青森の郷土料理「せんべい汁」は、八戸市周辺で愛される、鍋料理とは一線を画す独特な存在です。専用の「かやき煎餅」を、鶏や魚介の出汁が染み込んだ醤油ベースのスープで煮込むのが特徴。ごぼうや人参、きのこなどの具材と共に煮込まれた煎餅は、まるで「すいとん」のようなモチモチとした食感に変化し、旨味をたっぷり吸い込みます。今回は、そんな奥深い味わいのせんべい汁を、ご家庭で手軽に楽しめる本格レシピをご紹介。寒い日にぴったりの、心も体も温まる一杯をぜひお試しください。
せんべい汁の概要と特徴
せんべい汁は、青森県八戸市とその周辺地域で昔から愛されてきた、地元ならではの料理です。最大の特徴は、普通の鍋料理とは違い、せんべい汁のためだけに作られた「かやき煎餅」(おつゆ煎餅、鍋用煎餅とも呼ばれます)を使うことです。この特別な南部煎餅を手で割り、鶏肉や魚介類でとった醤油ベースのスープ(味噌ベースの場合もあります)に入れて煮込みます。具材は、ごぼう、にんじん、きのこ、ネギといった季節の野菜や、鶏肉、イカ、ホタテなどがよく使われます。スープを吸った煎餅は、まるで「すいとん」を硬くしたような、または「麸」のような、独特のもちもちとした食感になります。この食感と、スープの旨味が凝縮された味が、多くの人に好まれています。「八戸せんべい汁」としてブランド化が進められ、地域外へのアピールも盛んに行われています。
せんべい汁と「すいとん」料理の歴史的背景
せんべい汁は、煎餅以外の材料やスープが、小麦粉を練って作る「すいとん」に似ています。これは、この地域を含む日本の北部が、昔から冷害で米が不作だったことと関係があります。特に江戸時代には、冷害対策として小麦やそばがよく作られました。そのため、小麦粉を使った料理が各地で発展し、青森県と岩手県北部にあたる南部藩の「ひっつみ」や、秋田県の「はっと」、宮城県北部の「つめり」といった「すいとん」が家庭料理として広まり、後に地元の名物になりました。せんべい汁は、すいとんの代わりに、保存がきく煎餅を使った料理として生まれたと考えられています。また、同じ小麦粉を使い、宮城県北部で食べられている、小麦粉を練って揚げた「油麩(仙台麩)」も、スーパーを通して名物になった例があり、保存食を使った郷土料理の発展という点で共通しています。「八戸せんべい汁」としてPRされるようになったのは、2002年の東北新幹線八戸延伸がきっかけで、比較的最近のことです。
せんべい汁の分布と提供店舗
八戸せんべい汁は、名前の通り八戸市を中心に親しまれていますが、周辺地域や都市部でも食べることができます。八戸せんべい汁研究所が2003年から行っている調査では、2008年の調査でせんべい汁を提供している店は約200軒ありました。そのうち約160軒は「八戸せんべい汁ガイドマップ '08年版」に載っており、地元での人気の高さがうかがえます。地域別に見ると、八戸市内に135軒、青森県内に12軒、岩手県内に2軒、宮城県内に1軒あります。さらに、東京などの関東地方に7軒、大阪などの関西地方にも1軒あり、八戸以外でもせんべい汁を楽しめることが分かります。これらのことから、せんべい汁は地域限定の料理ではなく、広く知られていることが分かります。
八戸せんべい汁の歴史と名物化への歩み
せんべい汁は、江戸時代の終わり頃、1804年から1818年頃に、現在の青森県八戸市を中心とする地域で生まれたと言われています。その後、200年以上もの間、家庭料理として受け継がれてきました。しかし、「八戸せんべい汁」として全国的に有名になるには、地域振興とPR活動が欠かせませんでした。きっかけは、2002年の東北新幹線八戸駅開業と、2003年に開催された国民文化祭でした。これらのイベントを前に、1999年に八戸商工会議所の委員会が「八戸観光開発プラン」を作り、2000年にはその推進のため特別委員会を設置しました。2001年には、官民一体となった実行委員会が発足し、郷土料理の開発や特産品の企画、ウェブサイトでの情報発信など、「食文化創造都市・八戸」を目指して様々な活動を行いました。これらの活動が、せんべい汁を地域の名物にするための土台となりました。
「八戸縄文なべ祭り」と初期のPR活動
せんべい汁の魅力を広く伝えるため、2000年(平成12年)より、八戸市では秋に「八戸縄文なべ祭り」が開催されるようになりました。この祭りのために、直径3メートルにも及ぶ巨大な鉄製「縄文なべ」が3基も作られ、その費用は総額2830万円に達しました。祭りでは毎年、約3000食ものせんべい汁が訪れた人々に提供され、地域の味としてのせんべい汁の知名度アップに大きく貢献しました。この縄文なべ祭りは2004年(平成16年)に幕を閉じましたが、その後の八戸せんべい汁の発展に繋がる、初期の重要なPR活動となりました。
「八戸せんべい汁研究所」の設立とB-1グランプリでの躍進
2003年(平成15年)には、せんべい汁の普及と研究を目的とした専門組織「八戸せんべい汁研究所」が誕生しました。この研究所は、せんべい汁の商品開発を促進し、さらに「B-1グランプリ」などの地域活性化イベントを通じて、地元以外でも広く知られる郷土料理へと成長させる原動力となりました。特に2006年(平成18年)には、八戸せんべい汁研究所が中心となり、八戸市で全国各地のご当地グルメが集まる「B-1グランプリ」が初めて開催され、この食の祭典で八戸せんべい汁は大きな注目を集めました。同年9月には公式応援歌も発表され、さらに同年から2007年(平成19年)までの期間限定で、セブン-イレブンの東北・関東・甲信越・静岡エリアの約530店舗で八戸せんべい汁が販売されるなど、その名声と人気は全国へと広がりました。B-1グランプリは「競争色を抑えたお祭り」という側面もありましたが、八戸せんべい汁が全国に紹介され、その魅力を発信するまたとない機会となりました。そして、この活動が実を結び、2012年(平成24年)の「B-1グランプリ」第7回大会において、八戸せんべい汁研究所は見事ゴールドグランプリに輝き、全国的な郷土料理としての地位を確立しました。
郷土料理としての認定と未来への継承
八戸せんべい汁の価値は、数々の公的な認定によっても証明されています。2007年(平成19年)には、農林水産省が主催する「農山漁村の郷土料理百選」に、青森県の郷土料理として「いちご煮」と共に選ばれました。これは、せんべい汁が単なるご当地グルメではなく、日本の食文化において重要な位置を占める伝統料理として国に認められたことを意味します。さらに、2022年には文化庁の「100年フード」にも認定され、世代を超えて受け継がれるべき食文化としての価値が改めて評価されました。これらの認定は、せんべい汁が持つ歴史的背景、地域との繋がり、そして独特な食文化が、未来へと受け継がれていくべき重要性を示しています。
八戸せんべい汁公式応援ソング
八戸せんべい汁のPR活動の一環として、2006年(平成18年)には、その魅力をより多くの人々に届けるためのオフィシャル応援ソングが制作・販売されました。この公式ソングは、せんべい汁の認知度向上と地域への愛着を深めることを目指し、地元のイベントやプロモーション活動で活用されています。具体的なアーティスト名や曲名はここでは触れられていませんが、このような文化的な側面からのアプローチも、「食文化創造都市・八戸」の象徴としてのせんべい汁を確立する上で重要な役割を果たしました。
出汁を吸ったせんべいの旨みがじゅわ~!独特の食感がクセになる
青森県の郷土料理として知られるせんべい汁は、農林水産省の「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれています。鶏肉や煮干しなどで丁寧に取った出汁に、ごぼう、人参、きのこなど、季節の野菜をたっぷり入れて醤油で味を調えたスープが特徴です。この熱々のスープに、せんべい汁専用に作られた、煮崩れしにくい南部せんべいを割り入れ、じっくりと煮込みます。出汁をたっぷりと吸い込んだ南部せんべいは、まるで「麩」のような、もちもちとした独特の食感に変化します。これがせんべい汁の人気の秘密です。せんべい汁の発祥には諸説ありますが、江戸時代から作られていたという説もあり、その長い歴史が今に伝えられています。現在では、料理用の南部せんべいをすき焼きやお鍋の具材として使うなど、様々なアレンジも楽しまれています。
レシピ協力店「八戸郷土料理 いちい」
東京にいながら八戸の味を楽しめるのが「八戸郷土料理 いちい」です。新橋で昭和58年に創業以来、八戸の食文化を発信し続けている老舗の郷土料理店です。店内では、せんべい汁はもちろん、焼きうに、オイランカレイ、ねぶた漬けなど、八戸ならではの新鮮な食材を使った郷土料理を堪能できます。気さくな八戸出身のオーナーとの会話も楽しみの一つ。料理と共に故郷の温かさを感じられる空間です。八戸の地酒と共に味わえば、さらに八戸の食文化を深く知ることができるでしょう。
「八戸郷土料理 いちい」店舗情報
「八戸郷土料理 いちい」は、東京都港区西新橋1-10-5に店を構えています。都営三田線 内幸町駅から徒歩3分、東京メトロ銀座線 虎ノ門駅から徒歩5分とアクセスも抜群です。営業時間は17:00~23:00、平均予算は3,000円程度。東京で本格的な八戸の郷土料理を味わいたい方におすすめです。
せんべい汁ってどんな料理?
青森県八戸地方の郷土料理で、鶏や豚、野菜などからとった出汁に、独特の「かやきせんべい」を割り入れて煮込んだ汁物です。醤油ベースの素朴な味わいが特徴で、体の温まる一品として親しまれています。
せんべい汁の作り方のポイントは?
美味しいせんべい汁を作るには、出汁をしっかりとることが重要です。鶏ガラや豚肉、昆布などを使って丁寧に下ごしらえしましょう。また、せんべいは煮崩れしにくい「かやきせんべい」を使用するのがおすすめです。煮込みすぎると溶けてしまうので、食べる直前に加えるのがコツです。
どんな具材が合うの?
せんべい汁には、鶏肉や豚肉のほか、ごぼう、人参、舞茸、ネギなど、様々な具材がよく合います。季節の野菜やきのこをたっぷり加えて、自分好みの味にアレンジするのも楽しいでしょう。豆腐や油揚げなどを加えても美味しくいただけます。
せんべい汁専用のせんべいはどこで手に入る?
せんべい汁専用の「かやきせんべい」は、青森県内のスーパーや道の駅などで手軽に購入できます。最近では、インターネット通販でも取り扱っているお店が増えてきました。お土産屋さんなどでも見かけることが多いので、ぜひ探してみてください。
青森の郷土料理「せんべい汁」とは?
青森県南部地方の郷土料理である「せんべい汁」は、鶏肉や豚肉、野菜、きのこなどと一緒に、専用の「かやきせんべい」と呼ばれる南部せんべいを煮込んだ汁物です。醤油ベースの出汁を吸ったせんべいの独特な食感が特徴で、青森県民にとっては馴染み深い家庭料理の一つです。近年では、B級グルメとしても注目を集めており、県内外のイベントや飲食店で提供される機会も増えています。
せんべい汁の作り方:基本のレシピ
ご家庭で簡単にせんべい汁を作るための基本的なレシピをご紹介します。材料や調味料はお好みで調整してください。
材料(4人分)
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かやきせんべい: 8枚
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鶏もも肉: 200g
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ごぼう: 1/2本
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長ネギ: 1本
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舞茸: 1パック
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だし汁: 800ml
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醤油: 大さじ4
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みりん: 大さじ2
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酒: 大さじ1
作り方
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鶏もも肉は一口大に、ごぼうはささがきに、長ネギは斜め切りに、舞茸は食べやすい大きさにほぐします。
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鍋にだし汁を入れ、鶏もも肉、ごぼう、長ネギ、舞茸を加えて火にかけます。
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沸騰したらアクを取り、醤油、みりん、酒を加えて味を調えます。
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かやきせんべいを4等分に割り、煮汁に加えて5分ほど煮込みます。
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せんべいが柔らかくなったら火を止め、器に盛り付けて完成です。
せんべい汁を美味しく作るためのポイント
より美味しくせんべい汁を作るためのポイントをいくつかご紹介します。
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せんべいは煮込みすぎない: せんべいを煮込みすぎると溶けてしまうため、5分程度を目安に煮込みましょう。
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お好みの具材を加える: 鶏肉や豚肉の代わりに、牛肉や魚介類を加えても美味しくいただけます。また、白菜や人参などの野菜を加えても良いでしょう。
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出汁にこだわる: 出汁は、昆布とかつお節で丁寧に取ると、より風味豊かなせんべい汁になります。
アレンジレシピ:オリジナルせんべい汁に挑戦!
基本のレシピをベースに、様々なアレンジを加えることで、オリジナルのせんべい汁を楽しむことができます。
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カレーせんべい汁: カレールーを加えて、スパイシーなカレーせんべい汁に。
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味噌せんべい汁: 味噌を加えて、コクのある味噌せんべい汁に。
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トマトせんべい汁: トマト缶を加えて、イタリアン風のトマトせんべい汁に。
ぜひ、色々なアレンジに挑戦して、お好みのせんべい汁を見つけてみてください。