太陽が降り注ぐ紀伊半島の温暖な気候と、豊かな自然に育まれた和歌山県は、日本一の梅の産地。中でもみなべ町は、高級品種「南高梅」発祥の地として、その名を知られています。今回は、そんな梅の里を訪ね、極上の梅干しを求めて紀行へ。香り高く、ふっくらとした南高梅の魅力に迫りながら、そして人々の梅への情熱に触れる旅をご紹介します。
和歌山県が誇る梅:生産量日本一の背景
梅の生産地として名高い和歌山県は、日本国内でトップの収穫量を誇り、全国の半分以上を占めています。中でも、みなべ町は高級品種「南高梅」発祥の地として知られ、梅干しの生産量も日本一です。群馬県や青森県も梅の産地として知られていますが、和歌山県はその収穫量において他を圧倒しています。
梅栽培を後押しする自然環境
温暖な気候と水はけの良い土壌が、和歌山県を梅の栽培に適した土地にしています。年間を通じて穏やかな気温変化、長い日照時間、そして適度な降雨量が、梅の生育にとって理想的な環境を作り出しています。特に、和歌山県の中部から南部にかけて位置するみなべ町や田辺市は、梅の生産が非常に盛んな地域です。
和歌山県と梅の深い繋がり:その起源
和歌山県と梅との関わりは、江戸時代にまで遡ります。当時、稲作には不向きな土地は税が免除され、その土地で農民たちは梅を栽培するようになりました。さらに、紀州藩田辺領の城代家老であった安藤直次が梅の栽培を推奨したことが、みなべ町や田辺市を中心に梅栽培が拡大する大きな要因となりました。
「みなべ・田辺の梅システム」:世界が認める農業遺産
和歌山県のみなべ町と田辺市では、栄養分の少ない斜面地を有効活用し、高品質な梅を持続的に生産する独自の農業システムが確立されています。この優れたシステムは、「みなべ・田辺の梅システム」として2015年に世界農業遺産として認定されました。梅の木の周囲に配置されたウバメガシなどの薪炭林は、土砂崩れを防ぎ、水源を確保する役割を果たします。加えて、薪炭林に生息するニホンミツバチが梅の受粉を助けるなど、自然の力を最大限に活用した循環型の農業が特徴です。
和歌山県で育まれる多種多様な梅
和歌山県は、南高梅や古城梅に加え、可愛らしい小梅、鮮やかなパープルクイーン、深紅の露茜、爽やかな翠香など、バラエティ豊かな梅の産地として知られています。それぞれの品種が独自の個性を持つため、梅干し、梅酒、梅シロップなど、様々な加工品に姿を変え、私たちの食卓を彩ります。
南高梅(なんこううめ):梅の頂点に立つ品種
南高梅は、和歌山県を代表する梅であり、その名を知らない人はいないほど、国内で広く親しまれています。特に、紀州南高梅は、その品質の高さから高級品として評価されています。薄い皮と柔らかい果肉が織りなす、とろけるような食感は、南高梅ならではの魅力。小ぶりな種に対して果肉がたっぷり詰まっているのも特徴です。収穫時期は6月初旬から7月上旬頃で、梅干しはもちろん、お菓子や梅シロップなど、用途を選ばない万能さが魅力です。また、小粒ながらも濃厚な味わいの「小粒南高」も、受粉樹としてだけでなく、その可愛らしさから人気を集めています。
古城梅(ごじろうめ):幻の青い宝石
古城梅は、和歌山県内でも限られた地域でしか栽培されていない希少な品種で、「青いダイヤ」という異名を持ちます。南高梅に比べ、果肉が引き締まっているのが特徴で、爽やかな香りが際立ちます。梅のエキスが豊富に抽出できるため、特に梅酒や梅シロップ作りに最適です。収穫は5月中旬頃からと、南高梅よりも一足早く、初夏の訪れを告げる梅として珍重されています。
ミスなでしこ:気品あふれる紫の梅
ミスなでしこは、その名の通り、ぶどうを思わせる美しい紫色が印象的な希少品種です。南高梅とパープルクイーン(近縁種)を交配し、2005年に田辺市で誕生しました。栽培農家が少ないため、市場に出回る量が限られており、幻の梅とも呼ばれています。その鮮やかな色合いは、シロップや梅酒、ジャムなどに加工することで最大限に活かされます。シロップや梅酒にすると、淡いピンク色に、ジャムにすると、深みのある紫色に仕上がり、見た目にも美しい加工品を楽しむことができます。
パープルクイーン:希少な紅紫色の小梅
パープルクイーンは、和歌山県田辺市で生まれた、美しい紅紫色の小梅です。紀南農業協同組合の管轄地域でのみ栽培されており、その希少性から「幻の梅」と称されることもあります。果皮に豊富なアントシアニンを含み、ジュースやシロップに加工すると、まるでロゼワインのような華やかな色合いになります。
露茜(つゆあかね):鮮やかな赤い果肉が魅力
露茜は、2009年に誕生した比較的新しい品種で、養青梅とスモモを交配して生まれました。スモモの特性を受け継ぎ、独特の風味と、目を引く鮮やかな赤色の果肉が特徴です。一般的に知られる南高梅よりもやや大きく、果皮だけでなく果肉も深紅色をしています。種が小さく、肉厚でジューシーな果肉は、梅ジュースや梅酒に最適で、特に色鮮やかな梅酒は、お祝いの贈り物としても喜ばれます。また、南高梅に比べて酸味が穏やかなため、酸っぱい梅が苦手な方にもおすすめです。
和歌山県で製造される多様な梅加工品
和歌山県は、特産の梅を活かした様々な加工食品の生産地として知られています。代表的なものとしては、梅干しをはじめ、梅酒、梅シロップ、梅エキスなどが挙げられます。
梅干し:日本の食卓に欠かせない伝統食
梅干しは、梅を塩漬けにして作られる、日本古来の伝統的な保存食です。中でも、皮が薄く果肉がやわらかい紀州南高梅を使用した梅干しは、そのふっくらとした食感が特徴です。近年では、蜂蜜を加えて甘みを加えた「はちみつ梅」が人気を集めており、酸味が苦手な方でも美味しくいただけます。その他、紫蘇の風味を活かした「紫蘇漬け」、かつお節の旨味をブレンドした「かつお梅」、塩分を控えめにした「減塩梅干し」など、バラエティ豊かな商品が揃っています。また、塩漬けした梅を天日干しせずに仕上げる、しっとりとした食感の「梅漬け」もおすすめです。
梅酒・梅シロップ:芳醇な風味を堪能
梅酒や梅シロップは、梅ならではの華やかな香りと、口の中に広がるフルーティーな甘みが魅力です。梅酒には、お酒が苦手な方でも親しみやすいよう、まろやかな黒糖仕立てのものや、風味豊かな梅の実が丸ごと入ったものなど、バラエティ豊かな商品があります。製造元によって製法や素材が異なるため、お好みのテイストを探すのも醍醐味の一つです。アルコールを控えている方やお子様には、甘酸っぱい梅シロップがぴったりです。冷水やお湯、炭酸水で割って爽やかな梅ジュースとして楽しむほか、デザートのソースや料理の隠し味としても重宝します。梅酒や梅シロップはご家庭でも手作りでき、漬け込みに使った梅の実を再利用して、自家製梅ジャムを作ることも可能です。
梅エキス:凝縮された梅の恵み
梅エキス(梅肉エキス)は、青梅の果汁をじっくりと時間をかけて煮詰めて作られる、濃厚なペースト状の食品です。わずか1kgの青梅から少量しか抽出できず、手間暇かけて作られる貴重なエキスです。梅の成分が凝縮されているため、少量でも梅の持つ栄養を効率的に摂取できます。そのままスプーンで味わったり、サラダのドレッシングとして活用したり、料理に少量加えて風味を深めたり、水やお湯で希釈して飲んだりと、様々な使い方ができます。梅エキスはご家庭でも作ることができ、長期保存にも適しているため、常備しておくと便利です。
梅の旬と多様な用途
梅の収穫シーズンは5月から7月にかけて。実の熟度によって色合い、硬さ、そして風味が変化するため、それぞれに適した用途があります。5月から6月にかけて収穫される青梅は、梅酒や梅シロップ、甘露煮、醤油漬けなど、時間をかけてじっくりと漬け込む加工食品に適しています。一方、樹上で完熟した梅は果肉が柔らかく、とろけるような食感が特徴です。そのため、ジャムや梅干しなど、梅そのものの風味や食感をダイレクトに楽しめる加工方法がおすすめです。
梅の栄養価と健康への効果
梅には、疲労回復をサポートするクエン酸や、リンゴ酸、コハク酸といった有機酸が豊富に含まれています。有機酸は、摂取した栄養素を効率的にエネルギーに変換するのを助ける働きがあるため、疲労を感じやすい現代人にとって積極的に摂りたい成分です。また、梅干しを口にすることで唾液の分泌が促進され、食欲が増進するだけでなく、口腔内の粘膜を保護し、殺菌効果も期待できます。さらに、カリウムやマグネシウムなどのミネラルもバランス良く含んでおり、美容と健康の維持に貢献します。
贈り物にも最適な和歌山県産 梅製品
和歌山県産の梅は、ご家庭用としてはもちろん、大切な方への贈り物にも最適です。個包装された上質な梅干しや、上品な化粧箱に入った梅干しなど、普段とは一味違う特別な梅干しをお楽しみいただけます。さらに、梅酒や梅ジュース、梅うどんなど、梅を素材としたバラエティ豊かな加工品も充実しており、梅干し以外の梅製品をお土産として選ぶのもおすすめです。近年では、オンラインショップ(ECサイト)を通じて手軽に購入できますので、ぜひ一度お試しください。
まとめ
和歌山県は、豊かな自然と長い歴史の中で培われた梅の名産地です。多種多様な品種と、それらの特性を最大限に活かした多彩な加工品は、私たちの食生活を豊かに彩ります。ぜひ、和歌山県産の梅をご賞味いただき、その奥深い魅力を存分にご体験ください。
質問:南高梅が高価な理由は何ですか?
回答:紀州南高梅は、温暖な気候と水捌けの良い肥沃な土地、そして生産者の丹念な栽培技術によって育てられています。果皮が薄く、果肉が非常に柔らかい点が特徴であり、その優れた品質から高級品として評価されています。
質問:梅酒や梅シロップは家庭で作れますか?
回答:はい、梅酒や梅シロップはご家庭でも手軽に作ることが可能です。青梅と氷砂糖、そして焼酎などのアルコールを用意すれば、簡単においしい梅酒を作ることができます。同様に、梅シロップも青梅と砂糖があれば作れます。インターネット上には多数のレシピが公開されていますので、ぜひチャレンジしてみてください。
質問:梅干しを美味しく保つための保存方法は?
回答:梅干しは、基本的に冷暗所での保管が最適です。開封後は、冷蔵庫に入れることを推奨します。清潔な密閉容器に移し、直射日光や高温多湿の場所を避けてください。適切な方法で保存することで、長期間にわたって風味を損なわずに楽しむことができます。