杏の種類
甘酸っぱく、爽やかな香りが魅力の杏(あんず)。実は、その品種は多岐にわたり、それぞれに個性的な風味や特徴があります。この記事では、杏の代表的な品種から珍しい品種までを徹底解説。生食に向く品種、加工に適した品種、甘みが強いもの、酸味が際立つものなど、様々な角度から杏の魅力を深掘りします。あなたにとって最高の杏を見つけるためのガイドとして、ぜひご活用ください。
あんずとは?基本情報と歴史
あんずは、バラ科サクラ属に分類される落葉性の小高木、またはその木になる果実を指します。発祥の地は中国北部、中央アジア、ヒマラヤ山脈の北西部と考えられており、昔から薬としても用いられてきました。日本へは平安時代に伝わり、明治時代以降、果物として食するための栽培が本格的に始まりました。今日では、ジャムやシロップ漬けといった加工食品の材料として、あるいはそのまま生で食べる果物として親しまれています。
あんずの種類:用途別の品種紹介
あんずには多種多様な品種が存在し、その用途に応じて最適な品種が選ばれます。加工用としては酸味が際立つものが、生食用としては甘みが豊かなものが好まれる傾向にあります。ここでは、代表的な品種をご紹介します。
加工用あんず
加工用あんずは、主にジャム、シロップ漬け、ドライフルーツなどに加工されます。酸味が強く、加熱することでその風味がより一層引き立つ点が特徴です。
平和
長野県で生まれた品種で、第一次世界大戦の終結を記念して名付けられました。酸味が強いため、主に加工用として栽培されています。果実はオレンジ色で丸い形をしており、重さは50~70g程度、旬は6月下旬から7月上旬にかけてです。
昭和
長野県で生まれた「昭和」は、昭和15年頃に発見された歴史ある品種です。収穫時期は「平和」よりも少し遅く、7月の上旬から中旬にかけて。酸味が際立っているため、シロップや砂糖で甘さを加える加工方法、例えばジャムなどに適しています。果実のサイズは40g程度と、やや小ぶりなのが特徴です。
新潟大実
新潟県が原産の「新潟大実」は、昭和初期から栽培されている品種です。強い酸味が特徴で、ジャムやシロップ漬けといった加工品のほか、乾燥あんずとしても利用されています。果実は丸みを帯びた淡い橙色で、重さは40~60g程度。収穫時期は7月上旬頃からとなります。
山形3号
「山形3号」は、山形県が原産の品種で、昭和初期から長野県でも栽培されています。甘みも持ち合わせていますが、酸味が強いため、主に干しあんずやジャムなどの加工用として用いられます。出荷時期は6月下旬頃からです。
生食用あんず
生で食べることを目的としたあんずは、酸味が少なく、甘みが強いのが特徴です。近年では新品種の開発が進み、より美味しく生食できるあんずが増えてきました。
信州大実(しんしゅうおおみ)
1980年に品種登録された杏で、その名の通り果実が大きいのが特徴です。重さは80~100gにもなり、丸みを帯びた形をしています。果皮も果肉も鮮やかな橙色で、芳醇な香りが楽しめます。酸味は比較的穏やかで、糖度も高いため、生で食べても美味しく、ジャムなどの加工にも適しています。旬は7月中旬頃です。
信山丸(しんざんまる)
やや酸味が強いものの、フレッシュな味わいも楽しめる杏です。ジャムやシロップ漬けなど、加工することで風味が一層引き立ちます。果実は少し縦長の楕円形で、美しい橙色をしています。果肉はきめ細かく締まっており、重さは40~50g程度とやや小ぶりです。生産量が限られているため、高品質な高級杏として知られています。出回るのは6月下旬頃からです。
ハーコット
カナダで生まれた杏で、1979年に日本に導入されました。酸味が少なく、強い甘みが特徴で、生食に最適です。果実は鮮やかな橙色で、80~100gと大きめの楕円形をしています。日持ちがあまりしないため、購入後はなるべく早く食べるのがおすすめです。市場に出回るのは7月上旬頃からです。
ゴールドコット
ハーコットと同様に、酸味が少なく、高い糖度を誇るため、生で美味しく食べられます。アメリカ生まれの品種で、1967年に日本にやってきました。果形は丸く、重さは50g前後の中玉サイズです。黄色みがかった橙色が特徴的です。収穫時期は7月中旬頃となっています。
美味しいあんずの選び方
良質なあんずを見分けるには、以下の点に留意すると良いでしょう。
- 外観:オレンジ色や黄色の鮮やかな色合いを選びましょう。ただし、品種によって色の濃淡が異なるため、あくまで目安としてください。
- 状態:果皮に張りがあり、傷や打撲痕がないものを選びましょう。
- 香り:芳醇な甘い香りが漂うものがおすすめです。
- 感触:手に取った際に、わずかに柔らかさを感じるものが食べ頃です。ただし、柔らかすぎるものは熟れすぎている可能性があるため避けましょう。
また、購入後はなるべく早めに食べるように心がけましょう。完熟したあんずは鮮度が落ちやすいため、冷蔵庫で保管し、2~3日を目安に食べきるのが理想的です。
あんずの旬な時期
あんずが最も美味しい時期は、6月下旬から7月中旬にかけてです。この時期には、様々な品種が市場に出回り、スーパーマーケットや産地直売所などで新鮮なあんずを入手できます。特に、あんずの主要産地である長野県や青森県などでは、旬の時期に合わせて様々なイベントが開催され、多くの人々で賑わいを見せます。
あんずの栄養と効能
あんずの特筆すべき点は、βカロテンの含有量が非常に豊富なことです。生の果実では赤肉メロンに次ぐ含有量を誇り、乾燥あんずにおいては赤肉メロンを大きく上回ります。βカロテンは体内でビタミンAに変換され、アンチエイジング効果や視力維持、強力な抗酸化作用による脳卒中や心筋梗塞の予防効果が期待されています。また、血圧を下げる効果があるカリウムも豊富に含んでいます。
さらに、あんずにはリンゴ酸やクエン酸も多く含まれており、疲労回復を促進する効果があります。血行を促進する作用もあるため、冷え性の改善にも役立つと言われています。
あんずの種の中にある杏仁は、東洋医学において古くから喘息や咳止めの薬として用いられてきました。あんずの種の中にある仁(杏仁)には、天然の有害物質であるアミグダリンが含まれています。アミグダリンは体内で分解されると青酸を生じるため、多量に摂取すると健康を害する可能性があります。食用として加工されていない杏仁や、未熟な果実の種を安易に食べることは絶対に避けてください。
あんずの保存方法
あんずは、その熟度によって保存方法を変えるのがポイントです。十分に熟したあんずは、冷蔵庫で保管し、2~3日を目安に食べきるのが良いでしょう。まだ硬いあんずは、常温で追熟させることをおすすめします。直射日光を避け、風通しの良い場所に置くと、数日後には食べ頃を迎えます。
長期保存について
長く保存したい場合は、冷凍保存が適しています。あんずを丁寧に洗い、水分をしっかりと拭き取ってから、冷凍保存用の袋に入れて冷凍庫へ。冷凍したあんずは、ジャムやスムージーなど、様々な用途で活用できます。
あんずの主な産地と地域経済への影響
あんずの主な産地としては、青森県、長野県、香川県などが挙げられます。これらの地域では、あんずの栽培が盛んに行われており、地域経済を支える重要な役割を担っています。中でも、長野県千曲市は「あんずの里」として広く知られており、多くの観光客が訪れる人気のスポットとなっています。
2021年のデータによると、あんずの収穫量が最も多かったのは青森県で、約1250トンでした。次いで、長野県が約595トン、広島県が約2トンの収穫量となっています。
あんずの世界の生産状況
あんず(アプリコット)の生産量が多い国トップ5は、トルコ、ウズベキスタン、イラン、イタリア、アルジェリアです。世界一の生産量を誇るトルコは、年間およそ80万3千トンを生産しており、これは全世界の約21%に相当します。続くウズベキスタンは年間約45万1263トンで世界全体の約12%、第3位のイランは約30万5932トンで約8%を占めています。
まとめ
杏は、その種類によって様々な特徴があります。日本で栽培されている主な品種としては、平和、新潟大実、信州大実などがあります。平和は、甘みと酸味のバランスが良く、生食にも加工にも適しています。新潟大実は、名前の通り果実が大きいのが特徴で、加工用として利用されることが多いです。信州大実は、長野県で多く栽培されており、こちらも大玉で甘みが強いのが特徴です。その他にも、ハーコットやゴールドコットといった海外の品種も栽培されており、それぞれ独特の風味や食感を持っています。これらの品種は、生食はもちろん、ジャムやコンポート、杏酒など様々な用途で楽しまれています。
よくある質問
質問1:あんずは生のまま食べられますか?
回答:はい、品種を選べば生食でも美味しくいただけます。特におすすめなのは、酸味が穏やかで甘みが際立つ「ハーコット」や「ゴールドコット」、「信州大実」といった品種です。
質問2:あんずの種には毒性があると聞きましたが、本当でしょうか?
回答:その通りです。あんずの種の中にある「杏仁」には、アミグダリンという物質が含まれており、体内で分解される際に青酸を生成するため、毒性があるとされています。ご自身の判断で杏仁を摂取することは避けてください。
質問3:あんずを美味しく長持ちさせるには、どうすれば良いですか?
回答:十分に熟したあんずは、冷蔵保存が基本です。冷蔵庫に入れ、できるだけ2~3日を目安に食べきるようにしましょう。まだ熟度が足りない場合は、常温で置いて追熟させるのがおすすめです。長期間保存したい場合は、冷凍保存を検討してください。
質問4:お店で売っている黄緑色で硬いあんずは、そのまま食べられますか?
回答:収穫後すぐに出荷されるあんずは、確かに黄緑色で果肉が硬いものが多いです。これらのあんずは酸味が強いため、生食にはあまり適していません。ジャムやシロップ漬けなど、加熱調理することで美味しくいただけます。もし生で食べたい場合は、2~3日ほど常温で追熟させると、甘みが増して食べやすくなります。
質問5:あんずの有名な産地を教えてください。
回答:あんずの栽培が盛んな地域としては、青森県、長野県、香川県などが挙げられます。