「幻のバター」とも呼ばれるエシレバター。その芳醇な香りと、とろけるような口溶けは、一度味わうと忘れられない感動を与えてくれます。フランス中西部のエシレ村で、伝統製法を守りながら作られるエシレバターは、一体何が特別なのでしょうか?この記事では、エシレバターの魅力と秘密を徹底解剖。その歴史、製法、味わいの特徴、そしてプロの料理人からも愛される理由を紐解きます。エシレバターの世界へ、ようこそ。
エシレ バターとは?伝統と品質が織りなす唯一無二の風味
エシレ バターは、良質な乳製品の産地として名高いフランス中西部、エシレ村で生まれる発酵バターです。その特徴は、淡い黄色、とろけるような口当たり、そして何よりも芳醇な香り。発酵バターとは、クリームを乳酸発酵させて作るもので、ヨーグルトを思わせる軽やかな酸味と、他に類を見ない奥深い香りが魅力です。1894年の創業以来、エシレ酪農協同組合は、代々受け継がれてきた独自の乳酸菌を大切に守り、昔ながらの製法で変わらぬ美味しさを追求してきました。エシレバターの品質を支えるのは、創業時から変わらない徹底したこだわりと、エシレ村ならではの「テロワール(土地)」の恵みです。エシレ村が位置するヌーヴェル・アキテーヌ地域圏(2016年の地域再編でポワトゥー・シャラント地域圏と統合、圏都はボルドー)は、石灰質の土壌と温暖な大西洋性気候に恵まれ、牛たちがのびのびと過ごし、良質な牧草を食むのに理想的な環境です。この質の高い牧草を食べる牛から搾られるミルクは、乳脂肪分が豊富で、バター作りに最適。さらに、牛に与える干し草の種類まで細かく規定されているため、年間を通して安定した品質の生乳が確保され、エシレバターの風味の均一性を保っています。バターを練り上げるチャーンの中で、余分なバターミルクを洗い流す際に使われるエシレ村の美味しい水も、その独特な風味と品質に大きく貢献しています。発酵を促す重要な役割を担う乳酸菌も、長年受け継がれてきたもの。これらすべてが、エシレバターをテロワールが生み出した唯一無二の逸品たらしめているのです。原料となる生乳にも厳しい基準が設けられ、工房から半径50km以内の酪農家の牛から搾られたもののみを使用。一頭当たりの放牧地の面積も定められており、乳牛の育成にも細心の注意が払われています。搾乳から生乳の回収までは72時間以内と定められ、回収された搾りたての生乳は、鮮度を保つために48時間以内にクリームに加工され、工房で丁寧にバターへと練り上げられます。
エシレバターの製造で特に注目すべきは、昔ながらの「木製チャーン(攪拌機)」を使い続けていることです。現代のバター製造ではステンレス製が一般的ですが、エシレの人々が誇りを持って「エシレだけ」と語るこの木の力が、エシレバター特有の口当たりの柔らかさと滑らかな食感を生み出しています。この伝統的な製法を守るため、エシレバターは攪拌工程に2時間半もの時間をかけ、一度に90kgしか製造できません。大手工場が1時間あたり約15トンものバターを製造するのと比較すると、エシレバターの希少性と、一つ一つ丁寧に作られるこだわりが際立ちます。独自の製法と厳格な品質管理を経て生まれるエシレバターは、EUが定める「A.O.P.(原産地名称保護)」認定をフランス政府から受けています。これは、特定の地域で伝統的な製法で作られた農産品のみに与えられる認証です。少数精鋭で厳しい品質管理を行い、万全を期した製品作りに取り組むことで、その高品質が維持されています。エシレバターの品質の高さと美味しさは、瞬く間に世界中に広まり、1900年のパリ万国博覧会での一等賞受賞をはじめ、数々の万国博覧会で賞を獲得してきました。特に、1979年にはフランス国内のバターとして初めてAOC(原産地呼称統制)を取得(2004年に規定変更により現在はA.O.P.として認定)するなど、輝かしい歴史を誇ります。今日では、世界中の三ツ星シェフや一流パティシエなど、食のプロフェッショナルたちに愛用され、その確かな品質と比類なき風味は、世界中で高く評価されています。
エシレバターと日本のバターの違い:発酵バターの歴史と魅力
エシレバターの魅力を深く理解するためには、バターの歴史、特に発酵バターと日本で一般的な非発酵バターの違いを知ることが大切です。バターはヨーロッパで生まれ、紀元前から利用されていたと言われるほど長い歴史を持ちます。当時の製造技術が未熟だったため、クリームを放置すると自然に乳酸発酵が進んでしまうことが多く、その結果、ヨーロッパでは発酵バターが主流となりました。一方、日本でバターが本格的に普及したのは13世紀から14世紀頃。技術が発達した時代に輸入された非発酵バターが定着したと言われています。エシレバターはこの伝統的なヨーロッパの発酵バターに分類され、原料のクリームに厳選された乳酸菌を加え、丁寧に乳酸発酵させて作られます。この発酵という工程を経ることで、一般的な非発酵バターでは味わえない、独特の風味と深いコクが生まれるのです。
発酵バターの特徴は、非発酵バターよりも風味が強く、まろやかさと深いコクに加え、ヨーグルトのような軽やかな酸味があること。中でもエシレバターは、その香りの高さが際立っています。豊かな土壌で育ち、厳格な基準で管理された良質な牧草を食べた乳牛から搾られるミルクは、乳脂肪分が非常に多く、バター作りに最適です。その新鮮なミルクをフレッシュなうちに加工することで、エシレバター特有の芳醇な香りが生まれます。さらに、伝統的な木製チャーン製法によって生み出される滑らかな口当たりも、他の発酵バターにはないエシレバターならではの魅力です。口に入れた瞬間にとろけるような感覚がありながら、後味は意外とさっぱりとしています。エシレバターは、非発酵バターと同様に様々な料理に活用できますが、その芳醇な風味と滑らかな口当たりを最大限に楽しむには、トーストに塗ったり、バターをたっぷり使う焼き菓子に用いるなど、バターの風味をダイレクトに味わえるシンプルな使い方がおすすめです。一方、私たちになじみ深い非発酵バターは、香りの主張が少ないため、幅広い料理に使いやすいというメリットがあります。エシレバターと非発酵バター、それぞれの特性を理解し、料理や用途によって使い分けることで、食の楽しみがさらに広がるでしょう。
エシレ バターのおすすめの楽しみ方
エシレ バターの豊かな風味を存分に堪能するには、いくつかのポイントがあります。まず、初めてエシレ バターを味わう方には、発酵バターならではの繊細な風味と深いコクを純粋に感じていただくために、シンプルなパンに塗るか、バターそのものを少し味わってみることをおすすめします。シンプルにパンに塗って食べるだけでも、その独特の風味と滑らかさが際立ちます。また、レーズンなどのドライフルーツやナッツを刻んで混ぜ、フレーバーバターにするのもおすすめです。パンやクラッカーに塗るだけでなく、お酒のおつまみとしても楽しめます。クッキーと合わせてバターサンドにするのも良いでしょう。マドレーヌやサブレ、フィナンシェなど、バターを多く使う焼き菓子にエシレバターを使用すると、芳醇な風味が口いっぱいに広がり、上品な味わいに仕上がります。自宅でパンを焼く方は、食パンやロールパン、クロワッサンなどに使うことで、エシレバターの風味とコクが、リッチで高級感のある味わいをもたらします。さらに、オムレツやムニエルなど、バターの風味が味の決め手となる料理や、ホワイトソースやデミグラスソースを作る際に使うと、深みと奥行きが加わり、いつもの料理がワンランクアップした上品な味わいになります。そして、食べる前に、使う分量を冷蔵庫から取り出し、室温にしばらく置いておくことが大切です。低温下で閉じ込められていた発酵バター本来の芳醇な香りが戻り、ナイフがスムーズに通る柔らかさが食べごろの目安となります。保管に関しては、エシレ バターは冷蔵庫(6℃以下)で保存してください。バターは空気に触れると酸化が進み、風味の劣化を招く恐れがあるため、使った分以外は、すぐにラップなどでしっかりと密閉し、冷蔵庫へ戻すことで、その繊細な風味と品質を長く保つことができます。
エシレ バターの購入方法:専門店から百貨店まで
エシレ バターは、主にヨーロッパに輸出されている高品質な発酵バターですが、日本でも人気が高まり、全国の輸入食料品店や百貨店などで広く販売されており、比較的簡単に入手できます。さらに、エシレ バターを主役とした特別な体験を提供するために、エシレ バターを贅沢に使った焼き菓子やヴィエノワズリーを専門とする店舗も、全国に展開しています。これらの店舗は、単なる販売店としてだけでなく、エシレの魅力を深く体験できる場所として親しまれています。「エシレ・メゾン デュ ブール」は、世界初の専門店として誕生し、焼き菓子やヴィエノワズリーを通じて、エシレの豊かな風味を堪能できます。関西エリアの旗艦店である「エシレ・マルシェ オ ブール」は、地域に根差した展開を進めています。さらに、「エシレ・ラトリエ デュ ブール」は、バターの製造工程や魅力を伝えるアトリエ形式の店舗であり、「エシレ・パティスリー オ ブール」は、エシレバターを使ったお菓子に特化した専門店として、多様なニーズに応えています。これらの専門店では、一般的なバターのラインナップに加え、店舗限定の商品や特別なギフトセットなども見つけることができ、エシレの奥深い世界を存分に楽しむことができます。
エシレバターで作る珠玉のレシピ
エシレバターならではの芳醇な香りと奥深いコクを活かした、とっておきのレシピをご紹介いたします。
1. レーズンバター
材料(作りやすい分量)
エシレバター(無塩)…100g
ラムレーズン…50g
粉砂糖…10g
作り方
エシレバターを室温に戻し、柔らかくしておきます。
ラムレーズンはキッチンペーパーで軽く水気を取り、粗く刻みます。
バターと粉砂糖をよく混ぜ、ラムレーズンを加えて均一になるまで混ぜます。
容器に詰め、冷蔵庫で1時間以上休ませれば完成です。
ポイント
クラッカーやバゲットに塗って、ワインと一緒にいただくと格別です。
2. あんバターサンド
材料(2人分)
エシレバター(有塩)…40g
粒あん…80g
バゲットまたは食パン…適量
作り方
バターを室温に戻してやわらかくします。
パンにバターをたっぷり塗り、その上に粒あんを重ねます。
サンドして軽く押さえ、食べやすい大きさに切れば完成です。
ポイント
有塩バターの塩気が粒あんの甘さを引き立てます。
3. ガーリックバター
材料(作りやすい分量)
エシレバター(無塩)…80g
にんにく(すりおろし)…1片分
パセリ(みじん切り)…大さじ1
塩…少々
作り方
室温に戻したバターに、にんにくとパセリを混ぜます。
塩で味を整え、ラップで棒状に包み、冷蔵庫で冷やします。
ステーキや魚料理、パンに添えてお楽しみください。
4. エシレバターのスコーン
材料(8個分)
薄力粉…200g
ベーキングパウダー…小さじ2
砂糖…30g
エシレバター(無塩・冷蔵)…50g
牛乳…100ml
作り方
薄力粉・ベーキングパウダー・砂糖をボウルで混ぜます。
1cm角に切った冷たいバターを加え、指先でサラサラになるまで混ぜます。
牛乳を加えてひとまとめにし、2cm厚に伸ばして型で抜きます。
200℃のオーブンで12〜15分焼き上げます。
ポイント
焼き立てをエシレバターとクロテッドクリームでいただくと、極上のティータイムになります。
まとめ
フランス中西部、エシレ村の豊かな自然の中で、伝統的な製法、恵まれたテロワール、そして徹底した品質管理によって生み出されるのが、A.O.P.認定の発酵バター「エシレ」です。1894年の創業以来、独自の乳酸菌と木製チャーンによる、他にはないなめらかな口当たりと、奥深い香りを守り続けてきたエシレバターは、その卓越した品質から、世界中の美食家や一流シェフに選ばれ続けています。乳酸発酵が生み出す独特の風味と、とろけるような舌触りが魅力のエシレバターは、普段の料理に取り入れるだけで、その美味しさを格段に引き立てます。様々な用途に対応した豊富な商品ラインナップ、そしてその風味を最大限に活かすためのノウハウ、さらに専門店での特別な体験を通して、エシレバターは単なる食材を超え、豊かな食文化を彩る存在となっています。通常のバターに比べると高価ではありますが、ぜひ一度、エシレバターならではの奥深い風味と、比類なき味わいを体験してみてください。
エシレバターが特別な理由とは?
エシレバターは、フランス中西部エシレ村の、石灰分を豊富に含む土壌と穏やかな気候という恵まれたテロワールで育った乳牛から搾乳された、高品質な生乳を原料としています。1894年から継承される伝統的な木製チャーン製法と、独自の乳酸菌を用いて丁寧に製造されています。さらに、EUのA.O.P.(原産地名称保護)の認定を受けており、その製造地域、原料、製造工程などについて、非常に厳しい基準をクリアした、世界でも希少な高品質発酵バターであることが、その特別さを物語っています。
エシレバターのA.O.P.認証とは?
A.O.P.(原産地名称保護)とは、特定の地域に根ざした伝統的な食品を保護するために、EUが設けた制度です。この認証を受けるためには、製品の産地、原料、製造方法など、細部にわたる厳しい基準をクリアする必要があります。エシレバターは、A.O.P.認証を受けている数少ないバターの一つであり、その卓越した品質と伝統的な製法が認められています。以前はフランスのAOC認証を受けていましたが、2004年の規定変更に伴い、A.O.P.認証へと移行しました。
エシレバターのおすすめの食べ方は?
エシレバター本来の風味を堪能するには、まずはシンプルなパンに塗って味わうのがおすすめです。または、バターそのものを少しだけ口に含んでみてください。風味の豊かさに驚かれるはずです。冷蔵庫から出して数分~数十分ほど置いて、室温に戻してからお召し上がりいただくと、香りがより一層際立ち、バターが柔らかくなって、より美味しく味わえます。
エシレバターはどこで手に入りますか?
エシレバターは、全国の主要な輸入食品店やデパートなどで購入できます。また、エシレバターを贅沢に使用したお菓子やパン、限定品などを取り扱う専門店も各地にあります。「エシレ・メゾン デュ ブール」(世界初の専門店)、「エシレ・マルシェ オ ブール」(関西エリア旗艦店)、「エシレ・ラトリエ デュ ブール」(バターのアトリエ)、「エシレ・パティスリー オ ブール」(お菓子専門店)など、様々な形態の店舗があります。
発酵バターと非発酵バターの違いは何?
発酵バターは、クリームを乳酸菌で発酵させてから作られるバターです。ヨーグルトのような酸味と、独特の芳醇な香りが特徴で、エシレバターもこれに該当します。一方、日本の家庭でよく使われる非発酵バターは、クリームをそのまま練って作ります。香りは穏やかで、どんな料理にも合わせやすいのが特徴です。ヨーロッパでは伝統的に発酵バターが主流でしたが、日本では技術革新後に輸入された非発酵バターが普及しました。
エシレバター、風味を保つ保存方法
エシレバターは、冷蔵保存(6℃以下)が基本です。バターは酸化しやすく、風味が損なわれやすいため、使用する分だけを取り出し、残りは密閉できる容器に入れるか、丁寧にラップで包み、すぐに冷蔵庫へ戻してください。この一手間で、エシレバターならではの豊かな風味と上質な状態を長く保つことができます。