生菓子(なまがし)とは?種類や特徴、美しい和菓子の世界
日本の四季を映し出す、繊細で美しい生菓子。そのみずみずしい姿は、まさに食べる芸術品です。餡や餅、果物など、自然の恵みを活かした素材の持ち味を最大限に引き出し、職人の熟練の技によって一つ一つ丁寧に作り上げられます。今回は、そんな生菓子の魅力に迫り、奥深い和菓子の世界へとご案内します。見た目の美しさだけでなく、口にした時の上品な甘さと滑らかな舌触りを、ぜひご堪能ください。

生菓子の定義とは?どんな意味があるの?

「生菓子」の定義は、水分量が35%以上のお菓子のことを指し、和菓子だけでなく洋菓子も含まれる幅広いカテゴリーです。この定義は、厚生労働省が定める食品衛生法に基づく「標示を要する生菓子類の定義について」によって明確に定められています。

生菓子のルーツを探る|歴史と起源

生菓子を含む和菓子の歴史は、日本の古代にまで遡ります。当時、人々は果物や木の実を「果子(かし)」と呼んでおり、まだ小麦粉を使ったお菓子を作る技術は発展途上にありました。その後、奈良時代に遣唐使によって中国から「唐菓子(とうがし)」が伝わり、小麦粉や甘い蜜を使ったお菓子の製法が発展し始めました。さらに、鎌倉時代から室町時代にかけて、中国から羊羹が、ポルトガルからカステラが伝来し、日本のお菓子文化は国際色豊かな広がりを見せました。

生菓子と上生菓子の違いとは?

和菓子の生菓子の中でも、特に高品質で洗練されたものを「上生菓子(じょうなまがし)」と呼びます。上生菓子は、日本の四季折々の風景や花鳥風月をモチーフにしていることが特徴で、熟練した職人が一つひとつ丁寧に作り上げることが多いため、その芸術性の高さからお茶会のような特別な場で提供されることが一般的です。上生菓子の中でも特に有名なのは「練り切り」で、白あんに小麦粉などを混ぜた生地に美しい色を付け、花や葉といった様々な形に象ったものです。その繊細なデザインは多くの人々を魅了しています。上生菓子には、練り切りの他に、「こなし」や「求肥」といった種類もあります。

和菓子の分類:生菓子、半生菓子、干菓子の違い

和菓子は、上生菓子以外にも「半生菓子」や「干菓子(ひがし)」という種類があります。これらは、お菓子に含まれる水分量によって分類されるのが一般的です。明確な定義はありませんが、水分量の目安は以下の通りです。水分量が10%以下の和菓子は「干菓子」に分類され、和三盆やひなあられ、有平糖、せんべいなどが該当します。干菓子よりも水分量が多く、10~30%程度のものが「半生菓子」と呼ばれ、ぜんざいやきび団子、甘納豆などが代表的です。水分量の多い団子やまんじゅうなどの生菓子は、日持ちしづらく、2~3日以内に食べる必要がある場合が多いです。一方、せんべいやおかきといった干菓子は、3種類の中で最も水分量が少ないため、日持ちが長く贈答用としても人気があります。

生菓子の特徴について

生菓子は水分量が35%以上のお菓子で、水分を多く含むため、クリームやフルーツの新鮮な風味、しっとりとした口当たり、みずみずしい食感を楽しめます。ただし、水分量が多いことから、干菓子や半生菓子に比べて日持ちしない点がデメリットです。

生菓子の種類【和菓子】

ここでは、生菓子の具体的な例をご紹介します。「生菓子とは具体的にどんな和菓子なのか?」と疑問に思っている方は、ぜひ参考にしてください。

おはぎ(ぼたもち)

おはぎ(ぼたもち)は、蒸したもち米やうるち米を潰して丸め、あんこで包んだ和菓子です。春と秋のお彼岸によく食べられ、季節によって呼び方が変わります。春は牡丹の花にちなんで「ぼたもち」と呼ばれ、秋は萩にちなんで「おはぎ」と呼ばれます。お彼岸には、ご先祖様へのお供え物としてだけでなく、小豆の無病息災の祈りや米の豊穣への感謝を込めて、おはぎが食べられていると言われています。鎌倉時代に仏教が広まり、お彼岸を祝う風習ができたため、当時からおはぎが食べられていたと考えられています。

ういろう

ういろうは、米粉をベースに砂糖や水を加えて混ぜ、蒸し上げて作る伝統的な和菓子です。その独特のもっちりとした食感と、控えめながらも上品な甘さが魅力で、古くは江戸時代から親しまれてきました。一般的に名古屋名物として知られていますが、実は「山口ういろう」や「阿波ういろう」など、日本各地で独自の製法や味わいのういろうが作られています。

どら焼き

ふっくらと焼き上げられた2枚の生地で、風味豊かなあんこをたっぷりと挟んだどら焼きは、幅広い世代に愛される定番の生菓子です。「どら焼き」という名前は、その形が打楽器の銅鑼(ドラ)に似ていることに由来するという説が有力です。起源については様々な説がありますが、一説には平安時代の武蔵坊弁慶が、村人のために作ったお菓子が原型ではないかと言われています。また、奈良県にはどら焼きに似た形状の「三笠山」という山があり、関西地方ではどら焼きを「三笠」と呼ぶこともあります。定番のあんこ以外にも、近年では芋あんやカスタードクリーム、生クリーム、栗の甘露煮など、様々なバリエーションが登場し、多様な味わいが楽しめるようになっています。

羊羹(ようかん)

羊羹は、あんと寒天を混ぜて型に流し込み、冷やし固めて作る和菓子です。そのルーツは1500年以上前の中国に遡るとされ、鎌倉時代から室町時代にかけて日本に伝来した際に、現在の形に近いものが生まれたと言われています。羊羹は、寒天の配合量によって大きく2つの種類に分けられます。寒天を多く使用したものは「練り羊羹」と呼ばれ、濃厚でずっしりとした食感が特徴です。一方、寒天の量を抑えたものは「水羊羹」と呼ばれ、みずみずしく、なめらかな口当たりが楽しめます。一般的に練り羊羹は半生菓子として扱われますが、水分を多く含む水羊羹は生菓子として分類されます。

練り切り

練り切りは、白あんに求肥や小麦粉などのつなぎを加えて作られる和菓子で、茶席には欠かせない存在です。四季折々の美しい風景を表現した華やかな見た目は、和菓子を代表するイメージとして広く知られています。梅や桜、紅葉など、季節の移ろいを繊細に表現したデザインは、その芸術性の高さから、生菓子のなかでも特に高級な「上生菓子」として珍重されています。いただく際には、菓子楊枝で一口大に切り分け、楊枝を使って口に運びます。

あんドーナツ

あんドーナツは、小麦粉を主原料とした生地で餡を包み、油で揚げた和菓子の一種です。その起源は定かではありませんが、中国から伝来し、江戸時代に砂糖が普及したことで、現在の甘い餡を用いる製法が確立されたと考えられています。

半生菓子の種類【和菓子】

ここでは、半生菓子に分類される代表的な例をご紹介します。馴染みのない和菓子の名前もあるかもしれませんので、この機会にぜひ覚えてみてください。

石衣

石衣は、なめらかなこしあんを小さく丸め、表面を糖蜜でコーティングした和菓子です。丸いこしあんが石、糖蜜の層が衣に見えることから、この名が付けられたと言われています。明治時代から製造されており、口に含むと、糖蜜のカリッとした食感と、こしあんのしっとりとした舌触りが楽しめます。

最中

最中は、もち米と砂糖で作られた薄い皮に、餡を挟んだ和菓子です。現在の最中の原型が作られたのは江戸時代とされ、大正時代には多くの人々に愛される人気菓子となりました。近年では、餡だけでなく、餅やアイスクリームなどを詰めた、バラエティ豊かな最中も販売されています。

茶通(ちゃつう)

茶通は、小麦粉、砂糖、抹茶などを合わせた生地で餡を包み、焼き上げたお菓子です。名前は日本の伝統的な食器である「楪子(ちゃつう)」に由来すると言われていますが、その起源は明確にはわかっていません。特徴的なのは、カリッとした生地の食感と、抹茶と餡が織りなす豊かな風味です。

桃山(ももやま)

桃山は、白餡に卵黄や砂糖などを加えて練り上げた生地を焼き上げた和菓子です。桃山時代の文化が色濃く反映されており、季節の草花など、多様な美しい模様が施されています。オーブンで焼き上げることで、外側の香ばしさと、白餡ならではの優しい甘さを堪能できます。

錦玉羹(きんぎょくかん)

錦玉羹は、寒天と水を煮溶かし、砂糖を加えて冷やし固めた和菓子です。江戸時代に京都で誕生したとされ、その涼やかな見た目から夏の代表的なお菓子として親しまれています。餡やミントを加えるなど、様々なバリエーションが存在し、多様な味わいを楽しむことができます。

求肥(ぎゅうひ)

求肥は、もち米粉や白玉粉に水飴などを加えて練り上げた和菓子です。そのまま食べるのはもちろん、大福や州浜など、他の和菓子の材料としても広く用いられています。平安時代に日本に伝わったとされ、当時は玄米を原料としていたため、黒みがかった色をしていたと言われています。

干菓子の種類【和菓子】

最後に、干菓子の代表的な例をご紹介します。ご自宅用としてはもちろんのこと、贈り物としても喜ばれる干菓子を、ぜひチェックしてみてください。

落雁

落雁は、米や麦などの穀物を粉末にしたものに、砂糖などを加えて型に入れ、乾燥させた和菓子です。仏事やお盆の際のお供え物としてよく用いられ、口に入れた時の少し硬い食感と、後に広がる上品な甘さが特徴です。茶道が普及してからは、茶席でのお茶請けとしても親しまれています。

むらさめ

むらさめは、米粉とこし餡を混ぜ合わせて蒸し上げた和菓子です。見た目は羊羹に似ていますが、口の中でほろほろと崩れる独特の食感が楽しめます。大阪府泉州岸和田地方の銘菓として知られています。

おこし

おこしは、米などを加熱して乾燥させた後、水飴などと混ぜて固めた和菓子です。日本で最も古いお菓子の一つとされ、平安時代にはすでに原型となるものが存在していたと言われています。江戸時代には庶民の間で広く親しまれるようになり、当時から「おこし」という名で呼ばれていたそうです。

練り切り

練り切りは、白餡に砂糖や求肥などを加えて練り上げた生地で作られる和菓子です。繊細な色彩と造形が特徴で、季節の花や風景などを表現した芸術的な作品が多く見られます。口にすると上品な甘さが広がり、見た目の美しさとともに味覚でも楽しませてくれます。

水羊羹

水羊羹は、こし餡を寒天で固めた、涼しげな和菓子です。通常の羊羹よりも水分が多く、つるりとしたのど越しが特徴で、暑い季節にぴったりの一品です。シンプルな材料で作られているため、素材の良さがダイレクトに味わえます。竹筒に入ったものなど、見た目にも涼やかな工夫が凝らされています。

葛切り

葛切りは、葛粉を原料とした透明な麺状の和菓子です。つるりとした食感と、のど越しの良さが特徴で、冷たい黒蜜やきな粉をかけていただきます。葛は古くから薬としても用いられてきた食材であり、身体を温める効果があるとも言われています。夏のデザートとしてだけでなく、体調を整えるためにもおすすめです。

生菓子の保存方法

生菓子の保存方法は種類によって異なります。生クリームやカスタードクリーム、生の果物などを使用しているものは、常温だと傷みやすいので冷蔵保存しましょう。あんこだけ入っているどら焼きなどは、常温保存でも問題ありません。
どら焼きや練り羊羹などは冷凍保存も可能です。反対に、生のフルーツを使っているものや、水分が出やすいもの(いちご大福や開封後の水羊羹など)は冷凍保存には向きません。

まとめ

生菓子と一言で表現しても、その種類は非常に豊富であり、それぞれに独自の個性と、それに適した保存方法が存在します。水分を多く含むため、日持ちしにくいものが多いのが難点ですが、この記事でご紹介した情報を参考に、適切な方法で保存し、美味しく味わうことで、いつでもその豊かな風味と独特の食感を堪能することができます。今回ご紹介した様々な和菓子の種類と、それぞれに該当する代表的なお菓子を参考に、興味をそそられるお菓子をぜひ試してみてください。


生菓子の適切な出し方は?

お客様をもてなす際、お菓子やお茶を出す作法として、生菓子を含むお菓子類はお客様から見て左側に、お茶やコーヒーなどの飲み物は右側に配置するのが基本とされています。三角形にカットされたケーキを提供する場合は、尖った先端部分が左側を向くように置くのがスマートです。さらに、練り切りや羊羹といった和菓子を出す際には、お客様が容易に食べられるように、必ず楊枝を添えることが大切です。

生菓子の適切な保存方法:冷凍保存はできる?

生菓子の保存方法は、その種類によって最適な方法が異なります。生クリームやカスタードクリーム、みずみずしい生の果物などを材料に使っている場合は、常温での保存は避け、必ず冷蔵庫で保存してください。一方で、あんこを主に使用しているどら焼きなどは、常温保存が可能な場合もあります。さらに、どら焼きや練り羊羹などは冷凍保存もできますが、生のフルーツが使われているものや、水分が多く含まれているもの(例:いちご大福や開封後の水羊羹など)は、冷凍保存には適していません。

生菓子と一般的な和菓子の違いとは?

生菓子とは、水分含有量が35%以上の菓子のことを指し、和菓子だけでなく洋菓子も含まれる幅広い分類です。つまり、伝統的な和菓子は「生菓子」という大きなカテゴリーの中の1つの種類と考えることができます。具体例としては、大福や繊細な練り切りは和菓子の生菓子であり、人気のショートケーキやシュークリームは洋菓子の生菓子に分類されます。


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