春の訪れを告げる愛らしい花と、秋に赤く染まる果実が魅力的なサンザシ属(サンザシの木)。庭木や生垣として親しまれているこの植物は、実は古くから人々の生活に深く関わってきました。本記事では、サンザシ属の基本情報から、その特徴、分布、そして驚くほど多様な利用法までを徹底解説。あなたの身近な存在であるサンザシの新たな魅力に触れてみませんか?
サンザシ属とは:その概要と多様な活用法
サンザシ属は、バラ科に属する植物群です。日本においては、中国原産のCrataegus cuneata(サンザシ)が、観賞用や生垣として親しまれています。北半球の温暖な地域、特にアジア、ヨーロッパ、北アメリカに広く分布し、アメリカのミズーリ州やアイダホ州では州のシンボルとして指定されています。イギリスでは、5月の開花時期にちなんで「メイフラワー」とも呼ばれます。英語名のhawthornは、古英語の「haga」(垣根)と「thorn」(棘)に由来し、棘のある垣根として利用されてきた歴史を示唆しています。サンザシの果実は、古くから生薬、健康食品、ドライフルーツ、そのまま食べる、菓子材料など、幅広い用途で活用されてきました。
広範な分布と種の多様性
サンザシ属の植物は、主に北半球の温帯地域に広く分布しています。種間交雑が容易なため、過去には1000種以上が記録されるほど多様な種が存在しました。現在では約140種がサンザシ属として分類されていますが、北半球の温帯地域には約200種が生息すると推定され、分類が確定していない種も存在します。ヨーロッパ原産は約20種、中国原産は18種が確認されていますが、北米にはさらに多くの野生種が存在し、起源が不明なものも少なくありません。かつてはナシ属やマルメロ属への分類も検討されましたが、現在はバラ科に統合されています。多くの種が落葉性ですが、一部には常緑性の種も存在します。日本国内では、北海道に分布するオオバサンザシ(Crataegus maximowiczii)と、北海道と長野県に自生するクロミサンザシ(C. chlorosarca)の2種が確認されており、特にクロミサンザシは北海道の根室地方に多く見られます。
植物としての特徴:棘、花、果実、そして繁殖
サンザシ属は落葉性の低木であり、多くの種が特徴的な棘を持っています。樹高は通常2〜3メートル程度ですが、セイヨウサンザシのように数メートルに成長するものもあります。春には、白く愛らしい花を咲かせ、中には淡いピンク色の花を咲かせる品種もあります。開花後には小さな果実が実り、各果実には1〜5個の種子が含まれています。これらの果実は、葉とともに、鳥や哺乳類などの野生動物にとって重要な食料源となります。繁殖は、種子からの実生または挿し木によって容易に行えます。特に同じバラ科の近縁種とは接ぎ木が容易であり、園芸分野でもこの性質が利用されています。
サンザシの多岐にわたる利用法:古くからの伝統と現代への応用
サンザシ属は、美しい花と栄養価の高い果実を目的に、昔から人々に親しまれてきました。ヨーロッパ文化では、愛や希望、強さのシンボルとされる一方で、独特の香りが魔除けとして利用されることもありました。その用途は、伝統的な薬用から食品、そして現代の飲料に至るまで、実に幅広いです。
生薬「山査子」としての効能と歴史
サンザシ、特にオオミサンザシの果実を乾燥させたものは、山査子(さんざし)という生薬として知られ、古来より消化を助ける効果があるとして珍重されてきました。加味平胃散や啓脾湯といった漢方薬に配合され、その薬効が利用されています。また、セイヨウサンザシの果実や葉は、動悸や心筋衰弱といった心臓疾患の治療に用いられることがあります。現代のハーブ療法では、動脈硬化の原因となる血管壁への物質蓄積を抑制する効果も期待されています。
ロシアにおける「バヤーリシュニク」薬用品と社会問題
ロシア語でサンザシはバヤーリシュニク(боярышник)と呼ばれ、広く親しまれています。エタノールに浸して薬効成分を抽出したチンキ剤が製造され、薬局で販売されています。これらは本来、入浴剤やローションとして販売されていますが、安価であるため、アルコールの代用品として飲まれることが少なくありません。特に、エタノールの代わりに有毒なメタノールを使用した違法製品が出回ったことで、深刻な健康被害が発生しており、2016年12月にはイルクーツク市で多数の中毒死者が出て、非常事態宣言が発令される事態となりました。
伝統的なサンザシ酒の魅力
サンザシから造られるサンザシ酒は、甘酸っぱい風味が特徴で、一部の中華料理店では中国酒として提供されています。また、サンザシの果実からリキュールが作られることもあり、甘酸っぱい風味が特徴です。一部の中華料理店では中国酒として提供されています。
健康的なドライフルーツとしてのサンザシ
サンザシの実は、乾燥させてドライフルーツとしても楽しまれています。果肉をペースト状にし、砂糖や凝固剤と混ぜて固めたものが一般的です。特に中国の「山査子餅」(シャンジャーズビン)は、円筒形に成形されたものを薄くスライスしたもので、おなじみの存在です。おやつとしてそのまま食べるのはもちろん、酢豚などの料理に加えて、独特の風味と酸味を添える隠し味としても重宝されています。
中国の伝統菓子に見るサンザシの多様性
中国では、「山査子餅」以外にも、「山査子糕」(シャンジャーズガオ)という、平たい板状のサンザシ菓子があります。北京ダックの風味付けに使われることもあり、料理のアクセントとしても活用されています。また、街角では「冰糖葫芦」(ビンタンフール)という人気の駄菓子も。これはサンザシの実を串に刺し、飴をかけたもので、日本のりんご飴のような見た目と食感が楽しめます。パリパリの飴と甘酸っぱいサンザシのハーモニーは、子供から大人まで広く愛されています。
メキシコのテホコテス:生食から加工品まで
Crataegus pubescens種の果実は、メキシコでは「テホコテス」と呼ばれ、人々の食生活に深く根付いています。生で食されるだけでなく、さまざまな料理にも利用されます。特にジャムやゼリーの材料としてよく使われ、メキシコの家庭料理やお菓子作りには欠かせない存在です。テホコテスは、サンザシ属の中でも特に幅広く活用されている種と言えるでしょう。
主要なサンザシ属の種と代表的な改良品種
サンザシ属は多様性に富んでおり、多くの原種に加えて、園芸用に開発された魅力的な改良品種が存在します。これらの種や品種は、それぞれ異なる特性を持ち、庭木、生垣、または実用的な目的で利用されています。
代表的なサンザシ属の種
サンザシ属は、実に多様な原種を抱えており、それぞれが特定の地域に根ざし、独自の姿や生態を育んでいます。代表的な原種としては、ヨーロッパを故郷とする「セイヨウサンザシ」、そしてメキシコ原産の「Crataegus pubescens」などが挙げられます。「セイヨウサンザシ」は、その薬効と観賞価値の高さから広く親しまれています。一方、「Crataegus pubescens」は、メキシコでは「テホコテス」の名で親しまれ、食用として重宝されています。その果実は、そのまま食べたり、ジャムやゼリーの材料として利用されています。標本資料は全体では18万点近くあるが、その中で栽培と思われる資料や、同定、採集地が不確かな資料、種名・採集地・採集者が同じ資料(S-Netでは採集者が非公開なので、種名・採集地・採集日が同じ資料)は除いた。(出典: 鹿児島県の維管束植物分布図集 -全県版-(鹿児島大学総合研究博物館), URL: https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/publications/plants/map_Kagoshima_all.pdf, 2021-03-31)
注目の改良品種
園芸の世界では、より美しい花、魅力的な実、あるいは特徴的な樹形を追求し、様々なサンザシの改良品種が誕生しています。これらの品種は、観賞用としての価値が高く、世界中の庭園や公園で愛されています。特に注目を集めているのは、「アカバナヤエサンザシ」や「セイヨウサンザシ‘クリムゾン・クラウド’」などです。「アカバナヤエサンザシ」は、その名の通り、八重咲きの赤い花を咲かせ、庭に華やかな彩りを添えます。「セイヨウサンザシ‘クリムゾン・クラウド’」は、鮮やかな深紅色の花で知られ、春の庭を鮮やかに彩る人気の品種です。
まとめ
サンザシ属は、バラ科の植物で、北半球の温帯地域に広く分布しています。薬用や食用として古くから利用され、特に果実は生薬や菓子、リキュールの材料として親しまれています。文化的な象徴としても様々な意味合いを持ち、人々の生活と深く結びついてきた植物です。
サンザシとはどんな植物ですか?
サンザシ属は、バラ科に分類される落葉性の低木であり、北半球の温暖な地域に広く分布しています。春には可憐な白い花を咲かせ、秋には赤やオレンジ色の小さな果実を実らせます。多くの種が棘を持っており、日本では生垣や庭木として親しまれています。英語では一般的にホーソーン(hawthorn)と呼ばれています。
サンザシはどのように活用されていますか?
サンザシは、その用途の広さが特徴です。漢方薬としては「山査子(さんざし)」の名で知られ、胃腸の働きを助けたり、心臓の健康をサポートするために用いられます。食品としては、乾燥させたドライフルーツ、様々な種類の菓子(山査子餅や冰糖葫芦など)、ジャムやゼリーといった加工品、さらにはサンザシ酒の材料としても重宝されています。
サンザシの実が健康に良いとされるのはなぜですか?
サンザシの実は、特に生薬としての「山査子」として、その効果が認められています。消化を促進し、栄養の吸収を助ける働きがあると考えられています。また、西洋サンザシの果実や葉は、ハーブ療法において、心機能の向上や動脈硬化を引き起こす血管内の物質の蓄積を抑える効果が期待されています。
ロシアでサンザシが原因で中毒死者が出たという事件は事実ですか?
その通りです。ロシアでは、サンザシを原料とした薬用チンキ「バヤーリシュニク」が販売されていますが、これを安価なアルコールの代替品として利用する事例がありました。2016年12月には、エタノールの代わりに毒性のあるメタノールを使用した違法な製品が出回り、イルクーツク市を中心に多くの中毒死者を出すという痛ましい事件が発生し、事態を重く見た当局が非常事態宣言を発令しました。
サンザシを使用した中国の伝統的なお菓子にはどのようなものがありますか?
中国では、サンザシは様々なお菓子に利用されています。代表的なものとしては、円筒形に固めて薄切りにしたドライフルーツ「山査子餅(シャンジャーズビン)」、平たい板状の「山査子糕(シャンジャーズガオ)」、そしてサンザシの実に飴を絡めて竹串に刺した「冰糖葫芦(ビンタンフール)」などが挙げられます。これらの菓子は、甘酸っぱい独特の風味が楽しめます。