ショートケーキは、甘美なデザートとして世界中で愛されていますが、その名前や歴史にどのような背景があるのでしょうか。一般的にはスポンジケーキに新鮮なイチゴとクリームを盛り付けたものとして知られていますが、実はその起源には地域や時代を超えた異なるエピソードが秘められています。今回の特集では、ショートケーキの語源を探り、その歴史的背景と変遷を紐解きながら、私たちが愛してやまないこのデザートのルーツを明らかにします。
サマリー
日本で親しまれているショートケーキは、スポンジとクリームが層を成し、その上にイチゴなどが飾られたケーキの種類です。このスタイルのケーキは、英語圏ではレイヤーケーキとして知られています。
起源
1588年に登場したイギリスの料理書「English's Cookbook」には、今日世界中で親しまれているショートケーキの起源が記されています。イギリス式ではスポンジケーキだけでなくビスケットも使用され、フルーツはイチゴに限定されず、リンゴやオレンジ、レモン、ブルーベリーなどが採用されます。1602年には、イギリスの植民地だったアメリカがショートケーキ文化を受け入れ、パンやクッキーも取り入れた生地が使われ、フルーツ味のソーダジュースが生クリームに加えられるようになりました。
このようにして、イギリス式、アメリカ式、そして日本式のショートケーキは、それぞれまったく異なる存在へと進化していきました。
ショートケーキの文化は英語圏で普及していますが、フランス、イタリア、ドイツなど他のヨーロッパ諸国では一般的ではなく、イチゴを用いたケーキが各国に存在しています。
言葉の由来
「ショート」という言葉の起源には複数の説が存在しています。
1996年に発刊された『料理食材大事典』では、「ショートケーキ」の「ショート」は元々サクサクした食感を示す用語でクッキーに使われていたとされています。今日ではこの言葉は、スポンジケーキを生クリームやフルーツで簡単に作れることから、「ショート・タイム」という意味でも解釈されています。
アメリカ風ショートケーキ
不二家説に基づくと、日本のショートケーキは、アメリカで親しまれているショートケイクを独自にアレンジしたものと考えられています。アメリカのショートケイクは、ビスケットのような食感を持つベースを使用する点が、日本のそれとは異なります。小麦粉にショートニングやラードを加え、重曹とベーキングパウダーで膨らませたこのビスケットは、外側がサクサクして内側がふっくらとしています。イギリスのスコーンに似ていますが、より軽い口当たりが特徴です。甘くしたビスケットを半分に切り、砂糖をまぶしたイチゴを挟み、さらにその上にイチゴやホイップクリームをのせることが一般的です。19世紀頃には、クッキーとパイ生地の中間のようなものを使用していました。アメリカの都市部の一部カフェやベーカリーでは、日本式のスポンジケーキにホイップクリームとイチゴを合わせたものをストロベリー・ショートケイクと呼ぶこともあります。その由来には、日本式ショートケーキが逆輸入され、都市部で普及したという説もあります。
フレンチスタイルのショートケーキ
フランスには「ショートケーキ」という言葉はなく、「イチゴケーキ」は一般的に知られています。日本の洋菓子店で「本格フランス菓子」として提供されるショートケーキは、多くの場合、フランス風のスポンジケーキとして知られるフレジエです。フランスのイチゴケーキは、通常、イチゴをはさみ、ピンク色のマジパンで表面が覆われているのが特徴です。苺とバニラを組み合わせたムース状のケーキは、フレーズ・バニーユとして親しまれています。
日本風ショートケーキ
日本でよく見られるケーキの一つに、スポンジケーキをベースにし、ホイップクリームで仕上げられたイチゴケーキがあります。通常「ストロベリーショートケーキ」と呼ばれますが、一般には単に「ショートケーキ」として親しまれています。イチゴの代わりにバナナや桃などを用いる場合、それに応じて「バナナショートケーキ」や「ピーチショートケーキ」といった名前が付けられます。海外でもこの種のケーキは知られており、「Japanese (style) Strawberry Shortcake」といった名称で呼ばれることもあります。国内では、このショートケーキはケーキショップやカフェで非常に人気が高く、欠かせないアイテムとなっています。
アイデアの創造者
日本で初めて「スポンジケーキ+ホイップクリーム+イチゴのケーキ」を紹介し、広めたのは大正時代の不二家ですが、誰が発案したのかは明確ではありません。
考えられている説としては、フランス菓子を日本風にアレンジした門倉国輝(コロンバン創業者)に関するものや、アメリカのケーキをベースにアレンジした不二家の説などがあり、これらの間には交流があったとされています。背景には、フランスやアメリカ式のショートケーキが日本人の「洋菓子は高級だ」という感覚に合わなかったことや、日本人がやわらかい食感を好んでいたことが挙げられます。そして、そのために(不二家によると最初に不二家が)スポンジケーキをビスケットの代わりに使うようになったとされています。この日本独自のショートケーキの誕生に関する事情は、吉田菊次郎(ブールミッシュ創業者)の「西洋菓子彷徨始末」(朝文社、2006年)で客観的に記録されています。
不二家がこのショートケーキを販売し始めたのは1922年であり、発案者が誰であっても、それに近い時期に発想されたと考えられます。そして、このショートケーキが日本に広く浸透するのは、家庭に冷蔵設備が普及した1955年以降、30年余りが経過してからのことです。
ショートケーキの記念日
近年、日本の一部の菓子業界では、毎月22日を「ショートケーキの日」として広める動きがあります。
この慣習は2007年に仙台市の洋菓子店「カウベル」が考案したものとして知られています。カレンダーの一般的な7日1列の配置では、どの月も22日の真上には15日が位置しています。これが、日本のショートケーキのイメージである「上にイチゴが乗っている」ことに由来しています