湾曲した独特の形状と、表面の縞模様が車海老を連想させる「海老芋」は、日本の冬を彩る高級京野菜として有名です。里芋の一種でありながら、きめ細かく、とろけるような食感、そして煮崩れしにくいという特徴から、多くの料理人に愛され、料亭の味をご家庭でも手軽に楽しめる食材として注目を集めています。この記事では、海老芋とはどのような野菜なのか、その基本的な情報はもちろん、独自の歴史、手間暇をかけた栽培方法、一般的な里芋との違いなど、海老芋に関するあらゆる情報を深く掘り下げてご紹介します。
さらに、新鮮な海老芋の選び方、美味しさを長持ちさせるための適切な保存方法、調理の際に重要な下処理のコツも詳しく解説します。また、京都の伝統的な郷土料理「いもぼう」をはじめ、煮物、揚げ物、ポタージュスープ、あんかけなど、海老芋の持ち味を最大限に活かしたバラエティ豊かな絶品レシピを、和食・洋食問わずご紹介します。この記事を読めば、海老芋の奥深い世界を知り、いつもの食卓をより豊かに、特別なものにするためのヒントが見つかるはずです。
海老芋とは?その魅力と基本情報
海老芋は、京都を代表する伝統野菜である「京野菜」の一種で、サトイモ属のヤマサトイモの変種、つまり唐芋という種類の里芋です。名前の由来は、表面に見られる独特の縞模様と、海老のように湾曲した形からきています。この特徴的な曲線は、親子兼用品種である唐芋を栽培する過程で、何度も「土寄せ」という特殊な農法を用いることで、人工的に作り出されます。
土寄せとは、植物の根元に土を盛り上げる農法のことです。この作業は、根の乾燥を防ぎ、肥料が流れ出るのを防ぐだけでなく、土の中に空間を作ることで海老芋の成長を促し、あの美しい海老のような形へと導く、非常に重要な役割を担っています。海老芋は、そのユニークな見た目だけでなく、栽培にかかる手間と技術によって、食材としての価値を高めているのです。
海老芋の独特な肉質と上品な風味
海老芋は里芋の一種ですが、その肉質には明確な違いがあります。ねっとりとした強い粘りと、非常にきめ細かい肉質が特徴で、口に入れた時のなめらかな舌触りは、まさに絶品です。さらに、煮込んでも煮崩れしにくいという優れた性質を持つため、煮物料理に最適とされています。その上品な風味と独特の食感は高く評価されており、料亭などで使われる高級食材としても広く知られています。
一般的な里芋と比較すると、海老芋の肉質はより柔らかく、煮込んでも形が崩れにくいのが特徴です。このため、調理の幅が広がり、繊細な盛り付けが求められる京料理において重宝される理由の一つとなっています。家庭料理でも、煮崩れの心配が少ないため、じっくりと時間をかけて味を染み込ませた、美味しい煮込み料理を手軽に楽しむことができます。
旬と出荷時期
海老芋の旬は、主に冬の時期です。具体的には、11月から2月頃が最も美味しく食べられる時期として知られており、この期間は冬を代表する京野菜として、多くの家庭の食卓に並びます。出荷時期は里芋とほぼ同じで、10月から2月にかけて行われますが、特に最盛期となるのは11月から1月です。この時期には、味が最も良く、比較的価格も手頃になる傾向があります。
海老芋が旬を迎える時期には、大根、ネギ、小松菜といった、他の冬野菜も豊富に収穫されます。これらの旬の野菜と組み合わせることで、季節感あふれる豊かな食卓を演出することができます。寒さが厳しくなるにつれて、海老芋はその甘みと旨みを増し、体を温める冬の食材として、最適な選択肢となるでしょう。
「京芋」や「九条芋」の名でも親しまれる京野菜
海老芋は、京都府を中心に栽培されているため、「京芋(きょういも)」あるいは「九条芋(くじょういも)」という別名で呼ばれることがあります。特に京阪神地域では「京芋」という呼び名が一般的で、地域の食文化に深く根付いた野菜であることを示しています。京都府が認定する京野菜であることはもちろん、大阪府の「なにわ伝統野菜」や兵庫県姫路市の「ひょうご推奨ブランド」にも選ばれています。
これらの認定は、海老芋が単なる食材としてだけでなく、各地域の食文化や農業を象徴する重要な存在であることを示唆しています。地域によって異なる名称で親しまれているのは、その土地の人々にとって身近な存在であり、それぞれの地域が培ってきた固有の歴史的背景を反映していると言えるでしょう。海老芋の多様な魅力を感じ取ることができます。
海老芋の歴史的背景と縁起物としての価値
海老芋の歴史は古く、江戸時代の安永年間(1772年から1781年)に遡ります。当時の青蓮院宮が、九州の長崎から持ち帰った唐芋が起源とされています。この唐芋の栽培を託されたのが、京都御所に仕えていた平野権太夫という人物でした。平野権太夫は、現在の京料理店「いもぼう平野家」の祖先であり、彼の尽力によって大きく品質の良い芋が育ち、それが現在の海老芋のルーツになったと伝えられています。
また、海老芋は、その歴史的背景に加えて、縁起物としても重宝されてきました。種芋から親芋、子芋、孫芋へと次々に増えていく様子が、子孫繁栄を願う象徴とされ、お祝いの席や行事食、特に正月のおせち料理などで用いられる伝統野菜です。お祝いの席に欠かせない鯛(海の幸)と共に、「海老(海の幸)と海老芋(里の幸)」として珍重され、人々の生活に豊かな恵みと幸福をもたらす食材として、今日まで大切にされています。
海老芋と里芋、京芋との違い
海老芋は里芋の一種ですが、いくつかの点で明確な違いが見られます。これらの違いを把握することで、それぞれの芋の特性を最大限に引き出す調理法を選択し、より美味しく味わうことができます。
里芋との違い:可食部と食感
まず、食べられる部位において、里芋と海老芋には違いがあります。一般的な里芋は、主に親芋から分かれた子芋や孫芋が食用とされます。一方、海老芋は子芋や孫芋に加えて、親芋も美味しく食べられる点が大きな特徴です。市場に出回る海老芋は、主に子芋と孫芋ですが、どちらもきめ細かい肉質を持ち、親芋まで無駄なく利用できるのは海老芋ならではの魅力と言えるでしょう。一般的に、200gから300g程度の子芋が高品質とされますが、小さな孫芋も美味しくいただけます。
食感においても、両者には違いがあります。海老芋は、里芋と比較して全体的に柔らかく、特有の強い粘り気を持つ点が特徴です。この粘り気が、海老芋独特のねっとりとしたクリーミーな食感を生み出します。さらに、海老芋の肉質はきめが細かく、口当たりが滑らかなため、繊細な料理にも適しています。
煮崩れしにくさと調理への適性
海老芋の特筆すべき点として、煮込んでも形が崩れにくいことが挙げられます。里芋も煮物に使われますが、海老芋はより煮崩れしにくいため、時間をかけて煮込む料理や、見た目を重視する料理に最適です。この特性から、「いもぼう」のような伝統的な煮込み料理やおでんなど、長時間煮込む料理にも適しています。じっくり煮込むことで、出汁が海老芋の中心まで染み込み、とろけるような食感と奥深い味わいを楽しめます。
柔らかい肉質と強い粘り気を持つため、煮物以外にも、揚げ物、炒め物、蒸し料理など、様々な調理法で楽しめます。特に揚げ物にすると、外はカリカリ、中はねっとりとした独特の食感が際立ちます。ポタージュスープにすれば、そのクリーミーな肉質を存分に堪能できます。海老芋は、里芋と同様に幅広い料理に使える万能な食材でありながら、煮崩れしにくい特性が、料理の完成度をより高めてくれます。
京芋との関係性
「京芋」という名前は、海老芋の別名として使われています。海老芋が京都の伝統野菜であることから、特に京都を中心とした関西地方では、「京芋」という名で親しまれてきました。これは、その土地で育まれ、大切にされてきた歴史と文化を反映した呼び名です。
したがって、「海老芋と京芋」に明確な違いはなく、両者は同じ野菜を指します。地域によって呼び方が異なるだけで、その特性や風味に差はありません。「京芋」と表示されている場合でも、海老芋のことだと理解していれば、安心してその美味しさを楽しむことができます。
海老芋の主な産地と伝統野菜としての認定
海老芋は、独特な栽培方法と風味を持つため、特定の地域で昔から栽培されてきました。現在では全国で生産されていますが、歴史的には特定の地域が栽培の中心でした。
現在の主要生産地:静岡県
海老芋は、京都を中心に栽培されてきた伝統野菜ですが、現在の生産量で最も多いのは静岡県です。静岡県は、海老芋の栽培に適した気候と土壌を有し、長年の栽培技術の蓄積によって、高品質な海老芋を安定的に供給しています。静岡産の海老芋も、京都産と同様に、きめ細やかな肉質とねっとりとした食感が特徴で、全国の市場に出荷され、多くの消費者や料理人に愛されています。
静岡県が主要な生産地となった背景には、効率的な栽培技術の導入や、市場のニーズに対応した生産体制の確立があります。伝統的な栽培方法を尊重しつつ、現代の農業技術を取り入れることで、より多くの地域で海老芋の美味しさを届けることが可能になりました。これにより、海老芋は特定の地域の特産品という枠を超え、より多くの人々に親しまれる食材となっています。
歴史的な栽培中心地:京都と関西地域
海老芋の栽培は、その歴史を紐解くと、京都を中心とする関西地方が古くからの中心地であることがわかります。江戸時代に長崎から伝わった唐芋が京都で品種改良され、海老芋として確立されたという経緯からも、京都の気候や文化が深く関わっている特別な野菜と言えるでしょう。
特に京都においては、料亭文化や京料理の発展とともに、海老芋特有の上品で繊細な味わいが珍重されてきました。手間暇を惜しまない伝統的な栽培技術が継承され、京都の食文化を支える重要な食材として、確固たる地位を築いています。この地域での栽培は、単なる農作物生産にとどまらず、伝統文化を継承するという重要な役割も担っています。
伝統野菜としての認定
海老芋は、その長い歴史と文化的な価値が認められ、複数の自治体によって伝統野菜として認定を受けています。具体的には、京都府の「京野菜」をはじめ、大阪府の「なにわ伝統野菜」、さらには兵庫県姫路市の「ひょうご推奨ブランド」にも選ばれています。これらの認定は、海老芋がそれぞれの地域における食文化や農業において、特別な存在であることを示しています。
伝統野菜としての認定は、単に地域の名産品というだけでなく、その品種が持つ独自の特性や栽培方法、そして地域固有の歴史的背景が高く評価された結果と言えます。これらの認定地域では、海老芋の伝統的な栽培技術が保護され、次世代へと確実に継承していくための取り組みが積極的に行われています。海老芋は、それぞれの地域が誇るべき食の財産であり、その存在は地域のアイデンティティを象徴するものとなっています。
唯一無二の形を生み出す「土寄せ」栽培の全貌
海老芋の最大の特徴である、あの独特な湾曲した形状は、「土寄せ」と呼ばれる特別な栽培方法によって生まれます。この手間暇を惜しまない栽培工程こそが、海老芋を高級食材へと押し上げている理由の一つです。
栽培期間と種類
海老芋の栽培は、約半年間という長い期間をかけて、丹念に行われます。種芋の植え付けは、4月から5月上旬にかけて行われ、その後、様々な管理作業を経て、11月頃に収穫期を迎えます。しかし、収穫された海老芋が全てすぐに出荷されるわけではありません。収穫後も土の中で保存することで、翌年の2月頃まで出荷を続けることができ、冬の間、長く新鮮な海老芋を楽しむことができるのです。
海老芋にはいくつかの種類が存在し、茎の色によって区別されることがあります。例えば、茎が赤いものは「赤芽」と呼ばれることがあり、茎が緑色のものは「青芽」と呼ばれることがあります。これらの種類は、それぞれわずかに異なる特性や風味を持つとされていますが、一般的に市場に出回るのは、栽培に適した品種が選ばれています。生産者は、それぞれの品種の特性をしっかりと理解し、その土地の気候や土壌などの環境に最適な栽培方法を選択しています。
理想的な土作りと植え付け
海老芋栽培で成否を分けるのが、土壌準備です。生育には、水はけと通気性が良く、栄養豊富な土が不可欠です。植え付けの約1週間前に、苦土石灰を施して土壌のpHを調整し、深く耕うんします。これは土の酸性を中和し、根が健全に伸びる環境を作るためです。
次に、堆肥や化成肥料を混ぜ込み、栄養をたっぷり与えます。土壌の準備ができたら、畝を立てます。畝を高くすることで排水性を高め、後の土寄せ作業を楽にします。種芋は、芽を上向きにして、株間60cm、深さ5~6cmを目安に植え付けます。適切な間隔と深さを守ることで、芋一つひとつが十分に成長できるスペースと栄養を確保できます。
適切な施肥と水やり
海老芋を順調に育てるには、適切な肥料と水やりが重要です。水やりは、土の表面が乾いたらたっぷりと。特に生育期は乾燥に注意が必要です。水不足は、芋の生育不良や品質低下につながります。
追肥は、5月下旬と6月下旬を目安に2回行います。この時期は生育が旺盛で、多くの栄養を必要とするため、肥料切れを起こさないようにします。追肥と同時に、軽く土寄せを行うことで、肥料が根元に届きやすくなり、効果的に栄養を吸収できます。丁寧な管理が、大きく美味しい海老芋を育てる秘訣です。
海老芋の形を形成する土寄せの技術
海老芋栽培の最大の特徴であり、重要な工程が土寄せです。この作業は、海老芋をエビのように湾曲した独特の形状に育てるための技術であり、通常の里芋栽培とは異なります。7月から8月にかけて、親芋と子芋の間に土を入れ込み、圧力をかける作業を4~5回繰り返します。
土寄せには、根の乾燥を防ぎ、土壌の水分を保つ効果や、肥料の流出を防ぎ、栄養を効率的に供給する役割があります。そして最も重要なのは、海老芋が成長するスペースを確保し、芋に圧力をかけることで、あの独特な湾曲した形状を作り出すことです。この手間暇かけた作業が、海老芋特有のきめ細かい肉質と上品な風味を生み出し、高級食材としての価値を高めています。
収穫のタイミングと方法
収穫時期の目安は、地上部の葉が枯れ始めた頃です。葉が黄色くなり始めるのは、芋が十分に成熟し、養分を蓄え終えたサインです。このタイミングを見逃さないことが重要です。
収穫作業は、まず葉柄を根元から切り取ります。芋を傷つけないように注意しながら、株元から少し離れた場所にシャベルを入れ、土ごと丁寧に掘り上げます。芋が複雑に絡み合っている場合があるので、無理に引っ張らず、慎重に土を取り除いてください。丁寧に収穫することで、傷のない美しい海老芋を収穫でき、品質を維持できます。
新鮮な海老芋の選び方と長期保存の秘訣
海老芋のおいしさを最大限に引き出すには、新鮮なものを選ぶことと、鮮度を維持するための保存方法が重要です。ここでは、良質な海老芋の見分け方と、長持ちさせるための保存テクニックを詳しくご説明します。
美味しい海老芋の選び方
おいしい海老芋を選ぶには、いくつかのポイントをチェックしましょう。まず、見た目と重さを確認します。名前の由来でもあるエビのような独特な形をしており、表面に車海老のような縞模様が鮮明に出ているものが良品です。手に取ったときに、見た目以上に重く感じられ、硬く締まっているものが新鮮である証拠です。軽いものは水分が抜けてしまっている可能性があります。
次に、皮の状態をよく見てください。傷や変色、カビがないか確認しましょう。ひげ根が少なく、皮の色つやが良いものがおすすめです。傷があると、そこから品質が劣化しやすいため、できるだけきれいなものを選びましょう。一般的に流通しているのは子芋と孫芋で、特に200~300g程度の子芋がおいしいとされていますが、小さい孫芋でも十分に美味しくいただけます。これらの点に注意して選ぶことで、より良い海老芋を見つけることができるでしょう。
適切な保存方法:冷暗所での保管が鍵
海老芋は繊細な野菜で、特に低温と乾燥に弱い性質があります。そのため、保存方法には十分な注意が必要です。最適なのは、土がついたまま冷暗所で保存する方法です。土は天然の保湿剤として機能し、海老芋の乾燥を防いでくれます。風通しの良い、涼しい場所(10℃~15℃が目安)を選びましょう。
もし土が落ちてしまっている場合は、乾燥を防ぐために、湿らせた新聞紙やキッチンペーパーで海老芋を一つずつ包むか、まとめて包んでからビニール袋に入れ、冷暗所で保存します。このとき、袋の口は完全に閉じずに、少し隙間を開けて通気性を確保することで、蒸れを防ぐことができます。冷蔵庫での保存は、低温障害を引き起こす可能性があるため、避けた方が良いでしょう。冷蔵庫に入れると、海老芋本来の風味が損なわれたり、食感が悪くなることがあります。適切な方法で保存することで、海老芋の鮮度とおいしさをより長く楽しむことができます。
海老芋の下処理:ぬめり除去からアク抜き、調理の注意点まで
海老芋をおいしく調理するためには、丁寧な下処理が不可欠です。特に、ぬめりの除去とアク抜きは、料理の出来栄えを大きく左右する重要な工程です。
下処理の重要性:滑りを取り除き、澄んだ煮汁に
海老芋独特の滑りは、料理によっては煮汁を濁らせる原因となります。特に、透き通った煮汁が重要な和食の煮物などでは、この滑りをきちんと取り除くことが、見た目と味の両面で料理の完成度を高めるために欠かせません。滑りを落とすことで、出汁や調味料が芋の内部まで浸透しやすくなり、より美味しく仕上がります。
ただし、滑り成分そのものには、胃腸の粘膜を保護したり、免疫力を高めたりする栄養価が含まれているため、全ての料理で完全に除去する必要はありません。例えば、汁物やとろみを活かしたい料理では、ある程度滑りを残しても良いでしょう。しかし、一般的には、海老芋の繊細な風味と煮崩れしにくい特徴を最大限に引き出すためには、下処理で滑りを適度に除去することが推奨されます。
基本的な下処理の手順
海老芋の基本的な下処理の手順は以下の通りです。この手順に従うことで、滑りを効果的に落とし、海老芋本来の美味しさを引き出すことができます。
水で丁寧に洗う
まず、海老芋の表面についている土や汚れをきれいに洗い流します。水中で海老芋同士を軽くこすり合わせるように洗うと、効率的に汚れを落とせます。この際、硬いブラシなどで強くこすりすぎると、皮を傷つける可能性があるため、優しく丁寧に洗いましょう。洗い終わったら、ざるにあげて水気を切り、少し乾かします。
上下の硬い部分を切り落とす
次に、海老芋の上下にある硬い部分を切り落とします。この部分は繊維質が多く、調理しても食感が悪いため、しっかりと取り除くことが大切です。その後、作る料理に合わせて適切な大きさにカットします。乱切りや厚めの輪切りなど、煮崩れしにくい海老芋の特性を考慮した切り方がおすすめです。皮をむく際には、手に直接滑りが付かないように調理用手袋を使用するか、少し厚めに皮をむくことで滑り成分が手に付着するのを防ぐことができます。
米のとぎ汁で下茹でする
カットした海老芋を鍋に入れ、ひたひたになるまで米のとぎ汁を注ぎ入れます。中火で加熱し、沸騰したらそのまま3分ほど茹でてください。米のとぎ汁を使うことで、海老芋に含まれる不要なアクを取り除くことができ、独特のえぐみを抑える効果があります。さらに、米由来のでんぷん質が海老芋の表面を覆い、より白く美しい仕上がりを実現し、煮崩れを抑制する効果も期待できます。
ざる上げと粗熱取り
下茹で後の海老芋は、速やかにざるに移して水分を切り、粗熱を取ります。冷水にさらしてしまうと、急激な温度変化によって身が硬くなったり、風味が損なわれたりする可能性があるため、自然に冷ますことを推奨します。粗熱が取れたら、必要に応じて皮を剥いたり、表面のぬめりを洗い流してください。これらの下処理を丁寧に行うことで、煮物、揚げ物など、あらゆる料理で海老芋本来の美味しさを存分に引き出すことができます。
ずいき(茎)の下処理と注意点
海老芋のずいき(茎)も美味しく食べられますが、アクが非常に強いため、必ず下処理を行ってください。美味しくいただくためには、丁寧なアク抜きが欠かせません。まず、ずいきを食べやすいサイズにカットし、たっぷりの水に浸してアクを抜きます。数時間から一晩、水にさらすことでアクが抜け、えぐみが軽減されます。途中、何度か水を入れ替えることで、より効果的にアクを抜くことができます。
海老芋を調理する際は、中心部まで十分に火が通っているか確認してください。加熱が不十分だと、食感が悪くなるだけでなく、消化不良の原因にもなります。竹串を最も厚い部分に刺し、抵抗なくスムーズに串が通る状態が、加熱完了の目安です。煮物にする場合は、弱火でじっくりと時間をかけて煮込むことで、味が均一に染み込み、とろけるような食感に仕上がります。
海老芋を使ったおすすめレシピ:定番料理からアレンジレシピまで
海老芋は、煮崩れしにくい特性と、独特のねっとりとした食感が魅力で、幅広い料理に活用できる食材です。ここでは、伝統的な和食はもちろん、ご家庭で手軽に作れる洋風アレンジレシピまで、海老芋の美味しさを最大限に活かしたレシピをご紹介します。
調理法の基本:持ち味を活かした調理
海老芋の特筆すべき点は、煮込んでも形が崩れにくいことです。この長所を最大限に利用することで、出汁や調味料の風味が素材の中心部まで行き渡り、とろけるような奥深い味わいを堪能できます。したがって、煮物は海老芋の個性を際立たせる最適な調理法と言えるでしょう。
ただし、海老芋の活用方法は煮物だけではありません。きめ細かく粘性のある食感は、揚げ物にすることで外側のサクサク感と内側のねっとり感が際立つ、他にはない食感を生み出します。また、蒸し料理にすると、海老芋本来の甘さとほっくりとした食感をシンプルに味わえます。さらに、ポタージュにすれば、その滑らかな質感が際立ち、洗練された洋風の一品に仕上がります。さまざまな調理法を試し、海老芋の多様な魅力を探求してみてください。
伝統の京料理「いもぼう(海老芋と棒だらの炊いたん)」
「いもぼう」は、京都に伝わる伝統的な料理で、海老芋と棒だら(乾燥させたタラ)を時間をかけて一緒に煮込んだものです。棒だらは乾燥食品であるため、数日間かけて出汁や米のとぎ汁で丁寧に下処理をする必要があり手間がかかりますが、それに見合う豊かな風味と独特の食感が生まれます。海老芋の煮崩れしにくい性質がこの料理に適しており、棒だらから溶け出す深い旨味が海老芋に染み込み、特別な美味しさを生み出します。仕上げに柚子の皮を添えれば、爽やかな香りが加わり、より上品な一品となります。
材料(2人分)
- 海老芋 4個
- 棒鱈(戻したもの) 長さ5cm程度のもの4切れ
- だし汁 400ml
- 醤油 大さじ4
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 砂糖 大さじ2
作り方
1. 棒鱈の下ごしらえをします。
まず、棒鱈を米のとぎ汁に一晩以上浸し、しっかりと水で戻します。
棒鱈は乾燥しているため、時間をかけて戻すことで身が柔らかくなり、独特の臭みが抜けやすくなります。
戻している途中で何度か水を替えることで、さらに臭みが抜け、美味しく仕上がります。
2. 海老芋の下ごしらえと棒鱈のカットをします。
海老芋は皮をむき、水に浸してアク抜きをします。
水で戻した棒鱈は、食べやすい大きさに切ります。
3. 鍋に出汁と酒、棒鱈を入れ、中火で加熱します。
沸騰したら、下処理をした海老芋を加えます。
火力を弱火にし、海老芋が柔らかくなるまでじっくりと煮込みます。
4. 海老芋が柔らかくなったか確認します。
醤油、みりん、砂糖を加え、さらに煮詰めます。
海老芋と棒鱈に甘みと旨味が十分に染み込むよう、弱火でじっくりと煮込みます。
5. 煮詰まったら、棒鱈と海老芋を丁寧に器に盛り付けます。
鍋に残った煮汁は、量が半分程度になるまで煮詰めてとろみをつけます。
盛り付けた芋棒の上から、煮詰めた煮汁をたっぷりとかけて完成です。
身体温まる絶品「海老芋おでん」
煮崩れしにくい海老芋は、おでんの具材として最適です。丁寧にだしを染み込ませた海老芋は、とろける食感と奥深い風味が特徴で、おでんの中でも特に人気があります。旬の時期の海老芋は、同じく旬を迎える大根や小松菜、長ネギといった冬野菜と煮込むことで、より季節を感じられるおでんになります。彩りにミニトマトなどを加えるのもおすすめです。
材料(2人分)
- 海老芋 2個
- お好みの練り物 適量
- 大根 1/4本
- ミニトマト 中2個
- 小松菜 1/2束
- 結び白滝 4個
- 白だし(指定の割合で薄める) 800ml
作り方
1. 海老芋の下ごしらえをします。
海老芋は蒸し器で、竹串がスムーズに通るくらい柔らかくなるまで蒸してください。
蒸し上がったら、粗熱を取り皮をむき、食べやすい大きさにカットします。
2. 他の具材も準備します。
大根は皮をむいて2cm厚さの輪切りにし、下茹でしておきましょう。
小松菜はさっと茹でてから、3本ずつ束ねて結びます。
ミニトマトは湯むきします。練り物はお湯をかけて油抜きをします。
3. 鍋に薄めた白だしを入れ、火にかけます。
だしが沸騰したら、準備しておいた全ての具材を投入します。
4. 弱火でじっくりと煮込みます(沸騰させないように注意)。
具材に味が十分に染み込むように、時間をかけて丁寧に煮込みましょう。
これで身体の芯から温まる海老芋おでんの完成です。
表面カリカリ、中はモチモチ「海老芋の揚げ出し」
海老芋の揚げ出しは、外側のサクサク感と、内側のねっとりとした海老芋特有の食感が堪能できる料理です。揚げたての海老芋に温かい出汁をかけると、出汁の旨味がじゅわっと広がり、上品な風味が口いっぱいに広がります。大根おろしや生姜を添えれば、さっぱりとした後味になり、食欲をそそる美味しさです。
材料(2人分)
- 海老芋 4個
- 米粉(または片栗粉) 適量
- 揚げ油 適量
- 出汁 200ml
- 醤油 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 大根おろし 適量
- 生姜すりおろし 適量
作り方
1. 海老芋の下ごしらえと下茹で
海老芋は皮をむき、食べやすいサイズにカット。竹串がスムーズに通るくらいまで柔らかく茹でます。下茹ですることで、揚げる時間を短縮し、均一に火が通ります。
2. 茹で海老芋の下準備
茹で上がった海老芋は、表面の水分を丁寧に拭き取ります。その後、お好みの大きさにカットし、米粉(または片栗粉)を薄く、均一にまぶします。
3. 海老芋を揚げ焼き
フライパンに深さ1cmほどの油を入れ、弱火でじっくりと温めます。海老芋を並べ、時々返しながら、全体がきつね色になるまで揚げ焼きに。少ない油でカリッと仕上がります。揚げ終わった海老芋は油を切っておきます。
4. 揚げ出しのタレを作る
小鍋に出汁、醤油、みりんを入れ、軽く沸騰させます。アルコール分を飛ばしたら火を止めます。
5. 盛り付けと仕上げ
器に揚げ焼きにした海老芋を盛り付け、温かいタレをたっぷりとかけます。大根おろしと生姜を添えて、熱々をお召し上がりください。
海老芋のポタージュスープ
海老芋独特のねっとりとした食感は、ポタージュスープにすることで最大限に活かされます。そのきめ細やかさと上品な風味は、まさに絶品。炒めた玉ねぎの甘さとコンソメスープのコクが、海老芋の持ち味をより一層引き立てます。寒い日にぴったりの、身体を温める優しい味わいのスープです。海老芋の新しい魅力を発見できるはず。
材料(2人分)
- 海老芋 1個
- 玉ねぎ 1/4個
- バター 小さじ1
- コンソメ 1個
- 水 200ml
- 牛乳 200ml
- 塩、胡椒 少量
作り方
1. 下ごしらえと加熱
海老芋は丁寧に洗い、皮付きのまま水から煮始めます。
竹串がスムーズに通るまで茹でたら、お湯から上げて水気を切ります。
2. カット
熱いうちに海老芋の固い部分を取り除き、皮をむきます。
その後、約1.5cmのサイコロ状にカットします。
玉ねぎは繊維を断つように薄切りにします。
3. 炒める
鍋にバターを溶かし、玉ねぎがしんなりするまで炒めます。
海老芋を加え、全体にバターがなじむように炒め合わせます。
4. スープのベースを作る
水とコンソメを加え、沸騰直前で火を止めます。
少し冷ましてからミキサーに移し、なめらかになるまで撹拌します。
撹拌後、鍋に戻します。
5. 仕上げ
牛乳を加えて弱火で温めます。焦げ付かないように混ぜ続けます。
沸騰させないように注意しながら、塩こしょうで味を調え、火を止めます。
ご飯が進む一品「海老芋の鶏そぼろあんかけ」
海老芋独特のなめらかな舌触りと、とろりとしたあんかけの組み合わせは格別です。鶏ひき肉を使ったそぼろあんは、海老芋の繊細な風味に奥行きを与え、満足感のある一品に仕立てます。白いご飯のお供にはもちろん、晩酌のお供にも最適です。千切り生姜を添えれば、より風味豊かな和風のあんかけが楽しめます。
材料(2人分)
- 海老芋 2個
- 鶏ひき肉 80g
- 米粉(または片栗粉) 大さじ1
- 水 大さじ2
- だし汁 300ml
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ2
- しょうゆ 大さじ1.5
- 生姜(千切り) 適量
作り方
1. 海老芋の下処理
海老芋を食べやすいように準備します。
皮を剥き、好みのサイズにカットします。
2. 煮込む
鍋にカットした海老芋とだし汁を入れ、中火で煮ます。
竹串が抵抗なく通る程度に柔らかくなったら火を止め、器に盛り付けます。
3. そぼろあんを作る
海老芋を煮た後の煮汁が残った鍋に、鶏ひき肉、酒、みりん、しょうゆを加えます。
中火にかけ、鶏肉に火が通るまで煮ます。水溶き米粉(または片栗粉)を少しずつ加え、混ぜながらとろみをつけます。
4. 盛り付け
器に盛り付けた海老芋に、3の鶏そぼろあんをたっぷりとかけます。
お好みで千切り生姜を添えて、完成です。
その他の活用法:コロッケや炒め物
海老芋は、煮物や揚げ物、汁物に限らず、コロッケや炒め物にも最適です。特有のねっとり感は、コロッケの具材に使用することで、じゃがいもとは異なる、なめらかでコクのある風味を生み出します。あらかじめ下処理として柔らかくゆでた海老芋を潰し、鶏ひき肉や炒めた玉ねぎなど、好みの材料と混ぜて成形し、パン粉をつけて揚げれば、海老芋ならではの奥深い味わいのコロッケが堪能できます。
また、海老芋を薄切りやさいの目切りにして、炒め物に取り入れるのもおすすめです。鶏むね肉や豚バラ肉、旬の彩り豊かな野菜と一緒に炒めれば、海老芋の持ち味である上品な甘みと独特の食感が、料理全体のアクセントとして際立ちます。醤油ベースの和風テイストや、焦がしバターとガーリックで仕上げる洋風アレンジなど、多彩な味付けで楽しめます。通常の里芋と同様に、様々な料理に海老芋を積極的に活用し、その豊かな美味しさを存分に味わってみてください。
まとめ
海老芋は、京都を中心に昔から親しまれてきた高級京野菜の一つで、エビのような独特なフォルムと美しい縞模様、そしてきめが細かく粘り気のある食感が際立っています。里芋の一種でありながら、親芋も子芋も美味しく味わうことができ、煮込んでも形が崩れにくいという優れた特徴を持つため、日本料理から西洋料理まで幅広いジャンルの料理に活用できる万能な食材です。
江戸時代から続く長い歴史を持ち、子孫繁栄の象徴としても大切にされてきた海老芋は、現在では静岡県が主な産地となっていますが、伝統的な栽培地の京都や関西地方でも、手間暇を惜しまない「土寄せ」という特別な栽培方法で丁寧に育てられています。旬は11月から2月の寒い時期で、この時期に最も美味しくなり、価格も比較的安定します。
ご家庭で調理する際は、泥付きの状態で風通しの良い冷暗所で保存し、お米のとぎ汁で下茹でするなど、丁寧な下処理をすることで、その美味しさを最大限に引き出すことができます。「いもぼう」のような伝統的な京料理から、おでん、揚げ出し豆腐、ポタージュ、そぼろあんかけ、さらにはコロッケや炒め物など、普段の食卓を豊かにする数々の料理に、海老芋は無限の可能性を秘めています。高級食材というイメージを持たれがちですが、ご家庭でも扱いやすい食材ですので、ぜひ旬の時期に海老芋を手に入れて、その独特のねっとりとした食感と上品な風味を存分にお楽しみください。
海老芋とはどんな野菜ですか?
海老芋は、京都を代表する「京野菜」の一種で、里芋の仲間です。名前が示すように、エビのように湾曲した形状と表面に見られる縞模様が特徴です。きめ細かく、とろけるような舌触りと強い粘りがあり、煮込んでも煮崩れしにくいという特徴があります。高級料亭などで使用される高級食材としても有名で、子孫繁栄の縁起物としても大切にされています。
海老芋の旬はいつですか?
海老芋の旬は、主に冬の季節です。具体的には、11月~2月頃が最も美味しく味わえる時期であり、特に11月から1月が出荷のピークとされています。この時期の海老芋は、味が格別で、価格も比較的安定している傾向があります。
里芋と海老芋、どこが違う?
海老芋は里芋の一種ですが、いくつかの点で違いが見られます。一般的に里芋は子芋や孫芋を食用としますが、海老芋は親芋も子芋も美味しく食べられるのが特徴です。さらに、海老芋は里芋に比べて、きめ細かい肉質で、強い粘りがあり、煮込んでも形が崩れにくいという利点があります。そのため、特に煮物料理でその美味しさが際立ちます。
海老芋、その名前のルーツは?
海老芋の名前は、特徴的な形状から来ています。栽培時に行われる「土寄せ」という特別な作業によって、芋がまるでエビのように湾曲した形に成長します。加えて、表面に浮かび上がる独特の縞模様が、車エビの模様を連想させることから、「海老芋」という名前が付けられました。
海老芋の下ごしらえ、どうすればいい?
海老芋の下処理の基本は、まず丁寧に水洗いし、上下の硬い部分を切り落とした後、用途に応じたサイズにカットします。その後、米のとぎ汁に海老芋が浸るくらいの量を入れ、沸騰したら弱火で3分ほど茹でます。こうすることで、アクや余分なぬめりを効果的に取り除くことができます。茹で上がったら、ざるにあげて粗熱を取り、必要であれば皮を剥いて調理に取り掛かりましょう。
海老芋、どうやって保存する?
海老芋は、低温と乾燥に弱い性質を持つため、冷蔵庫での保存は避けた方が良いでしょう。土が付いた状態のまま、風通しの良い冷暗所(およそ10℃~15℃)で保存するのが理想的です。もし土が落ちてしまっている場合は、湿らせた新聞紙で包み、さらにビニール袋に入れて冷暗所に置くことで、乾燥を防ぎ、鮮度を維持することができます。













