夏の和菓子として人気の葛餅とわらび餅。どちらも涼しげで美味しいけれど、その違いを詳しく知っている人は意外と少ないかもしれません。実は、原料も製法も異なる二つの和菓子。この記事では、葛餅とわらび餅の違いを徹底解説します。それぞれの特徴を知れば、今まで以上に美味しく味わえるはず。今年の夏は、それぞれの個性を理解して、和菓子をより深く楽しんでみませんか?
くず餅の作り方とは?くず餅の歴史と製法
くず餅は、小麦粉を乳酸菌で発酵させて作られる、独特の風味と食感を持つ和菓子です。その歴史は古く、江戸時代にまで遡ります。東京都江東区にある船橋屋が元祖とされ、久寿餅と表記されます。創業者である勘三郎が、雨宿りをしていた農家から小麦粉の澱粉を譲り受け、それを寝かせてみたところ、偶然にも発酵したものが出来上がったのが始まりと言われています。当初は現在のものとは異なり、素朴な味わいだったようですが、改良を重ね、現在の製法へと発展しました。
くず餅の製法は、まず小麦粉からグルテンを取り除いたデンプンを水に溶かし、乳酸菌を加えて長期間発酵させます。この発酵期間がくず餅独特の風味を生み出す重要な工程です。発酵期間は、気候や温度によって左右され、職人の経験と勘によって管理されます。発酵が終わったデンプンは、蒸して固められます。蒸し上げることで、独特の弾力と透明感のある食感が生まれます。完成したくず餅は、冷やして、きな粉と黒蜜をかけて食べるのが一般的です。地域や店舗によって、製法や味わいに微妙な違いがあり、それぞれが独自のくず餅を提供しています。
実は根本的に違う?わらび餅とくず餅の違いと楽しみ方
わらび餅とくず餅は、名前は似ていますが、原材料も食感も異なる、全く別の和菓子です。わらび餅は、その名の通り、わらび粉を主な原料として作られます。わらび粉は、ワラビという植物の根から採取されるデンプンで、独特の風味と、とろけるような柔らかい食感が特徴です。一方、くず餅は、葛粉を主な原料として作られます。葛粉は、クズという植物の根から採取されるデンプンで、わらび粉に比べて弾力があり、もっちりとした食感が楽しめます。
一般的に、わらび餅はきな粉と黒蜜をかけて食べることが多く、そのとろける食感と香ばしいきな粉、コクのある黒蜜の組み合わせが絶妙です。冷やして食べるのが一般的で、夏の涼菓として親しまれています。くず餅は、関東地方では、小麦粉を乳酸発酵させた生地を蒸して作られるものが主流で、黒蜜ときな粉をかけて食べます。独特の酸味と発酵の風味が特徴で、わらび餅とは全く異なる味わいです。関西地方では、葛粉で作られたくず餅が一般的で、こちらはわらび餅に近い食感と味わいを持っています。
このように、わらび餅とくず餅は、原材料の違いから食感や風味に違いがあり、それぞれに異なる楽しみ方があります。それぞれの特徴を知って、好みに合わせて味わってみると、より深く和菓子の世界を楽しめるでしょう。
希少な「わらび粉」と伝統製法
わらび餅の主な原料である「わらび粉」は、山に自生するわらびの根、特に茎から採取される貴重な澱粉です。採取できる量が非常に少ないため、高級食材として知られています。具体的には、1kgのわらびの茎からわずか30gしか本わらび粉が取れないと言われています。この希少な本わらび粉を贅沢に使うことで、わらび餅独特の粘り気、透明感、とろけるような口当たりが生まれます。昔ながらの製法では、わらび粉と砂糖、水を混ぜて火にかけ、丁寧に練り上げていきます。ドロドロになったら型に入れ、冷やし固めて完成です。地域によっては、砂糖を黒糖に変えたり、抹茶を混ぜたりすることもあります。シンプルな材料で作られる、素朴ながらも洗練された味わいが特徴で、本わらび粉を使ったわらび餅は色が濃くなります。ただし、希少な本わらび粉を使っているわらび餅は高価なため、市販のわらび餅にはジャガイモデンプンなどが混ぜられていることが多く、中にはわらび粉が全く入っていないものもあるので、購入する際は注意が必要です。わらび餅は特に、関西地方で古くから愛されており、その柔らかな食感と涼しげな見た目から、夏の風物詩として親しまれています。
職人技が際立つ、こだわりのわらび餅
ここでは、伝統を守りながらも新しい挑戦を続ける老舗や有名店が作る、特別な味わいのわらび餅をご紹介します。それぞれの店舗が素材、製法、提供方法にこだわり、独自の個性を表現した逸品ばかりです。
京都「本家尾張屋」:老舗蕎麦屋が作る「蕎麦わらび」
京都にある「本家尾張屋」は、1465年に尾張国から菓子屋として京都に移り、現在では世界で最も歴史のあるレストランの一つとして知られています。長い歴史の中で培われた職人技が光るのが、オリジナルの「蕎麦わらび」です。注文を受けてから一つ一つ丁寧に箱詰めされるため、出来立ての風味を味わえるのが魅力です。口に入れると、まず蕎麦粉の香ばしい香りが広がり、その後に上品な甘さが続きます。昔ながらの製法で、わらび粉と砂糖のみを使用しており、余計なものを加えないシンプルな味わいが特徴です。柔らかい食感とともに、老舗の歴史と京都の涼を感じられる、まさに特別な一品です。
京都「紫野和久傳」:料亭の粋を凝縮した「笹わらび」
京都有数の老舗料亭「和久傳」が丹精込めて作り上げた和菓子が、季節限定の「笹わらび」です。毎年11月から4月までの期間限定で提供され、夏の間はその姿を消しますが、その上品な味わいは多くの人々を惹きつけます。口に含むと、和三盆の上品な甘さが広がり、後に引くことなくすっきりと消えていくのが特徴です。特に注目すべきは、その独特の食感。一度味わえば忘れられない、そして多くの人が虜になるほどの、とろけるような舌触りです。京都の老舗料亭が長年培ってきた伝統と、革新的な食感への挑戦が融合した、まさに至高の和菓子と言えるでしょう。
香川「松風庵かねすえ」:「和三盆」が織りなす、正統派「さぬきわらび餅」
老若男女問わず、食べる人を笑顔にするお菓子として、眼鏡店ブリンク店主の荒岡俊行氏が推薦するのが、香川県高松市に店を構える「松風庵かねすえ」の「さぬきわらび餅」です。香川県といえば「讃岐うどん」が有名ですが、実は伝統的な製法で作られる高級砂糖「和三盆」の産地としても知られています。「さぬきわらび餅」は、その讃岐特産の和三盆を使い、甘さを控えめにすることで、わらび餅本来の奥ゆかしい風味を際立たせています。弾力のある餅に、香ばしいきな粉と濃厚な黒蜜をたっぷりとかけていただくと、思わず次々と口に運んでしまうほど。シンプルながらも洗練された味わいは、家族団らんのひとときにもぴったりの、まさに王道のわらび餅です。
京都「笹屋昌園」:名水で味わう、至高のわらび餅「至高」
京都の老舗「笹屋昌園」が自信を持ってお届けする「わらび餅『至高』」は、その名の通り、極上の味わいを追求した逸品です。このわらび餅の最大の特徴は、年間わずかしか収穫できない、希少な国産最高級わらび粉のみを贅沢に使用している点にあります。口にした瞬間、これまでのわらび餅とは一線を画す、とろけるような柔らかさと、しなやかな弾力に驚かされるでしょう。きな粉なしでも、わらび餅そのものの風味を存分にお楽しみいただけます。さらに、この「至高」をより美味しく味わうために、一度冷水にくぐらせてからいただくことをおすすめしています。こうすることで、涼やかな清涼感が加わり、わらび餅本来のなめらかな舌触りと、上品な甘さが一層際立ちます。ベジタブルフルーツアドバイザーの小坂洋平氏も、「年にわずかしか採れない国産わらび粉で作られた、まさに名にふさわしいわらび餅『至高』」と太鼓判を押しています。
大阪「isshin」:変化する食感が楽しい、創作わらび餅「炊蓮」
大阪で密かに人気を集める創作和菓子店「isshin」で、ひときわ目を引くのが「炊蓮(すいれん)」と名付けられた、絶品のわらび餅です。選び抜かれた素材と、手間暇を惜しまない製法で作られたこのわらび餅は、瞬く間に評判となり、毎日売り切れ、早い日にはお昼過ぎには完売してしまうほどの人気ぶりです。その秘密は、本わらび粉に蓮粉を独自にブレンドし、じっくりと時間をかけて丁寧に練り上げ、炊き上げるというこだわりの製法にあります。「炊蓮」の大きな魅力は、食べるタイミングによって異なる食感が楽しめること。作りたては、とろけるように柔らかく、冷蔵庫で一日冷やすともちもちとした弾力が生まれ、さらに冷凍庫で凍らせると、まるでアイスのようなシャリシャリとした食感へと変化します。
京都「京懐石美濃吉本店竹茂楼」:京料理の粋を集めた「京わらびもち」
京料理の老舗、「京懐石美濃吉本店 竹茂楼」が提供する「京わらびもち」は、熟練の料理人が毎朝心を込めて手作りする特別な一品です。材料は厳選され、わらびもちには上質な本わらび粉と風味豊かな黒砂糖、ぜんざいには選び抜かれた小豆、砂糖、塩、そして香ばしいはったい粉のみを使用。保存料などの添加物は一切使用せず、素材そのものの持ち味を最大限に引き出した、料亭ならではの繊細な味わいが特徴です。また、「京わらびもち」は温度によって異なる食感を楽しめるのも魅力。冷やすと、上品な甘さと清涼感あふれるのど越しが際立ち、温めると、とろけるような柔らかさとふくよかな風味が広がります。
関東の「久寿餅」:発酵が生み出す独特の風味
夏の定番和菓子として、「葛餅」と「くず餅」は混同されることもありますが、特に「関東」地方で愛されている「くず餅」は、「久寿餅」と書き、関西の葛餅とは全く異なる製法で作られる独自の和菓子です。関東の久寿餅の最大の特徴は、小麦粉から抽出した澱粉を原料とし、乳酸菌でじっくりと発酵させる点にあります。この発酵の過程こそが、久寿餅特有の、もっちりとした食感と、ほのかな酸味、そしてヨーグルトを思わせる独特の香りを生み出す源泉です。具体的には、小麦粉を乳酸菌で発酵させて小麦デンプンを作り、発酵臭を丁寧に洗い流した後、蒸し上げるという手の込んだ工程を経て作られます。この製法により、久寿餅は美しい白色に仕上がり、かすかな酸味を帯びた奥深い味わいとなります。江戸時代に誕生した久寿餅は、かつては江戸以外ではほとんど見られなかったと言われ、「江戸っ子の味」として親しまれてきました。そのため、現在でも東京の歴史ある寺社の参道など、江戸の面影を残す場所に久寿餅の名店が数多く存在します。香ばしいきな粉と濃厚な黒蜜をたっぷりとかけて味わうのが定番で、その独特の食感と発酵由来の風味は、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。
発酵に2年!東京「石鍋久寿餅店」のこだわりの「久寿餅」
関東で夏に親しまれる涼菓「久寿餅」。その中でも、ひときわ手間暇をかけた製法で知られるのが、北区の王子稲荷参道で百有余年の歴史を刻む「石鍋久寿餅店」です。こちらで作られる久寿餅は、職人の手仕事によるもので、特筆すべきは、小麦粉澱粉の発酵に「2年間」という長い時間をかける点です。「くず餅は食感が命」という信念のもと、これほどまでに長い時間をかけて作られる久寿餅は、他に類を見ません。2年の歳月を経て生まれる久寿餅は、格別の弾力とコシの強さを持ち、噛むほどに小麦本来の風味と発酵による芳醇な香りが口の中に広がります。その美味しさは地元の人々に深く愛され、夕方には売り切れてしまうことも珍しくありません。確実に手に入れたい場合は、早めの来店がおすすめです。
創業二百年。「船橋屋」の「元祖くず餅」:伝統が育む美と健康
文化二年(1805年)の創業以来、二百年以上にわたりくず餅一筋に歩んできた老舗和菓子店が「船橋屋」です。船橋屋の「元祖くず餅」は、長い歴史の中で培われた伝統と、妥協を許さないこだわりが生み出す極上の逸品です。厳選された小麦澱粉を地下天然水にさらし、「15ヶ月間」という長期間をかけてじっくりと発酵・精製するという、極めて手間のかかる独自の製法で作られています。この製法こそが、ヨーグルトのような華やかな香りと、透き通るような乳白色の美しい見た目、そして、もちもちとした食感とつるりとした喉ごしを生み出す秘密なのです。
本葛・本ワラビ仕立ての「くず餅」の一種「水まんじゅう」と古都の葛餅
「わらび餅」や「久寿餅」とは一線を画す涼味として、「水まんじゅう」が知られています。水まんじゅうは、広い意味では葛粉を素材とする「くず餅」の一種とみなされることが多く、とりわけ本葛や本ワラビといった良質な素材を厳選して作られます。このタイプのくず餅は、古都で愛される葛餅と同様に、葛粉を主成分としています。葛粉は採取量が限られているため、入手困難な場合もあり、その際はジャガイモデンプンで代用されることもあります。作り方としては、葛粉に水と砂糖を混ぜ合わせ、加熱しながら透明になるまで丁寧に練り上げ、その後、型に流し込んで冷やし固めます。古都の葛餅や水まんじゅうは、透き通るような見た目ともっちりとした食感が身上で、食べやすい大きさに切り分け、きな粉や黒蜜をかけて味わうのが一般的です。特筆すべきは、葛やワラビならではの清涼感あふれる透明感と、心地よい弾力。冷水に浮かべて提供されることも多く、見た目からも涼を感じられ、夏の蒸し暑さを忘れさせてくれるような爽やかさが魅力です。中には、上品なこし餡などが隠されていることもあり、なめらかな皮と餡の繊細な甘さが絶妙に調和します。
清流の都、岐阜「金蝶園総本家」:水が育む「水まんじゅう」と味わい方
清らかな水に恵まれた岐阜県大垣市は、別名「水の都」とも呼ばれ、その地で150年以上の歴史を誇る老舗が「金蝶園総本家」です。初代店主は、大垣の清冽な水に合う菓子を追求し、試行錯誤を重ねた結果、看板商品の「金蝶園饅頭」を完成させました。その金蝶園総本家が丹精込めて作り上げる、夏季限定の涼菓が「水まんじゅう」です。この水まんじゅうは、厳選された本葛と本ワラビを贅沢に使用しており、その透明感と涼やかな口あたりは、まさに水の都・大垣の自然の恵みを凝縮したかのようです。
まとめ
日本の夏を彩る涼菓の代表格である「わらび餅」と「くず餅」。一見すると似ているように感じられますが、実は原料も製法も大きく異なり、それぞれが独自の歴史、文化、そして風味を湛えています。食感や味わいは共通する部分もありますが、原材料に意識を向けて味わうことで、色合いや香り、口当たりなどにわずかな違いを見つけることができます。大切な方への贈り物や、自分へのご褒美にふさわしい涼菓で、日本の夏をより一層豊かに彩ってみてはいかがでしょうか。
質問:わらび餅とくず餅の決定的な違いは何ですか?
回答:わらび餅とくず餅の最も顕著な違いは、主な原材料と製造方法、そして地域性です。わらび餅は、わらびの根から採取される貴重な「わらび粉」を主原料とし、主に「関西地方」で親しまれています。とろけるような口どけと、やわらかい食感が特徴で、本わらび粉を使用したものは、やや黒みがかった色合いになります。一方、くず餅は大きく分けて二種類あり、「葛まんじゅう」や「水まんじゅう」として食されるものは、「葛粉」を主な材料としており、関西の葛餅もこの範疇に入ります。これらは透明感があり、もちもちとした食感が特徴です。関東で親しまれている「久寿餅」は、小麦粉のデンプンを乳酸菌でじっくりと発酵させて作られ、白色でほのかな酸味と独特の歯ごたえを持つ「江戸っ子の味」と言えるでしょう。
質問:本わらび粉を使ったわらび餅が希少とされるのはなぜですか?また、代用品が使われる理由は何ですか?
回答:本わらび粉は、わらびの根から抽出される貴重な澱粉です。その採取できる量が非常に限られているため、希少価値が高くなっています。具体的には、1キログラムのわらびの根から、わずか30グラム程度しか本わらび粉を得ることができません。このような希少性から、大量生産されるわらび餅では、コストを抑えるためにジャガイモ澱粉のような安価な澱粉が代用されることが一般的です。中には、本わらび粉を全く使用していない製品も見られます。本物の「本わらび餅」は、その希少性に加え、独特の風味と口溶けの良さで他と一線を画します。
質問:「水まんじゅう」は「くず餅」の一種と考えても良いのでしょうか?
回答:はい、広い意味で捉えれば、「水まんじゅう」は「くず餅」の一種と言えます。水まんじゅうは、主に本葛や本わらびなどの葛粉系の素材を主な原料として作られています。その特徴的な透明感と、つるりとした食感は、葛粉を使用した和菓子に共通するものです。関西地方でよく食べられている葛餅も、同様に葛粉を主原料とし、半透明でもっちりとした食感が特徴です。岐阜県大垣市にある金蝶園総本家の水まんじゅうのように、本葛と本わらびを贅沢に使用しているものも多く、餡を包んで冷水に浮かべて提供されるのが一般的です。













