パクチー、コリアンダー、シャンツァイ…その別名から紐解くパクチーの正体と歴史
独特の香りが食欲をそそるパクチー。タイ料理でお馴染みのハーブですが、実は世界中で様々な名前で親しまれています。コリアンダー、シャンツァイ…これらは全て同じ植物を指す言葉。一つの植物にこれほど多くの別名が存在するのはなぜでしょうか?本記事では、パクチーという名前に隠されたルーツを紐解き、その歴史と多様な呼び名の背景を探ります。パクチーの知られざる魅力に迫る旅へ、ご一緒に出かけましょう。

1. 「パクチー」「コリアンダー」「シャンツァイ」とは? 同じ植物の多様な呼び名と特徴

お店や食卓で見かける「パクチー」「コリアンダー」「シャンツァイ」は、実はすべて同じセリ科の一年草を指す、言語による呼び方の違いです。この植物は、学名を「Coriandrum sativum」といい、その独特な風味は世界中で愛されています。原産は地中海東部、地中海沿岸、南ヨーロッパ、中東地域であり、もともとアジアだけのものではありません。タイ語で「パクチー(ผักชี)」、英語で「コリアンダー(Coriander)」、中国語で「シャンツァイ(香菜)」と呼ばれており、中国ではその名の通り「香りの良い野菜」として親しまれています。個人的には以前「シャンツァイ」という呼び名の方がなじみ深かったのですが、いつの間にか日本では「パクチー」という呼び方が一般的になりました。これらの名称はすべて同じ植物を指し、それぞれの地域や文化に根ざした呼び名が存在すると考えると良いでしょう。

1.1. コリアンダーの香りの秘密:葉と種、それぞれの特徴と使い方

コリアンダーは、部位によって異なる特徴的な香りが楽しめるハーブです。葉は特に香りが強く、料理の風味づけや彩りに使われます。一方、スパイスとして使われる種子は、オレンジピールやレモン、セージを連想させる、甘く穏やかな香りが特徴です。この香りの違いは、コリアンダーの学名「Coriandrum」の由来にも表れています。学名は、「カメムシ」を意味するKorisと「アニスの実」を意味するAnnonを組み合わせたもので、青い未熟な実の段階ではカメムシのような匂いがしますが、熟成するとアニスに似た甘い香りに変わります。コリアンダーの種をスパイスとして最大限に活かすには、軽くローストして甘い香りを引き立ててから、そのまま使うか、粉末にして使うのがおすすめです。使う直前にミルなどで挽くと、さらに香りが際立ちます。

1.2. 日本における「パクチー」と「コリアンダー」の使い分け

「コリアンダー」と「パクチー」は同じ植物を指す言葉ですが、日本では使い分けられる傾向があります。一般的に、パクチーは生の葉の部分を指し、料理にそのまま添えたり、混ぜ込んだりする際に使われます。一方、コリアンダーはスパイスとして使う種子の部分を指すことが多く、カレーやマリネ、ドレッシングなどの調味料として利用されます。日本でタイ料理を食べる機会が増えたことで、「パクチー」という名前が広まり、エスニック料理に使われる葉を「パクチー」と認識する人が増えました。この使い分けは、アジア料理では葉を多用するのに対し、西洋料理では種子をスパイスとして使うことが多いという食文化の違いも影響しています。コリアンダー(パクチー)は、タイ料理、中華料理、中近東料理、南米料理など、幅広い地域で使われていますが、ヨーロッパの料理ではあまり使われません。このように、同じ植物でも、地域や文化、使う部分によって呼び方や認識が異なることが、コリアンダー(パクチー)の魅力の一つと言えるでしょう。

2. パクチー(コリアンダー)の知られざるルーツと世界への広がり:悠久の歴史を辿る

パクチー、別名コリアンダーの歴史は、驚くほど古い時代に遡ります。その起源は地中海東部地域、具体的には地中海沿岸や南ヨーロッパ、そして中東地域に位置づけられています。この芳香豊かなハーブは、遥か昔の古代文明においてすでに人々に親しまれていました。特に、古代エジプトではその卓越した品質が高く評価され、「エジプト産は特に良質である」と称賛されていたことが、歴史的な記録から読み取れます。興味深いことに、コリアンダーは古代エジプトにおいて「幸福のスパイス」という特別な称号で呼ばれており、その価値が単なる食材としての枠を超えて、精神的な意味合いも持っていたことが窺えます。実際に、紀元前13世紀に生きた古代エジプトのファラオ、ラムセス2世の墓からコリアンダーの種子が発見されたという事実は、その重要性を雄弁に物語っています。時代は下り、古代ローマ時代を経て、コリアンダーはヨーロッパ各地へと伝播し、大航海時代にはイギリスやアメリカへと、新天地を求めた人々によって持ち込まれ、栽培が広がっていきました。このように、コリアンダーは単なる食材としてだけでなく、歴史的な交易や文化交流の重要な証人とも言える存在です。アジア地域に限定されることなく、遠く離れたメキシコやポルトガルなど、独自の食文化を持つ国々でも広く利用されており、その適応性と汎用性の高さを示しています。日本で「パクチー」という名前が広く知られるようになったのは比較的最近のことですが、そのルーツを深く探ると、数千年の時を超えて世界各地の人々の生活と密接に結びついてきた、豊かな歴史を持っていることがわかります。

3. パクチー(コリアンダー)の隠された日本語名とその変遷

パクチーには、意外なことに日本語名が存在します。その一つが「コエンドロ」であり、これはポルトガル語の「coentro」に由来する言葉です。ポルトガル料理で使われていたコリアンダーが日本に伝わった際、その名前がそのまま定着したと考えられています。しかし、さらに古い時代には「胡荽(こすい)」という名で呼ばれており、実は日本でも古くからその存在が知られていました。平安時代中期に編纂された歴史書「延喜式(えんぎしき)」や、様々な事物の和名を分類した辞書「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」などの文献にもその名を見ることができます。当時の日本では、主に朝廷の料理において、生魚を調理する際に魚と一緒に「胡荽」を食べる習慣があったと記録されています。この利用方法は非常に興味深く、東南アジア地域においてパクチーが体調を整えるための「薬味」として用いられるのと共通する点があり、当時の人々がその薬効や独特な風味を経験的に理解していたことに驚かされます。しかし、江戸時代の鎖国政策以降、日本ではコリアンダーが料理に使われる機会は減少し、その存在は徐々に忘れ去られていきました。再び日本の食卓に登場するのは、20世紀末に巻き起こった「エスニック料理ブーム」の到来を待つことになります。このブームをきっかけに、タイ料理をはじめとする様々な国の料理が普及し、その中で「パクチー」という呼び名が再認識され、今日のような人気を獲得するに至りました。このように、パクチー(コリアンダー)は日本の食文化において、長い空白期間を経て再び脚光を浴びることになった、興味深い歴史を持つハーブと言えるでしょう。

4. なぜタイ語の「パクチー」が日本でこれほどまでに浸透したのか?タイ料理との密接な関係

世界中でコリアンダーやシャンツァイなど、多様な呼び名が存在し、日本固有の名称まであるにもかかわらず、なぜ日本では「パクチー」というタイ語がこれほどまでに広く知られるようになり、まるでタイ原産のハーブであるかのような認識が広まったのでしょうか。その背景には、いくつかの要因が考えられます。最も重要な理由の一つとして挙げられるのは、1990年代後半から日本国内で急速に広まったタイ料理の人気です。タイ料理は日本人の味覚に合いやすく、全国各地にタイ料理レストランが開店したことで、その代表的な食材であるパクチーもまた、一躍その名を知られるようになりました。料理を作る側の視点から考えると、タイ料理とパクチーの関係は、他の国の料理と比較して際立って深いものがあるように感じられます。タイ料理では、パクチーの葉を料理の彩りや風味付けに用いるのはもちろんのこと、種子はカレーペーストやマリネ、ドレッシングなどのスパイスとして欠かせない存在です。さらに、根や茎に至るまで、様々な料理の材料として余すところなく活用されるのが大きな特徴です。自家製ペーストで作るグリーンカレーには、パクチーの根、種、葉、茎のすべてが使われていることからも、その利用の幅広さが窺えます。このように、タイ料理がパクチーの多様な部位を巧みに使いこなし、その風味や薬効を最大限に引き出している点が、日本人のパクチーに対するイメージを「タイのハーブ」として強く結びつけた要因の一つかもしれません。しかし、その人気に便乗して「パクチーサラダ」や「パクチー鍋」といった、タイ料理には存在しない、あるいは一般的ではない独自の創作料理が日本で生まれることもあります。これらの創作料理自体は自由な発想の表れですが、それが「タイ料理として普通に存在する」と誤解されることは、本来のタイ料理やパクチーの文化に対する誤った認識を広げる可能性もあるため、注意が必要です。

まとめ:パクチー、コリアンダー、シャンツァイが織りなす豊かな世界

本記事では、改めてパクチーの奥深い世界について詳しく見てきました。「パクチー」「コリアンダー」「シャンツァイ」はすべて同じセリ科の一年草であり、その学名はCoriandrum sativum、原産地は地中海東部、地中海沿岸、南ヨーロッパ、中東地域とされています。このハーブは、未熟な青い実がカメムシに似た独特の臭いを放ち、熟すとアニスのような甘い香りに変化するという特徴を持っています。特に、その種子は軽く焙煎することで甘い香りが際立ち、スパイスとして広く利用されます。古代エジプトでは「幸福のスパイス」と呼ばれ、ラムセス2世の墓からも発見されたことからもわかるように、非常に古くから人々に親しまれてきました。日本においても、古くは平安時代に「胡荽(こすい)」として生魚の薬味に利用され、その後ポルトガル語に由来する「コエンドロ」という日本語名も生まれました。江戸時代の鎖国以降は一時的に日本の食卓から姿を消したものの、20世紀末のエスニック料理ブームによって「パクチー」というタイ語の呼び名とともに再び認識されるようになりました。特に日本では、「パクチー」が葉を、「コリアンダー」が種子を指すという使い分けが定着しており、タイ料理におけるパクチーの利用方法の多様さ(葉、種、根、茎のすべてを余すことなく使う点)が、日本で「パクチー」という名前が広く浸透した大きな理由と言えるでしょう。一時は忘れ去られかけた日本語名「コエンドロ」が、再び注目を集めることを願ってやみません。平安時代に生魚と一緒に食べられていたという歴史を踏まえ、現代の刺身に「コエンドロ」を添えてみるのも、面白い試みかもしれません。ただし、その独特な香りに抵抗がない人に限られますが、新たな食体験として挑戦してみる価値は十分にあるでしょう。

パクチー、コリアンダー、シャンツァイは同じもの?

その通りです。パクチー、コリアンダー、シャンツァイという名前は違いますが、すべて同じセリ科の植物を指しています。パクチーはタイ語での呼び方、コリアンダーは英語名、そしてシャンツァイは中国語で「香菜」と書きます。学名はCoriandrum sativumであり、地中海東部が原産地ですが、現在では世界中で栽培され、様々な料理に用いられています。

パクチーの和名は?

パクチーには、「コエンドロ」と「胡荽(こすい)」という二つの和名があります。「コエンドロ」は、ポルトガル語の「coentro」が語源で、江戸時代に日本に伝わったと言われています。一方、「胡荽(こすい)」はさらに古い時代から存在し、平安時代の書物である「延喜式」や「和名類聚抄」にもその名を見ることができます。当時から生魚の風味を引き立てる薬味として、日本で用いられていたことが記録されています。

パクチーはどこが原産国?

パクチー(コリアンダー)のルーツは、地中海東部地域、具体的には地中海沿岸や南ヨーロッパ、中東地域にあると考えられています。古代エジプトでは「幸福のスパイス」として重宝されており、その後、古代ローマ時代を経てヨーロッパ各地へ、そして世界へと広がっていきました。

パクチー