深みのある色合いと、甘酸っぱく芳醇な香りが特徴の黒スグリ(ブラックカラント)。その名を知っていても、実際に口にしたことがある人は意外と少ないかもしれません。北欧を中心に世界中で愛されるこの果実は、実は秘めたる魅力にあふれています。今回は、知られざる黒スグリの世界へご案内。その栄養価の高さから、美容と健康をサポートする効果、そして様々な楽しみ方まで、黒スグリの魅力を徹底的に掘り下げていきます。
冷涼な気候が育む、生命力あふれる黒スグリ(カシス)とは

冷涼な気候で育つ農作物は、風味に深みが増し、身が引き締まり、強い生命力を持つことで知られています。その代表格の一つが「黒スグリ」、別名「カシス」として知られるベリーです。ブルーベリーやラズベリーと同様に、黒スグリもベリー類に分類されます。植物学的な学名は *Ribes nigrum L.* で、ユキノシタ目スグリ科スグリ属の落葉低木です。アカスグリやシロスグリとは異なり、「くろすぐり」や「黒酸塊」、「クロフサスグリ」とも呼ばれます。甘酸っぱさと爽やかな苦味が特徴で、高い栄養価を持ち、世界中で親しまれています。「カシス」はフランス語、「黒スグリ」は英語での名称として広く認知されており、バーなどで人気の「カシスオレンジ」には「クレーム・ド・カシス」というリキュールが使用され、その原料こそが黒スグリです。
黒スグリは、冷涼な気候を好むという顕著な特徴を持ちます。高さ1.5mほどの落葉低木で、果実が食用として利用されることが多いですが、種子や葉も食用にされることがあります。日本では青森県が主要な産地であり、長野県もまた、その地形と気候から栽培に適しています。長野県の冷涼な気候と豊かな自然環境の中で、一粒一粒大切に育てられています。
果実は直径約1cmの球形で、先端に茶色い花の痕跡があるのが特徴です。外皮は黒に近い濃い紫色をしており、これは後述するアントシアニンという色素によるものです。皮をむくと、透明感のある鮮やかな黄緑色の果肉が現れ、そのコントラストが目を引きます。果肉の中にはゴマのような小さな種子が多数含まれています。口にすると、黒スグリ特有の甘酸っぱさと、かすかな苦味、ポリフェノール由来の渋みが感じられ、主に夏季に収穫されます。フサスグリ(レッドカラントやホワイトカラント)にはない、強い香りも黒スグリの特徴です。独特な風味のバランスから、生食よりも、ムース、ゼリー、ジャム、アイスクリーム、コーディアル、ジュース、リキュール、スムージーなど、様々な加工品として利用されるのが一般的です。加工することで、その風味と栄養価がさらに引き立ち、黒スグリの様々な魅力を楽しむことができます。
黒スグリ(カシス)の歴史:薬用から食用、そして現代へ
黒スグリの歴史は古く、17世紀初頭にスイスの植物学者ガスパール・ポアンによって食用としての価値が紹介されました。当時、現代のような化学薬品は存在せず、天然の産物から薬効成分を探し出し、薬草として病気の予防や治療に用いるのが一般的でした。このような背景から、黒スグリもその有用性が期待され、食用としてだけでなく、民間薬としても利用されるようになりました。
また、黒スグリは収穫後の劣化が早いため、保存性を高めるために乾燥品やジャム、リキュール(果実酒)などに加工されてきました。特にリキュールは、薬草の抽出物を加えて保存性を高め、必要な時にいつでも使える貴重な民間薬としての役割を果たしていました。黒スグリのリキュールは、修道院の活動を通じてヨーロッパ全土に広まり、健康維持に役立つものとして認識されるようになりました。現代でも「クレーム・ド・カシス」というリキュールが有名で、その長い歴史と伝統を受け継いでいます。
このように、黒スグリはヨーロッパにおいて単なる食品としてだけでなく、経験的に体に良いものとして知られ、民間薬としても用いられてきました。具体的には、目の健康維持や視力障害の予防、ビタミンCが豊富なことから壊血病の予防にも活用されました。これらの歴史的背景から、黒スグリは古くから人々の健康維持に貢献してきた、有用な果実であると言えるでしょう。
黒スグリ(カシス)の栄養価と注目される成分
黒スグリ(カシス)は、濃い紫色の果皮を持つ小さな果実で、見た目以上に栄養価が高い果物として知られています。ビタミンやミネラル、ポリフェノールなどをバランスよく含み、近年ではその栄養成分がさまざまな分野で研究対象となっています。
特に注目されているのが、「アントシアニン」と呼ばれるポリフェノールの一種です。アントシアニンは、黒スグリの深い紫色を生む色素であり、抗酸化性を持つことが知られています。視機能に関わる研究や、日常生活における疲労感・酸化ストレスとの関係性についても報告されており、日々の食生活に取り入れることで健康維持を支える可能性があるとされています。
また、黒スグリは果実100gあたり約180mgのビタミンCを含むとされており、果物の中でも比較的高い含有量を持つといわれています。ビタミンCは、コラーゲンの生成や鉄の吸収を助ける働きがあり、健やかな肌や粘膜の維持にも役立つ栄養素として広く知られています。
そのほかにも、黒スグリにはビタミンEやビタミンA(β-カロテンとして)、カルシウム、マグネシウム、鉄分などの栄養素が含まれており、これらが互いに補完し合うことで、体内の酸化バランスや代謝機能をサポートすると考えられています。特に、カルシウムとマグネシウムがほぼ2:1の比率で含まれているという報告もあり、骨や神経の働きの面からも注目されています。
なお、これらの成分の含有量や栄養バランスは、品種や栽培環境、収穫時期などによって変動するため、摂取時には産地や加工形態にも目を向けるとよいでしょう。
ブラックカラント(カシス)の魅力的な活用法|生食からドリンク、リキュールまで
ブラックカラント(カシス)は、爽やかな酸味と深い色合いが特徴の果実です。そのまま食べても美味しく、加工することで多彩な楽しみ方ができる万能なベリーの一つです。ここでは、日々の食卓で取り入れやすいカシスの活用法を紹介します。
生食・スイーツとして楽しむ
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そのまま食べる:甘酸っぱい風味とプチッとした食感を手軽に味わえます。
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ゼリー・ムース・シャーベット: カシスの色と酸味は、透明感のあるゼリーや口溶けの良いムースとの相性が抜群です。
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ジャム作り: ペクチンが豊富なため、煮詰めるだけで自然なとろみのあるジャムに。パンやヨーグルト、チーズとの相性も良く、保存食としても人気です。
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アイスクリームやパフェのトッピング: 見た目の鮮やかさと酸味が甘さを引き立て、味に深みを加えます。
ジュース・スムージー・コーディアルで味わう
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コーディアル(希釈用シロップ): 水や炭酸水で割るだけで、夏にぴったりの爽快なドリンクに。
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ピューレを使ったドリンク: スムージーやミックスジュースに加えると、鮮やかな色合いと酸味がアクセントに。冷凍カシスをそのまま使うのもおすすめです。
自家製リキュールで大人の楽しみ方を
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カシスリキュールの漬け込み: ウォッカやブランデーに漬け込み、数週間~数ヶ月熟成させると、深みのある自家製リキュールが完成します。
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カクテルにアレンジ: 自家製・市販問わず、リキュールを使えば以下のようなカクテルも自宅で簡単に楽しめます: - カシスオレンジ - キールロワイヤル - カシスソーダ など
市販品を使って手軽に楽しむ
ジャムや濃縮シロップなど、市販の加工品も充実しており、手軽にカシスの風味を取り入れたい方におすすめです。朝食のパンやヨーグルトに添えたり、ドレッシングやソースのアクセントにするのも◎。
カシスは、その美しい色合いと爽やかな風味で、料理やドリンクを一段と華やかにしてくれる果実です。日常の中で気軽に取り入れて、見た目も味も楽しめる“彩りと健康”を感じてみてはいかがでしょうか。

まとめ|黒スグリの魅力を毎日の食卓に
黒スグリ(カシス)は、鮮やかな深紫色と豊富な栄養素を持つベリー系果実です。アントシアニンやビタミンC、ビタミンEなどの成分が注目され、加工品としても多様な楽しみ方が可能です。青森県では地理的表示保護(GI)産品にも登録され、国産カシスのブランドとして親しまれています。生果は繊細なため鮮度管理が重要で、冷凍品なら通年で手軽に活用できます。
あなたのキッチンでも、黒スグリの深い味わいと彩りをぜひ取り入れてみてください。贈り物にもおすすめです。
黒スグリとカシスは同じものですか?
はい、黒スグリとカシスは同じ果実を指します。カシスはフランス語での名称、黒スグリは日本語での名称です。植物学的には"Ribes nigrum L."という学名で呼ばれ、国際ブラックカラント協会(IBA)ではブラックカラントと表記しています。
黒スグリはどこで栽培されていますか?
黒スグリは冷涼な気候を好むため、ポーランドなどのヨーロッパ、ロシア、カナダ、ニュージーランドなどで広く栽培されています。日本では青森県が主な産地で、1965年にドイツから導入されたのが始まりです。2015年には「あおもりカシス」が地理的表示保護制度(GI)の第1号に認定されています。また、長野県でも栽培されています。
黒スグリにはどのような栄養素が含まれていますか?
黒スグリは非常に栄養価が高い果実として知られています。特に、強力な抗酸化作用を持つアントシアニンが豊富で、ビタミンCはオレンジの約3倍、ビタミンA、β-カロテンはオレンジと同程度、ビタミンEはオレンジやイチゴの約4倍も含まれています。また、カルシウムとマグネシウムが2:1という理想的なバランスで含まれているほか、鉄分も豊富です。
ブラックカラントは昔、どのように利用されていましたか?
ブラックカラント、別名カシスは、17世紀初頭から食材として親しまれてきました。収穫後の品質保持のため、乾燥させたり、ジャムやリキュールに加工されたりしていました。特にリキュールは修道院から広まり、民間療法として、視力維持や壊血病の予防に利用されてきた歴史があります。
冷凍カシスを上手に使うには?
冷凍カシスは、収穫後に丁寧に洗浄され、急速冷凍されています。解凍すると水分が出て、風味や見た目が変わってしまうことがあるため、凍ったままスムージーやジャム、ソース、焼き菓子などに使うのがおすすめです。使う前に軽く水で洗い流すと、より美味しく召し上がれます。
ブラックカラントの果実にはどんな特徴がありますか?
ブラックカラントの果実は、直径約1cmの小さな球体で、先端には花の名残が見られます。皮はアントシアニンによって濃い紫色をしていますが、中身は透明感のある黄緑色をしています。甘酸っぱい味わいに加え、ポリフェノールによる苦味と渋み、そして独特の強い香りが特徴です。レッドカラントにはない香りも楽しめます。