ジンの種類: 知っておきたい代表的なジンの違いと特徴

ジンは、ヘルシーなライフスタイルを好む人々や、洗練されたカクテルを愛する人々にとって、ますます人気を集めているスピリッツです。しかし、一口にジンといってもその種類は多岐にわたります。ロンドン・ドライ・ジンやオールド・トム・ジン、さらにはボタニカルを多用した新世代のジンまで、それぞれのジンには独自の風味と製法があります。この記事では、代表的なジンの特徴と違いを詳しく解説し、あなたにぴったりの一杯を見つけるお手伝いをいたします。

ジン(スピリッツ)

ジンとは、ジュニパーベリーで香りを付けた蒸留酒のことで、清涼感があり辛口の味わいが特徴です。ジン・トニックなど、多くのカクテルのベースとして人気があります。

16世紀のオランダで登場したジュネヴァという薬用酒がジンの起源です。麦を原料とする蒸留酒にジュニパーベリーの香りを付けたものであり、のちに「ジン」としてイギリスに広まり、「狂気のジン時代」と呼ばれる流行を引き起こしました。一時は規制により人気が落ちましたが、1827年に連続式蒸留機が開発され、ボタニカルの風味を活かした「ドライ・ジン」が誕生。これが主流となり、アメリカに渡るとカクテルのベースとして高く評価されました。その歴史は「ジンはオランダで生まれ、イギリスで洗練され、アメリカで栄光を得た」と言われるゆえんです。

ヨーロッパ連合(EU)

欧州連合(EU)では、1989年にジンの定義が初めて策定され、その後2008年に現行の形に更新されました。この定義により、「ジン(Gin)」、「蒸留ジン(Distilled Gin)」、「ロンドン・ジン(London Gin)」の3つのカテゴリーに分類されています。

日本

日本の酒税法では、ジンは「スピリッツ」として分類され、特定のエキス分が2度未満のものとされています。他の法的な基準は存在せず、ベーススピリッツやボタニカルの詳細な規則もありません。

米国

アメリカでは、「ジン」と「蒸留ジン」の2種類が区別されています。「ジン」はジュニパーベリーで香りを付けられた、アルコール度数が40%以上の蒸留酒です。一方、「蒸留ジン」は、蒸留過程でのみジュニパーベリーの香りが加えられた同じ度数の飲み物です。

起源 - ジュネヴァが誕生するまでの物語

ジュニパーベリーはジンの風味を決定づける要素であり、古くから薬効が注目されてきました[32]。歴史の中で、ジュニパーベリーは薬の一部として度々登場し、キャンパー・イングリッシュはその重要性を指摘しています[33]。たとえば、紀元前1550年のエジプトの文書には黄疸の治療法として記載されており[32]、中世においてはペストの流行時に医師たちがマスクに詰めたと言われています[34]。さらに、酒と一緒に調合されることも多く、12世紀にマテウス・プラテアリウスによりジュニパーベリーとワインを使った強壮剤のレシピが紹介されています[33][35]。

ジンの前身とされるジュネヴァの初期形態は、1269年のヤーコブ・ファン・マールラントの作品『自然の花』に見られます[32][36]。この文献には、ジュニパーベリーとワインを使ったレシピが記されており[32]、薬学的な用途がオランダ語で記録された最古の例です[37]。1495年には、ワインとビールにジュニパーベリーや他のスパイスを加えて蒸留する方法が記載された論文集がオランダで発行されました[32][38]。これによって、初期のジュネヴァはワインを基に作られ、医薬品として扱われていました。しかし、16世紀になると気候の変化によりブドウの入手が困難になり、穀物を原料にする方法が普及しました[39][40]。穀物ベースの酒はコストが低く、ボタニカルの香りによって風味が向上したため、ジュネヴァは嗜好品として広まりました[41]。

ジュネヴァの起源に関して、フランシスクス・シルヴィウスが1660年に開発したという説があるものの、彼が生まれる前から存在していたことから誤りとされています[42][43]。

狂乱のジン時代

ジュネヴァは、1586年のネーデルラントへの出兵や1618年から1648年までの三十年戦争を経て、イギリスに広まりました。当時、イングランドの兵士たちは戦いに向かう前にジュネヴァを飲んで士気を高めていたため、「オランダ人の勇気」とも呼ばれていました。1600年代には、イギリスの富裕層にフランスのブランデーと共に人気が広がりました。イギリスに伝わった「genever」は、「ginever」となり、最終的に「gin」(ジン)と呼ばれるようになりました。ジンの最古の記録は、1714年に書かれたバーナード・デ・マンデヴィルの『蜂の寓話』に見られます。

1600年代のイギリスでは、清教徒のオリバー・クロムウェルやカトリックのジェームズ2世が蒸留酒に厳しい姿勢を示していたため、ジュネヴァは一般には広まりませんでした。しかし、1688年から1689年の名誉革命を機に状況は一変しました。オランダ出身のウィリアム3世がイングランド王となり、フランスに対抗する政策の一環として1689年にブランデーの輸入を禁じました。さらに翌年には、蒸留酒の製造を一般に解放し、穀物を使った蒸留酒に掛かる税を引き下げたため、18世紀前半のイギリスでジンが大流行しました。ジンは、粗悪な大麦を使用して低価格で販売できたため、特にロンドンの貧困層の間で大流行しました。1700年にはイギリス人の平均ジン消費量は年間1.7リットルでしたが、1743年には貧困層では年間11.4リットルに達しました。この現象は「狂気のジン時代」として知られ、1720年代から1751年に及びました。

この時代、ジンは犯罪と結びつくことが多く、評判が悪化していきました。ウィリアム・ホガースの銅版画『ビール通りとジン横丁』は、そんな風潮を描いた作品で、労働者がビールを楽しむ一方で、貧しい人々がジンに溺れる姿を表現しています。危機感を覚えた議会は1729年以降、複数回の規制を試みましたが、効果は限定的でした。最終的に1751年の8度目の規制でジンの流行が止まりました。この規制では、蒸留酒への税金が50%以上引き上げられました。その後、賃金の低下やポーターの流行、不作による1757年から1760年にかけての蒸留酒製造禁止令などの要因でジンの人気は徐々に衰退していきました。

ドライジンの誕生

厳しい増税の影響を受けたジンの品質は徐々に改善され、19世紀には高級志向のジンを作るメーカーが現れるようになった[63]。瓶には生産者の名前が記されることで、良質なジンのブランド化も進展した[64]。当時のジンは砂糖を加えたオールド・トム・ジンが主流で、これはかつての風味を隠すためではなく、甘味を好む人々に向けたものであった[54]。1827年にロバート・スタインが連続式蒸留機を開発し、1830年にイーニアス・コフィーがカフェ式連続蒸留器を開発したことで、クリーンな蒸留酒の生産が可能になった[65]。そして甘味を控えめにしたジンが健康を気にする富裕層に受け入れられると、ドライ・ジンが新たなスタイルとして確立された[66]。市場では次第にオールド・トムよりもドライ・ジンが優勢になり、メーカーは「無糖」や「ドライ」を強調した製品を展開するようになった[66]。

連続式蒸留機の発明はジンの発展において欠かせない要素となった[67]。この技術により、ジュニパーベリーやコリアンダー、アンゼリカなど、多くのボタニカルを活かしたクリーンなスピリッツが生産されるようになり[68]、ジンのスタイルが進化していった。大麦を基にしたジュネヴァから、甘味のあるオールド・トム・ジン、さらにドライかつボタニカルの風味を重視するドライ・ジンへと、味わいも多様化したのである[69]。2023年現在、「ジン」として親しまれている酒の大半はドライ・ジンである[4]。

マティーニの誕生

ジンの評価はイギリスで向上し、1850年には海外輸出が可能となった。その結果、アメリカではジンがカクテルの主な素材として人気を集め、ジンの歴史に新たなページを刻んだ。ジンはオランダで誕生し、イギリスで洗練され、アメリカでその名が広まるという経緯がある。アメリカのバーでは、ジュネヴァが主に使われていたが、その後オールド・トムが採用されるようになり、1896年にはドライ・ジンを用いたマティーニのレシピが初めて登場した。このマティーニの登場をきっかけにアメリカでドライ・ジンが主流となった。1930年に出版された『The Savoy Cocktail Book』には、多くのレシピでドライ・ジンが取り入れられている。

1920年、アメリカで禁酒法が施行されると、熟成を必要としないジンが密造酒として製造されるようになった。ジュニパーのエキスとアルコールを混ぜるだけで完成し、「バスタブ・ジン」と呼ばれることもあった。一方で、禁酒法により多くのバーテンダーが国外に流出し、これがアメリカ発のカクテル文化のヨーロッパ普及を促進した。1920年代には、ロンドンのサヴォイ・ホテルのアメリカン・バーが特に人気を博していた。禁酒法が1933年に廃止されると、手軽に製造できるジンが再びアメリカで人気となった。禁酒法を終わらせたフランクリン・ルーズベルトもマティーニを好んでいた。しかし、1960年代からはウォッカの人気が上昇し、ジンの人気は徐々に陰りを見せていった。

注目を集めるクラフトジンのトレンド

長い間低迷していたジン市場ですが、1987年に登場したボンベイ・サファイアの洗練されたフレーバーとデザインが好評を博したことで、その人気を再び高め始めました。2000年代になると、品質にこだわった高級志向のジンが支持を集め、「プレミアムジン」と呼ばれるように。その先駆けとなったのが、「タンカレー No.10」です。このジンは、通常より小型の蒸留器で作られており、高価ながらもその質の高さから愛好者に支持されました。また、ヘンドリックス・ジンなど、伝統的なジンとは異なるボタニカルを用いた製品も登場し、ジンの新しい可能性を切り開いています。

こうした多様なプレミアムジンの登場をきっかけに、2010年代初頭から小規模蒸留所が手掛けるジンづくりが世界中で人気となり、2015年頃から「クラフトジン」と呼ばれるようになりました。クラフトジンは、独自のこだわりを持って作られたジンとして広く知られています。

クラフトジンの先駆けとも言えるのが、2009年に発売されたシップスミスです。ロンドンで約200年ぶりに蒸留免許を取得し、その高品質からすぐに高級ホテルのバーで取り扱われるようになりました。また、2011年には地元の47種類のボタニカルを使った「MONKEY47」が発売され、この影響で多くの地元産ボタニカルを活用したジンが世界中で生産されるようになりました。ウイスキーブームの中、ジンは熟成が不要で製造設備の流用も容易なため、多くの蒸留所がジン製造に参入している状況です。ジンブームは2020年を迎えても続いており、イギリスではジン蒸留所が2019年に315か所に達し、日本でも2024年には100か所以上に増加しています。

生産プロセス

ジンの製造は、ニュートラルスピリッツにボタニカルを加えて香りを抽出するという方法によって行われます。その過程について詳しく説明します。

中立的なスピリッツ

ジンの基礎となるアルコールは、高濃度のエチルアルコールであるニュートラルスピリッツです。このスピリッツは主に穀物から作られますが、時にはぶどうや糖蜜などの糖分豊富な農産物も利用されます。原料を糖化・発酵させ、もろみを連続式蒸留機で蒸留することで、96%を超えるアルコール度数のニュートラルスピリッツが得られます。この工程で原料の風味はほとんど取り除かれ、ボタニカルの香味を引き出すのに適した状態となります。多くのジン蒸留所は、このニュートラルスピリッツを専門業者から仕入れていますが、独自に製造する所もあります。

一方で、一部の蒸留所は独自の風味を持つスピリッツ、例えば焼酎のようなものをベースに使用することもあります。

再度の蒸留

次の段階では、準備したニュートラルスピリッツをボタニカルとともに蒸留器に入れ、再び蒸留します。この再蒸留の過程で、アルコールとともにさまざまな香り成分が蒸発し、蒸留器の上部にある凝縮器で冷却され、香気を含んだ蒸留液が得られます。なお、再蒸留前のベーススピリッツはアルコール度数が40~60度程度に薄められます。これは、ボタニカルの香気を最も効率的に引き出すためで、蒸留所によってはボタニカルに応じて度数を調整することもあります。

得る手段

ボタニカルの香りを抽出する方法は、大きく分けて「浸漬法」と「ヴェイパーインフュージョン法」の2つがあります。

浸漬法は、ベースとなるスピリッツにボタニカルを直接漬け込んで蒸留し、香りを抽出する方法です。この方法は主に単式蒸留器を使用する際に採用され、多くの蒸留所では17時間から18時間ほどの浸漬時間が一般的で、一部の施設では24時間浸漬させる場合もあります。蒸留器の内部や専用のタンクで浸漬を行うことで香りを引き出しますが、焦げ付きのリスクがあります。また、コンパウンド・ジンと呼ばれる、浸漬のみで蒸留を省略するジンも存在します。

ヴェイパーインフュージョン法は、気化したアルコールをボタニカルの上部に通過させる手法です。主にハイブリッド型蒸留器やカーターヘッドスチルを利用し、凝縮器の手前にボタニカルを入れたカゴを設置して効率的に香り成分を抽出します。この方法では、熱によって引き出されるネガティブなフレーバーを抑えられ、フレッシュハーブなどのデリケートな素材にも適しています。低温での蒸留には減圧蒸留を行うこともあり、繊細な味わいが特徴です。

蒸留過程で得られる液体は、前留(ヘッド)、中留(ハートまたはミドル)、後留(テイル)に分けられます。最初のヘッド部分には人体に有害なメタノールが含まれるため除去され、ミドルがジンのボトリングに使われます。この段階でのアルコール度数は約80度です。後の蒸留では不適当な成分が増え始めるためテイルとして排除されます。ただし、ボタニカルの種類によっては、蒸留の初期や後期に良い成分が得られる場合があるため、ミドルの範囲を決めることが品質を左右する重要な要素です。

シングルショットとマルチショット

ボタニカルの投入量に応じて、蒸留は「マルチショット」や「ワンショット」という方法に分類される。マルチショットでは、一定量のニュートラルスピリッツに対し、ボタニカルを基準の2倍(またはそれ以上)加えて蒸留し、得られた原酒を水やニュートラルスピリッツで希釈して製品化する。これにより製造コストを低く抑えられる一方で、希釈に使用するニュートラルスピリッツの質が味に影響を及ぼす可能性がある。一方、ワンショット方式では、適正量のボタニカルを使用するため費用がかかるものの、最低限の希釈で不純物の影響を減らすことができる。

植物の魅力

ボタニカルとはジンに香りを与えるための植物のことを指します。通常のジンではおおよそ10種類ほどのボタニカルが使用されており、これらの選択や配合、そして抽出の条件によってジンの個性が決まります。ジュニパーベリーの使用は必須ですが、それ以外に特に決まった選び方はありません。クラフトジンでは、一般的なボタニカルに加え、多様な種類のボタニカルが使われています。ここに主要なボタニカルの例を紹介します。

蒸留工程を経て

蒸留されたジン原酒は通常、アルコール度数が80度前後になります。これを40度程度まで水で希釈してからボトリングされます。

ジンのボタニカル成分は水とあまり混ざらないため、冷やしたり水を加えると白くなることがあります。このため、ボトリング前に冷却濾過を行い、白濁を取り除くことが一般的です。これにより、飲食店で提供する際の見た目が良くなりますが、一方で香味が多少失われることもあります。そのため、あえて冷却濾過を行わないブランドも存在します。また、通常ジンは樽での熟成を行いませんが、特定のブランドではウイスキーの古樽を使った熟成もされることがあります。

楽しむ方法

ジンはその爽やかで切れ味のある辛口の風味が際立っています。直接味わわれることは少ないものの、さまざまなお酒と相性が良く、スピリッツの中でも特にカクテルでよく使用されます。ジン・トニックはジンの代表的な飲み方として知られており、他にも柑橘類や炭酸飲料との相性が抜群です。トニックウォーターに加えて、炭酸水やジンジャーエールで割るのも人気です。

ジン自体の風味を楽しみたい場合、ストレートが適していますが、難しい場合はオン・ザ・ロックや冷凍庫で冷やして飲むと飲みやすくなります。

2022年にDrinks Internationalが調査したクラシックカクテルの世界的な販売ランキングでは、ネグローニが1位に輝き、上位50位のうち14のカクテルがジンを使っています。

ジン