スペルト小麦とは
スペルト小麦、その名前を聞いたことはあるでしょうか。近年、健康志向の高まりとともに注目を集めているこの古代小麦は、現代の私たちに多くの恵みをもたらしてくれています。スペルト小麦は、英語で「Spelt」と呼ばれ、一般的な小麦とは異なる特徴を持っています。この記事では、スペルト小麦の起源や栄養価、食べ方などについて詳しく探っていきます。さあ、一緒にスペルト小麦の魅力を発見しましょう!
スペルト小麦とは?
スペルト小麦は、9,000年以上前からヨーロッパや中東で栽培されてきた古代小麦の一種です。現在世界で主流となっているパン小麦(普通小麦)の原種とも言われており、独特のナッツのような風味と食感が特徴です。
近年、健康志向の高まりとともにスペルト小麦に注目が集まっていますが、収穫量が普通小麦の半分ほどしかなく、日本では栽培や脱穀のハードルも高いため、生産農家も少ない希少な小麦となっています。また、パン屋での利用も欧米と比べると非常に少ないのが現状です。
スペルト小麦は水和しやすい性質上、生地がべたつきやすくすぐにダレてしまうため、製造には高い技術が求められます。さらに、外皮が大きく剥がれるため、製粉の際にも手間がかかります。しかし、スペルト小麦には優良な油脂分が多く含まれ、普通小麦にはないコクと深みのある味わいが魅力です。イタリアではファッロ、ドイツではディンケル、スイスではスペルツと呼ばれ、各地で親しまれています。
古代から受け継がれてきたスペルト小麦は、栄養価が高く、独特の風味を持つ貴重な食材であり、現代の健康志向にマッチした存在として注目を集めています。
スペルと小麦は栄養価が高く、低GI
スペルト小麦は、現代の普通小麦と比べて栄養価が高いことで注目されています。スペルト小麦には、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの重要な栄養素が豊富に含まれており、特に硫黄、カリウム、ニコチン酸(B3)、ピリドキシン酸(B6)、βカロチンの含有率が高いことがデータで確認されています。これらの重要な栄養素は、スペルト小麦の内部の胚乳に多く含まれているのが特徴です。一方、現代の普通小麦は、重要な栄養素の多くが外皮周辺に集中しており、精白によってほとんどが除去されてしまいます。
また、スペルト小麦は低GI炭水化物であり、デンプンの形状が血糖値の上昇を抑える働きがあります。普通小麦に比べて、スペルト小麦のデンプンはゆっくりと分解されるため、血糖値の急激な上昇を防ぐことができます。これは、糖尿病患者や血糖値の変動が気になる人にとって好ましい特性です。さらに、血糖値の急上昇を抑えることで、精神的な安定にもつながる可能性があります。
世の中には、全粒粉を使用すれば普通小麦でも同様の栄養価が得られるという趣旨の記事もありますが、実際に全粒粉100%の小麦製品はごくわずかです。多くの普通小麦製品は精白されており、重要な栄養素が失われています。そのため、スペルト小麦は、健康的な食生活を送るための優れた選択肢の一つと言えるでしょう。
なぜ普通小麦(グルテン)はよくないと言われるのか?
近年、小麦製品、特にグルテンに対する懸念が高まっています。グルテンとは、小麦を水で練ったときに生成される、風船のように膨らむ性質を持ったタンパク質のことです。グルテンは、弾力性のある「グルテニン」と伸展性のある「グリアジン」という2つの成分から成り立っており、これらが適度なバランスで存在することで、パン生地が膨らみやすくなります。
現代の普通小麦には多くのグルテンが含まれており、白くてふわふわの食パンや菓子パンなどは、このグルテン量の多い小麦を使用しています。一方、スペルト小麦のグルテンは普通小麦とは性質が異なり、生地が伸びやすいものの形が保ちにくいという特徴があります。
では、なぜ近年グルテンが問題視されるようになったのでしょうか?その理由は、グルテンの成分の一つである「グリアジン」が、多くの不調や症状の原因物質とされているからです。グルテン関連の障害は、自己免疫系のセリアック病やグルテン失調症、非自己免疫・非アレルギー系の原因不明の失調症や非セリアック・グルテン過敏症、そしてアレルギー系の食物アレルギーに分類されます。
セリアック病は、グルテンに対する免疫反応により小腸に損傷を受ける自己免疫疾患で、日本でも人口の約7%が罹患していると推定され、50年前の4倍に増加しています。非セリアック・グルテン過敏症の人も、グルテンを摂取すると腹部不快感や疲労などの症状が現れます。
ただし、グルテンを含む食品の過剰摂取は、誰にとっても健康的とは言えません。精製された小麦製品は糖質が多く栄養価が低いためです。一方、全粒粉などの全粒穀物は食物繊維やミネラルが豊富で、バランスの取れた食生活に取り入れることが推奨されています。個人の健康状態や体質に合わせて、小麦製品の摂取を調整することが賢明でしょう。
スペルト小麦は小麦アレルギーを発症しにくい?
スペルト小麦は、古代から品種改良をほとんど受けていない古代小麦の一種であり、近年、小麦アレルギーや小麦不耐症の人々から注目を集めています。近代の品種改良された小麦とは異なり、スペルト小麦はアレルギー症状が発症しにくいと言われています。欧州での経験値によると、小麦アレルギーを持つ人の85~90%がスペルト小麦で発症していないとのことですが、これは個人差がある可能性があります。
スペルト小麦にはグルテニンやグリアジンが含まれているため、グルテンフリーではありません。小麦アレルギーを持つ人は、医師のアドバイスを受けることが重要です。また、普通小麦で不調が出る人の中には、グルテンではなく、果糖の一種である「フルクタン」が原因である場合もあります。これは過敏性腸症候群等の症状につながることがあります。
スペルト小麦は、パン小麦と比べて「フルクタン」の含有量が少ないという特徴があるため、フルクタンに敏感な人にとっては負担を軽減できる可能性があります。さらに、乳糖発酵を含む酵母による長時間の発酵により、フルクタン量を低下させることができるようです。
「緑の革命」と小麦
1960年代に開発途上国で起こった農業技術の飛躍的な進歩を「緑の革命」と呼びます。この革命は、ロックフェラー財団とアメリカの農学者ノーマン・ボーローグらによって主導され、品種改良と化学肥料の大量使用により、穀物の大量増産を達成しました。特に小麦の品種改良では、日本の農林10号とメキシコの品種を交配することで、背丈が低く、あらゆる気候に対応でき、短期間で収穫できる多収量品種が開発されました。
この「緑の革命」による小麦の増産は、世界各地の食料危機を回避し、ボーローグはノーベル平和賞を受賞しました。しかし、多収量品種は化学肥料や農薬を大量に必要とするため、環境への負荷増大や貧富の差拡大などの問題点も指摘されています。
また、短期間で多くの品種と交配を繰り返すことで、小麦の遺伝子が大きく変化し、グリアジン量が増加したとも言われています。現在、世界中の小麦のほとんどがこの品種改良小麦を基に派生しており、日本の普通小麦も例外ではありません。
近年、日本では高グルテンの品種が次々に研究され、広まっていますが、グルテンを増やし収量を上げるためには、大量の化学肥料と農薬の投入が前提となります。高グルテン小麦は、セリアック病やグルテン関連障害につながる可能性も高まるため、注意が必要です。
「緑の革命」がもたらした小麦の増産は、功罪相半ばするものの、現在でも世界の食糧安全保障に貢献し続けています。しかし、「甘くてふわふわのパンこそが正しいパンのあり方」という固定観念と無知からくる誤解を取り払うことが重要です。
スペルト小麦は大量生産には向かない。でも。
スペルト小麦は、現代の大規模農業には適さない古代小麦の一種です。普通小麦と比べると収穫量が半分ほどしかなく、脱穀作業も手間がかかるため、大量生産は難しいのです。
しかし、スペルト小麦の厚い皮殻は、汚染物質や虫から内部の穀粒を守ってくれます。そのため、化学肥料や除草剤、殺虫剤などの農薬をほとんど使用せずに栽培することが可能なのです。また、根が長いため、養分や雨不足などの外的な被害にも強いという特長があります。
さらに、スペルト小麦は栄養価が高く、独特の風味を持っていることから、健康志向の消費者や美食家から注目を集めています。グルテン含有量が通常の小麦よりも低く、消化しやすいのも特長です。ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富で、現代人に不足しがちな栄養素を補ってくれます。香ばしくナッティな味わいは、パンやパスタ、クッキーなどの製品に深みを与えます。
スペルト小麦の利点は、収量の少なさや価格の高さといった欠点を補って余りあるのではないでしょうか。大量生産は難しくても、その魅力は少量生産の価値を十分に証明しているのです。立場の違いによる様々な賛否の見解がありますが、これも多数ある論文の一部を切り取ったにすぎないと考えられます。作者の所属機関や出資元など、背景にも注目する必要があるでしょう。
まとめ
スペルト小麦は、現代人の健康をサポートする素晴らしい食材です。豊富な栄養価と独特の風味を持つスペルト小麦を取り入れることで、私たちの食生活はより豊かになるでしょう。古代から受け継がれてきたこの小麦の恵みを、ぜひ日々の食卓で味わってみてください。