス噴霧といった様々な技術が開発・活用されています。世界各国での生産と流通は、地域の特性を強く反映しており、日本では北海道が生産の大部分を占めています。この多様な作物が、今後も世界の食料安全保障に重要な役割を果たすことが期待されます。

ジャガイモの発祥地はどこですか?

ジャガイモの発祥地は、南米アンデス山脈の中南部、特にペルー南部からボリビア南部に位置するチチカカ湖周辺とされています。紀元前8000年頃、標高3,000メートルほどの高地で栽培が始まったと考えられています。

ジャガイモがヨーロッパで広まった理由は何ですか?

当初は「悪魔の作物」として避けられていたジャガイモですが、17世紀にヨーロッパで飢饉や戦争が頻発した際、寒冷な気候や痩せた土地でも育ち、単位面積あたりの収穫量が多く、地中で育つため戦争による踏み荒らしにも強いという特性が評価されました。各国の国王が栽培を奨励したことも普及の大きな要因となりました。特にプロイセンのフリードリヒ2世やフランスのパルマンティエの貢献が知られています。

ジャガイモの芽や緑色の部分には有害な成分が含まれていますか?

その通りです。ジャガイモから生えた芽や、日光によって緑色に変色した皮の部分には、ポテトグリコアルカロイド(PGA)という天然毒素が多く蓄積されています。中でもソラニンやチャコニンが主な成分で、摂取すると腹痛や吐き気などの不快な症状を引き起こす可能性があります。これらの有害物質は加熱しても完全には除去できないため、調理前に入念に取り除くことが非常に重要です。

ジャガイモを育てるのに最適な気温はどれくらいですか?

ジャガイモは冷涼な気候を好み、生育に適した温度は概ね15〜22度です。原産地が高地であることから、他のイモ類と比較して比較的低い温度でよく育ち、高温には弱い傾向があります。特に、ジャガイモの肥大化には、日中の気温が20度前後、夜間の気温が10〜14度程度に保たれるのが理想的です。

アイルランドで発生したジャガイモ飢饉は、なぜ起きたのですか?

1845年から1849年にかけてアイルランドを襲ったジャガイモ飢饉は、ジャガイモ疫病という病気が大流行し、ジャガイモの収穫に壊滅的な打撃を与えたことが主な原因です。当時、アイルランドはイギリスの植民地支配下にあり、貧しい農民たちは食料をジャガイモに大きく依存していました。人口の約3割がジャガイモを主食としていたため、疫病の蔓延は大規模な飢餓と、それに伴う移民を引き起こしました。また、イギリスの貴族が地代として小麦を収奪したことも、ジャガイモへの過度な依存を招いた要因の一つと考えられています。

ジャガイモの連作障害とは、どのような現象ですか?

ジャガイモの連作障害とは、同じ畑で継続してジャガイモや、トマトやナスなどのナス科の植物を栽培することで発生する問題です。具体的には、そうか病や疫病、青枯病といった土壌病害や、ジャガイモシストセンチュウなどの寄生虫が増加し、ジャガイモの生育が阻害される現象を指します。これは土壌の栄養バランスが崩れることが原因で起こります。対策としては、長期間の休閑や、ジャガイモの生育を阻害しない他の作物を輪作すること、または抵抗性のある品種を栽培することが有効です。例えば、土壌1グラムあたりにジャガイモシストセンチュウが100個存在する場合、収穫量が約60%も減少する可能性があるとされています。

日本におけるジャガイモの発芽防止を目的とした放射線照射について

日本国内では、ジャガイモに限り、食品としての放射線照射が発芽抑制の手段として認められています。これは1972年に当時の厚生省によって許可され、1974年1月以降、北海道の士幌町農業協同組合が実際に運用しています。放射線照射処理を施されたジャガイモに放射性物質が残留することはなく、摂取しても人体への悪影響はないとされています。しかしながら、一般の方々への認知度はまだ十分とは言えない状況です。

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