茶道は日本の伝統文化を象徴する美しい儀式であり、そのひと時をより豊かに彩る存在として和菓子が挙げられます。茶室に漂う静寂と濃密な抹茶の香りに寄り添うように、和菓子はその精緻な美しさと繊細な味わいで、参加者の五感を楽しませます。一見するとシンプルで飾らないように見える和菓子には、職人たちの技と心意気が凝縮されており、茶道との絶妙な調和を実現。この記事では、そんな和菓子の魅力をさらに探求していきます。
茶道にお菓子が必要な理由は?抹茶の苦味を和らげてくれる
お抹茶を楽しむ際にお菓子を添えるのは、その苦味を和らげるための一つの工夫です。甘いお菓子を選ぶことで、お茶の苦味を中和します。
この考えは茶道に限らず、紅茶を楽しむときにも共通しています。紅茶の渋みはスコーンなどの甘いお菓子でやわらげるのが一般的です。
さらに、マナーとしてお茶が運ばれる前にお菓子を先にいただくのが望ましいとされています。
その理由は、食べながら飲むのが行儀に反することや、お茶の飲み方に決まった作法があるためです。ただし、必ずしもお菓子を全て食べ終えてからお茶を飲むわけではなく、食べきれない場合はお茶が先に出されたなら、まずはお茶を楽しんでからお菓子をいただくと良いでしょう。
お稽古にふさわしいお菓子選びのコツとは?
初めて茶道を学ぶ際には、お茶会でのお菓子選びを任されることはほとんどありません。まずは稽古でのお菓子選びに取り組む機会が多いでしょう。
稽古でのお菓子選びのポイントは幾つかありますが、特に重要なのは…
・主菓子(おもがし)・お干菓子(おひがし)
どちらを選択するべきかという点です。
お茶会は、まるで一日を通じて行うお茶のパーティのようなものであり、午前中には炭手前があり、昼食時には懐石が提供され、その後にお濃茶、最後に薄茶が続いていきます。
濃茶には主菓子を、薄茶にはお干菓子を添えて
お濃茶の際に楽しむのは主菓子で、薄茶の際にはお干菓子をいただきます。稽古の際にどちらのお菓子を選ぶべきか、しっかり確認しておくことが大切です。
ただ、稽古ではお茶会と異なり、必ずしもお濃茶で主菓子、薄茶でお干菓子という決まりはありません。お濃茶の稽古は、少し慣れてから始まるため時間も掛かります。そういった日は薄茶だけに集中することもあります。そんな時には、薄茶に合うお菓子を指定されることもあります。お濃茶、薄茶それぞれの席に分かれる稽古でも、菓子は同じ場合があるかもしれません。その際には、おそらく主菓子が指定されることが多いでしょう。そういった時には、濃茶にも薄茶にも合う、甘さ控えめなものが好ましいです。
例えば、羊羹や水無月は甘さと食べ応えが特徴で、お濃茶にはぴったりですが、薄茶にはやや重い印象です。反面、練り切りやお饅頭のような口当たりの軽いものは、薄茶にもぴったりでお濃茶にも負けない甘さがありますので、稽古用のお菓子としておすすめです。
また、お干菓子の手配も多く任されます。日持ちがするため数週間分を用意して稽古に使うことも可能です。数週間の間に渡って食べる場合は、色とりどりの落雁(らくがん)の詰め合わせなどが飽きにくくおすすめです。毎回異なる風味を楽しめますし、季節の変わり目でも気にせず最後まで食べられるよう、季節を問わないものを選ぶのも賢いです。
主菓子を選ぶ際のポイント
さて、いよいよお茶会での濃茶に合わせる主菓子の選択についてです。
濃茶の場では、稽古で選ぶ菓子とは逆に、口に残りやすく甘みのあるきんとんやういろうなどを選ぶことが望ましいです。濃茶は箸で懐紙に移して食べるため、箸にくっつきやすいものや、箸で崩れやすいものは避けたほうが良いでしょう。見た目は普段より華やかさを重視すると◎です。
和菓子は見た目が美しく、精巧な細工がなされています。茶会のテーマや干菓子との色合いに合わせて、魅力的なお菓子を選んでください。
干菓子を選ぶ際のポイント
お茶会では、主菓子とは異なるお干菓子がいくつか用意されます。落雁以外にも、せんべいや雲平、金平糖など、多彩な種類があります。お干菓子も主菓子と同様に、見た目の美しさを選ぶことが重要です。
主菓子と異なる点として、主菓子は縁高や丸い菓子器で運ばれますが、お干菓子は干菓子器で提供されます。
干菓子器は、主菓子の菓子器よりも多様な形状があり、器自体が美しいデザインのものもあります。お干菓子を選ぶ際は、見た目の華やかさの他に、干菓子器との調和、複数の菓子同士の見た目のバランス、それらをどのように美しく盛りつけるかを考慮すると楽しさが増しますよ。
状況によっては、特定のお菓子が指定されていることもある
これまで、お菓子選びについてお話ししてきましたが、特定のお菓子がすでに決まっている場合もあります。代表的な例として、裏千家の初釜で使われる花びら餅があります。花びら餅は白いお餅に桃色のひし形が見える、特徴的なお菓子です。初めての方には意外かもしれませんが、白みそやゴボウが用いられています。塩味と上品な甘さのバランスが絶妙で、美味しく楽しめます。初釜のお菓子の手配を依頼された場合は、お店選びにこだわってみるのも良いでしょう。同じ花びら餅でも、味や見た目はお店ごとに異なるので、自分好みの一品を選ぶことができます。希少性のあるお菓子なので、早めの予約が推奨されます。
季節感を取り入れたスイーツを楽しもう!
どんなシーンでも、まず大切なのは、時期に応じたお菓子を選択することです。桜の季節には桜餅や、夏には稚鮎などの例が挙げられます。茶道では、季節感を何よりも重視します。
練習時に用いるお干菓子は、先に述べたように、過度に季節感を意識する必要はありませんが、お茶の席では、茶道具を見て楽しむのと同じように、お菓子も見た目を楽しむことが茶道の本質の一部です。季節を感じられるような名称や見た目、その季節を象徴するお菓子を選ぶことが望ましいです。
まとめ
お茶の場でのお菓子選びには、様々な観点があります。
予算内で季節やテーマ、そして指導者の要望に応じたお菓子を選ぶことは、時に難しい挑戦となるかもしれません。しかしながら、このプロセス自体が茶道の楽しみの一部です。
茶道具や花、軸とともに、お菓子はお稽古や茶会の雰囲気を作り上げる重要な要素となっています。自分のセンスでお菓子を選ぶことができるのは素晴らしいことですよね。この記事を参考に、お菓子選びに挑戦してみてください。