はんごろし おはぎ
おはぎは、日本のお彼岸の季節に欠かせない伝統的な和菓子です。しかし、徳島県や群馬県の一部の地域では、おはぎを作る際に「半殺し」や「全殺し」といった物騒な言葉が使われていることをご存知でしょうか?この言葉は、実際に怖い意味を持っているわけではなく、おはぎのもち米の状態を表すユーモアたっぷりの表現です。この記事では、「半殺し」「全殺し」という言葉の由来や、それにまつわる民話や落語についてご紹介します。
おはぎを「半殺し(はんごろし)」と呼ぶ人々の謎
「今日はおはぎを半殺しにしてみよう…」そんな意表をついた言葉を発する人々が、徳島県や群馬県の一部地域に存在します。中心となるのは驚くべきことにおばあちゃんたち。とんでもない意味を想像させるこのフレーズ、しかし実際のところは心配無用です。
ここでいう「半殺し」とはおはぎ作りにおける米の扱いを指しています。おはぎはもち米とうるち米を蒸し、丸めながら潰し、あんこをまぶして作り上げます。この際、潰す作業ではもち米をスムーズな状態にまで潰さず、つぶつぶ感を残した状態を「半殺し」と称するのです。
このつぶつぶとしたご飯感がおはぎの魅力の一つですね。滑らかなお餅のような食感とは違い、一風変わった食感を堪能出来ます。しかし、もち米をこのように潰す作業を「半殺しにする」とは一見衝撃的な表現かもしれませんが、実際はその製造過程を表現したもので、聞いた時には思わず微笑ましい気持ちになることでしょう。
おはぎを「全殺し」と呼ぶこともある
おはぎのもち米のつぶし方には「半殺し」だけでなく、「全殺し」という方法も存在します。先ほどの「半殺し」ではごはん粒のつぶつぶ感を残しますが、もち米を完全にすりつぶしてなめらかなお餅にする場合を「全殺し」と呼びます。この状態のお餅にあんこをまぶしたものが「あんころ餅」です。
「あんころ餅」は、そのなめらかな食感と可愛らしい姿で和菓子の中でも人気がありますが、その作り方は「全殺し」という物騒な呼び名を持っています。また、地域によっては「全殺し」だけでなく、「皆殺し」や「本殺し」といったさらに強烈な表現も使われることがあるそうです。このような言葉のチョイスには驚かされますが、和菓子の世界にもユーモアが溢れていることが感じられます。
民話にもなったおはぎの「半殺しと本殺し」
「半殺し」と「本殺し」にまつわる言葉は、東北地方を中心に民話としても語り継がれてきました。地域によって物語の細部は異なりますが、大筋は次のようなものです。
江戸から遠くの地を訪れた主人公が、ある家に泊まることになりました。寝床に入る準備をしていたとき、家の人が「明日は半殺しにしようか、本殺しにしようか」と話しているのを、主人公は偶然耳にします。「自分が半殺しの目に遭うのではないか」と恐怖に震える主人公。しかし、翌朝、待っていたのはおいしいおはぎで、安堵の気持ちに包まれながらそれをいただくという結末です。この物語は、言葉の誤解からくる緊張感と安堵感が魅力的な話となっており、古くから多くの人々に親しまれてきました。
落語でも人気な「半殺し」
落語の演目にも「半殺し本殺し」という題目があり、お彼岸の季節になると寄席などで聴けることがあります。このお話の中では、「半殺し」「本殺し」だけでなく、「手打ち」という言葉も登場します。
江戸時代に「てうち」と聞くと、多くの人は侍が刀で家臣や町人を斬り殺す「手討ち」を連想し、恐怖を感じたことでしょう。しかし、この落語の中での「てうち」とは、「手打ちそば」や「手打ちうどん」のことを指しているのです。言葉の意味を取り違えることで生じる笑いを生み出すこの落語は、江戸時代の文化を今に伝える貴重な演目となっています。
ぼたもちとおはぎの違い
「ぼたもち」と「おはぎ」の違いをご存知でしょうか?これらの和菓子は、実は同じものであり、呼び方が季節によって変わるのです。「ぼたもち」は春のお彼岸に供えられる和菓子で、名前は春に咲く牡丹(ぼたん)の花に由来しています。牡丹の花のように大きく丸く作られるのが特徴です。
一方、「おはぎ」は秋のお彼岸に供えられる和菓子で、名前は秋に咲く萩(はぎ)の花に由来しています。どちらももち米をつぶしてあんこをまぶしたお菓子ですが、季節によって呼び名が変わることで、それぞれの季節を感じることができるのです。
まとめ
「半殺し」や「全殺し」といった物騒な言葉が、おはぎに関連して使われるのは、地域特有のユーモアや言葉遊びから来るものです。もち米をつぶす加減によっておはぎの食感が変わることを表すこれらの表現は、一見怖いように聞こえますが、実際は日本の伝統的な和菓子文化に根付いた温かい言葉遊びの一部です。また、これらの言葉にまつわる民話や落語は、江戸時代から現代に至るまで、人々に笑いや驚きを与え続けています。おはぎを楽しむ際には、このユニークな言葉の背景にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。