わさびと言えば、お寿司やお蕎麦の薬味とお待ちしておりますが、今回はその「葉」にスポットを当てます。 普段は根茎の陰に隠れがちな葉ですが、実は潜在的な可能性を秘めているのです。されてしまうことも多いわさびの葉に着目し、その成分と機能性を徹底的に解説。知られざる栄養素や健康効果を見極め、新たな価値を創造する可能性を探ります。
はじめに:知られざる資源、わさび葉の可能性を探る
「わさび」と注意すれば、お寿司やお蕎麦に添えられる、あの独特の刺激的な香りを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。 ただし、この記事で注目するのは、普段私たちが口にする根茎部分ではなく、その「葉」の部分です。 、葉は利用されずに廃棄されることが多いのが現状です。ところで、ここでは未利用資源になりがちですが、わさびの葉が潜在的な価値について、成分と機能性の両面から考えて掘り下げていきます。
日本独自わさびの特性と、生理活性成分が生まれる仕組み
わさびは学名Eutrema japonicum(かつてはWasabia japonica)主に、根茎をすりおろしたもの、日本料理の薬味として使われています。わあのさび独特の、鼻にツンとくる辛味は、アリルイソチオシアネートをはじめとする揮発性の成分によるものです。わさびがすりおろされると、細胞内のシニグリンという物質が、ミロシナーゼという酵素の働きで分解され、初めてアリルイソチオシアネートが生成されるのです。 生成されるアリルイソチオシアネートには、炭素鎖長さや構造の違いによって、様々な種類があることが考えられます。イソチオシアネート(MS-ITC)は、注目を集めている成分の一つです。MS-ITCは、これまでの研究で、抗菌作用、抗ピロリ菌作用、抗血小板作用、抗変異原性など、多様な生理活性を持つことが報告されています1) 2)これらのアリルイソチオシアネート類やMS-ITC的な成分は、わさびの葉にも含まれていますが、根茎の方が含有量が多いこと、また、その生理活性への関心の高さから、わさびの研究は根茎を中心に進められてきました。現在、これらの特性を考慮した抗菌グッズなどの商品開発も盛んに行われています。
わさびの葉の現状と、その風味
通常、わさびの葉は、若くて柔らかく、虫食いのないものが食材として使われることがありますが、その利用方法は限定的です。 例えば、以前私が伊豆の旅館で食事をした際、わさびの葉がお皿の代わりや、料理の蓋として使われてました。 その葉はハート型で手のひらサイズ、濃い緑色でとても新鮮でした。実際に葉を少し食べてみると、根茎をすりおろした時のような刺激的な風味は感じられましたが、根茎ほど強くはありませんでした。
特に、葉わさびを醤油や塩などの保存食にする際には、独特の辛味成分を最大限に引き出すための「下ごしらえ」が非常に重要です。 以下に、葉わさびの辛味を効果的に引き出す下ごしらえの方法を解説します。
葉わさび、辛さ引き出し下ごしらえ
葉わさびの辛味は、適切な下処理を行うことで、より強く引き出すことができます。この下ごしらえにかかる費用は、材料費のみであればごくわずかです。まず、葉わさびは葉の付け根で切り、葉と茎を分けます。次に、加熱容器に入れ、全体に塩をまんべんなくふりかけます。容器に蓋をして、1~2分ほど、葉や茎に傷がつき、色が濃くなるまで強く振ります。この工程で、わさび細胞内のシニグリンとミロシナーゼが反応しやすく、辛味成分であるアリルイソチオシアネートの生成を懸念します。傷をつけ、塩を馴染ませることができ、辛味を最大限に引き出すためのなポイントです。容器を振った後、そのまま30分ほど気に留めておくことで、さらに辛味成分が生成・安定化します。その後、80℃のお湯を回しかけ、2分ほど浸します。この下ごしらえを終えた葉わさびは、すぐに醤油や塩の工程に移し、密閉して保存することで、豊かな風味を長く楽しむことができます。このように、適切な下ごしらえをすることで、普段はあまり注目されないわさびの葉も、独特の風味を持つ貴重な食材として生まれ変わるのです。
未利用資源としてのわさび葉と研究の意義
わさび栽培は主に根茎を目的とするため、収穫後には大量の葉や茎が廃棄されるのが一般的です。 それに加えて、根茎収穫時の葉は虫食いなどにより、食用としての利用が難しい場合もあります。目し、新たな価値を見出す研究が進められています。きなえらの研究グループは、わさびの根茎、茎、葉が持つ抗酸化性、ラジカル消去能、抗菌性、抗真菌性、抗変異原性、抗がん性など、多様な生理活性について報告しています3)この報告は、わさび葉にも様々な機能性が存在することを示唆しましたが、特定的な有効成分の特定には至っていません。 そこで、わさび葉の潜在的な有用性を科学的に検証し、その機能性を成分レベルで考察することを目的に、歩みで紹介する勝手らの研究が開始されました。
成分抽出と構造決定の手順
わさび葉に含まれる機能性成分を分けるため、詳細な成分分析を実施しました。 まず、乾燥させたわさび葉をメタノールで抽出し、メタノール抽出物を得ました。 この抽出物を、ヘキサン、酢酸エチル、n-ブタノールなどの溶媒で順次分配し、各抽出物を調製しました。 次に、各抽出物に含まれる成分を分離するため、シリカゲル、ODS(オクタデシルシリルベース)、セファデックスLH-20、ダイヤイオン最終的には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使って成分を精製し、単一化合物として分離することに成功しました。得られた単一化合物については、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析(MS)この分析の結果、わさび葉からフラボノイド類とフェニルプロパノイド類が主要な成分として分離されました。以下では、これらの成分、特に新規化合物に焦点を当てて詳しく解説します。
フラボノイド類:特徴的な結合様式と主要な化合物
フラボノイドは、植物界に広く存在する化合物であり、植物の天然色素として知られています。 基本的な骨格はC6-C3-C6構造を持ち、その骨格や置換基の種類や位置によって分類されます。から分離されたフラボノイド類は、3位に水酸基を持たない「フラボン骨格」を持つことが特徴でした。 特に、アピゲニン(apigenin)の6位にβ-D-グルコース(β-D-グルコース)が炭素-炭素結合(CC結合)したイソビテキシン(isovitexin)が豊富に含まれていました。このイソビテキシンを基本骨格として、さらに4'位にβ-D-グルコースがグリコシド結合したイソサポナリンさらに、これらのフラボノイド類の糖部分やアグリコン部分に、シナピン酸(シナポイル基)がアシル結合した新規化合物も複数分離されました(図2)4)これらの新規化合物の構造決定には、NMRやMSなどのスペクトルデータを用いましたが、特に7位のシナピン酸の結合部位の特定が困難でした。例えば、HMBC(Heteronuclear Multiple Bond Correlation)やNOESY(Nuclear Overhauser Effect)分光学)などのNMR解析では、アグリコンとシナピン酸の間の直接的な相関を示すデータは得られませんでした。これらの新規化合物以外にも、アピゲニン(apigenin)、ルテオリン(luteolin)、イソビテキシン(isovitexin)、イソオリエンチン(isoorientin)、イソサポナリン(isosaponarin)などが知られています(図2)。
フェニルプロパノイド類:5-HFAを中心とした特徴的な成分
フェニルプロパノイドは、芳香環に3つの炭素原子が結合した構造を持つ天然化合物の総称であり、C6-C3化合物として知られています。わさび葉からは、2分子のβ-D-グルコースがC6–C1'結合したゲンチオビオース(gentiobiose)に、フェニルプロパノイドがアシル結合した新規化合物が分離されました5)これらの化合物も、わさび葉に含まれる特定の成分としての特徴を示しています(図3)。 さらに、フェニルプロパノイドの中でも、フェルラ酸(フェルラ酸)の5位に水酸基が結合した5-ヒドロキシフェルラ酸(5-ヒドロキシフェルラ酸:5-HFA)や、そのメチルメチルエステル(5-ヒドロキシフェルラ酸メチルエステル:5-HFA)これらの5-HFAおよびそのメチルエステルは、わさび葉からの報告が初めてであり、その含有量は特筆に値します。 特に、5-HFAはゲンチオビオースに結合した配糖体も多く存在することから、5-HFAがわさび葉を特徴づける主要な成分であると考えられます。 これらの新規化合物や特徴的な化合物に加え、p-ヒドロキシ桂皮酸(p-ヒドロキシ桂皮酸)酸)、フェルラ酸(フェルラ酸)、シナピン酸(シナピン酸)、フェルラ酸メチルエステル(フェルラ酸メチルエステル)、シナピン酸メチルエステル(シナピン酸メチルエステル)などの既知化合物も分離されています。
その他:カロテノイド類とテルペノイド類
ワサビの葉からは、フラボノイドやフェニルプロパノイドといった成分以外にも、様々な化合物が見受けられます。例えば、カロテノイドの種類であるall-trans-ルテインや、テルペノイドの種類であるデヒドロウォミフォリオール、シス-ロゼオシドなどが確認されています6)。
抗酸化作用:ラジカル消去能の評価

ワサビの葉から抽出された様々な化合物、特にフラボノイド類やフェニルプロパノイド類について、電子スピン共鳴(ESR)法を用いてスーパーオキシドアニオンラジカル(O 2 -その結果、フラボノイド類は高濃度の場合にわずかに活性が見られたもの、全体として高いラジカル消去活性を示す化合物は見当たりませんでした。にo-ジヒドロキシ構造を持つ化合物が、優れたタラジカル消去活性を示すことが討論なりました。 さらについでに、これらのフェニルプロパノイド類が配糖体として結合すると、その活性がさらに高まることがわかりました(表1)例とすると、5-HFA(5-ヒドロキシフェルラ酸)や5-HFAメチルエステル(5-ヒドロキシフェルラ酸メチルエステル)のIC50(50%阻害濃度)は約30μMでしたが、5 - HFAがゲンチオビオースに2分子結合した化合物10では、IC50が8.4これから、ワサビの葉には5-HFAの構造を持つ化合物が、カルボン酸メチルや配糖体として豊富に存在しており、これらの化合物がワサビの葉の強力な抗酸化成分として重要な役割を担っていると考えられます。
抗炎症作用:NO産生抑制効果の解析
ワサビの葉からメタノールで抽出した成分について、マウスマクロファージ由来の培養細胞(J774.1)を用いて抗炎症作用の評価が行われました。この実験では、リポ多糖(LPS)によって刺激されたマクロファージが、誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現を高め、NOを大量にする生成現象を利用します。NOの過剰な産生量を測定することで、NO産生率の抑制、つまり抗炎症作用を評価できます。の評価をベースに成分を分離した結果、ワサビの葉に含まれるNO合成を抑制する主要な成分として、5-HFAメチル限りとルテインが特定されました。 これらの化合物は、細胞の生存に影響を与える近く、NO産生率を濃度に応じて低下させることが確認されました(図4)。 さらに、これら両方の化合物がLPSによるiNOSの発現を、遺伝子レベルで抑制する効果があることもわかっています6)。
抗肥満効果:脂肪細胞分化の抑制とそのメカニズム
ワサビの葉の抗肥満効果については、過去にマウスを用いた実験で報告されています。例えば、ヤマサキラの研究グループは、ワサビの葉を熱湯で抽出したものが、体重減少効果とその作用メカニズムを示すことを報告しています7)。 Promoting Protein)を介して脂肪細胞の肥大を阻害することが示されています8)しかし、これらの動物実験では、特定的な活性成分の特定には至っていませんでした。 ところで、本研究グループでは、ワサビの葉に含まれる成分を分離し、マウスの前駆脂肪細胞(3T3-L1細胞)を用いた試験管内実験によって、抗肥満効果を評価しました。この化合物は、既に忘れていた抗酸化作用や抗炎症作用でも活性が認められており、抗肥満においても同様に重要な役割を行っていると考えられます。な調節因子であるPPARγタンパク質の量を減らすことができました(図5)。 これに伴い、脂肪細胞分化の中心の役割を担うPPARγとC/EBPα(CCAAT/エンハンサー結合タンパク質α)のmRNAの発現量も意図的に減少することが確認されました。細胞分化に関わるGLUT4(グルコーストランスポーター4)、LPL(リポタンパクリパーゼ)、SREBP-1c(ステロール調節エレメント結合タンパク質1c)、ACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)、FAS(脂肪酸シンターゼ)といった遺伝子のmRNA発現量も意図的に低下することが確認されました9 )さらに、フェニルプロパノイド類(trans-桂皮酸骨格を持つ化合物)について、構造と活性の関係に関する研究も行われました。 フェニルプロパノイドのベンゼン環部分の置換基と、カルボン酸部分のメチルメチル化について、様々な化合物を合成し、3T3-L1細胞を用いた抗肥満作用を評価したところ、o-ジヒドロキシ構造にメトキシ基がこれらの結果から、これまでの動物実験で確認されていたワサビの葉の抗肥満作用の活性本体が、5-HFA類(特に5-HFAメチル突然)である可能性が強い示唆9 )。
まとめ
本記事では、これまで有効活用されているこなかったわさびの葉に焦点をあて、その成分構成と健康に役立つ可能性について詳しく解説した成分。中でも、5-HFAの構造を持つ化合物群は、抗酸化作用、抗炎症作用、抗肥満作用、様々な健康効果などに深く浸透している可能性が示され、わさびの葉特有の機能性成分としての大きな期待が持たれています。そのため、これらの健康成分を人が摂取する際に、効果的な形で利用できるかという点について、さらなる研究が必要であると考えられます。 また、本記事で紹介した以外にも、わさびの葉には様々な健康効果が期待されるため、今後も詳細な調査研究を行うことで、わさびの葉が持つ可能性をさらに広げていくことを目指します。康に貢献する有用な成分を含んでいるが科学的に示されたことは、非常に意義深いと言えよう。
わさびの葉が廃棄されてしまうのはなぜですか?
わさび栽培は、主に根茎(わさび本体)の収穫を目的としているため、収穫後に大量の葉や茎は、これまで有効活用されずに廃棄されてしまうことが一般的でした。
わさびの葉には、どのような健康成分が含まれていますか?
わさびの葉からは、主にフラボノイド類とフェニルプロパノイド類が健康成分として確認されています。 特に、7位にシナポイル基を有するフラボン配糖体や、5-ヒドロキシフェルラ酸(5-HFA)の構造を持つフェニルプロパノイド類は、わさびの葉に特徴的な成分として注目されています。
わさびの葉に含まれる5-HFA(5-ヒドロキシフェルラ酸)には、どのような効果が期待できますか?
研究の結果、わさびの葉に特徴的に含まれる5-HFAの構造を持つ化合物は、抗酸化作用、抗炎症作用、抗肥満作用など、かなりの健康効果を示すことが明らかになっています。













