石川県金沢市で育まれる「加賀野菜」。その名は、豊かな歴史と風土が育んだ、選りすぐりの野菜たちを指します。金沢の食文化を支え、独特の風味と彩りで人々を魅了する加賀野菜は、現在15種類が認定されています。今回は、金沢の老舗八百屋の目利きが、それぞれの野菜の魅力と、その美味しさを最大限に引き出すおすすめの食べ方をご紹介。加賀野菜の奥深い世界を覗いてみましょう。
加賀野菜15種類:個性豊かな味わいとおすすめの調理法
石川県が誇る「加賀野菜」は、現在15種類が認定されています。それぞれが独自の風味と魅力を持つこれらの野菜について、金沢の老舗八百屋が、特徴とおすすめの美味しい食べ方をご紹介します。
1. さつまいも:砂丘が育む、滋味深い甘さ
主な産地:五郎島・粟ヶ崎・大野・大徳地区 出荷時期:8月下旬~5月下旬 加賀野菜として栽培されているのは、主に「五郎島金時」です。ホクホクとした食感が特徴で、「なると金時」と同じ系統の「高系14号」から選抜育成された「コトブキ」という品種にあたります。きめ細かく、上品な甘さが特徴で、どこか懐かしい味わいです。五郎島金時の産地である五郎島地区は、日本海に面した砂丘地帯。水はけの良い痩せた土地がさつまいも栽培に適しており、江戸時代から栽培が始まりました。焼き芋、蒸かし芋、天ぷら、お菓子など、様々な料理で楽しめます。
美味しい食べ方
栗きんとんやレモン煮も良いですが、五郎島金時の特徴であるきめ細かい粉質と奥深い甘さを堪能するなら、焼き芋がおすすめです。焼き芋の甘さは、麦芽糖という糖分によるものです。これは、さつまいもに含まれるβ-アミラーゼという酵素が、でんぷんを分解することで生成されます。β-アミラーゼは70度前後で最も活発に働くため、調理中にこの温度帯を長く保つことで甘味を最大限に引き出せます。ご家庭では、電子レンジの解凍モードを活用しましょう。濡らしたキッチンペーパーでさつまいもを包み、ラップでくるんで600Wで1分半加熱した後、解凍モードで20~30分加熱します。鋳物鍋をお持ちの場合は、濡らしたキッチンペーパーで包み、蓋の隙間から蒸気が出てきてから中火で15分程度加熱すると美味しく仕上がります。
2. 加賀れんこん:もちもち食感と豊かな風味
主な産地:小坂・河北潟地区 出荷時期:8月中旬~5月中旬 「加賀れんこん」は「小坂蓮根」とも呼ばれ、節が短く、ずんぐりとした形が特徴です。でんぷん質を多く含むため粘り気が強く、もっちりとした食感とシャキシャキとした食感を同時に楽しめます。味わいは奥深く、栄養が凝縮されたような滋味深さがあります。肉質は緻密で、雪のように白いのが特徴です。栄養価も高く、すりおろすと、もっちりとなめらかな食感になります。
美味しい食べ方
太いものは煮物、中くらいのものは天ぷら、細いものは炒め物やきんぴらにするのがおすすめです。特に「蓮蒸し」は絶品です。蓮蒸しとは、すりおろした蓮根とエビを混ぜて蒸し、出汁をかけた加賀料理のこと。粘りが強い「加賀れんこん」を使えば、つなぎなしでも綺麗にまとまります。
3. たけのこ:春を告げる味覚
主な産地:内川・富樫地区出荷時期:4月中旬~5月下旬
加賀野菜のたけのこは、「孟宗竹」という種類です。孟宗竹は寒さに弱いため、東北地方以北では生育が難しいとされています。金沢は、孟宗竹の生育に適した北限に近い場所であり、大規模な産地となっています。ここで育つたけのこは、甘み、香り、旨味が強く、水分をたっぷり含んでいるのが特徴です。また、収穫したてならアク抜きなしで食べられるほど、えぐみが少ないのも魅力です。たけのこのえぐみの原因は、シュウ酸やホモゲンチジン酸といった成分です。これらの成分は、成長が早いほど多く吸収され、えぐみが強くなります。しかし、雪国金沢のたけのこはゆっくりと成長するため、これらの成分の吸収が抑えられ、アクが少なく美味しいものが育ちます。穂先は和え物やお吸い物、真ん中は天ぷらや煮物、根元は炒め物やたけのこご飯に最適です。
美味しい食べ方
煮炊きすると甘みが引き立つため、煮物で味わうのが一番です。金沢の郷土料理であるたけのこ昆布は、加賀のたけのこの甘さを存分に堪能できる一品です。
4. 加賀太きゅうり:金沢生まれの味自慢
主な産地:安原地区出荷時期:4月中旬~11月中旬
「加賀太きゅうり」は、肉厚で柔らかい果肉が特徴です。直径は6~7cmほど、重さは600~800gにもなります。一般的なきゅうりよりも、瓜に近い味わいです。柔らかく、日持ちが良いのも嬉しいポイント。煮物、酢の物、サラダ、漬物など、様々な料理で美味しくいただけます。
美味しい食べ方
加賀太きゅうりは、一般的なきゅうりとは少し違った調理法がおすすめです。まず皮を丁寧に剥き、中の種を取り除いて、果肉の部分だけを使用します。定番の漬物はもちろん美味しいですが、特に豚肉との相性が抜群です。炒め物として一緒に調理したり、ひき肉と組み合わせてあんかけにするのもおすすめです。
5. 金時草:彩り豊かな故郷の味
主な産地:花園地区 およその出荷時期:通年
「金時草(きんじそう)」は、葉の表が緑色、裏が紫色という、他に類を見ない独特のルックスが特徴です。葉裏の紫色は、まるで金時芋の皮の色に似ていることから、加賀地方では「金時草」と呼ばれるようになりました。標準和名は「水前寺菜」といい、熊本県水前寺地区が発祥の地とされています。香味野菜のような独特の風味があり、せりや春菊にも似た味わいです。茹でるとモロヘイヤのようにぬめりが出るのが特徴で、湯がけばあっさりと、火を通せば香ばしい風味を楽しめます。加賀野菜の中でも特に栄養価が高く、アントシアニン、ビタミンA、ビタミンC、カルシウム、ギャバなどが豊富に含まれています。鮮やかな赤紫色の葉色と、とろりとした食感が魅力です。
美味しい食べ方
おすすめは、さっぱりとした酢の物です。軽く茹でてしんなりとした金時草を、ショウガ、酢、砂糖、醤油などで和えれば、ぬめりが全体に絡み、つるっと美味しくいただけます。また、天ぷらにするのもおすすめです。酢の物ではさっぱりと、天ぷらでは香ばしい風味を楽しめる、様々な調理法で味わえる食材です。
6. 加賀つるまめ:自然の恵みを感じる夏の味覚
主な産地:富樫地区 およその出荷時期:7月下旬~10月下旬
「加賀つるまめ」は、千石豆やだら豆といった別名でも親しまれています。サヤが柔らかく、口当たりの良さが特徴です。豆類ならではの香ばしい風味と、ほんのりとした苦みが絶妙なバランスで楽しめます。淡い緑色の可愛らしい見た目と、爽やかな香りが食欲をそそります。
美味しい食べ方
お味噌汁の具材や煮物、味噌和えなど、様々な調理法で楽しめます。特におすすめなのは、つるまめと厚揚げを一緒に煮込んだ煮物です。旬の時期には、炊き合わせや天ぷらでその美味しさを堪能してください。
7. ヘタ紫なす:可愛らしい小ぶりのナス
主な産地:崎浦地区出荷時期:7月中旬~10月下旬
「ヘタ紫なす」は、ヘタの下まで紫色に染まる、丸みを帯びた小ナスです。美しい色艶、薄い皮、そして柔らかく甘みのある果肉が特徴で、近年では「丸なす」として金沢市民に広く親しまれています。皮が薄く、果肉のきめが細かいのも魅力です。
美味しい食べ方
煮物やオランダ煮がおすすめです。特筆すべきは、収穫から一日置くとコクが増し、さらに美味しくなる点です。天ぷらにすると、果肉のぷりぷりとした食感が楽しめます。地元では漬物としても親しまれており、夏の一夜漬けは格別です。
8. 源助だいこん:冬の食卓に欠かせない味覚
主な産地:安原地区出荷時期:10月下旬~2月上旬
「源助だいこん」は、太さ8~10cm、長さ30cmほどの、丸みを帯びた大根です。一般的に流通している青首大根と比べて甘みが強く、柔らかい肉質が特徴です。その白くずんぐりとした愛らしい姿も魅力の一つです。
美味しい食べ方
加賀野菜は、煮込んでも形が崩れにくく、味がしっかりと染み込む特徴があります。そのため、煮物や炊き込みご飯など、じっくりと煮込んで食べる調理法がおすすめです。特におでんにすると、それぞれの野菜が持つ独特の食感と旨味が際立ちます。中でも源助大根のおでんは、そのとろけるような柔らかさと上品な味わいから「天下一品」と称され、関西地方を中心に広く愛されています。金沢市民が自信を持っておすすめする食べ方です。時間をかけて煮込んでも煮崩れしないため、金沢おでんには欠かせない一品となっています。
9. せり:食卓を彩る、香り高い名脇役
主な産地 : 諸江地区およその出荷時期 : 11月~5月下旬 諸江地区で栽培されるせりは、その茎の細さと、ひときわ強い香りで知られています。この地域には豊富な地下水脈があり、清らかで水温が年間を通して安定している点が、せりの栽培に適しています。この恵まれた環境が、高品質なせりを育む理由です。すらっと伸びた茎と、繊細な葉が特徴です。
美味しい食べ方
金沢では、せりは薬味として重宝され、お雑煮やお茶漬け、鍋料理などに彩りと風味を添えます。また、サラダとして生のまま食せば、せり本来のシャキシャキとした食感と、爽やかな香りを存分に楽しむことができます。料理に加えることで、その香りと歯ごたえが絶妙なアクセントとなり、食欲をそそります。
10. 打木赤皮甘栗かぼちゃ:目を奪われる、鮮烈な赤色
主な産地 : 安原地区およその出荷時期 : 6月上旬~8月下旬 「打木赤皮甘栗かぼちゃ」は、その名の通り、鮮やかな朱色の皮が印象的なかぼちゃです。元々は西洋かぼちゃの一種ですが、長い年月をかけて選抜と育成を繰り返し、現在の姿へと進化しました。皮は薄く、そのまま食べられるのが特徴です。その美しい色合いは、料理に華やかさを添えるため、彩りとしても重宝されます。肉質は厚く、ねっとりとしており、加熱すると栗のような独特の風味と、強い甘みが口の中に広がります。しっとりとした食感も魅力です。可愛らしいフォルムも特徴で、皮も柔らかく、果肉はしっとりとしています。
美味しい食べ方
煮物や炊き合わせにすると、煮汁との相性が抜群で、煮崩れしにくいのが魅力です。素材の甘みを堪能したいなら、天ぷらもぜひお試しください。
11. 金沢一本太ねぎ:際立つ甘さと豊かな風味
主な産地 : 金城・富樫地区およその出荷時期 : 10月中旬~1月下旬火山灰土壌でミネラル豊富な土地で育つ「金沢一本太ねぎ」は、その柔らかさと、際立つ甘さが特徴です。金沢の厳しい寒さを経て育ったねぎは、薬味として使うのがもったいないほどの豊かな風味を誇ります。110cmにも及ぶ高さまで成長し、柔らかいゆえに風で倒れやすいという難点もありますが、その味は格別。寒さが増すにつれて、甘みと風味がさらに豊かになります。
美味しい食べ方
すき焼きや鍋物で、その美味しさを存分にお楽しみください。じっくり煮込むことで、とろりとした食感と、力強い甘みが際立ちます。とろけるような柔らかさと甘みが、口の中に広がるでしょう。
12. 二塚からしな:食欲を刺激する辛みと香り
主な産地 : 二塚地区およその出荷時期 : 11月下旬~3月下旬「二塚からしな」は、わさびに似たピリッとした辛味、鼻を抜けるような独特の香り、そしてほのかな苦みが特徴のアブラナ科の野菜です。種子はからしの原料としても使用されます。葉は紫色と緑色が入り混じった色合いをしています。稲刈り後の田んぼで、裏作として栽培されてきました。
美味しい食べ方
定番の食べ方といえば、からし菜漬けでしょう。炊き立てのご飯との相性が抜群で、ピリッとした辛さが食欲をそそり、寒い季節の食卓に彩りを添えます。いつもの料理に少し加えるだけで、大人向けの風味豊かな一品に変わります。
13. 赤ずいき:夏の食卓を彩る、さっぱりとした味わい
主な産地:花園地区およその出荷時期:7月下旬~9月下旬「ずいき」とは、里芋の葉と茎をつなぐ葉柄の部分を指します。加賀野菜の「赤ずいき」は、特に八つ頭という品種の里芋の葉柄を食用としたものです。特徴として、食物繊維が豊富に含まれており、近年では健康的な食材としても注目されています。独特のぬめりと風味が魅力です。
美味しい食べ方
赤ずいきはスポンジのような構造をしており、味が染み込みやすいのが特徴です。煮物や和え物など、様々な料理に活用できますが、特におすすめなのは酢の物です。さっぱりとした味わいが、暑い夏に清涼感を与えてくれます。また、鮮やかな赤色が食卓を華やかに彩ります。
14. くわい:縁起の良い、お祝いの席にぴったりの食材
主な産地:小坂地区旬:11月から1月およその出荷時期:12月上旬~12月下旬「くわい」は、オモダカ科に属する水生植物で、浅い水辺や湿地で育ちます。じゃがいもや菊芋と同様に、地下にできる塊茎と呼ばれる部分を食用とします。くわいにはいくつかの種類があり、収穫量が多くシャキシャキとした食感の「白くわい」、甘みが強い「くろぐわい」、独特のほろ苦さと旨味が特徴の「吹田くわい」、加熱すると栗や芋のような食感になる「青くわい」などが存在します。加賀野菜として知られる「くわい」は、このうちの「青くわい」にあたります。江戸時代、加賀藩の藩主であった前田綱紀が農政改革の一環として栽培を奨励したのが始まりとされています。「くわい」の名前の由来は、地面から顔を出す芽の形が鍬に似ていることから名付けられたと言われています。勢いよく伸びる芽の様子から、出世や向上を連想させる縁起の良い食材として、おせち料理によく用いられます。
美味しい食べ方
加賀野菜には、アクが強いものも存在するため、下処理としてアク抜きを行うのがおすすめです。例えば、皮を剥いた後に30分から1時間ほど水に浸けておくだけでも、ある程度のアクを取り除くことができます。煮物にする際は、米のとぎ汁で軽く下茹でしておくと良いでしょう。アク抜きを行っても若干の苦味が残る場合がありますが、そのほろ苦さこそが加賀野菜の魅力の一つでもあります。油との相性が良く、一緒に調理することで苦味が和らぐため、素揚げや炒め物などにして食べるのがおすすめです。
15. 金沢春菊:やわらかさと芳醇な香り
主な産地 : 三馬・小坂地区 およその出荷時期 : 10月下旬~4月下旬 独特の風味が特徴の春菊ですが、金沢春菊は苦味が少なく、生のままサラダとして美味しく食べられるのが特徴です。葉は肉厚で柔らかく、ほんのりとした甘みがあるため、「金沢春菊なら食べられる」という方も少なくありません。肉厚でやわらかな食感に加え、上品な香りが楽しめます。サラダはもちろん、様々な料理に活用できます。
美味しい食べ方
生のままサラダとして、またはさっと茹でておひたしに、そして鍋物の具材としてお召し上がりいただくのがおすすめです。
まとめ

加賀野菜とは、金沢市によって認定された15種類の伝統野菜の総称です。それぞれが独自の個性を持っており、味、調理法、風味など、様々な点で異なります。近年では、県外からの観光客にも高く評価され、その人気はますます広がっています。この記事が、加賀野菜の奥深い魅力を知っていただくための一助となれば幸いです。
加賀野菜の種類はいくつですか?
石川県金沢市がその品質を保証する加賀野菜は、全部で15種類存在します。内訳としては、五郎島金時(さつまいも)、加賀れんこん、孟宗竹(たけのこ)、加賀太きゅうり、金時草、加賀つるまめ、ヘタ紫なす、源助だいこん、金沢せり、打木赤皮甘栗かぼちゃ、金沢一本太ねぎ、二塚からしな、赤ずいき、青くわい(くわい)、金沢春菊が挙げられます。
加賀野菜はどこで購入できますか?
金沢市内の大手のスーパーや、地域に根ざした八百屋さん、活気ある観光市場などで見つけることができます。近年では、インターネット通販でも容易に入手可能となり、金沢を訪れた際の思い出の品としても大変喜ばれています。
加賀野菜とは、どのような野菜のことですか?
金沢市農作物ブランド協会が定める定義によれば、「昭和20年以前から栽培が行われており、現在も主に金沢で栽培されている野菜」が加賀野菜とされています。長きにわたり金沢の人々に愛され、その土地の気候や風土に合わせて育まれた伝統的な野菜を指します。













