梅干し作り、それは日本の食卓を彩る伝統的な味。しかし、いざ作ってみると、カビが生えたり、理想よりも酸っぱすぎたり…と、なかなかうまくいかないことも。実は、梅干し作りの成否を大きく左右するのが「干し」の工程なんです。天候に左右されるため、タイミングが難しいと感じるかもしれませんが、ご安心ください!この記事では、長年の経験と知識をもとに、梅干し作りのプロが最適な干し時期を見極めるための3つの重要なポイントを伝授します。
梅干し作りの基本:材料と道具
風味豊かな自家製梅干し作りに挑戦するなら、良質な材料と適切な道具の準備が成功の鍵となります。ここでは、梅干し作りに欠かせない材料の種類と選び方、そして作業をスムーズに進めるための道具について詳しく解説します。
必要な材料
梅干し作りの主役となるのは、言うまでもなく梅の実です。理想的なのは、6月上旬から中旬以降に旬を迎える、完熟した黄色の梅を選びましょう。完熟梅は甘い香りを放ち、果肉が柔らかいため、梅干しにした際にふっくらとした食感になります。塩は、梅の重さの約18%を目安に用意します。この塩分濃度が、風味と保存性のバランスが取れた梅干し作りの秘訣です。さらに、色鮮やかな梅干しに仕上げたい場合は、赤しそも用意しましょう。梅の重さに対して10~20%程度を目安に加えることで、独特の風味と美しい色合いが楽しめます。
※例えば、赤しそ300gを使用する場合は塩50g、600gなら塩100gを目安にすると、約17%の塩分濃度になります。
必要な道具
梅干しを漬け込む容器は、酸に強い素材を選ぶことが大切です。おすすめは、ホーロー、ガラス、陶器製の容器です。これらの素材は酸に強く、梅干しの風味を損なう心配がありません。プラスチック製や金属製の容器は、梅干しの成分と反応して変質する可能性があるため、避けるようにしましょう。重石は、梅全体に均一に圧力をかけるために使用します。梅の重さの約2倍の重さのものが目安です。市販の漬物用重石のほか、水を入れたペットボトルなどを活用することもできます。落し蓋は、梅が均等に塩水に浸かるようにするために必要です。容器の内径の8~9割程度の大きさのものが理想的ですが、平らな皿でも代用できます。その他、梅を優しく洗うためのボウル、丁寧に水気を拭き取るための清潔な布巾、梅を天日干しするためのざる(または干しかご)、そして、雑菌の繁殖を防ぐための消毒用アルコール(または焼酎)も忘れずに準備しましょう。
また、梅干し作りで非常に重要なのが、使用する容器の消毒です。容器、重石、落し蓋は丁寧に洗い、完全に乾燥させた後、アルコール(エタノールまたは焼酎)を含ませた布巾で拭き上げます(耐熱性のものなら、熱湯消毒も効果的です)。
梅の下処理:美味しく仕上げるための第一歩
梅干し作りの成否を左右すると言っても過言ではないのが、梅の下処理です。この工程を丁寧に行うことで、カビの発生を抑え、風味豊かな梅干しに仕上げることができます。ここでは、具体的な手順と注意点について詳しく解説します。
梅の選び方と追熟
梅干し作りに適した梅は、十分に熟したものを選ぶことが大切です。もし、お店で手に入れた梅がまだ青みが残っているようでしたら、常温で1日から2日ほど置いて、追熟させるのがおすすめです。追熟によって梅が柔らかくなり、風味もより豊かになります。
※購入した梅にまだ青い部分が見られる場合は、常温で数日間、熟成させてください。
ヘタの除去と洗浄
熟した梅は傷つきやすいので、丁寧な扱いが肝心です。最初に、梅についている黒いヘタを竹串などを使って、一つずつ丁寧に除去します。ヘタを取り除いた梅をボウルに入れ、水をためて優しく洗いましょう。梅を傷つけないように注意しながら、表面の汚れを洗い流します。
水分の拭き取りと確認
梅を洗い終えたら、清潔な布巾で一つ一つ丁寧に水気を拭き取ります。特に、ヘタがあった部分は水が残りやすいので、しっかりと拭きましょう。この時、梅に傷やへこみがないか確認し、もし傷んでいるものがあれば、梅干しには使用せず、梅ジャムなどに利用しましょう。傷んだ梅を使用すると、カビが生えたり、梅干しが濁る原因になることがあります。
※下準備の段階で、梅に傷みがないか確認し、傷んでいるものは梅干しには使わず、ジャムなどに使いましょう(カビや濁りの原因となります)。
梅の下漬け:塩漬けの基本
下処理が終わった梅は、いよいよ塩漬けの工程に入ります。この工程は、梅から水分を引き出し、保存性を高めるためにとても重要です。適切な塩の量と漬け方を守ることで、美味しい梅干し作りの土台を築きましょう。
塩加減と容器の準備
梅の重さを量り、その18%の塩を正確に測ります。清潔な容器の底に、まず塩を薄く敷き詰め、その上に梅、さらに塩という順序で交互に重ねていきます。最後に、残りの塩を梅全体に均等にふりかけます。梅が平らになるように並べると、塩が均一になじみます。
例えば、塩540gを準備した場合、最初に容器の底に薄く塩を敷きます。次に、梅を広げて入れ、その上から塩をしっかりとふります。梅を並べ、また塩をふるという作業を繰り返します(最後に少し多めの塩が残るように調整します)。
重石の置き方と冷暗所での管理
落し蓋を置き、梅の重さの約2倍の重石を乗せます。梅酢が上がってきたら、重石を梅の重さの半分から3分の2程度に調整します。梅全体が梅酢にしっかりと浸かっている状態を維持することが大切です。容器を冷暗所に置き、数日間保存します。カビの発生を防ぐため、できるだけ早く梅全体が梅酢に浸るように、落し蓋や重石の重さを調整してください。
落し蓋をして、梅の重さの2倍程度の重石をし、冷暗所で数日保管します(重石が保存容器からはみ出し、蓋ができない場合は、ラップや新聞紙でほこりが入らないように覆ってください)。
数日後、梅から水分(梅酢)が出てくるので、梅全体が梅酢に浸かったら、重石を梅の重さの半分から3分の2程度まで減らしても大丈夫です(梅全体が梅酢にしっかり浸かっている状態を保って保管することが重要です!)。
※下漬けは、カビ防止のため、できるだけ早く梅全体が梅酢に浸かることが望ましいです。そのため、落し蓋の置き方、重石の重さなどに注意してください。経験上、1〜2日で半分くらいまで梅酢が上がり、4〜5日で完全に梅全体が浸かることが多いです。
赤しそ漬け:風味と彩りをプラス
梅干しに独特の香りと鮮やかな赤色を加えるのが、赤しそ漬けの工程です。正しい赤しその処理と漬け方を覚え、一段上の梅干しを目指しましょう。
赤しその下ごしらえ
赤しそは、梅の塩漬け期間中である6月下旬から7月上旬頃に準備します。梅の重さに対して10〜20%の赤しそを用意しましょう。太い茎を取り除き、たっぷりの水で丁寧に洗い、汚れを落とします。洗った赤しそは、ざるにあげて水気をよく切ります。時間があれば、半日ほどざる上げして少し乾燥させると、より香りが際立ちます。
赤しそは梅干しに鮮やかな赤色と独特の風味を加えるため、梅の重さに対して最低10%程度、色と風味をしっかりつけたい場合は最大で20%程度を目安に用意してください。
まず、太い茎を摘み取って除き、ため水の中で洗って汚れを落とし、ざるにあげて水気をしっかりと切ります(時間がある場合は、半日ほどざる上げして少し乾かすと良いでしょう)。
塩もみとアク抜き
赤しそを鮮やかに発色させ、風味を最大限に引き出すための重要な工程が塩もみとアク抜きです。赤しその重量に対し、約17~18%の塩分量の塩を用意しましょう。例えば、赤しそ300gなら約50g、600gなら約100gの塩を使用します。
まずは、大きなボウルに赤しそを入れ、準備した塩の半量を加えて丁寧に揉み込みます。揉むことでアクが出てくるので、しっかりと絞ってアクを捨てます。次に、残りの塩を加えて再び揉み込み、同様にアクを絞り出します。この丁寧なアク抜き作業が、梅干しの風味を大きく左右します。
アク抜きが終わった赤しそは、一旦別のボウルに移します。下漬けの際に上がってきた、透明な梅酢(約200ml、1カップ程度)を加え、赤しそをほぐしながら梅酢を染み込ませます。すると、梅酢が鮮やかな赤色に染まってきます。
赤く染まった赤しそを、下漬けしていた梅の保存容器に戻し入れ、梅全体を覆うように広げます。梅酢と赤しそが均一になじむよう、箸などで優しく混ぜ合わせ、容器全体を軽く動かしてなじませます。最後に、再び梅全体が梅酢にしっかりと浸るように重石をのせ、梅雨明けを待ちましょう。
梅酢への漬け込み
丁寧にアク抜きした赤しそを、一時的に別の容器へ移します。そこに、梅の下漬けで上がってきた貴重な梅酢を注ぎ入れ、赤しそ全体を優しくほぐしながら、梅酢をしっかりと吸わせます。すると、赤しそは鮮やかな深紅色へと変化します。
美しく染まった赤しそを、梅が漬かっている容器へと戻し入れ、梅全体を覆うように広げます。赤しそと梅酢がムラなく混ざり合うように、丁寧に混ぜ合わせましょう。そして、再び重石を乗せて、梅雨明けの晴天を待ちます。
土用干し:太陽の恵みで仕上げる
梅雨が明けたら、いよいよ土用干しの開始です。太陽の光をたっぷりと浴びせることで、梅干しは風味を増し、保存性も向上します。適切な時期と方法で土用干しを行い、格別な自家製梅干しを完成させましょう。
土用干しの時期
土用干しに最適な時期は、梅雨明け直後の7月中旬から下旬にかけてです。3日以上連続して晴天が続く日を選びましょう。古くから「三日三晩の土用干し」と言われるように、3日間かけてじっくりと干すのが一般的です。
具体的には、7月20日頃から8月7日頃が理想的な期間です。この時期は、梅が塩漬けされてから約1ヶ月が経過し、程よく漬かっている状態であると同時に、梅雨が明けて日差しが最も強くなる時期でもあります。「三日三晩夜露に当てる」という言い伝えもあります。
梅干しを塩漬けしてから約1ヶ月後の、夏の土用期間である7月20日~8月7日頃が、梅干しを干すのに最も適した時期とされています。梅が十分に漬かり、日差しが強く、梅雨明け直後で降雨の心配が少ないためです。
もし、都合により晴天が4日以上続かず、7月20日から8月7日までの土用期間中に干せない場合は、無理に土用にこだわる必要はありません。天候が回復し、4日間連続で晴れる日を待ってから干しましょう。
土用干しの方法
梅を傷つけないように、ざるや専用の干し網に一つずつ丁寧に並べます。梅同士が重ならないように間隔を空けるのがポイントです。風通しが良く、日当たりの良い場所に置き、太陽の光をたっぷり浴びせましょう。日中は数回梅を裏返して、均等に乾燥させます。日が沈んだら、湿気を避けるために室内に取り込みます。これを約3日間繰り返すと、梅干しは程よく水分が抜け、表面にシワが寄り、柔らかく、 理想的な食感に近づきます。
平らなざるに、梅がくっつかないように少しスペースを置いて並べてください。日中はこまめに(2、3回)裏表をひっくり返して、まんべんなく日光に当て、夜は屋内にしまう、という手順を3日ほど繰り返します。
干し始めはつややかな梅が、日に当てるごとに徐々にしわしわになり、触った感じが耳たぶくらいの柔らかさになったらOKです。天日干しによって水分が飛び、長期保存が可能になり、食感もねっとりとした独特のものに変化します。
赤しその活用
梅と一緒に漬けた赤しそも、ぜひ有効活用しましょう。土用干しの際に一緒に干すことで、自家製ふりかけが作れます。赤しそを軽く絞って水分を切り、ざるに広げて天日干しします。完全に乾燥したら、手で揉んで細かくすれば、風味豊かな赤しそふりかけの完成です。
一緒に漬け込んだ赤しそも、梅干しと一緒に天日干しして、自家製赤しそふりかけにするのがおすすめです。赤しその水分をしっかり絞り、できるだけ一枚ずつ広げて、梅干しの隣か別のざるに並べて干しましょう。乾燥してパリパリになったら、細かく砕いてふりかけとして使います。
梅干しの保存:長期保存のコツ
土用干し後の梅干しは、適切な保存方法で管理することで、美味しさを長く保つことができます。保存方法と注意点を確認して、丹精込めて作った梅干しを無駄なく楽しみましょう。
保存方法の選択
土用干しを終えた梅干しは、清潔な保存容器に入れて保存します。保存方法としては、「赤梅酢に浸して保存する方法」と「そのまま保存する方法」の二通りがあります。赤梅酢に浸すと、色鮮やかに仕上がり、果肉がしっとりとして、酸味が際立ちます。一方、そのまま保存すると、色は落ち着き、果肉はねっとりとして、酸味がまろやかになります。それぞれの特徴を理解して、お好みの方法を選びましょう。
土用干しが終わった梅干しは、清潔な瓶などに入れて保存しますが、保存方法には大きく分けて「赤梅酢に戻す方法」と「梅酢に浸けずに保存する方法」の2種類があります。
それぞれの保存方法による味の違いとしては、赤梅酢に戻すと「色がより鮮やかになる、果肉がジューシーになる、酸味が強く感じられる」という傾向があり、そのまま保存すると「色はやや控えめになる、果肉がねっとりする、酸味が穏やかになる」といった違いが出てきます。
保存容器と保管場所
自家製梅干しを長く楽しむためには、保存方法が重要です。おすすめは、しっかりと密閉できるガラス製の容器を使用すること。直射日光を避け、風通しの良い冷暗所で常温保存しましょう。すぐに食べられますが、3ヶ月ほど時間を置くと塩味がまろやかになり、より一層美味しくなります。適切な保存をすれば、数年単位での長期保存も可能です。
できたての梅干しも美味しいですが、3ヶ月ほど寝かせることで塩角が取れて、風味が豊かになります。保存には、密閉性の高いガラス瓶などが最適です。冷暗所で保存すれば、長期間美味しくいただけます。
※梅酢に浸さずに保存する場合は、乾燥を防ぐために特に密閉容器に入れることが大切です。そうしないと、梅の水分が失われ、風味が損なわれる可能性があります。
結び
この記事では、伝統的な製法にこだわった、美味しい梅干しの作り方を詳しくご紹介しました。梅選びから始まり、丁寧な下処理、塩漬け、赤しそ漬け、天日干し、そして適切な保存方法まで、各工程における重要なポイントを解説しました。この記事を参考に、愛情を込めて梅干し作りに挑戦し、ご家庭ならではの格別な味わいをお楽しみください。
梅干し作りに適した梅の品種は?
梅干し作りには、果肉がふっくらとしていて、やわらかい完熟梅を選ぶのが成功の秘訣です。中でも、南高梅や白加賀といった品種が特に人気があります。これらの品種は、香りも良く、梅干しにした際の食感が格別です。
梅酢がにごってしまった時の対処法は?
梅酢が濁る原因として、カビや雑菌の繁殖が考えられます。もし濁ってしまった場合は、一旦梅を取り出し、梅酢を加熱殺菌してから冷まし、再度梅を漬け直しましょう。容器も忘れずに消毒し、常に清潔な状態を保つことが大切です。
土用干しが難しい時の対処法は?
梅干しの品質を左右する土用干しですが、雨天続きなど、どうしても天候に恵まれないこともあるでしょう。そのような時は、日の当たらない風通しの良い場所で、数日間陰干しを行うのも一つの方法です。ただし、太陽光による乾燥に比べると、風味や長期保存の面で若干劣る可能性があることは理解しておきましょう。
減塩梅干しの保存方法の注意点は?
塩分を控えた梅干しは、一般的な梅干しに比べてカビが発生しやすい傾向があります。そのため、冷蔵庫での保存が最適です。長期保存を考える場合は、冷凍保存も有効ですが、解凍後に食感が変化する可能性があるため、少量ずつ小分けにして冷凍することを推奨します。