ヨーロッパの国々との関係や修道院の伝統的な菓子作りが、フランスの焼き菓子の発展に寄与してきました。普段何気なく食べている焼き菓子には、意外にも深い歴史があります。今回は、フランスが起源の焼き菓子を10種類ご紹介します。
【マカロン】色とりどりの愛らしさ
「マカロン」は、フランスのさまざまな地域で作られてきた焼き菓子で、多くのバリエーションがあります。
日本で広く知られている、パステルカラーの「マカロン・パリジャン」は、比較的新しいタイプです。
このマカロンは、卵白、アーモンドパウダー、砂糖を使った生地を丸く絞り出して焼き、ガナッシュやクリームをサンドして作られます。
その独特の軽やかさを出すためには、卵白を数日から1週間ほど寝かせてからメレンゲを立てることが重要です。
小さくてかわいいこの焼き菓子は、実際には手間ひまをかけて作られているのです。
【カヌレ】日本で大人気のスイーツに
カヌレという鐘の形をした焼き菓子は、日本で90年代に流行し、2020年代に再び人気を博しました。
「カヌレ・ド・ボルドー」が正式名称で、「カヌレ」は「溝がある」という意味を持ちます。
「ボルドー」はフランスの地域名で、ワインの名産地として知られています。ワイン造りの過程で卵白が使われていた時代、余った卵黄を有効活用するために「カヌレ」が考案されました。
現代のカヌレは様々なアレンジが施され、豊富なフレーバーやトッピングが楽しめるのが特長です。
冷やしても、オーブントースターでカリッと焼いてもおいしくいただけます。
【フィナンシェ】アーモンドとバターの絶妙な融合
「フィナンシェ」は、やわらかな質感としっとりした焼き上がりが特長のスイーツです。
その名前には「富裕層」や「ファイナンシャル・アドバイザー」の意味があり、このスイーツのシンプルな長方形の形は金の延べ棒を連想させます。
その起源にはさまざまな説がありますが、19世紀末の「フランス菓子覚書」によると、ビジネスマンがスーツを汚さずに食べられるようにと考案されたことが記録されています。
アーモンドパウダーに焦がしたバターをたっぷりと使用した香ばしさが魅力で、片手で食べやすいので、贈り物や手土産としても喜ばれます。
食する前にオーブントースターで軽く温めると、その香ばしい香りがさらに引き立ちます。

【マドレーヌ】象徴的な貝殻の形
「マドレーヌ」は可愛らしい貝殻の形をした焼き菓子の一つです。
名前の由来については、フランス語の女性名であること以外にも、「発明者の恋人の名前」であったり、「創作者自身の名」など、いくつかの説があります。
外観がキツネ色で、バターの風味が豊かなため「フィナンシェ」と混同されることが多いですが、二つの違いは単なる形状の違いだけにとどまりません。
バターや卵の使用方法が異なり、それによって食感にも差が生まれます。
さらに、フィナンシェにはアーモンドパウダーが含まれますが、マドレーヌには使われていません。
さらに、レモンやはちみつ、紅茶などの多彩なフレーバーが楽しめるのも魅力です。
二つのお菓子を食べ比べてみれば、フランスの焼き菓子の深みを実感できることでしょう。
【ダコワーズ】カリッとふわっとしたユニークな食感
「ダコワーズ」は、アーモンドパウダーを使ったメレンゲ生地のスイーツとして知られています。
元々はフランスでケーキの土台として利用されていましたが、現在の楕円形で片手に収まるサイズのものは、日本の和菓子「最中」からヒントを得た日本発のデザインです。
1981年に福岡市の洋菓子店が「ダックワーズ」として販売を開始すると、その美味しさが話題となり、日本国内はもちろんフランスまでその人気が広がりました。
その評判を聞きつけたフランスのシェフたちが、作り方を学ぶためにわざわざ日本を訪れるほどでした。
「ダコワーズ」は、外はカリッとしながらも中はふんわりとした食感が特徴で、アーモンドの香ばしい香りが楽しめます。
また、中に挟むクリームが様々で、異なる味わいが楽しめるのも魅力の一つです。
【ラング・ド・シャ】軽やかでサクサクのクッキー
「ラング・ド・シャ」は、小麦粉にバター、卵白、砂糖を使って作られる、サクサクとした軽やかな食感が魅力のクッキーです。
その名はフランス語で「猫の舌」を意味し、フランスの雰囲気漂う呼び方です。
ラング・ド・シャには、現在では丸型や四角形、巻かれたものなど多様な形がありますが、伝統的には細長い形に焼き上げられます。
さらに、形状だけでなく、さまざまな風味のパウダーやクリームを挟んだものなど、味のバリエーションもバラエティ豊かです。
いろいろ試してみて、お気に入りの風味を見つけるのも楽しいものです。
シンプルな風味なので、紅茶やコーヒー、抹茶との組み合わせも良く、ちょっとした贈り物にも最適です。

【タルト・タタン】偶然のミスから生まれたお菓子
「タルト・タタン」は、バターと砂糖で炒めて柔らかく煮たリンゴにタルト生地をかぶせて焼き上げるデザートです。
焼き上がった後にひっくり返し、煮詰まったリンゴを上に乗せるスタイルが特徴です。
「タタン」の名は、このデザートを作り出したタタン姉妹に由来します。
ある日、姉妹の一人がリンゴのタルトを作る際、うっかり生地を敷くのを忘れ、その後で上から生地をかぶせて焼いてしまいました。
その結果、リンゴの濃厚な甘さを引き立てるタルトが誕生し、タタン姉妹の経営する「ホテル・タタン」の看板メニューとなりました。
失敗を恐れず工夫を凝らすことから生まれた、美味しいスイーツです。
【シブースト】カラメル風味が魅力の秘密
「シブースト」というデザートは、19世紀のパリで菓子職人シブーストさんが生み出した作品です。
カスタードクリームとゼラチン、そしてメレンゲで作る「シブーストクリーム」が層をなすこのスイーツは、土台にクリームを重ね、その中に果物を加え、表面をキャラメリゼするのが一般的です。
キャラメリゼされた外側のカリッとした食感と、しっとりしたシブーストクリームの組み合わせが絶妙です。
中に入れる果物はリンゴが多いですが、時には桃なども使用されます。
職人技が光る繊細な食感と洗練された味わいをぜひ楽しんでみてください。
【クイニー・アマン】多くのパン屋で目に留まる存在
「クイニー・アマン」は、フランスのブルターニュ地方発祥の伝統的な焼き菓子です。
日本では人気のパン屋で日常的に見かけることができますが、その起源はブルターニュのドゥアルヌネにある一軒のパン屋でした。うっかりパン生地の上にバターを溶かしてしまったことから、このお菓子が生まれたとされています。
そのまま捨てるのはもったいないと考え、生地を延ばして折り重ね、焼き菓子として完成したと言われています。
含まれるほんのりとした塩味は、ブルターニュ特産の有塩バターを使用しているからこそ感じられるものです。
特に90年代半ばに、世界的に有名なパティシエ、ピエール・エルメ氏の紹介により、日本でもその名が広まりました。

【ゴーフル】ワッフルという別名で親しまれ、凹凸が際立つ特徴
「ゴーフル」という言葉は、フランス語でワッフルを指し、凹凸のある型で生地を焼くことが特徴のスイーツです。
日本では薄く円形に生地を焼き、クリームを挟んだサクサクのゴーフルがよく知られていますが、これは日本の風味に合わせたアレンジと言えます。
フランスでは北部で親しまれるスイーツとされ、厚みのある生地をふんわりと焼き上げ、その間に甘いクリームを挟んだゴーフルが一般的に提供されています。
生地に付けられた凹凸は共通していますが、その食感や風味には異なる魅力があるのが面白いですね。最近、日本にも本場に近いスタイルのお店が増えてきています。
日本で広く愛されるフランスの焼き菓子
フランス由来の焼き菓子は、日本でも多くの人々に親しまれています。また、日本独自のスタイルに進化したものも少なくありません。
日常で何気なく楽しんでいるスイーツにも、意外な誕生秘話や伝来の歴史が潜んでいます。
次回お菓子を味わうときは、そのスイーツの背景や起源についても考えてみると、さらに楽しさが増すでしょう。