ビタミンEは、その優れた抗酸化作用から「抗酸化ビタミン」として知られています。食品の品質保持に役立つだけでなく、血管の健康をサポートする効果も期待できるため、「老化防止ビタミン」と呼ばれることもあります。この記事では、ビタミンEの働きや効果、不足した場合や過剰摂取した場合のリスクについて詳しく解説します。
ビタミンEとは?
1920年代に発見されたビタミンEは、当初、動物の生殖機能に不可欠な要素として注目されました。その後、トコフェロールと命名されましたが、これは「子を産む力を与える水酸基を持つ化合物」を意味します。研究が進むにつれ、ヒトの健全な成長にも不可欠な微量栄養素であることが判明し、ビタミンEという名称が確立しました。食品には、α、β、γ、δの4種類のトコフェロール、およびα、β、γ、δトコトリエノールの計8種類のビタミンE同族体が含まれています。これらの同族体は食品の酸化を抑制する役割を果たしますが、ヒトに対して有効なのはα-トコフェロールのみです。その理由は、α-トコフェロールだけが体内で利用される特殊な輸送システムを持っているためです。他の同族体は吸収されても体外に排出されてしまいます。そのため、栄養学においては、α-トコフェロールのみがビタミンEとして定義されています。
ビタミンEの主な働きと効果
ビタミンEは、その優れた抗酸化力で知られています。体内の細胞膜を構成するリン脂質や、脂質を運搬するリポタンパク質(VLDL、LDL)に含まれる多価不飽和脂肪酸の酸化を防ぐ重要な役割を担っています。多価不飽和脂肪酸は、リノール酸やα-リノレン酸といった必須脂肪酸、そして健康に良いとされるアラキドン酸、DHA、EPAなど、複数の二重結合を持つ脂肪酸の総称です。酸化とは、物質が酸素と結合することであり、多価不飽和脂肪酸が酸化されると過酸化脂質という物質に変化します。この過酸化脂質は、体の老化を促進し、様々な疾患の原因となる可能性があります。ビタミンEは、その抗酸化作用によって過酸化脂質の生成を抑制し、細胞の健康を維持することで、老化の防止に貢献すると考えられています。
ビタミンEが不足すると?不足しやすい人は?
肩や首の凝り、腰痛、手足の痺れといった症状は、末梢の血行不良が原因かもしれません。これらの症状は、ビタミンE不足によって引き起こされる可能性があります。ビタミンEは、体内で過酸化脂質の生成を抑制し、特にリポタンパク質の酸化を防ぐことで、血液の流れをスムーズにする働きがあります。これにより、体の隅々まで血液が行き渡り、毛細血管の血行が促進されます。女性の場合、ビタミンEはホルモンバランスの調整にも関わっており、不足すると月経不順や更年期障害などの症状が現れることがあります。ビタミンEは脂溶性ビタミンであるため、体内に蓄積できます。そのため、現代の日本において、極端な欠乏状態になることは稀です。しかし、不足状態が長期間続くと、明確な欠乏症状は現れなくても、末梢の血行不良、動脈硬化のリスク増加、ホルモンバランスの乱れによる不妊症や習慣性流産の原因となる可能性があります。通常、ビタミンEが欠乏することは稀ですが、不足には注意が必要です。朝食を抜く、偏食、ダイエット中などで脂肪摂取量が不足している場合は、ビタミンEも不足しがちです。また、健康な人でも、風邪や胃腸炎、手術後など、体調を崩した際には不足する可能性があります。
ビタミンEの1日の推奨摂取量と耐容上限量
厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」において、ビタミンEの摂取に関する基準値が示されています。具体的には、一日に摂取することが望ましいとされる「目安量」と、健康を害するリスクがない上限値である「耐容上限量」が設定されています。目安量については、年齢と性別によって異なり、例えば成人男性の場合、18歳から49歳までは6.0mg、50歳から74歳までは7.0mg、75歳以上では6.5mgとなっています。成人女性の場合は、18歳から29歳までは5.0mg、30歳から49歳までは5.5mg、50歳から64歳までは6.0mg、65歳以上では6.5mgと定められています。一方、耐容上限量については、18歳以上のすべての人に対して、一日あたり650~900mgとされています。一般的に販売されているビタミンE含有のサプリメントや医薬品には、上記の目安量を大幅に超える量のビタミンEが含まれている場合があります。例えば、市販のビタミン剤では最大300mgまで配合することが可能です。また、サプリメント(栄養機能食品)の場合、含有量の上限は150mgとなっています。ただし、サプリメントはあくまで食品として扱われるため、特定の症状に対する改善効果を謳うことは法律で禁止されています。