秋の深まりを感じさせる果物、柿。鮮やかなオレンジ色は、食卓を彩り、秋の訪れを知らせてくれます。日本原産の柿は、古くから日本人に愛されてきた果物で、その歴史は奈良時代にまで遡ります。甘柿の優しい甘さ、渋柿を加工した干し柿の濃厚な甘み、どちらも秋の味覚として外せません。この記事では、柿の歴史から種類、そして美味しい食べ方まで、柿の魅力を余すところなく徹底解説します。
柿とは
秋の味覚として知られる柿は、日本を含む東アジア地域が原産地です。甘柿と渋柿の二種類が存在し、それぞれに独特の風味と食感があります。日本においては非常に長い歴史を持ち、奈良時代の文献にもその名を見ることができます。生のまま食されるのはもちろん、干し柿やジャムといった加工品としても広く親しまれています。
柿の歴史
柿の起源については、中国とする説と、中国・朝鮮半島・日本とする説が提唱されていますが、現在広く栽培されている品種の源流は中国から伝わったとする説が有力です。平安時代の文献である「本草和名(918年)」や「延喜式(927年)」にも柿に関する記述が見られ、奈良時代の木簡からは、当時すでに食用として利用されていたことが確認できます。
柿の種類
柿は大きく甘柿と渋柿に分類され、その違いは渋味成分であるタンニンが成熟過程で不溶化されるかどうかにあります。柿には「完全甘柿」「不完全甘柿」「完全渋柿」「不完全渋柿」の4種類があります。甘柿は成熟する過程でタンニンが不溶化するため、渋味を感じずに食べられますが、渋柿は渋抜きという特別な処理を行うことで甘く美味しく食べることができます。ここでは、代表的な柿の品種について詳しく解説します。
甘柿
甘柿とは、成熟するにつれて渋味の元となるタンニンが不溶性へと変化するため、収穫後すぐに食べることができる柿を指します。代表的な品種としては、富有柿や次郎柿などが挙げられます。
富有(ふゆう)
富有柿は、甘柿の代表的な品種として知られ、国内で最も多く栽培されています。そのルーツは岐阜県にあり、明治時代からその栽培が始まりました。果実は丸みを帯びた形状で、表面は鮮やかなオレンジ色をしています。果肉は柔らかく、豊富な果汁と強い甘みが特徴で、比較的日持ちが良いのも魅力です。旬の時期は10月下旬頃となります。
次郎
次郎柿は、扁平で丸みを帯びた四角形が特徴的な甘柿です。江戸時代末期に静岡県周智郡で発見され、明治時代以降に栽培が拡大しました。果実の大きさは約250~300gで、種が少ないのが特徴です。果肉は硬めで、しっかりとした甘さと心地よい食感が楽しめます。収穫時期は10月下旬頃からで、より早く成熟する「早生次郎(前川次郎)」という品種も存在します。
伊豆
伊豆柿は、静岡県で生まれた甘柿で、富有と興津1号を交配して誕生しました。10月上旬頃から収穫できる早生品種であり、重さは約230gです。果汁が多く、やや柔らかめの果肉を持ち、甘みが強く食味が良いのが特徴です。ただし、他の品種に比べて日持ちはあまり良くありません。
早秋(そうしゅう)
早秋は、伊豆と興津2号×興津17号を掛け合わせて広島県で開発され、2003年に品種登録された甘柿です。名前が示すように、成熟が早く、9月中旬頃から収穫が始まります。柔らかめの果肉は果汁をたっぷり含み、甘みも豊かで緻密な食感です。重さは250~300g程度で、丸みを帯びた四角形をしています。
太秋(たいしゅう)
太秋は、「富有」と「IIiG-16」を掛け合わせて生まれた甘柿で、1995年に品種登録されました。一つ350~400gと大きく、ジューシーでありながら、シャキシャキとした食感が魅力です。熟すと果皮に黒い線(条紋)が現れやすく、この条紋が多いほど甘味が強いと言われています。旬は10月下旬頃です。
花御所(はなごしょ)
花御所は、主に鳥取県で栽培されている晩生の甘柿で、収穫時期は11月下旬頃です。丸みを帯びた形が特徴で、外見は富有柿に似ています。果肉はきめ細かく、果汁が豊富で、強い甘味が特徴。糖度が20度を超えるものも存在します。江戸時代から栽培されていたという歴史のある品種です。
西村早生(にしむらわせ)
西村早生は、滋賀県の西村さんの柿畑で偶然生まれた品種で、1960年に登録されました。見た目は富有柿に似ていますが、甘さは控えめで、果肉はやや硬めです。不完全甘柿なので、渋抜き処理をしてから出荷されます。果肉にゴマのような黒い斑点が出ると甘くなったサインです。重さは200~300g程度で、9月中旬頃から市場に出回ります。
筆柿
筆柿は愛知県が原産の柿で、その形が筆先に似ていることから名付けられました。不完全甘柿であり、甘味が増すと果肉にゴマ状の黒い斑点が現れます。サイズは80~130gと小ぶりで種があり、上品な甘さが楽しめます。旬は9月中旬頃からです。
渋柿
渋柿とは、可溶性のタンニンが豊富に含まれているため、そのままでは強い渋味がある柿を指します。渋抜きという処理を行うことで、美味しく食べられるようになります。主な品種としては、平核無、刀根早生、市田柿などが挙げられます。
平核無(ひらたねなし)
平核無は、種がないことで知られる品種で、「種なし柿」として広く流通しています。地域によっては「庄内柿」や「おけさ柿」と呼ばれることもあります。特徴的な四角い扁平の形をしており、重さは200~250g程度です。不完全渋柿に分類されますが、渋抜きをすることで甘味が増し、口当たりがまろやかで果汁も豊富になります。旬は10月中旬から11月頃です。
刀根早生(とねわせ)
刀根早生は、平核無から生まれた枝変わり品種で、1980年に品種登録されました。外観は平核無とほとんど変わりませんが、渋抜き後の甘さと食味が優れています。他の品種よりも早く収穫され、9月下旬頃から店頭に並びます。平核無と同様に、地域によっては「庄内柿」や「おけさ柿」という名前で販売されることもあります。
甲州百目(富士柿)
甲州百目は、釣り鐘のような形をした大きな不完全渋柿で、500gを超えるものもあります。主に福島県、宮城県、山梨県、愛媛県などで栽培されており、渋抜きをして生で食べるだけでなく、あんぽ柿やころ柿(枯露柿)などの加工品にも利用されます。「富士柿」や「蜂屋柿」とも呼ばれ、生果としては富士柿の名前で流通することが多いです。なお、岐阜県原産の「堂上蜂屋」は別の品種で、主に干し柿として利用されています。
松本早生富有(不完全甘柿)
「松本早生富有」は、甘柿として知られる富有柿の枝変わりとして生まれた品種です。1935年頃、京都府の松本氏によって発見、育成されたことが名前の由来となっています。富有柿よりも成熟が早く、10月中旬頃から市場に出回ります。果実の大きさは約250gで、富有柿と同様に甘みが強く、果肉は柔らかいのが特徴です。栽培条件によっては渋が残ることがある不完全甘柿ですが、通常は甘柿として出荷されます。
市田柿(いちだがき)
市田柿は、長野県を代表する渋柿の一種です。そのルーツは古く、下伊那郡高森町(かつての市田村)で栽培されてきた歴史を持ちます。形状はふっくらとした卵型で、重さは100~120gとやや小ぶりです。主に干し柿として用いられ、その上品で濃厚な甘さは格別です。「市田柿」という名称は商標登録されており、さらに農林水産省の地理的表示(GI)保護制度に登録されています。長野県飯田市や下伊那郡などで生産・加工された干し柿のみがこの名前を冠することができます。
西条
西条柿は、広島県を原産とする歴史ある渋柿で、その栽培の歴史は数百年にも及ぶと言われています。果実は丸みを帯びた縦長で、表面には特徴的な4本の溝があります。重さは100~150g程度です。渋抜きを行うことで、上品な甘さと豊富な果汁を楽しむことができます。ただし、時間経過とともに果肉が柔らかくなるため、硬めの食感を好む場合は早めに食するのがおすすめです。収穫時期は10月上旬頃から始まります。
愛宕(あたご)
愛宕柿は、愛媛県で昔から栽培されている渋柿で、釣り鐘のような独特の形が目を引きます。重さは200~250gと平均的な大きさです。渋抜き処理を施すと、ほどよい甘さとサクサクとした食感が楽しめます。主な産地は愛媛県をはじめ、徳島県や香川県などです。収穫時期は11月から12月頃で、店頭には翌年の2月頃まで並びます。
会津身不知(あいづみしらず)
福島県会津地方原産の会津身不知は、長い歴史を持つ柿の一種です。完全には甘くならない渋柿のため、出荷前にアルコールなどを用いて渋抜きを行います。果肉はきめ細かく、ややソフトな食感で、舌触りは滑らか。上品な甘さが特徴で、比較的日持ちが良いとされています。市場に出回るのは11月頃で、「西念寺柿」や単に「身不知」という名でも親しまれています。
四ツ溝(溝柿)
静岡県が発祥の地とされる四ツ溝は、果実側面の4本の溝が名前の由来です。横から見るとハート形にも見える可愛らしい形をしており、重さは100~150g程度とやや小ぶり。こちらも完全な渋柿ですが、渋抜き後の果実は強い甘みと緻密な食感で美味しくいただけます。「するがの柿」というブランド名でも販売されています。
柿の選び方
美味しい柿を選ぶには、いくつかのコツがあります。まず、果皮の色ムラがなく、光沢があり、傷やシミがないか確認しましょう。ヘタがしっかりと付いており、全体的にふっくらと盛り上がっているものがおすすめです。手に取った際に、見た目よりも重く感じるものは、果肉がぎっしりと詰まっている証拠です。甘柿を選ぶ際は、お尻の部分に放射状のひび割れが入っているものが、より甘い傾向にあると言われています。
柿の保存方法
柿の保存方法は、柿の種類や状態によって最適な方法が異なります。甘柿の場合、乾燥を防ぐためにポリ袋に入れ、冷蔵庫で保存するのがおすすめです。およそ1週間を目安に食べきると良いでしょう。渋柿の場合は、必ず渋抜きを行ってから同様に保存してください。長期保存したい場合は冷凍も可能で、凍らせた柿はシャーベットのような感覚で楽しめます。
柿の栄養価と健康効果
ビタミンCは免疫機能の維持をサポートすると言われています。β-カロテンは抗酸化作用を持つことで知られています。カリウムは、過剰なナトリウムを体外へ排出する作用があると言われています。また、柿に含まれるタンニンは、アルコールの分解を助ける可能性があると考えられています。
柿の主要栄養成分(可食部100gあたり)
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ビタミンC:70mg
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β-カロテン当量:420mcg
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カリウム:170mg
特筆すべき成分:タンニン
柿の独特な渋みを生み出すタンニンは、血圧の上昇を抑制する効果や、アルコール分解を促進する働きがある一方で、鉄分の吸収を妨げる可能性も指摘されています。したがって、貧血傾向のある方は、柿の過剰な摂取を控えるように注意が必要です。
まとめ
今回は、秋の味覚として親しまれている柿について、その多様な種類、選び方のポイント、適切な保存方法、豊富な栄養と健康への効果を詳しくご紹介しました。それぞれの品種の個性を理解し、美味しい柿を選んで、秋の味覚を心ゆくまでお楽しみください。また、柿に含まれる様々な栄養成分を積極的に摂取し、より健康的な生活を送ってください。
質問1
渋柿を甘くする方法はありますか?
渋柿は、アルコールや炭酸ガスを利用した脱渋処理によって甘くすることができます。また、時間をかけて干し柿にすることで、自然と渋みが抜け甘味が増します。
質問2
柿はどの程度保存できますか?
甘柿であれば、ビニール袋などに入れて冷蔵保存し、およそ1週間を目安に食べきるのがおすすめです。渋柿は、渋抜きを行った後に同じように保存してください。
質問3
柿は冷凍保存できますか?
はい、柿は冷凍保存も可能です。冷凍することで、シャーベットのような食感を楽しむことができます。