チョコレートの知られざる秘密:発酵がもたらす味わいと健康効果

チョコレートと聞くと、甘いお菓子や癒しのひとときを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、その裏には意外な科学と秘密が隠されています。特に注目したいのが、チョコレートの製造過程で欠かせない「発酵」です。発酵は味わい深さだけでなく、健康効果にも寄与していると言われています。この記事では、この魅惑的な食の変身の秘密について詳しく探求し、その豊かな味わいと私たちの健康に与える影響を紹介します。

カカオについて。チョコレートの主成分、カカオを徹底解説。

カカオは、普段あまり見ることのない植物でありながら、チョコレートやココアの主要な原料です。この文章では、カカオの育成地域や種類といった基本的な情報から、チョコレートになる過程まで、カカオに関する詳細を紹介します。

植物としてのカカオの特徴

カカオは、学名「テオブロマ カカオ リンネ(Theobroma cacao Linne)」を持つ植物で、アオイ科に分類されています。この植物はかつてアオギリ科に属していたこともあります。カカオの樹から取れる実の中にカカオ豆があり、それがチョコレートやココアの原料となります。英語でこの実はカカオポッド(Cacao pod)と呼ばれ、フランス語ではカボス(Cabosse de cacao)と呼ばれています。ここではその生態について詳しく説明します。

カカオとはどのような植物か?その特性について。

私たちの日常に欠かせないチョコレートの原料であるカカオは、その見た目がチョコレートとは大きく異なります。カカオの木は、高さが6~7メートルに成長し、種から育てると約3〜4年後に実を結びます。カカオポッドはラグビーボールのように見え、重さは250グラムから1キログラムにも達します。この木には年間10〜40個の実が付き、幹の太い部分に直接ぶら下がるのが特徴です。カカオ豆はこのポッドの中にあり、それがチョコレートやココアの材料となります。

カカオの主要生産地域

カカオの木は、高温で湿気の多い気候を必要とし、熱帯地域でのみ成長します。北緯20度から南緯20度の範囲は「カカオベルト」として知られ、特に適した栽培地とされています。この地域では、標高30から300mの範囲で、年間平均気温が約27度で、温度の変動が少ないことが重要です。また、年間降水量が1000㎜以上であることが求められ、カカオが成長できる地域は限られています。中南米、西アフリカ、東南アジアなどがこれらの条件に合致し、全世界で約50の国々がカカオを生産しています。

カカオ生産における主要国とその生産規模

年間で約502万トンのカカオが世界中で生産されています(※1)。生産量の大半を占めるのはアフリカで、全体の約77%を担っています。主にカカオを生産している国は、コートジボワール、ガーナ、エクアドル、カメルーン、ナイジェリア、インドネシア、ブラジルなどで、これらの国々で世界生産量の約89%を生み出しています(※1)。ちなみに、日本が輸入しているカカオは約4万8533トンで、これは世界全体のわずか1%に過ぎません(※2)。※1:国際ココア機関(ICCO)カカオ統計2020/21※2:日本貿易統計 2020年

多様な種類を持つカカオの品種

いくつかの種類があるカカオ豆は、チョコレートの風味を決定づける大切な要素で、それぞれに独自の特質を持っています。チョコレート製造者たちは製品に最適なカカオ豆を厳選しています。以下に、特に良く使われる品種をご紹介します。

カカオの代表的な3つの品種

カカオ豆には代表的な品種としてクリオロ、フォラステロ、トリニタリオの3種類があります。これらについてはまだ研究や議論が続いており、新しい発見があるかもしれません。ここでは主要な3品種を紹介します。クリオロ種はベネズエラやメキシコなどで栽培されていますが、病害に弱いため生産が難しく、全カカオの0.5%程度しか栽培されていません。その特徴は独特のナッツのような風味です。フォラステロ種はブラジル、西アフリカ、東南アジアで広く栽培され、世界のカカオ供給量の80~90%を占め、強い渋味と苦味があり、チョコレートの基本材料として使用されます。トリニタリオ種はクリオロとフォラステロの自然交配から生まれたと考えられ、中庸の特性と栽培のしやすさから良質と評されます。トリニダードで誕生したためその名が付き、生産量は全体の10~15%で、フルーティな酸味を持つことが多いです。

エクアドルならではの品種も。

エクアドルには「ナシオナル種」または「アリバ種」として知られる特別なカカオがあります。これはフォラステロから進化した品種で、ジャスミンやバラのような花の香り(フローラル)が特徴です。このカカオから作られるチョコレートを味わうと、まず華やかな香りが広がり、続いて適度な渋みが感じられます。

なぜカカオは果物と呼ばれるのか?

普段口にするチョコレート、その独特の香りを支えているのはカカオ豆の発酵過程です。このプロセスがどのように行われるのか、またカカオがフルーツと呼ばれる所以について詳しく説明していきます。

カカオポッドの内部に存在するカカオ豆

カカオの果実である「カカオポッド」は、約1センチの厚い殻で保護されています。収穫後には、木棒やナタを使って殻を割ります。内部には、白く滑らかな果肉であるパルプに包まれた約30~40個のカカオ豆が含まれています。カカオ農園の作業者たちは、ポッドを器用に割り、パルプごとカカオ豆を取り出してバケツに集め、その後の発酵プロセスに進めていきます。

発酵における重要な役割を果たすカカオパルプとは?

カカオ豆を包む滑らかな白い果肉がカカオパルプです。ライチやパイナップルに似たトロピカルな風味と爽やかな酸味が特徴で、南国の果物を思わせる味わいです。昔は、動物が熟したカカオポッドを壊して、中のパルプを食べ、種子を散らしていたとされています。今でも、カカオ農園では発酵により流れ出るパルプをジュースのように楽しむ様子が見られますし、このパルプを煮詰めてジャムやお酒を作ることもあります。しかし、このカカオパルプはカカオの発酵において非常に重要です。水分と糖分を豊富に含んでおり、微生物が栄養を得やすいため、カカオ豆の発酵時には微生物の活動を促すのに理想的な環境を提供します。

発酵食品としてのチョコレート?!

収穫したカカオポッドから、パルプを含んだまま種を取り出し、地域によって異なる方法で発酵させます。たとえば、木箱に入れたり、バナナの葉で覆ったりします。中南米では、階段状の木箱に豆を入れ、順に移しながら発酵を進める手法がよく用いられます。発酵過程では、微生物の働きが鍵であり、パルプがそれに不可欠なのです。初期段階では主に酵母が活動し、エタノールが生成され、さらにパルプ内のペクチンを分解する酵素も分泌されます。次に乳酸菌や酢酸菌が登場します。このような微生物の変化が観察される中、パルプの状態が発酵に大きな影響を及ぼします。発酵を経てカカオ豆は糖やアミノ酸を生成し、これが後に焙煎時に特有の風味を生み出す要因となります。したがって、カカオ豆の発酵はチョコレートの香りと味わいを決定づける重要なステップであり、チョコレートが発酵食品とされる理由なのです。

初めは茶色ではない、カカオ豆の色彩

一般的にミルクやダークチョコレートは茶色ですが、実際にはカカオ豆の中身が元々茶色というわけではありません。カカオ豆を収穫すると、その生の状態では内部が紫色をしています。この色はポリフェノールの影響によります。発酵が進むと、タンパク質やアミノ酸がポリフェノールと作用し、豆の色が変わって茶色となり、チョコレートの色調が生まれます。またカカオには、生の状態で白い豆も存在し、非常に希少価値の高い「ホワイトカカオ」として知られています。これも発酵することで茶色に変わり、一般的なチョコレートの色になります。発酵はチョコレートの品質において非常に大切なステップです。

カカオ豆は十分に乾燥してから出荷される

発酵後のカカオ豆は水分をたっぷり含んでいます(40%以上の水分含有量)。その状態で保管や輸送を行うとカビのリスクがあるため、カビの発生を防ぐために湿度を下げ、7%以下まで乾燥させます。主な乾燥方法としては天日乾燥と機械乾燥があり、通常は屋外での日光を利用した天日乾燥が行われますが、天候不良が続く場合や湿度が高いときは機械で乾燥することもあります。乾燥方法や設備は農園ごとに異なることがあり、中には移動式の乾燥台を使用し、晴れた日には外で乾燥させ、雨の日には屋内に収納するなど、工夫された施設を持つ農園もあります。しっかりと乾燥されたカカオ豆は品質検査を経て、麻袋に詰められ、チョコレート製造のために輸出されます。

カカオはフルーツ!その特性や発酵について学び、チョコレートの楽しみを広げよう。

チョコレートが持つ独特の風味の中に、かすかな酸味が含まれることをご存知ですか?この酸味は、カカオの産地や品種によって異なり、カカオ豆本来の特性や発酵というプロセスから生まれるものです。果実としてのカカオやカカオ豆の発酵について知識を持つことで、チョコレートをさらに深く楽しむことができるでしょう。次回チョコレートを味わう際には、カカオの実やその生産地の光景を思い浮かべてみてください。

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