銀杏の効能と食べ方:漢方から学ぶ、安全な摂取量と毎日食べる際の注意点
秋の味覚として親しまれる銀杏。独特の風味と食感は、茶碗蒸しやお酒のお供として食卓を彩ります。しかし、その効能や食べ方については意外と知られていないのではないでしょうか。古くから漢方薬としても用いられてきた銀杏には、様々な健康効果が期待できる一方で、適切な摂取量を守らないと中毒を起こす可能性も。この記事では、漢方の視点から銀杏の効能を解説し、安全に美味しく毎日食べるための注意点を紹介します。

銀杏とは:知っておきたい基礎知識

秋の季語として俳句にも詠まれる銀杏は、日本人にとって古くから馴染み深い存在です。街路樹の下で独特の臭いを放つイメージが強いかもしれませんが、その実態はあまり知られていないかもしれません。銀杏はイチョウの木になる種子であり、私たちが食用としているのは、その種子の中にある胚乳部分です。そのため、アーモンドやくるみ、ごまなどと同じ「種実類」に分類されます。イチョウの木は、自家受粉を避けるため、雄株と雌株が存在し、種子が実るのは雌株のみです。

銀杏の旬と主な産地

銀杏の旬は、地域差はあるものの、おおむね9月から11月にかけての短い期間です。収穫初期のものは鮮やかな緑色をしており、熟成が進むにつれて黄色へと変化します。作物統計調査(政府統計の総合窓口e-Stat)では、ぎんなん(イチョウの実)の都道府県別生産量が毎年公表されている。直近の2022年(令和4年)データによれば、愛知県が全国1位(約150トン)、次いで大分県、福岡県の順であり、この3県で全国生産量の過半数を占めている。銀杏の代表的な品種としては、「藤九郎」や「喜平」などが挙げられます。

銀杏の栄養価:秘められたスーパーフードとしての側面

銀杏は、漢方薬としても用いられるほど、栄養価が非常に高い食品です。タンパク質、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含み、隠れたスーパーフードとも呼ばれています。種実類は、抗酸化作用を持つ栄養素や機能性成分を多く含んでいるのが特徴ですが、銀杏は他の種実類と比較して脂質が少なく、低カロリーであるという点も魅力です。

銀杏に含まれる主な栄養素と期待できる効能

銀杏には、ビタミンCやカリウムといった栄養素に加え、抗酸化物質などの機能性成分が豊富に含まれています。生の銀杏に含まれる主な栄養素は以下の通りです。
  • ビタミンC
  • カリウム
  • リン
  • レシチン
  • β-カロテン
これらの栄養素が私たちの健康にもたらす効能について、詳しく見ていきましょう。

美肌に導くビタミンC

ビタミンCは、美しい肌を保つために重要な栄養素です。肌のハリや弾力を支えるコラーゲンの生成に不可欠であり、その強い抗酸化作用で、老化の原因となる過酸化物質の生成を抑制する効果が期待できます。体内では生成できないため、食事から積極的に摂取する必要があります。水溶性ビタミンであるため、一度に大量に摂取するよりも、こまめに摂取することが推奨されます。

むくみと高血圧をケアするカリウム

カリウムは、むくみや高血圧の予防に役立つミネラルです。体内のナトリウム(塩分)とのバランスを調整する役割を担っており、十分なカリウム摂取は、ナトリウムの排出を促進します。これにより、体内の余分な水分が尿として排出され、むくみの解消や血管内の水分量の調整を通じて、高血圧の予防に繋がります。

丈夫な骨を形成するリン

リンは、体内でカルシウムに次いで多いミネラルであり、丈夫な骨や歯を作る上で欠かせない栄養素です。カルシウムと共に骨や歯の主要な構成要素となり、骨の強度を維持します。さらに、細胞膜の構成やエネルギー産生にも関与しています。現代の食生活では不足しにくい栄養素ですが、不足すると骨が弱くなるだけでなく、エネルギー不足を引き起こす可能性もあります。

貧血予防に貢献する鉄

鉄は、貧血を予防するために重要な役割を果たします。赤血球中のヘモグロビンは、肺から全身へ酸素を運搬するタンパク質であり、鉄はその主要な構成成分です。鉄が不足すると、酸素が十分に供給されず、貧血のリスクが高まります。食事から効率的に鉄を摂取するためには、ビタミンCやタンパク質と一緒に摂ることが効果的です。

悪玉コレステロール・中性脂肪を減らすレシチンの力

レシチンは、リン脂質の一種であり、悪玉コレステロールや中性脂肪を下げる効果が期待されています。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血液中に過剰に存在すると、動脈硬化のリスクが高まります。レシチンは、コレステロールが血管壁に付着するのを防ぐ働きがあると考えられています。また、レシチンが十分に存在することで、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が増加し、血液中のコレステロールバランスを整え、悪玉コレステロールや中性脂肪の減少を促します。

免疫力をサポートするβ-カロテン

銀杏には、免疫力向上に役立つとされるβ-カロテンが豊富に含まれています。β-カロテンはプロビタミンAの一種で、抗酸化作用を持つことが知られています。活性酸素は、呼吸によって体内に取り込まれた酸素が変化したもので、本来は免疫機能や感染防御に重要な役割を果たします。しかし、過剰な活性酸素は細胞を傷つけ、様々な不調の原因となる可能性があります。通常、体内では活性酸素の量が適切に調整されていますが、紫外線、喫煙、加齢、ストレスなどによって調整機能が低下することがあります。そこで、抗酸化作用を持つβ-カロテンが注目されています。

銀杏の薄皮に秘められた効果

銀杏の薄皮には、抗酸化作用を持つ成分が含まれており、老化を遅らせる効果があると言われています。さらに、血行促進作用も期待でき、疲労回復をサポートする可能性があります。薄皮は少し硬くて食べにくい部分ですが、水に浸して柔らかくしたり、油で揚げてカリカリにするなど、工夫次第で美味しく食べられます。少し手間をかけて、ぜひ薄皮も有効活用してみてください。

銀杏のカロリーと糖質について

銀杏のカロリーは100gあたり約168kcal、糖質は約33.4gです。銀杏1粒は約3gなので、1粒あたり約5kcal、糖質は約1.0gとなります。参考として、同じく種実類である栗の場合、100gあたり約147kcal、糖質は約33.5gです。銀杏は栗に比べてカロリーはやや高めですが、糖質はほぼ同程度と言えます。

銀杏を食べる際の注意点:中毒のリスクと安全な摂取量?

銀杏にはギンコトキシンという天然の有毒物質が含まれており、過剰摂取により中毒症状を引き起こす可能性があります。ギンコトキシンはビタミンB6の働きを阻害し、神経の興奮を抑えるGABA(γ-アミノ酪酸)の生成を妨げるため、けいれんなどの神経症状が現れることがあります。加熱してもギンコトキシンは分解されないため、調理法に関わらず摂取量には注意が必要です。

銀杏中毒のメカニズム

銀杏に含まれる4ʼ-O-メチルピリドキシンは、ビタミンB6(ピリドキシン)と構造が似ています。この類似性により、ビタミンB6の働きを阻害し、ビタミンB6が変化したピリドキサールリン酸の不足を引き起こすと考えられています。ピリドキサールリン酸が不足すると、抑制性の神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)が生成されにくくなり、結果として神経系の異常な興奮(けいれん)が起こると考えられています。小さなお子様には与えないようにし、大人でも食べ過ぎには注意が必要です。

銀杏の摂取量:1日に何個まで?

銀杏の適切な摂取量に明確な基準はありませんが、抗うつ薬の過量服用で入院となった患者群を調査している。セルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、フルオキセチン(国内未発売)、シタロプラム(国内未発売)の5種類のSSRIをそれぞれ単剤のみ過量服用した結果、セロトニン症候群を呈した症例は469例中67例(14%)であった。(出典: 厚生労働省『重篤副作用疾患別対応マニュアル』Isbisterらの研究より, URL: https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000665779.pdf, 2020-09-02)

5歳以下の子供には食べさせない

日本中毒情報センターは、5歳以下の子供には銀杏を食べさせないよう推奨しています。これは、大人と比較して、けいれんや嘔吐といった中毒症状を引き起こしやすいためです。もし誤って食べてしまった場合は、中毒症状が現れないか注意深く観察し、必要に応じて医療機関を受診してください。銀杏中毒は、一般的に数十個食べた場合に発生するケースが多いですが、数個程度であれば問題ない場合がほとんどです。しかし、小児では7個程度の摂取でも中毒を発症した例が報告されています。5歳以下の子供が誤って口にしないよう、銀杏の取り扱いには十分注意しましょう。

銀杏の下処理:美味しく安全にいただくために

銀杏は、お店では殻付きの状態で売られていることが多いですよね。殻ごと焼いて、香ばしい風味を楽しみながら食べるのも良いですが、茶碗蒸しや炊き込みご飯といった料理に使う場合は、殻を取り除いて下処理をする必要があります。また、銀杏拾いをして手に入れた銀杏は、独特の臭いを持つ、ブヨブヨとした種皮を取り除く作業も必要です。私たちが普段「銀杏」として食べているのは、種全体ではなく、種子の一部分である「胚乳」と呼ばれる部分です。胚乳は、発芽の際に必要な栄養を供給する役割を担っています。下処理では、この胚乳を覆う薄皮(渋皮)、硬い殻、そして柔らかい外側の表皮という、3つの層からなる種皮をすべて取り除く必要があります。

銀杏の外側の種皮の処理

銀杏の果肉部分である外側の柔らかい皮には、独特の臭いがあります。この表皮には、「ビロボール」という、触れるとかぶれやかゆみを引き起こす可能性のある物質が含まれています。そのため、素手で触るとアレルギー性皮膚炎のような症状が出ることがあるので、ゴム手袋などを着用して作業することをおすすめします。また、この表皮から発せられる独特の臭いは、一度衣類や壁紙などに付着するとなかなか落ちません。作業を行う際は、ポリ袋の中で行う、新聞紙を敷く、屋外で行うなど、工夫を凝らすと良いでしょう。もし表皮が柔らかければ、そのまま手で剥いて中の種を取り出します。表皮が硬くて剥きにくい場合は、水にしばらく浸けて柔らかくすると剥きやすくなります。表皮が剥けたら、種同士をこすり合わせるように流水で丁寧に洗い、残った表皮を綺麗に取り除きましょう。完全に表皮を取り除いたら、風通しの良い場所で広げて、完全に乾燥させます。

銀杏の殻の取り方

銀杏の殻を割るには、タオルとトンカチを用意します。タオルの上に銀杏を置き、指で軽く押さえながら、トンカチで殻を軽く叩いてひびを入れます。パカッと殻にひびが入ったら、手で殻を剥いて実を取り出しましょう。トンカチで叩く際は、殻の繋ぎ目部分を狙って叩くと比較的割りやすくなります。トンカチの代わりにペンチを使用したり、最近では銀杏の殻割専用の器具も販売されています。

銀杏の薄皮(渋皮)の処理

銀杏の殻を剥くと、薄皮が付いています。殻から取り出した銀杏の実を、水に30分ほど浸し、薄皮が柔らかくなったら、指の腹で優しくこするようにして剥いていきましょう。

銀杏の加熱調理法:手軽でおいしいレシピ紹介

銀杏を加熱することで、ホクホクとした食感と香ばしい風味を最大限に楽しむことができます。ここでは、ご家庭で手軽にできる銀杏の加熱調理法をいくつかご紹介します。
電子レンジで手軽
殻に少しひびを入れて、電子レンジで30秒ほど加熱するだけで、手軽にホクホクの銀杏が味わえます。加熱しすぎると破裂するので注意が必要です。
フライパンで香ばしい
殻付きまたは殻なしの銀杏を、フライパンで乾煎りします。焦げ付かないように弱火でじっくりと焼き、薄皮に焼き色がついたら食べ頃です。塩を振って風味を引き立てるのがおすすめです。
揚げておつまみ
殻をむいた銀杏を、素揚げまたは天ぷらにします。カリッとした食感と、ほのかな苦みが日本酒やビールによく合います。

銀杏の毒抜きはできない

残念ながら、銀杏には毒抜きという概念がありません。中毒症状を引き起こす原因となるメチルピリドキシンは、加熱に強い性質を持っているからです。つまり、銀杏を加熱調理しても、その毒性は消えません。したがって、中毒症状を避けて銀杏を安全に楽しむためには、決められた量を守って食べることが最も重要です。

銀杏と食べ合わせ:相性の良い食材

食材の組み合わせによっては、栄養素を効率的に摂取できたり、相乗効果が期待できたり、あるいは吸収を阻害したりすることがあります。例えば、β-カロテンは油脂と相性が良く、油を使って調理することで吸収率が高まります。また、卵黄のような脂質を含む食品と一緒に摂取するのも効果的です。茶碗蒸しに銀杏を入れるのは、理にかなった食べ方と言えるでしょう。海藻に含まれるフコイダンやアルギン酸といったぬめり成分は、体内のナトリウムを吸着して排出する働きを助けます。銀杏に含まれるカリウムと海藻を一緒に食べることで、ナトリウムの排出を促進する効果が期待できます。一方で、銀杏の栄養吸収を妨げるような、いわゆる「食べ合わせが悪い」とされる食材については、あまり神経質になる必要はないでしょう。

銀杏の保存方法:常温・冷蔵・冷凍

銀杏は、どのくらいの期間保存できるのでしょうか?旬である秋の涼しい時期であれば、風通しの良い場所で常温保存が可能です。ただし、保存期間の目安は殻付きの状態で約1週間です。冷蔵保存する場合は、殻付きのまま紙袋に入れるか、新聞紙で包んでからポリ袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で保存しましょう。この方法で約2週間程度保存できます。ただし、時間が経つにつれて実がしぼみ、色も緑色から黄色へと変化していくため、できるだけ早めに食べきることをおすすめします。もし食べきれない場合は、冷凍保存も可能です。殻から取り出して下処理をし、軽く塩ゆでしておくと、使いたい時にすぐに使えて便利です。ゆでた銀杏は、1食分ずつラップで包み、冷凍保存用の袋に入れて冷凍庫で保存します。1ヶ月を目安に使い切りましょう。解凍せずに、そのまま炒め物や茶碗蒸しなどに使用できます。

銀杏レシピ:ご家庭で秋の味覚を堪能

一年を通して真空パックの銀杏は手に入りますが、秋には殻付きの新鮮な銀杏が出回ります。少し手間はかかりますが、生の銀杏を調理すると、その風味は格別です。銀杏を使った料理には、茶碗蒸しや炊き込みご飯、香ばしい焼き銀杏、そして銀杏と小エビを甘酒で炒めたものなど、様々なバリエーションがあります。ぜひ、色々なレシピに挑戦して、銀杏の美味しさを発見してください。

最後に

銀杏は、ビタミンCやカリウムといった栄養素に加え、抗酸化作用のある成分も含む優れた食材です。ただし、一度にたくさん食べることは推奨されず、銀杏から摂取できる栄養量も限られています。そのため、色々な食品と組み合わせてバランスの取れた食事を心がけましょう。食べ過ぎによる中毒に注意しながら、銀杏の恵みを享受し、秋の訪れを感じてみませんか。この記事を参考に、銀杏を安全に、そして美味しく味わってください。

結び

この記事では、銀杏の栄養価、効能、注意点、調理法、保存方法について解説しました。安全な摂取量を守り、秋の味覚をお楽しみください。
免責事項
本記事で提供する情報は、一般的な知識の共有を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。持病のある方や健康に不安のある方は、必ず事前に医師や専門家にご相談ください。

銀杏は一日に何個までが適量ですか?

銀杏の摂取量の目安としては、大人は一日あたり約10個、お子様の場合は4~5個程度が良いでしょう。特に、5歳以下のお子様には与えない方が安全です。

銀杏、毒抜きは必須?

銀杏に含まれる中毒を引き起こす成分は、加熱によって分解されることはありません。そのため、調理方法に関わらず、摂取量には十分注意する必要があります。過剰摂取を防ぐことが最も重要な対策です。

銀杏の保存方法、何がベスト?

長期間保存したい場合は、冷凍保存が最適です。殻を剥き、適切な下処理(軽く茹でるなど)を行った後に冷凍することで、風味を損なわずに保存できます。冷蔵保存の場合、保存期間の目安は約2週間です。


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