サツマイモの歴史:甘い根の世界的旅
甘くてホクホク、秋の味覚として親しまれるサツマイモ。そのルーツは遠く、中南米に遡ります。原産地から世界へと広がり、日本へは江戸時代に伝来。飢饉を救った救荒作物として、また、多様な食文化を彩る食材として、私たちの食卓に深く根付いてきました。この記事では、甘い根、サツマイモの歴史を紐解き、その世界的旅を辿ります。

さつまいもの基礎知識:概要と基本情報

さつまいも(学名:Ipomoea batatas)は、ヒルガオ科サツマイモ属の植物、またはその根にできる食用の塊根部分を指します。この塊根は、養分を蓄積して肥大した根であり、茎が肥大するジャガイモの塊茎とは成り立ちが異なります。「甘藷(かんしょ)」、「唐芋(からいも)」という別名もあり、その名の通り、甘味が特徴です。原産はメキシコを中心とする熱帯アメリカで、そこから世界各地の熱帯、亜熱帯、温暖な地域へと広がり、栽培されています。食用部分はデンプン、食物繊維、ビタミンを豊富に含み、主食、お菓子の原料、焼酎の原料、でん粉の原料など、様々な用途で利用されます。根だけでなく、つるや葉も栄養価が高く、日本の一部地域(福岡県や沖縄県)、韓国、東南アジアなどでは野菜として食べられています。

さつまいもの名前の由来と変遷

「さつまいも」という名前は、江戸時代に中国から琉球(今の沖縄県)を経由して薩摩(今の鹿児島県)に伝わり、薩摩で盛んに栽培されたことに由来します。つまり、「薩摩から広まった芋」という意味合いが込められています。「甘藷(かんしょ)」という別名は、中国での植物名が甘藷であることから、「甘い芋」という意味で用いられます。国際的には、英語でSweet potato、フランス語でpatate douce、イタリア語でpatata dolceと呼ばれ、いずれも「甘い芋」という意味です。イタリア語ではpatata americana(「アメリカの芋」の意味)と呼ばれることもあり、和名にも「アメリカイモ」という別名があります。英語圏の一部でサツマイモを「Yam(ヤム)」と呼ぶことがありますが、これはアメリカの黒人奴隷が栽培していたアフリカ原産のヤム芋に、栽培されていた水分が多く柔らかい「ソフトスイートポテト品種」が似ていたためです。本来のヤム芋はアフリカ原産で、アメリカでは輸入食材店でしか見られないため、単に「ヤム」と表示されている場合は、特に断りがない限り「ソフト」スイートポテトを指します。地方や時代によって呼び名は異なり、日本本土では「唐芋(からいも、とういも)」や「琉球薯(りゅうきゅういも)」、琉球に伝わった当初は「蕃薯(ばんしょ、はぬす、はんす、はんつ)」と呼ばれていました。中国(福建省)から伝来したことから、九州地方では現在でも「唐芋」と呼ばれることが多いです。その他、「とん」や「うむ(芋の琉球語の発音)」という呼び名も存在します。朝鮮半島へは対馬から伝わり、「孝行いも」が変化して、韓国語ではコグマ(고구마)と呼ばれるようになりました。

さつまいもの生態と形態:その特徴

さつまいもは、各地で栽培されるつる性の植物で、ヒルガオ科サツマイモ属に分類されます。高温や乾燥に強く、やせた土地でも育つ丈夫さが特徴です。食用部分は根が肥大した塊根であり、茎が肥大するジャガイモの塊茎とは異なります。葉はクワやアオイに似た形をしており、花はアサガオに似た色をしていますが、日本では高温のため開花しにくく、日照時間だけでなく、何らかのストレスによって稀に咲く程度です。花の数も少なく、実がなりにくい上に、受粉後の寒さで枯れてしまうことが多いため、日本では種子を効率よく採るためにアサガオなど近縁の植物に接ぎ木をして、台木から送られる養分やホルモンの働きで開花を促す技術が用いられることがあります。芋の皮の色は紅色や赤紫色のほか、黄色や白色があり、中身の色も主に白色から黄色ですが、橙色や紫色の品種もあります。特に、全体が紫色で、中身がアントシアニン色素によって紫色になっているサツマイモは、「紫芋(むらさきいも)」と呼ばれています。若い蔓や葉も栄養価が高く、これらを利用するための専用品種もあり、つる葉野菜として食用にされることもあります。さつまいもの祖先種については、1960年代にT.S.P. Wang氏がメキシコで野生種のイポメア・トリフィーダ(Ipomoea trifida G.Don.)を発見し、その後の研究でメキシコが原産地であることが確認されました。

さつまいものルーツ:起源と世界への伝播

さつまいもの原産地は、メキシコを中心とする熱帯アメリカと考えられています。中でも、メキシコの中央部からアンデス山脈にかけての地域が有力な説です。この地域には、サツマイモが属するヒルガオ科の多様な野生種が豊富に存在します。日本の研究者たちは、これらの植物の形態、遺伝的特性、染色体数などを詳細に調査し、トリフィーダ (Ipomea trifida G.Don.) という植物がサツマイモの直接的な祖先種であることを明らかにしました。このトリフィーダが長期間にわたる自然な突然変異や、他の野生種との交雑を繰り返す中で、多様な変異が生じました。その中から、人類が食料としての価値を見出し、人工的な選抜を重ねた結果、現在の栽培種としてのさつまいもが誕生したと考えられています。紀元前3000年以前からメキシコ地域で栽培されていたと推測されており、その後南米のペルーに伝わり、古代ペルーの遺跡からはサツマイモの葉、花、根を描いた土器や綿布が発見されていることから、重要な作物であったことがわかります。15世紀末にクリストファー・コロンブスが新大陸を発見し、その際にサツマイモをスペインの女王イサベル1世に献上したことがきっかけで、アメリカ大陸からヨーロッパへと伝わりました。しかし、熱帯性の作物であるため、ヨーロッパではジャガイモのように広く普及することはありませんでした。一方で、スペインではその甘さが好まれ、ペルーでの塊茎を意味する言葉であるbatataからpatateと名付けられました。その後、16世紀末に甘くないジャガイモ(potato)が普及するにつれ、サツマイモは「sweet potato」と呼ばれるようになり、ジャガイモと区別されるようになりました。アジア地域への伝播は、コロンブスがイスパニョーラ島を訪れた1498年以降、16世紀にポルトガル人やスペイン人の船団が喜望峰を発見し、頻繁に大陸に往来する航海者たちによってインド洋地域に持ち込まれたのが始まりとされています。インドからマレー、インドネシア、フィリピンといった東南アジア地域を経て、1584年には中国の福建省に到達しました。オセアニア地域では、ニュージーランドへは1300年頃に伝播し、「クマラ(kumara)」という名前で広く食されており、ヨーロッパ人が来る前から栽培されていたとされています。現在では、さつまいもは世界中で広く栽培されており、熱帯、亜熱帯の大部分から、比較的温暖な地域まで栽培地域が広がっています。これは、サツマイモが多様な気候条件下で生育できる生命力と、飢饉に強い作物としての価値を示しています。

日本への伝来と普及史

サツマイモが日本にどのように伝わったかについては、いくつかの説があります。一説には、紀元前1000年頃に南米からポリネシアへと海を渡って伝わったとされています。記録に残っているものとしては、16世紀にインドから東南アジア各地(マレー、インドネシア、フィリピン)を経て、1584年には中国の福建省に到達しました。日本への最初の伝来は、1597年に宮古島であったとされていますが、この時期については異論もあります。また、宮古島から他の地域への広がりは確認されていません。琉球王国へは、1605年に福建省から導入され、栽培が始まりました。本土への伝来ルートは複数考えられており、南方経由で徐々に伝わったという説が一般的ですが、中国や東南アジアから直接、九州各地の貿易港や対馬にもたらされた可能性も指摘されています。しかし、多くの地域で栽培は成功せず、定着には至りませんでした。本土で最初にサツマイモが根付いたのは薩摩藩であり、1609年以降、薩摩藩が琉球を支配するようになると、サツマイモは薩摩へと伝えられ、九州地方を中心に「薩摩の芋」として栽培が盛んになり、全国へと普及していきました。

徳川吉宗が注目し、明治維新実現に一翼を担った「サツマイモ」

現在では日本の食卓に欠かせないサツマイモですが、その普及には歴史的な背景があります。17世紀に中国から琉球王国に伝わり、その後薩摩を経て九州へと広がり、18世紀には全国で栽培されるようになりました。

救荒作物としての普及と幕府の奨励

江戸時代初期から中期にかけて、日本各地は度重なる飢饉に見舞われ、多くの人々が食糧不足に苦しみました。徳川幕府8代将軍・徳川吉宗がサツマイモに注目するきっかけとなったのは、1732年(享保17年)の「享保の大飢饉」です。この年、西日本を中心に冷夏や干ばつなどの異常気象により米が不作となり、さらにイナゴなどの害虫が大量発生したため、農村部は大きな被害を受けました。死者は約1万2000人、飢餓人口は200万人以上に及んだとされています。しかし、藩を挙げてサツマイモの栽培を奨励していた薩摩藩や、瀬戸内海地域の大三島などでは、ほとんど餓死者が出ませんでした。このことから、不作の年でも収穫が見込める救荒作物としてサツマイモが注目されるようになりました。吉宗は、やせた土地でも容易に栽培できるサツマイモに着目し、飢饉対策に力を注ぎました。かねてからサツマイモの研究をしていた蘭学者の青木昆陽を登用し、1735年には薩摩から種芋を取り寄せ、小石川御薬園(現在の東京大学大学院理学系研究科附属植物園)などで試作を行いました。青木昆陽の尽力により、関東地方でもサツマイモの栽培が広がり定着したため、その後の天明の大飢饉、天保の大飢饉の際には、被害を最小限に抑えることができたと言われています。薩摩藩では、領地の半分を占めるシラス台地が稲作に適していなかったことも、サツマイモ栽培を奨励した理由の一つでした。当初、関東地方ではサツマイモの栽培経験がなかったため、人々はヤマノイモのように芋を切って土に植える方法を試しましたが、切り口から腐敗することが多く、収量が伸び悩みました。試行錯誤の結果、現在主流となっている苗を育てる「移植栽培」へと移行していったと考えられています。江戸時代後期には、高度な栽培技術が確立されており、苗床で丈夫な苗を育てることから始まり、適切な施肥、畝立て、苗の採取、土への植え付け、収穫後の適切な貯蔵方法まで、一連の工程が体系的に行われていました。当時の収量は10アールあたり1500kgに達しており、これは現代の一般的なサツマイモ栽培における収量とほぼ変わらない水準であり、江戸時代の農業技術の高さを示しています。

明治維新におけるサツマイモの役割

明治維新の実現には、サツマイモが大きく貢献したという見方もあります。明治維新を推進した薩摩藩、長州藩、土佐藩、肥前藩の「薩長土肥」の4藩は、早い時期からサツマイモの産地化を進めていたため、他の藩が飢饉の影響で人口を減らす中、サツマイモを常食とすることで飢饉の被害を免れ、人口を増加させることができました。薩摩藩では、江戸時代前期の人口が約30万人だったのに対し、幕末には約62万人にまで増加したと言われています。人口が増加することで国力が向上し、兵力の動員数も増やすことができたと考えられます。薩長土肥が明治維新の立役者となった背景には、サツマイモの存在が大きく影響していたと言えるでしょう。その後、サツマイモは庶民の生活や文化に急速に浸透し、サツマイモを題材とした和歌や俳句も多く作られました。20世紀の第二次世界大戦中には、食糧難を背景にサツマイモの栽培が奨励され、日本の食糧事情を支える重要な役割を果たしました。

さつまいもの多彩な品種

さつまいもは、世界中で約4000種類もの品種が存在すると言われていますが、日本国内で栽培されているのは、そのうち約40品種程度です。かつては、「紅あずま」のようなホクホクとした食感の品種が関東地方で、「なると金時」のような品種が関西・九州地方で広く親しまれていました。しかし、2000年代に入ると、消費者の好みが変化し、鹿児島県種子島産の「安納芋」に代表される、甘味が強くねっとりとした食感の品種が人気を集めるようになりました。現在では、「紅はるか」や「シルクスイート」、「紅こまち」、「安納紅」、「安納こがね」など、味や食感にさまざまな特徴を持つ品種が広く栽培され、主に生鮮食品として楽しまれています。一方、「シロユタカ」や「シロサツマ」、「黄金千貫(コガネセンガン)」のように、加工用として利用される品種も多く存在します。特に黄金千貫は、焼酎の原料として高く評価されています。また、特殊な用途として、色素を抽出するために栽培される品種もあります。例えば、β-カロテンを抽出する「七福人参」や、アントシアニン色素を抽出する「琉球紫」や「パープルスイートロード」などがあり、これらは食品添加物や健康食品の原料として利用されています。その他、徳島県を主な産地とする「いもジェンヌ」のように、地域ブランド化を目指す動きや、アメリカから導入された白い見た目の「七福芋」のように、地域特産品として親しまれている品種も存在します。七福芋は、種子島で栽培すると甘みが強くなることが知られています。食用以外にも、観葉植物として葉を楽しむための品種も販売されており、さつまいもの多様性を示しています。

さつまいもの病害虫対策

さつまいもは、他の作物と比較して病害虫の発生が少ない作物です。しかし、地域によっては深刻な被害をもたらす害虫も存在します。特に、沖縄県全域、奄美群島、トカラ列島、与那国島では、イモゾウムシやサツマイモノメイガによる被害が大きな問題となっています。そのため、これらの地域では、害虫の根絶に向けた対策が積極的に行われており、不妊虫放飼法もその一つとして採用されています。

日本国内間の検疫と持ち出し規制

イモゾウムシやサツマイモノメイガなどの害虫の拡散を防ぐため、植物防疫法に基づき、国内間でも検疫が行われています。沖縄県全域、奄美群島、トカラ列島、小笠原諸島などの特定の地域からは、サツマイモやグンバイヒルガオなどのヒルガオ科植物の生茎葉および生塊根などの持ち出しが規制されています。個人の手荷物程度の量であれば、所定の方法で事前に申請することで移動規制地域からの持ち出しが可能ですが、蒸気で消毒する「蒸熱処理」が必須となります。そのため、蒸熱処理の施設がない地域からの持ち出しはできません。加工品にはこのような制限はありません。これらの注意を促す掲示やポスターが、現地の港や空港に設置されているため、これらの地域を訪れる際には確認することをお勧めします。

世界の生産動向と主要国

サツマイモは世界中で栽培されており、2006年の作付面積は約900万ヘクタール、総生産量は1億2400万トンに達しました。これはジャガイモの生産量の約半分に相当します。FAOの2019年のデータによると、世界のサツマイモ生産量は9182万トンで、ジャガイモ(3億7043万トン)、キャッサバ(3億0356万トン)に次いで、イモ類の中で3番目に多く生産されています。サツマイモの生産はアジアに集中しており、世界の生産量の約9割を占めています。その多くはデンプンなどの加工用ですが、特に中国はかつて約1億トンの生産量で世界全体の81%を占めていました。しかし、中国では作物の転換が進み、作付面積と生産量は減少傾向にあります。2005年までは1億トンを超えていましたが、2012年以降は6000万トンを下回っています。この中国の生産量減少により、世界の生産量も低下傾向にあり、2005年までは1億2000万トンから1億5000万トンだった収穫量は、2006年には約1億1000万トンを記録し、近年は約9000万トンで推移しています。中国に次ぐ主要生産国は、ナイジェリア、ウガンダ、インドネシア、ベトナム、タンザニア、日本、インドなどであり、これらの国々ではサツマイモが重要な食料源となっています。

国際貿易と台湾の事例

サツマイモは長期保存に向かないため、生産国での消費がほとんどで、国際貿易量は年間約30万トンと非常に少ないです。主な輸出国は、アメリカ、中国、ベトナム、ホンジュラス、エジプトなどで、アメリカが総輸出量の約2/3を占めています。一方、主な輸入国は、カナダ、イギリス、オランダ、ベルギー、フランス、日本などです。台湾におけるサツマイモの歴史も興味深く、17世紀(1603年)の書物『番薯考』に最初のサツマイモに関する記述が見られます。台湾への導入ルートには、ポリネシア系の先住民である阿美族が海を渡って来たという説と、南米からヨーロッパ、ルソン島を経由して台南に伝わったという説があります。台湾では当初、サツマイモの葉が野菜として食べられていましたが、1683年以降の清朝統治時代に、清の入植者によって塊根が副食として利用されるようになり、食文化が変化しました。

日本の生産推移と地域性

日本では、第二次世界大戦後の食糧難の時代にサツマイモの作付面積が急増し、1955年には700万トンもの生産量を記録しました。これは、サツマイモが痩せた土地でも栽培でき、肥料の流通や土壌改良が進んでいない状況でも栽培が容易だったためです。しかし、食生活が安定し豊かになるにつれて、サツマイモの生産量は徐々に減少しました。1960年代から1970年代前半にかけて、土壌改良などにより商品価値の高い作物への転作が進み、1974年には140万トンにまで減少しました。その後も生産量は減少し続け、2000年代には100万トン台となり、2010年以降は100万トンを下回っています。2019年の日本の生産量は74.8万トン、2022年には全国の総収穫量は71.7万トン程度です。現在の作付面積は約4.0万ヘクタール、生産量は約100万トン程度で安定しています。都道府県別の収穫量を見ると、農林水産省の令和3年度作物統計によると、1位が鹿児島県で約19万トン、2位が茨城県で約18.9万5000トン、3位が千葉県約8.7万トン、4位が徳島県約2.7万トン、5位が熊本県約1.8万トンとなっています。上位4県で全国の約8割を占めており、特に鹿児島県は全国の生産量の約3割を占めています。鹿児島県では、青果物としての消費だけでなく、デンプン原料や焼酎原料としての作付けも多く、地域経済を支える重要な作物となっています。これらの産地が偏っている理由としては、鹿児島県内や宮崎県南西部の多くが、水はけの良い火山灰土壌である「シラス台地」であることが挙げられます。この土壌は多くの農産物には適していませんが、サツマイモの栽培には適しています。また、サツマイモは可食部が地中の芋であるため、台風などの自然災害に遭っても地上の茎葉が被害を受ける程度で、塊根には影響が少なく、安定した収穫が見込めることも要因です。現在でも、サツマイモは青果物として直接消費されるだけでなく、焼酎原料、でん粉原料、菓子用など、様々な加工食品の原料として利用されています。特に関東地方や南九州の畑作地域では、サツマイモが地域経済を支える地場産業の振興に不可欠な作物となっています。

食材としての利用

サツマイモは主に塊根(芋)の部分が利用され、主食や副菜、菓子、加工品など様々な用途で使用されます。また、焼酎などの酒の材料としても使われます。加熱するだけで甘味があり、焼き芋や天ぷらにすると美味しさが引き立ちます。水分が多くねっとりした食感の品種もあり、それぞれの食感や甘味を活かした調理法が楽しまれています。柔らかい若い蔓や葉も食用にでき、和え物、炒め物、煮物などに利用されます。ヒルガオ科の空芯菜に似た風味があり、茎や葉を食べる専用の品種も開発されています。

旬と品質の見分け方

さつまいもが最も美味しい時期は、一般的に9月から11月にかけてとされています。収穫後すぐに食べるよりも、一定期間貯蔵することで甘みが増す特性があるため、通常は収穫から約1ヶ月ほど寝かせてから出荷されます。特に、2ヶ月程度の貯蔵期間を経ると、糖度が向上し、より一層美味しくなります。例外として、5月頃から超早掘りのもの、7月頃から早掘りのものが出回ることもありますが、これらは貯蔵に向かないため、収穫後速やかに出荷されます。品質の良いさつまいもを選ぶ際のポイントは、皮の色が均一で、ハリとツヤがあり、傷や斑点がないことです。また、中央部分がふっくらと丸みを帯びており、表面の凹凸やひげ根が少ないものが、良質なさつまいもとされています。

人気の再燃と焼き芋ブームの到来

かつては炭水化物を多く含む食品として「太りやすい」というイメージを持たれ、生産量の減少もあって人気が低迷していた時期もありましたが、近年、サツマイモは「空前の焼き芋ブーム」によって再び脚光を浴びています。以前は冬の風物詩だった焼き芋が、現在ではスーパーやコンビニエンスストアで一年を通して販売されており、専門店も各地にオープンし、スイーツ感覚で楽しめるようになっています。2000年代以降、サツマイモの消費量は増加傾向にあり、例えば、あるコンビニチェーンでは、2020年9月から2021年2月末までの期間に、焼き芋の累計販売数が210万本を超え、1日平均1万本以上を売り上げるという驚異的な数字を記録しました。
現代の焼き芋ブームの背景には、「焼き芋機の進化」と「サツマイモの品種改良」が大きく影響していると考えられています。以前は石焼きが主流でしたが、遠赤外線を利用した焼き芋オーブンの開発により、場所を選ばずに手軽に焼き芋を作ることが可能になり、スーパーやコンビニでの販売が拡大しました。このことが、焼き芋の消費を大きく押し上げる要因となりました。さらに、品種改良が進み、様々な種類のサツマイモが登場したことも、ブームを後押ししています。以前は、関東地方で一般的な「紅あずま」や関西地方の「なると金時」など、ホクホクとした食感のサツマイモが主流でしたが、2000年代に入ると、消費者の嗜好が変化し始めました。鹿児島県種子島産の「安納芋」をきっかけに、甘みが強く、ねっとりとした食感の品種が人気を集めるようになりました。その後、2010年には「紅はるか」、2012年には「シルクスイート」といった新しい品種が登場しました。これらの品種は、スイーツのような食感で楽しめることから、これまで焼き芋をあまり食べなかった若い世代にも支持され、幅広い年齢層にブームが広がっていきました。
サツマイモ人気の高まりを支えるもう一つの要因は、現代社会における「健康志向」の拡大です。焼き芋は、添加物を含まない自然な健康食品であり、カロリーは白米とほぼ変わらないにも関わらず、腹持ちが良いことから、ダイエット食品としても注目されています。これらの特性が、健康への意識が高い現代人のニーズに合致し、サツマイモの再評価につながりました。美味しくて手頃な価格で、しかも健康的な焼き芋は、今後も長期的なブームが続くと予想され、さらなる需要拡大が期待されています。

栄養価と健康効果

生のさつまいも(可食部100gあたり)のエネルギー量は132kcalで、水分は約66%を占めています。その他、炭水化物31.5g、タンパク質1.2g、食物繊維1.0g、脂質0.2gが含まれています。甘みが強く、炭水化物が豊富なので、カロリーが高いと思われがちですが、白米と比較すると約0.8倍程度です。また、ビタミンCや食物繊維が豊富に含まれており、特にビタミンCはリンゴの5倍以上と言われています。さつまいものビタミンCは、デンプン質によって熱から保護されるため、加熱調理しても壊れにくいという特徴があります。食物繊維は、水溶性・不溶性のものがバランス良く含まれており、その量はゴボウの約2倍にもなります。さらに、さつまいもを切った際に出てくる白い液体の成分である「ヤラピン」が、腸の働きを活発にし、便秘解消を助ける効果があると言われています。これらの効果から、大腸がんの予防や、糖尿病、高血脂症、高血圧などの生活習慣病予防への効果も期待されています。近年では、抗酸化作用や糖の吸収を穏やかにする効果、脂肪の蓄積を抑制する効果などが期待される「クロロゲン酸」などの成分も豊富に含まれていることが明らかになり、サツマイモの健康効果が改めて注目されています。ビタミン類は、ビタミンB12、ビタミンDを除いてバランス良く含まれており、特にビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンE、ビタミンA、葉酸などが豊富です。果肉がオレンジ色の品種はβ-カロテンなどの色素成分を多く含み、紫色の品種はアントシアニンを含んでいます。ミネラル類では、余分な塩分を排出する作用があるカリウム、鉄欠乏性貧血の予防に不可欠な鉄、赤血球の生成を助ける銅、性ホルモンの合成を助ける亜鉛などが豊富に含まれています。サツマイモは一度に食べる量が多くなりがちですが、栄養面では多くの野菜を摂取したのと同様の効果が期待できます。ただし、一般的なサツマイモに含まれるβ-カロテンの量はそれほど多くなく、エネルギー量も高めであるため、肥満が気になる方は摂取量に注意が必要です。サツマイモの塊根の約8割はデンプンで構成されており、良質なエネルギー源となりますが、そのうち1〜2割は消化されずに残ります。サツマイモを食べるとおならが出やすくなるのは、この消化されずに残ったデンプンが食物繊維として働くためと考えられており、健康維持に重要な役割を果たしています。単位面積あたりのカロリーベースでの収量は米を上回りますが、栄養面、特にタンパク質の含有量においては米に劣る点が挙げられます。

効果的な調理法と下処理

さつまいもは、焼いたり、蒸したりしてそのまま食べるだけでなく、煮物、汁物、揚げ物、炒め物など、様々な料理に活用できます。また、スイートポテトや大学芋などのスイーツや、裏ごししてポタージュにするなど、幅広い調理法で楽しまれています。特に、60〜70℃程度の温度でじっくりと加熱することで、デンプンを糖に分解するアミラーゼの働きが活発になり、甘みが増します。焼き芋や蒸し芋は、この特性を利用し、甘みを最大限に引き出す調理法と言えます。また、蒸した後に天日干しにして干し芋に加工されることも多くあります。イモ類は、ポリフェノール化合物による変色(褐変)を起こしやすく、酵素であるポリフェノールオキシダーゼも含まれているため、切断面を水や薄い塩水に浸すことで褐変を防ぎ、アク抜きを行います。栗きんとんなどを作る際には、色良く仕上げるために、皮の内側の薄い筋がある部分まで、皮を厚めに剥いて使用されます。皮が黒く変色している部分は、強い苦味を持つ有害な成分が含まれている可能性があるため、完全に取り除く必要があります。焼き芋の場合は丸ごと使用されますが、皮ごと煮物や天ぷらにする場合は乱切りに、炒め物や大学芋にする場合は皮付きのまま角切りや半月切りに、フライなどの揚げ物にする場合は太めのスティック状にカットして使用するのが一般的です。

適切な保存方法

適切に保存することで、さつまいもは長期間美味しくいただくことができます。さつまいもは低温に弱い性質を持つため、冷蔵庫での保存は避けるべきです。保存する際は、乾燥したさつまいもを新聞紙やキッチンペーパーで丁寧に包み、風通しの良い冷暗所に置くのが理想的です。具体的には、13〜15℃程度の温度と85〜90%程度の湿度を保ち、直射日光が当たらない場所が適しています。旬の時期に収穫されたさつまいもであれば、この方法で約3ヶ月ほど保存することが可能です。冷蔵庫のような低温環境に長期間置くと、腐敗の原因となることがあるため注意が必要です。農家が種芋を保存する場合は、地面に穴を掘り、その中で貯蔵する「土中貯蔵」という方法を用いることがあります。乾燥させた芋を株ごと穴に入れ、藁をかぶせ、さらに籾殻や土をかけて覆います。空気の通り道を確保するためにパイプ状のものを差し込み、適切な温度と湿度を維持することで、長期間の保存を可能にします。

食中毒のリスクと注意点

さつまいもは、害虫やカビの一種であるFusarium属の菌から身を守るために、苦味成分であるフラノ類(イポメアマロン、イポメアニン、イポメアノール類)を生成することがあります。この状態は「甘藷黒斑病」と呼ばれ、さつまいもの表面が黒緑色から黒色に変色するのが特徴です。これらの生成物には肝臓や肺に毒性があり、牛に重度の出血、間質性肺炎、肺水腫などの症状を引き起こし、中毒死に至る事例も報告されています。そのため、甘藷黒斑病にかかったさつまいもは、人間が食用とするのはもちろん、家畜の飼料としても使用できません。また、この苦味物質は焼酎に加工した場合でも、蒸留の過程で焼酎に移行する可能性があるため、加工用としても適さないとされています。

原料・飼料としての利用

さつまいもは、食材としてそのまま食べるだけでなく、様々な加工品の原料や、動物の飼料としても幅広く利用されています。

デンプン原料としての利用

さつまいもから抽出されるデンプンは、水飴やブドウ糖などの製造に用いられます。また、沖縄県では、さつまいも由来のデンプンが「イムクジ(芋くず)」という名称で販売されており、希少で高価な葛粉の代替品として利用されています。一般家庭でも、料理のとろみ付けや凝固剤として、片栗粉やコーンスターチの代わりに使われることがあります。

焼酎原料としての活用

サツマイモは、焼酎造りの原料としても重宝されています。特に、サツマイモを主な原料として造られる焼酎は「芋焼酎」と呼ばれ、鹿児島県や宮崎県を中心に生産されています。デンプンを糖化させるための原料として、米と並んでサツマイモが用いられることもあります。鹿児島では江戸時代から芋焼酎が造られており、自家醸造が法的に禁止されるまでは、各家庭で広く親しまれていました。そのため、鹿児島では「美味しい焼酎を造れる女性は良き主婦である」と言われるほど、生活に根付いていたようです。当時の製法は、サツマイモを蒸した後、木製の杵で丁寧に潰し、水を加えて2〜5日間ほど寝かせ、そこに麹を加えて発酵させた醪を、ツブロ式蒸留器で蒸留するというものでした。近年、焼酎人気が高まったことで、サツマイモが不足する事態も発生しました。また、中小建設業者が経営の多角化として、コガネセンガン(黄金千貫)の栽培に乗り出す事例も見られます。中国の白酒の中にも、サツマイモを原料とした商品が存在します。

希少な芋蜜(あめんどろ)の伝統と革新

鹿児島県の南薩地方と大隅地方には、「あめんどろ」と呼ばれるサツマイモをじっくり煮詰めて作る芋蜜が、昔から受け継がれてきました。しかし、伝統的な製法を守り続けてきた最後の職人が廃業し、その技術が失われかけるという危機に瀕しました。近年、その伝統を受け継ぐ後継者が現れ、全国への展開を目指し、新たな道を切り開いています。

加工に適した品種開発

食用として広く親しまれている「紅あずま」や、紫色の果肉が特徴的な「アヤムラサキ」、焼酎専用品種として開発された「ジョイホワイト」など、多様な品種が加工用として利用されています。品種改良においては、耐病性、単位面積あたりの収穫量、デンプンの含有率、そして貯蔵性の向上に重点が置かれています。これらの他にも、様々な品種がそれぞれの用途に合わせて栽培されています。

飼料としての可能性

サツマイモは、家畜飼料として豚に与えられることもあります。特定のブランドでは、豚にサツマイモを与えることを義務付けているケースも見られます。そのようにして育てられた千葉県産の「いも豚」は、獣臭が少なく、脂身が甘く、口の中でとろけるような食感が特徴です。特定のブランド豚の定義では、肥育後期の飼料において、20%のサツマイモを含有することを定めている例もあります。

バイオ燃料としての可能性

サツマイモは、不毛な土地でも生育しやすく、豊富なデンプン質を含むことから、バイオエタノールの資源としての価値が注目されています。特に第二次世界大戦中、日本では航空燃料の不足を補うため、バイオエタノール製造の研究が行われました。現代においても、環境意識の向上と将来的な化石燃料枯渇を見据え、バイオ燃料としての利用研究が積極的に進められています。

まとめ

サツマイモは、メキシコを中心とした熱帯アメリカが原産であり、祖先種であるトリフィーダから進化し、世界各地へと伝播しました。その名前は、甘さに由来する「甘藷(かんしょ)」や、薩摩を経由して広まったことにちなむ「薩摩芋(さつまいも)」など、多様な呼び名が存在します。サツマイモの歴史は、食料としての重要性、人々の知恵、そして地域の文化が織りなす物語であり、その多様な利用方法は現代社会においても進化を続けています。

質問:さつまいもの原産地はどこですか?

回答:サツマイモの原産地は、メキシコを中心とした熱帯アメリカ地域です。この地域には、サツマイモが属するヒルガオ科の野生種が豊富に存在しており、日本の研究者によってトリフィーダ (Ipomea trifida G.Don.) という植物が祖先種であることが明らかにされています。

質問:日本におけるサツマイモの歴史はいつから始まったのですか?

回答:サツマイモが日本に初めて渡来したのは1597年、宮古島であるという説がありますが、定説ではありません。確かな記録としては、17世紀初頭に中国の福建省から琉球王国に伝わり、1605年には栽培が開始されたとされています。その後、1609年以降に薩摩藩へと伝わり、主に九州地方で栽培が広まりました。

質問:江戸時代、関東地方にサツマイモの栽培を普及させたのは誰でしょうか?

回答:江戸時代中期、蘭学者の青木昆陽が関東地方におけるサツマイモ普及に大きく貢献した人物として知られています。彼は1735年に薩摩藩から種芋を取り寄せ、小石川御薬園にて試験栽培を行い、その栽培方法を詳細に記録した「蕃薯考」という文献を著しました。
さつまいも