ウォッシュ チーズとは

芳醇な香りとねっとりとした舌触りが魅力のウォッシュチーズ。その名の通り、製造中に塩水やアルコールで表面を洗う独特な製法で作られます。この「ウォッシュ」によって、チーズは風味豊かな微生物をまとい、唯一無二の個性を開花させるのです。今回は、ウォッシュチーズの奥深い世界を徹底解説。製法や風味の特徴、おすすめの食べ方まで、ウォッシュチーズの魅力を余すことなくお伝えします。

ウォッシュチーズとは?その個性的な風味と製造方法

ウォッシュチーズは、数あるチーズの中でも、ひときわ異彩を放つ存在です。名前が示すように、製造の過程でチーズの表面を塩水やアルコールなどの液体で洗いながら熟成させるという、特殊な製法で作られます。この「ウォッシュ」という工程が、リネンス菌などの微生物の活動を促し、独特の風味と見た目を作り出すのです。

ウォッシュチーズの製法:表面を洗うことの重要性

ウォッシュチーズの製造における「ウォッシュ」は、単に表面をきれいにするだけでなく、風味を決定づける上で非常に重要な意味を持ちます。実際には、布や専用のブラシを用いて表面を丁寧に拭う作業が行われ、この過程でリネンス菌という細菌がチーズの表面で活発に増殖します。リネンス菌は、タンパク質を分解する際にオレンジ色の色素を生成し、チーズ特有のねっとりとした表皮を形成します。さらに、ウォッシュに使う液体(塩水や地域の特産酒など)によっても風味が変化し、その土地ならではの個性豊かなチーズが生まれるのです。

リネンス菌とは?意外な納豆との繋がり

ウォッシュチーズならではの香りの正体は、リネンス菌という微生物に由来します。興味深いことに、このリネンス菌は納豆菌と同じバチルス菌の一種なのです。そのため、ウォッシュチーズの香りは、発酵食品である納豆を連想させる匂いを持つと言われることがあります。リネンス菌がチーズのタンパク質を分解することで、独特の風味とアミノ酸による豊かな旨味が生まれます。

ウォッシュチーズの風味:香りと味わいの意外性

ウォッシュチーズは、一般的に強烈な香りを放つことで知られています。この香りは熟成が進むにつれて強さを増す傾向がありますが、強く匂うのは主に表面の部分に限られています。内部は比較的穏やかで、まろやかな風味を持つことが多いため、匂いが気になる場合は表皮を取り除いて食するのが良いでしょう。中心部分は、とろけるようにクリーミーで、親しみやすい味わいを堪能できます。

ウォッシュチーズの種類:代表的な3選

独特の製法で作られるウォッシュチーズは、実に様々な種類が存在し、それぞれが独自の風味と個性を放っています。ここでは、数あるウォッシュチーズの中から、特に代表的な3種類をピックアップしてご紹介します。

マンステール:入門にも最適な穏やかな味わい

フランス北東部、アルザス地方を代表するマンステールは、ウォッシュチーズ初心者の方にもおすすめしやすいチーズです。「モナステール(修道院)」が名前の由来であり、その名の通り修道士たちが製造してきた歴史を持ちます。原料には生乳を使用し、表面を塩水で洗いながら熟成させるため、比較的マイルドな風味に仕上がっています。オレンジ色の表皮は少し粘り気があり、リネンス菌による独特の香りを持ちますが、中身はまるで蒸した大豆のような優しい香りと、ミルク本来の甘みが感じられます。

エポワス:濃厚な旨味で「チーズの王様」と称される

フランスのブルゴーニュ地方で作られるエポワスは、多くのチーズファンを虜にする、まさに特別なウォッシュチーズです。美食家として知られるブリア・サヴァランが「チーズの王様」と絶賛したことでも有名です。熟成の際には、ブルゴーニュ地方特産の地酒であるマール・ド・ブルゴーニュ(ワインの搾りかすから造られる蒸留酒)を使用するため、非常に芳醇な香りを持ちます。表皮は深く刻まれたシワを持ち、濃いオレンジ色をしています。中身は非常に滑らかで、とろけるようなクリーミーな舌触り。その柔らかさから、スプーンですくって食べるのが一般的です。

タレッジョ:様々な料理に合うイタリアの万能チーズ

イタリア北部原産のタレッジョは、イタリアを代表するウォッシュチーズの一つです。その名前は、発祥の地であるタレッジョ渓谷に由来します。こちらも生乳を原料とし、塩水で表面を洗いながら熟成させる製法で作られます。表皮は粘り気のあるオレンジ色から赤茶色をしており、熟成が進むにつれて風味が増していきます。ウォッシュチーズ特有の香りはありますが、中身は弾力があり、ねっとりとした食感とミルクのまろやかな味わいが楽しめます。そのため、ウォッシュチーズ初心者の方にもおすすめです。パスタやピザなど、様々な料理に利用できる汎用性の高さも魅力です。

その他のウォッシュチーズ:多様な風味の世界

ここで紹介したもの以外にも、ウォッシュチーズには様々なバリエーションがあります。例えば、白カビチーズに似たマイルドな味わいのポン・レヴェックや、特定の季節にのみ作られる特別なチーズ、モン・ドールなどが知られています。

モン・ドール:季節限定の贅沢、エピセアの香り

モン・ドールは、フランスとスイスの国境地帯、その名の由来となった黄金の山周辺で、限られた期間(8月半ばから3月中旬)にのみ製造される貴重なチーズです。フランスで作られるものは「モン・ドール」、スイスで作られるものは「ヴァシュラン・モン・ドール」という名で親しまれています。特徴的なのは、モミの木の一種であるエピセアの樹皮を側面に巻き付け、エピセアの棚で熟成させる製法です。さらに、エピセアの木箱に入れて出荷されます。この製法により、濃厚でまろやかなミルクの風味に、エピセアの清々しい香りが加わり、洗練された味わいが生まれます。

ウォッシュチーズの楽しみ方:風味を最大限に味わう

ウォッシュチーズは、そのまま味わうだけでも十分に美味しいですが、少し工夫を加えることで、その風味をさらに引き立てることができます。召し上がる30分ほど前に冷蔵庫から取り出し、室温に戻すことで、香りが開き、とろけるような食感をより深く堪能できます。柔らかいチーズの場合は、スプーンで取り分けて盛り付けるのがおすすめです。

ウォッシュチーズに合う食材:パン、フルーツ、ワイン

ウォッシュチーズは、様々な食材との組み合わせによって、その魅力をさらに引き出すことができます。風味豊かなライ麦パンや、ナッツを練り込んだパンは、ウォッシュチーズの個性を引き立てます。また、ブドウやキウイなどのフルーツや、ジャムやハチミツを添えることで、塩味とのコントラストが生まれ、より一層美味しく味わえます。さらに、キャラウェイシードなどのスパイスを加えることで、風味にアクセントをつけることも可能です。

ウォッシュチーズと相性の良いワイン:テロワールを尊重する

ウォッシュチーズには、果実味豊かでボディのあるワインがおすすめです。特に、チーズとワインの産地を合わせることで、その土地ならではの風味を最大限に引き出すことができます。例えば、アルザス地方のマンステールには、同じくアルザス産の芳香高いゲヴェルツトラミネール、エポワスにはブルゴーニュのピノ・ノワールといった、故郷を同じくする組み合わせは、それぞれの香りを高め合い、極上のマリアージュを生み出します。塩味が際立つウォッシュチーズには、甘口ワインも好相性です。

ウォッシュチーズのカット方法と保管方法

ウォッシュチーズは、その形状によって最適なカット方法が異なります。円盤型のチーズは、ケーキのように中心から放射状に、四角いチーズは中央から角に向かってカットすることで、均等に分けられます。保存する際は、乾燥を防ぐためにラップでしっかりと包み、他の食品への匂い移りを防ぐために、密閉できる容器に入れて冷蔵庫で保管しましょう。

ウォッシュチーズの魅力:芳醇な風味と多彩な味わい

ウォッシュチーズは、その個性的な風味とバラエティ豊かな種類によって、チーズ愛好家たちを惹きつけてやみません。最初は独特の香りに驚くかもしれませんが、口に含んだ時の風味と滑らかな舌触りのコントラスト、そして後を引く豊かな香りは、一度味わうと忘れられないものとなるでしょう。ぜひ、色々な種類のウォッシュチーズを試して、ご自身のお気に入りの味を見つけてみてください。

まとめ

ウォッシュチーズの世界はいかがでしたでしょうか。この記事を参考に、ぜひ色々なウォッシュチーズに挑戦して、その奥深い風味と多彩な楽しみ方を堪能してみてください。きっと、新たなチーズの魅力に出会えることでしょう。

ウォッシュ チーズ