エンガディナー
スイスの美しい自然と風光明媚な風景に心を奪われたことはありますか?または、スイスの贅沢なチョコレートやチーズに幾度となく魅了されたことはありますか?しかし、スイスの魅力はそれだけではありません。今回は、スイス東部のエンガディン地方が誇る伝統的なお菓子、'エンガディナー'に焦点を当ててご紹介したいと思います。プレーンな見た目からは想像もつかないほどの豊かな風味とその歴史を、一緒に堪能していきましょう。
エンガディナーってどんなお菓子?
「エンガディナー」はその名の由来であるスイスのエンガディン地方より派生した伝統的なお菓子で、ジューシーなクルミがたっぷり詰まったパイ生地に包まれています。エンガディナーはその特異な甘さと豊かな風味とともにパフペストリーと一緒に焼かれ、その結果がさらなる甘さと風味を引き立てます。
そのパイ生地は焼き上がると薄くてカリッとし、中に詰まったクルミの風味と絶妙にマッチします。それはまさに、口の中でとろけるような絶品の味わいです。
その独特な風味はコーヒーや紅茶との相性が抜群で、シナモンやバニラアイスを加えるとさらにその味わいを際立たせます。
エンガディナーは、その調理方法と特殊な風味から、料理人たちに愛されてきました。これらの伝統的な製法は何世紀にもわたって受け継がれてきており、現在でもそのまま続けられています。そのため、エンガディナーはまさに、雄大な山脈と深い森を秘めたスイスの冬の風景を象徴するお菓子と言えるでしょう。
このクルミたっぷりのお菓子は日本の洋菓子店でも見かけることが増えましたが、エンガディナーという名前で呼ばれるのは日本だけ。原産地のスイスでは「ヌストルテ」と呼ばれています。
エンガディナーの起源についてはいくつかの説がありますが、200年ほど前に菓子製造業者が多かったエンガディン地方で、出稼ぎ先のフランスやイタリアでクルミに出会い、それを伝統的なバタークッキー生地で包むようになったという話が広く知られています。
寒冷な気候が特徴のエンガディン地方で、エネルギーが詰まったクルミを長持ちするクッキー生地で包むというアイデアは、まさにライフスタイルとしての必須条件を満たすものでした。
エンガディナーと似たお菓子はフランスのドーフィネ地方にもあり、「ドフィノア」と呼ばれています。
エンガディナーってどうやって作るの?
数年前に初めて交わったこの伝統菓子・エンガディナーのレシピは、私のお菓子作りに新たな刺激を与えました。シナモンやクローブを効かせたアーモンドとクルミのフィリングをキャラメル風の香り深いヌガーで包み込み、さらにそれをサクサクのパイ生地で囲むこのエンガディナーは、ボリューム満点ながらもその美味しさに一口食べると満足するどころか、また一口と手が出せずにはいられません。
それからというもの、このエンガディナーは私の手土産やプレゼントの定番となりました。
エンガディナーを焼く型は、私自身はマンケ型が一番しっくりきます。それでも、丸いタルト型や角型で作る人も多いので、自分の好みに合った型を選ぶこともおすすめします。
ここで、私がおすすめするアイテムを紹介しましょう。
それはマンケ型の5寸サイズです。型に粉とバターを混ぜたパイ生地を敷き詰め、同じくパイ生地をふたとして作り、冷蔵庫でしっかり冷やしておきます。
同時に、アーモンドやクルミを細かく砕いたものに、スパイスとハチミツを加えたフィリングを作ります。製作する工程はシンプルながらも、その工程一つ一つが美味しさに直結しています。
冷やしておいた型にフィリングを盛り込み、パイ生地でふたをしてオーブンに入れます。そのまま約15分間、しっかりと焼き上げます。焼き上がったエンガディナーには、パイ生地のサクサク感とフィリングのジューシーな味わいがうまく調和しています。
また、型にこだわらずに、トヨ型や小さなタルトレット型で作ることで、エンガディナーの形状にアレンジを加えることも可能です。
エンガディナーの切り込み模様(レイエ)には意味がある!
皆さんはエンガディナーと聞くと、すぐにスイスの伝統的なバタークッキーを思い出すことでしょう。しかし、その見た目の特徴である表面の切り込み模様(レイエ)がもつ重要な役割と深い意味について、意識したことはありますか?
このレイエと呼ばれる切り込み模様は、ガレットデロアやハード系のパンなどにも見られますが、その実は焼きあがる過程で中の空気を逃し、全体的に均一な焼き色と香ばしさを確保する役割を果たします。さらに、この模様はエンガディナーの製造過程の手間暇を表現しており、それぞれのレイエが職人の丁寧な手仕事を物語っています。
また、この切り込み模様は見栄えを考慮したものでもあります。フィリングの色彩がちらりと覗き、これが全体の美しさを高め、食べる前から楽しさを与えてくれます。果物やナッツのカラフルな色合いとクッキーの焼き色がマッチする美しさは、まさに芸術作品のようです。
つまり、エンガディナーのレイエは見た目の美しさと味わいの両方を考慮した結果と言えます。また、それは職人の技術と情熱、伝統的な製菓技術へのリスペクトを示すもので、それこそがお菓子の本質とも言えるでしょう。
まとめ
スイス東部エンガディン地方の伝統的なお菓子エンガディナーは、そのシンプルな見た目からは予想もつかないほど深みのある風味が特徴です。素朴ながらも洗練された味わいは一度食べれば忘れられない魅力を持っています。厳選された素材と手間暇かけた製法が生み出す贅沢な味わいは、スイスの美しい自然と古き良き伝統を感じさせてくれます。気軽に味わえるエンガディナーは、日常の一コマを特別なひとときへと変えてくれることでしょう。