粟餅は、日本の伝統的な和菓子で、その素朴な味わいと歴史深い背景から、長年にわたり多くの人々に愛されています。古くから日本の食卓に登場する粟餅は、もち米の代わりに粟を使用し、特有の食感と香ばしさを持っています。この伝統菓子はお祭りや特別な行事でも振る舞われ、歴史と文化が幾重にも重なる一品です。現代でもその魅力は衰えることなく、新たな形で人気を博し続けるその秘密に迫ります。
もち米から作る伝統菓子
粟餅は、つきたての粟から作られる餅で、食事やお菓子として楽しまれます。
製造プロセス
粟は古くから主食の代用品として使われており、粘り気のあるもち粟を用いて粟餅が作られます。地域によって作り方に違いがあり、もち粟だけで作る場合もあれば、もち粟ともち米を半々に混ぜて作る場合もあります。混ぜる際には、もち粟は洗ってざるに上げ、もち米は一晩水に浸しておき、それから一緒に蒸してつきあげます。
歴史的背景
古くから米のもちと同様の方法で作られてきた粟餅は、江戸時代に入ると菓子として親しまれるようになり、各地の賑わいの場に店舗が多く立ちました。これらの粟餅店では、その場で餅をつき、つきたての新鮮な餅に人気が集まりました。特に有名だったのは、江戸の目黒不動や京都の北野天満宮の門前の店です。恋川春町の作品『金々先生栄花夢』は、粟餅を炊き、つくまでの時間に主人公が見る夢を描いており、時代の風俗を反映しつつ黄表紙のジャンルを確立しました。江戸時代の終わり頃の記録によると、粟餅屋では、ついた餅を一握りして指の間で均等な大きさの4つの団子にし、少し離れたきな粉の盆に投げ入れ、できたものをすぐに盆に盛ったり竹の皮に包んで客に提供したりするパフォーマンスが人気を集めました。これらのパフォーマンスは歌舞伎や常磐津節の題材にされ、特に常磐津の演目「粟餅」として知られています。
現在の状況
今日でも各地で粟餅は製造されていますが、食生活の変化に伴い粟の生産が減少し、手に入りにくくなっています。結果として、高品質な粟が生産されるようになり、価格が上昇しました。そのため、粟餅の生産は減少し、米の餅に比べて一般的なものではなくなっています。一方、近年の健康志向の高まりを背景に、雑穀が再評価されるようになりました。特に農村部では村おこしの活動として、粟餅や黍餅が地元産の加工品として製造・販売されています。スーパーマーケットや農産物直売所、道の駅などで切り餅の形で販売されることも増えています。和菓子としては、京都の北野天満宮前にある澤屋の粟餅や、伊勢市の赤福で8月に作られる八朔粟餅、磐田市見付地区の粟餅などが有名です。