近年、健康志向の高まりとともに、パンや発酵食品への注目が集まっています。その中でも、特に注目を集めているのが「天然酵母」です。天然酵母は、自然界に存在する野生の酵母を利用して作られる発酵種のことを指します。工業的に製造された酵母とは異なり、天然酵母は独特の風味とともに、健康面でのメリットも注目されています。今回は、天然酵母の魅力や特徴、そして天然酵母を使ったパン作りの世界について探っていきましょう。
酵母とは?
酵母は、パンやビールなどの発酵食品の製造に欠かせない微生物で、菌類の一種である単細胞生物です。酵母は、球形や卵形をしており、自然界のいたるところに存在しています。土や水の中だけでなく、植物や動物の表面、消化器官の中にも生息しているのです。
自然界には何百種類もの酵母が存在しますが、パン製造に適しているものを選んで培養したものが、一般的にパン酵母(イースト)と呼ばれています。パン酵母以外にも、ビールに適したビール酵母、ワインに適したワイン酵母、清酒に適した清酒酵母などがあります。これらの酵母は、食べ物に含まれる糖質を栄養源として、アルコールと二酸化炭素を生成しながら成長します。
酵母の種類によって性質に多少の違いはありますが、いずれも「サッカロミセス・セレビシエ」という種類に分類されます。酵母は、パンの発酵過程で生地を膨らませ、ビールやワイン、チーズ、みそ、しょうゆなどの製造にも重要な役割を果たしています。さらに、酵母はビタミンB群を豊富に含むことから、栄養価が高く、サプリメントや健康食品としても利用されています。私たちの食生活に欠かせない存在である酵母は、発酵食品の風味や栄養価を高める上で、非常に重要な微生物なのです。
天然酵母は身体によく、イーストは身体に悪い?
多くのパン屋が自慢の「天然酵母」とイーストは、どちらも自然界に存在する酵母を利用しており、その点では大差ありません。しかし、「天然酵母」と謳われているパンに使われている酵母のほとんどは、ホシノ天然酵母や白神こだま酵母、あこ酵母など、工場で培養された特定の酵母です。一方、一般的に「イースト」と呼ばれる酵母も同様に培養されたものです。
酵母の種類によってパンの風味は異なり、それぞれに特徴があります。例えば、ホシノ天然酵母のパンは日本酒のような香りがし、白神こだま酵母のパンは味噌のような独特の香りがします。
厳密に言えば、「天然」とは「自然のもの」を指すため、パン酵母やイーストはすべて天然酵母と言えます。「イースト」というカタカナ英語が「身体に悪いもの」というイメージを持たれがちなのが、「天然酵母のパン」という言葉が使われる理由かもしれません。
しかし、工場で培養されているからといって工業製品とは言えません。現代の科学では、菌類のような微生物を化学的に合成することはできないのです。スーパーで販売されているエノキや椎茸、かいわれ大根やスプラウト、そして多くのビールや清酒の酵母も、工場で培養・製造されています。
結局のところ、パン屋が使用している酵母も、スーパーで販売されているパンに使われている酵母も、どちらも天然酵母なのです。製パン用酵母の業界団体である日本イースト工業会も、「天然酵母」という言葉の定義は行っていません。イーストも酵母も、両方とも天然のものだからです。
では、自家製酵母のパンとは?
自家製酵母のパンは、パン作りの愛好家たちの間で注目を集めています。市販のイーストとは一線を画す、独特の風味と健康的なイメージが魅力です。しかし、その製造過程は非常に手間がかかり、temperatureの管理も難しいのが実情です。
自家製酵母を育てるには、まず天然の果物や植物に付着している野生酵母を採取します。ぶどうやりんごの皮などが用いられることが多いですね。この野生酵母を培養するには、5〜7日間の発酵期間を経て種を起こし、その後毎日小麦粉を加えて酵母を増殖させていきます。パン生地として使用できるレベルの酵母を得るには、少なくとも10日間はかかると言われています。
この過程で、温度管理が非常に重要になります。目的とするパン酵母以外の野生酵母や雑菌が繁殖しないよう、適切な温度を保つ必要があるのです。安定した品質の自家製酵母を得るには、かなりの熟練と努力が求められると言えるでしょう。
そのため、自家製酵母のパンを提供するベーカリーの多くは、わずかにイーストを添加することで、安定性を確保しているのだとか。純粋な自家製酵母のみで作るパンは、味や風味が毎回微妙に変化するため、商品としての安定供給が難しいのです。
このように、「天然酵母のパン」と銘打ったパンの多くは、完全な自家製酵母のみで作られているわけではないのが実情のようです。とはいえ、自家製酵母を使用することで、工業的に製造されたイーストのパンとは一線を画す、独特の風味と個性を持ったパンを生み出すことができるのは確かです。自家製酵母のパン作りは、パン職人の情熱と探究心が生み出す、奥深い世界なのかもしれません。
まとめ
天然酵母は、自然の力を借りて作られる発酵種であり、健康面での benefits と独特の風味を兼ね備えています。天然酵母を使ったパン作りは、伝統的な技術と現代の健康志向が融合した、魅力的な世界なのです。