桑の実を食べる:知られざる効能と活用法
甘酸っぱくてどこか懐かしい味わいの桑の実。道端で見かけると、ついつい摘んで口にしてしまう人もいるのではないでしょうか。実はこの桑の実、美味しさだけでなく、秘められた健康効果もたっぷりなんです。抗酸化作用や生活習慣病予防など、知られざるパワーを秘めた桑の実の魅力に迫ります。この記事では、桑の実の栄養成分から、効果的な食べ方、そして意外な活用方法まで、余すところなくご紹介します。さあ、桑の実の世界へ足を踏み入れてみましょう。

桑の実とは?基本情報と歴史

桑の実は、クワ科クワ属の落葉高木である桑の木に実る果実で、海外では「マルベリー」として知られています。品種によって大きさは異なりますが、およそ1~3cm程度の赤色や濃い紫色をした実をつけ、見た目はブラックベリーやラズベリーによく似ています。桑の木は、実を食用にするだけでなく、葉や根といった部位も有効活用できる有用な植物です。
桑の葉は、昔から絹糸を作る蚕の食料として、日本の養蚕業を支えてきました。特に、泰阜村では、限られた土地でも収入を得られる手段として、多くの農家が養蚕に携わっていました。そのため、蚕の餌となる桑の栽培が盛んに行われ、現在でもその名残として桑の木が村内に多く残っています。桑葉粉末の栄養成分をTable 1-1に示した。100gあたりの主な成分は、カルシウム2,100mg、鉄20.1mg、ビタミンC 110mgであった。 (出典: 桑葉の生理機能および安全性に関する研究(小島義弘, 東京農工大学, 博士論文), URL: https://tuat.repo.nii.ac.jp/record/1102/files/201009KojimaYoshihiro_F.pdf, 2010-09) 桑の葉は健康茶としても広く飲まれています。また、桑の木の枝や根には、解熱作用や鎮咳作用があるとされ、古くから薬草としても利用されてきました。『神農本草経(本経)』は内容が知られる中国最古の薬物書であり,漢方でも重要な書物である。成立は漢代1〜2世紀とされるが、原本は古くに散逸してしまい、現存するのは後世の注釈本や写本である。 (出典: 『神農本草経』の歴史 - 日本医史学会, URL: http://jshm.or.jp/journal/68-3/68-3_hiroba_2.pdf, 2019-09)にも、「桑白皮」(桑の根の皮)に関する記述があり、解熱、鎮咳、去痰の効果が記されています。このことからも、人類が非常に長い間、桑の恵みを受けてきたことがわかります。現在でも、桑の根は生薬として漢方薬に配合されています。

桑の実(マルベリー)の栄養と効能

スーパーフードとしても注目される桑の実(マルベリー)は、豊富な栄養素を含んでおり、健康や美容に対して様々な良い影響をもたらすことが期待されています。特に注目すべき栄養素は、ビタミン類、ミネラル類、そして抗酸化物質です。
桑の実には、「ビタミンC」や「鉄分」が豊富に含まれています。ビタミンCは、コラーゲンの生成をサポートする栄養素であり、強力な抗酸化作用を持つため、美肌効果やエイジングケア効果が期待できます。また、鉄分と、鉄分の吸収を促進するビタミンCの相乗効果により、貧血の予防にも効果的です。さらに、カリウムは体内の余分な塩分を排出し、むくみの解消を助ける効果があると言われています。
桑の実の大きな特徴として、「ファイトケミカル」が豊富に含まれている点が挙げられます。ファイトケミカルとは、植物が紫外線や害虫などの有害なものから自らを守るために作り出す機能性成分であり、色素や香りなどがこれにあたります。桑の実は、ファイトケミカルの中でも特にポリフェノールの一種である「アントシアニン」を豊富に含んでいます。20品種・系統の紫サツマイモにおいて,主要アントシアニンの含量とORAC値との間に正の相関(R=0.833)が認められ,アントシアニンがORAC法での主要な抗酸化成分であることが示唆されました。(出典: 有色サツマイモのDPPHラジカル消去能とORAC(活性酸素吸収能), URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/56/12/56_12_655/_article/-char/ja/, 2010-01-31)アントシアニンは体内の酸化を防ぐ効果が期待される成分であり、目の健康維持やエイジングケアへの貢献が期待される栄養素です。

桑の実の味と食べ頃

十分に熟した桑の実(マルベリー)は、酸味が少なく、さっぱりとした味わいで、とても食べやすいのが特徴です。ブルーベリーなどのベリー類にありがちな強い酸味はほとんどなく、プルーンのようなしっとりとした上品な甘さを感じられます。完熟した黒色の桑の実は、酸味が穏やかになり、甘みがより際立って感じられるようになります。
桑の木の果実は、最初は緑白色をしています。そして、徐々に赤色へと変化し、最終的には赤黒色へと変わっていき、完熟した黒色の実が食べ頃を迎えます。十分に熟した実は、軽く触れるだけで簡単に枝から外れます。緑白色や赤色の実は、まだ甘みが少ない場合があるので注意が必要です。桑の実が収穫できる時期は、一般的に5月から6月頃にかけてが多いようです。

桑の実のおすすめの食べ方とレシピ

桑の実(マルベリー)は、生の果実をそのまま食べるのはもちろんのこと、ジャムやドライフルーツ、果実酒など、様々な方法でその風味を楽しめるのが魅力です。冷凍保存した桑の実に少し手を加えることで、自家製のジャムやシロップ、焼き菓子などを作ることも可能です。

生の桑の実

新鮮な桑の実は、産地以外ではなかなか手に入りにくいものです。もし桑の実が旬を迎える6月頃に生の桑の実を見つけたら、ぜひそのまま味わってみてください。健康的なおやつとして、桑の実本来の風味を堪能できるでしょう。

桑の実ジャム

手軽に桑の実を味わいたいなら、桑の実(マルベリー)ジャムがおすすめです。生の桑の実は手に入りにくいことも多いので、市販のジャムを利用したり、冷凍の桑の実を使って自家製ジャムを作るのも良いでしょう。パンに塗ったりヨーグルトに混ぜたりと、色々なアレンジを楽しめます。甘酸っぱい桑の実ジャムは、クッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子との相性も抜群です。ジャムにすることで保存期間も延びます。砂糖の種類も、白砂糖だけでなく、甜菜糖やきび砂糖など、好みに合わせて選べます。桑の実の色が濃いため、砂糖の色を気にせず作れるのも嬉しいポイントです。まだ赤い実が多い場合は酸味が強くなるので砂糖を多めに、黒く熟した実が多い場合は甘みが強くなるのでレモン汁で調整するなど、実の状態を見ながら自分好みの味に仕上げるのも楽しいですね。

ドライフルーツ

桑の実(マルベリー)は、ドライフルーツとしても販売されています。噛みごたえのある食感と、自然な甘さが魅力で、おやつとしてはもちろん、料理にも活用できます。ドライフルーツであれば、鮮度を気にせず長期保存できるのも利点です。

桑の実酒・シロップ

桑の実(マルベリー)は、果実酒やシロップに加工するのもおすすめです。清潔な保存瓶に下処理済みの桑の実、氷砂糖、そしてホワイトリカーを入れれば果実酒が作れます。シロップの場合は、ホワイトリカーを使わず、桑の実と氷砂糖を交互に瓶に入れ、氷砂糖が溶けるのを待ちます。ホワイトリカーの代わりにお酢を使えば果実酢も作れます。これらは長期保存が可能で、水や炭酸水で割れば、いつでも気軽に楽しめます。

焼き菓子

手作りマフィンや、しっとりとしたフィナンシェに混ぜ込んで焼き上げるのもおすすめです。桑の実のほどよい酸味が、生地の甘さを引き立て、後味をさっぱりとさせてくれます。

桑の実の下処理と注意点

桑の実の下処理としては、実についている軸をハサミで丁寧に切り落とすか、優しく引き抜くようにして取り除くのが一般的です。特に緑色の硬い軸は、口当たりが悪く、場合によっては口の中を傷つける可能性もあるため、取り除いておくのが賢明です。また、桑の実はアントシアニンを豊富に含んでいるため、果汁が衣類に付着すると非常に落ちにくく、手や口も紫色に染まりやすいので、十分注意して扱いましょう。
桑の実は食物繊維が豊富に含まれているため、一度に大量に摂取するとお腹の調子を崩すことがあります。食べ過ぎには注意が必要です。また、「桑の葉や桑の実に毒がある」という情報を見かけることがありますが、一般的に、適切に処理された桑の実や桑の葉には、人間にとって重篤な中毒を引き起こすような有害成分は含まれていないとされています。ただし、アレルギー反応を示す方や、過剰摂取による体調不良の可能性については注意が必要です。ただし、ごく稀に桑の実を食べることでアレルギー反応を起こすケースも報告されています。初めて桑の実を食べる方や、アレルギー体質の方は少量から試すなど、注意が必要です。

桑の実と他のベリー類との違い

桑の実(マルベリー)は、見た目がブラックベリーやラズベリーと非常によく似ています。特に熟した黒色の桑の実は、ブラックベリーと見間違えるほどです。また、まだ熟していない赤色の桑の実は、ラズベリーのような印象を与えることもあります。
このように見た目が似ている3種類のベリーですが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
植物学的に見ると、桑の実がなる桑の木はクワ科クワ属に分類される一方、ブラックベリーとラズベリーはバラ科キイチゴ属に属しています。ブラックベリーとラズベリーは同じバラ科キイチゴ属ですが、ブラックベリーはつる性の落葉果樹、ラズベリーは低木の落葉果樹という違いがあります。
果実の形状にも注目してみましょう。ブラックベリーやラズベリーは丸みを帯びた形をしているのに対し、桑の実は細長い円柱形の実をつけます。また、ラズベリーの果実表面が細かい産毛で覆われているのも特徴の一つです。
味に関しても、それぞれ異なります。桑の実は比較的酸味が少なく、さっぱりとした味わいが特徴です。一方、ブラックベリーは濃厚な甘みと酸味に加え、かすかな苦味も感じられます。ラズベリーは甘酸っぱいものの、酸味が強いものが多い傾向にあります。

桑の実を自宅で栽培する方法

桑の木は、庭木として植えたり、鉢植えで育てたりと、ご自宅でも比較的簡単に栽培できます。生育も旺盛で、初心者にもおすすめの果樹です。桑の木の栽培にはいくつかの重要なポイントがあるので、始める前に確認しておきましょう。
  • 苗木から育てるのが一般的
  • 日当たりが良く、栄養豊富な土壌を好む
  • 大きめの鉢植えでも栽培可能だが、ある程度成長したら地植えがおすすめ
桑の木は、通常4月頃に花を咲かせ、5月から6月頃に実を収穫できます。落葉樹であるため、秋から冬にかけて葉を落とします。休眠期に入る1月から2月頃に剪定を行うことで、樹の形を整え、翌年の実付きを良くすることができます。剪定は、桑の木を大きく育てながら収穫量を増やすための重要な作業です。
また、桑の木には雄株と雌株があり、一本だけでは実をつけない品種も存在します。桑の実の収穫を楽しみたい場合は、あらかじめ自家受粉が可能な品種を選ぶようにしましょう。

福島県の桑の実の里

福島県東和地区で作られる桑茶は、その品質の高さから「ふくしま おいしい大賞」を受賞しました。二本松市東和地区は、かつて養蚕が盛んで、質の良い繭の産地として知られていました。現在では養蚕農家は減りましたが、桑は東和地区を代表する特産品として大切にされています。
桑の生産から加工、販売まで手掛ける【道の駅 ふくしま東和】の佐藤さんによると、蚕に食べさせる桑には農薬を使用できないため、農薬や化学肥料は一切使用していないそうです。養蚕をしていない農家も同様の栽培方法で桑を育てています。桑の実も葉と同様に安全です。現在、7つの農場で桑の実が栽培されています。元々、桑は蚕の餌として栽培されていたため、桑畑だけでなく周辺の畑でも農薬を使用しないのが当たり前でした。この農薬不使用の習慣が地域に根付き、今では人々の健康のために安全な桑が大切に育てられています。収穫時期は6月頃の約1ヶ月間で、完熟した桑の実を冷凍して販売しています。

桑の実と子供たちの交流

放課後児童クラブ「いってきました」では、子供たちが施設内の桑の実を収穫して味わう体験学習を実施しています。初めて桑の実を口にした子供は「こんなに美味しい実が食べられるなんて知らなかった。明日も食べたい!」と感激し、今年から参加した一年生は「桑の実ってこんなに美味しいんだ!」と目を輝かせていました。子供たちを送迎に来た父親は、子供たちが桑の実を食べる姿を見て、「昔はよく食べたなぁ」と自身の子供時代を懐かしみながら語ってくれました。「学校から帰るとすぐに友達と遊びながら桑の実を摘んで食べていた。大きくて甘い実を探すのが楽しかった」とのこと。
しかし、桑の実を食べ始めてから一週間ほど経った頃、「桑の実、食べ過ぎ問題」が発生しました。10本ほどの桑の木に子供たちが群がり、実を食べ尽くしてしまい、実の成熟が追いつかない状況になったのです。また、収穫するだけで食べずに放置してしまう子供もおり、どうすれば良いか子供たちと話し合うことにしました。ここでルールを作ってしまうと、子供たちが考えることを放棄してしまうのではないかという懸念がありました。自由を尊重するためのルールが、守れば何でも許されるという思考に繋がり、結果としてお互いを気にかけなくなるのではないか。それは表面上は解決したように見えても、本質的な解決にはならないと考えました。桑の木はたくさんある一方で、ビワの木は一本しかないという状況もあり、ルールで解決できる問題ではないと判断しました。そこで、子供たちに問いかけることを重視し、「今日来られなかった子も食べたかったと言っていたよ」「この実はまだ青くて酸っぱいね」「みんなで美味しく食べるにはどうすれば良いかな」と、他者の存在や気持ちに気づかせ、自然を単なる物ではなく生き物として大切にするように促しました。時間はかかるかもしれませんが、ルールという枠組みではなく、思いやりで繋がる安心感が子供たちの心に育まれると信じています。

まとめ

桑の実は、その美味しさはもちろんのこと、豊富な栄養価と健康効果が期待できる優れた果実です。そのまま食べるのはもちろん、ジャムやドライフルーツ、果実酒など、様々な方法で楽しめます。庭で栽培すれば、収穫の喜びも味わうことができます。桑の実を生活に取り入れて、健康で豊かな日々を送ってみてはいかがでしょうか。

桑の実の旬はいつですか?

桑の実が最も美味しくなる旬の時期は、5月から6月頃です。

桑の実には有害な成分が含まれていますか?

桑の実に、人が中毒を起こすような有害な物質は含まれていません。ただし、食物繊維が豊富なので、一度にたくさん食べるとお腹の調子が悪くなることがあります。ごくまれに、アレルギー反応を示す人もいるため、初めて食べる場合やアレルギー体質の人は少量から試すようにしましょう。

桑の実とマルベリーは別のものですか?

「マルベリー(mulberry)」は、英語での桑の実の呼び名です。したがって、桑の実とマルベリーは同じものを指します。

桑の実はどこで入手できますか?

生の桑の実は、一般のスーパーなどではあまり見かけませんが、産地に出向くと手に入るかもしれません。冷凍された桑の実や、ジャム、乾燥させたドライフルーツなどの加工品は、インターネット通販などで手軽に購入できます。