乳アレルギーは、乳幼児期に多く見られる食物アレルギーの一つで、牛乳や乳製品に含まれる特定のタンパク質が原因で起こります。症状は皮膚のかゆみから呼吸困難まで様々で、重症化するとアナフィラキシーショックを引き起こすことも。この記事では、乳アレルギーの原因、症状、診断方法、治療法を詳しく解説します。さらに、日々の食事で乳製品を避けるための対策や、代替食品の選び方など、日常生活で役立つ情報も満載。乳アレルギーを持つお子さんやご家族が、安心して生活を送るための完全ガイドです。
乳アレルギーとは?概要と日本での現状
日本における乳アレルギーは、牛乳アレルギーまたはミルクアレルギーとも呼ばれます。乳幼児期の食物アレルギーの原因として、鶏卵に次いで牛乳・乳製品が多いことは広く知られていますが、以前は有病率に関する統一的なデータは限られていました。最近の研究では、年齢層別のより詳細な有病率が明らかにされています。乳幼児の成長に欠かせない牛乳は、主要なアレルゲンの一つでもあり、保護者や医療従事者にとって重要な問題です。
日本における乳アレルギーの有病率の詳細
日本における乳アレルギー(牛乳アレルギー)の有病率は、年齢によって異なります。乳幼児期(0~6歳)では、有病率が0.2~2.1%と報告されており、この時期が食物アレルギーの発症リスクが最も高い期間であることが示唆されています。特に、離乳食の開始とともに牛乳や乳製品に触れる機会が増えるため、この年齢層での発症が多いと考えられます。一方、小中高生になると有病率は0.16~1.3%に低下する傾向があります。これは、成長とともに自然に耐性を獲得する(自然寛解する)子どもが多いことを反映しています。しかし、一部の子どもや成人では乳アレルギーが持続し、生活の質に影響を与えることがあります。これらの数値は、食品安全委員会「アレルゲンを含む食品(牛乳)」からの情報に基づいています。年齢が上がるにつれて有病率が減少する傾向は、乳アレルギーの長期的な管理と経過を考える上で重要な指標となります。
乳アレルギーの原因:主要なアレルゲンとそれぞれの特性
乳アレルギーは、牛乳に含まれる複数のタンパク質によって引き起こされますが、主な原因物質は「カゼイン」と「ホエイ(乳清タンパク質)」です。これらのタンパク質は、それぞれ異なる物理化学的特性を持っており、それがアレルギー反応の現れ方や、調理による影響の違いにつながっています。牛乳タンパク質の約80%を占めるカゼインと、残りの約20%を占めるホエイタンパク質は、それぞれが持つ独自のアレルゲン性が、乳アレルギーの複雑な病態を形成しています。これらの主要なアレルゲンについて深く理解することは、乳アレルギーを持つ人々が安全な食生活を送るために不可欠です。次に、これらの主要な原因物質であるカゼインとホエイ(乳清タンパク質)について、それぞれの詳細な特性とアレルギー反応への影響を詳しく解説します。
乳アレルギーの主な原因物質:カゼインとホエイ(乳清タンパク質)
乳アレルギーを引き起こす原因物質は、牛乳に含まれるタンパク質であり、主に「カゼイン」と「ホエイ(乳清タンパク質)」の2種類が知られています。これらのタンパク質は、牛乳の栄養価を支える重要な成分であると同時に、特定の人々にとってはアレルギー反応を引き起こすアレルゲンとなります。カゼインは牛乳タンパク質の大部分を占め、熱に強く消化されにくい性質を持つため、加工食品においてもアレルギー反応を引き起こしやすいという特徴があります。一方、ホエイは牛乳タンパク質の残りの部分を構成し、β-ラクトグロブリンやα-ラクトアルブミンといった複数の成分から成り立っており、特にβ-ラクトグロブリンは強いアレルゲン性を持つことが知られています。これらのタンパク質の特性を理解することは、乳アレルギーの管理や食品選択において非常に重要です。
カゼインの詳細:牛乳タンパク質の約80%を占める主要アレルゲン
牛乳タンパク質の約8割を占めるカゼインは、乳アレルギーの主要な原因物質として知られています。その特徴は、加熱に対する安定性と、消化のされにくさにあります。高い熱安定性を持つため、牛乳を加熱処理しても、パンやクッキー、保存食品といった加熱された食品に含有されていても、アレルギーを引き起こす可能性が残ります。そのため、生乳だけでなく、多様な加工食品においてもアレルギー反応のリスクが伴います。また、カゼインは消化酵素による分解を受けにくいため、消化器官内で未消化の状態で吸収されやすく、アレルギー反応を誘発する要因の一つとされています。牛乳そのものに加え、チーズ、ヨーグルト、クリーム、アイスクリームといった乳製品や乳製品を加工した食品は、カゼインを多く含みます。これらの食品は日常的に口にする機会が多いため、カゼインアレルギーを持つ方は、食品を選ぶ際に特に注意が必要です。
ホエイ(乳清タンパク質)の詳細:約20%を占める主要アレルゲン
ホエイ(乳清タンパク質)は、牛乳タンパク質の約20%を占める成分で、カゼインと同様に乳アレルギーの主要な原因物質の一つです。ラクトアルブミンとも呼ばれ、主にβ-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、牛血清アルブミン(BSA)などのタンパク質で構成されています。中でも、β-ラクトグロブリンは特に強いアレルギー性を持つことがわかっています。カゼインとは異なり、ホエイタンパク質は一般的に熱に弱い性質があります。そのため、加熱処理によってアレルギー性が低下する場合がありますが、完全に消失するわけではありません。例えば、牛乳を沸騰させるとアレルギー性が弱まることがありますが、個人の体質やアレルギーの程度によっては、加熱されたホエイでも症状が出ることがあります。この熱に弱いという特性が、一部の乳アレルギー患者に、加熱した乳製品なら摂取できる「加熱乳耐性」が見られる理由の一つです。ホエイは、プロテインサプリメントや一部の乳児用ミルクにも含まれていることがあるため、乳アレルギーの方はこれらの製品にも注意が必要です。カゼインと同様に、ホエイも牛乳や様々な乳製品に含まれているため、成分表示をしっかりと確認することが大切です。
乳アレルギーの原因食品とその注意点
乳アレルギーの主な原因となる食品は、牛乳そのものと、牛乳を原料とする様々な加工食品です。日常生活の中で、気づかないうちに乳製品を摂取してしまう可能性があるため、注意が必要です。特にチーズは、牛乳のタンパク質成分が凝縮されているため、牛乳やヨーグルトに比べて、同じ量でも原因となるタンパク質の含有量が非常に多くなります。そのため、ほんの少しの摂取でも重いアレルギー症状を引き起こしやすく、乳アレルギーを持つ人にとっては特に注意すべき食品です。ヨーグルト、バター、アイスクリームなども同様に、乳タンパク質を多く含んでおり、摂取によって症状が現れることがあります。また、パン、クッキー、ケーキなどの焼き菓子、チョコレート、加工肉製品(ソーセージ、ハムなど)、インスタント食品、レトルト食品、調味料(ドレッシングやマヨネーズの一部)など、意外な食品にも乳成分が使われていることがあります。ただし、加工食品の中にはタンパク質の含有量が少ないものもあります。例えばバターは、牛乳を濃縮して作られるため、タンパク質の含有量は牛乳の約1/5程度です。そのため、牛乳を15ml程度摂取できる方であれば、バターに換算すると75g程度摂取できる計算になります。この換算を参考にすれば、一般的な量のクッキー(多くの場合、バターが使用されています)を食べても問題ない場合もあります。ヨーグルトやチーズなども同様に、個人の許容量に合わせて換算し、摂取の可否を判断することができます。これらの食品を選ぶ際には、食品表示法に基づき、特定原材料8品目の一つである「乳」の表示を必ず確認することが重要です。
まとめ
乳アレルギーは、特に小児科の領域でよく見られる食物アレルギーの一つであり、ごく少量でも重いアレルギー症状を引き起こし、場合によっては命に関わるアナフィラキシーショックを起こす可能性のある疾患です。診断は、詳細な病歴の聞き取り、血液検査、皮膚テスト、そして最も確実な食物負荷試験を組み合わせて総合的に行われます。特に乳幼児期には、症状の現れ方や、従来の検査では診断が難しい消化器を中心としたアレルギーもあるため、除去試験や体重増加の観察が重要な診断要素となります。多くの乳アレルギーは、成長とともに自然に治ることが期待されますが、自然に耐性を獲得できない場合には、専門医の指導のもとで経口免疫療法などを慎重に進め、耐性獲得を目指すことが重要な治療選択肢となります。また、離乳食の進め方や加工食品の摂取についても、専門的な知識に基づいた適切な管理が必要です。これらの診断、治療、長期的な管理には専門的な知識と経験が不可欠であるため、乳アレルギーが疑われる場合や、既に診断されている場合は、小児アレルギー科の専門医を受診して、適切なアドバイスと治療を受けることが最も望ましいと考えられます。
大人になっても乳アレルギーが治らないことはありますか?
乳アレルギーは、多くの場合お子さんのうちに症状が軽減される傾向にありますが、残念ながら大人になっても症状が続くことがあります。特に、小さい頃に重いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある場合や、血液検査でIgE抗体の数値が非常に高い場合、加熱した牛乳にも反応してしまうようなケースでは、大人になってもアレルギーが残りやすいと考えられています。大人になってからの乳アレルギーの管理では、引き続きアレルゲンを避ける食事療法を行い、栄養面でのサポートを受けながら、必要に応じて専門医による治療を受けることが大切です。
乳アレルギーの症状が出たら、まず何をすべきですか?
もし乳アレルギーと思われる症状が現れたら、まずは乳製品の摂取をすぐにやめて、症状の変化を注意深く見守ってください。もし、じんましんや咳、吐き気などの比較的軽い症状であれば、慌てずに医療機関を受診しましょう。しかし、呼吸が苦しくなったり、意識がぼんやりしたり、ぐったりするなど、重いアナフィラキシーの兆候が見られる場合は、すぐに救急車を呼び、もしエピペン(アドレナリン自己注射薬)を処方されているのであれば、ためらわずに使用してください。症状が出た時の様子を写真に撮っておくと、診察の際に医師に伝えやすく、とても役立ちます。
乳アレルギーを診断するには、どんな検査がありますか?
乳アレルギーの診断には、いくつかの検査を組み合わせて行います。血液検査では、牛乳のタンパク質に対するIgE抗体の量を測ります(特異的IgE抗体検査)。皮膚プリックテストは、皮膚に牛乳のタンパク質のエキスを少量垂らして、反応を見る検査です。パッチテストは、遅れて症状が出るタイプのアレルギーを調べるのに使われます。そして、最も確実な診断方法として、医師の監督の下で、少しずつ乳製品を摂取して体の反応を観察する食物負荷試験があります。特に、嘔吐や下痢、血便など、消化器系の症状が主な乳アレルギーの場合、細胞性免疫が関わっていることが多く、特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストだけでは診断が難しいことがあります。一方で、牛乳を飲んだ直後に吐いたり、じんましんが出たり、喘息のような症状が出るといった、すぐに症状が現れるタイプのアレルギーが疑われる場合は、特異的IgE抗体検査が診断のヒントになります。検査の結果だけでなく、実際の症状と照らし合わせて、総合的に判断することが重要です。