納豆はいつから?発祥の謎に迫る
独特の風味と栄養価の高さで、日本人の食卓に欠かせない納豆。その起源は、実は謎に包まれています。縄文時代にはすでに原型となるものが存在したとも言われ、稲作文化と深く結びついていると考えられています。一体いつ、どのようにして納豆は生まれたのでしょうか?この記事では、発祥にまつわる様々な説を紐解き、納豆誕生の謎に迫ります。

納豆の歴史:いにしえの日本から続く食文化のルーツ

日本において納豆が食され始めた時期は定かではありません。しかし、縄文時代の終末期には、既に納豆に類似した食品が存在していたとも考えられており、非常に古い時代から人々に親しまれてきた食品であると推測できます。当時、中国大陸から稲作の技術が伝来し、人々が生活していた竪穴式住居では、床に稲藁が敷かれていたり、食品などを保管する容器として利用されていたりと、稲藁は生活に欠かせないものでした。そのため、伝来した大豆を煮て、束ねた稲藁で包んで保存するという方法も十分に考えられます。では、なぜ大豆はあの独特なネバネバの納豆へと変化したのでしょうか。納豆の生成には、納豆菌の存在が不可欠です。納豆菌は枯草菌の一種であり、土壌や稲藁、空気中など、私たちの身の回りのあらゆる場所に存在しています。稲藁一本には、およそ1000万個もの納豆菌が胞子の状態で付着していると言われていますから、稲藁の中で大豆が偶然発酵するという状況は、十分に起こり得たと考えられます。このように、縄文時代に稲作が伝わり、生活に不可欠であった稲藁と、中国大陸から伝来した大豆が組み合わさることで、偶然にも納豆という発酵食品が誕生したという説が有力です。これは、人々の知恵と自然の恵みが融合した結果であり、日本の食文化の基礎を築いた重要な出来事であったと言えるでしょう。

「納豆」という名前の由来:多様な説から読み解く文化的背景

「納豆」という名前の由来には様々な説が存在し、納豆が日本の歴史や文化、そして宗教と深く関わりながら発展してきたことを物語っています。一つの説は、かつて僧侶が寺院の台所である「納所(なっしょ)」で納豆を作って食していたことから、「納所豆(なっしょまめ)」と呼ばれ、それが転じて「納豆」となったというものです。別の説では、昔、納所で作られた豆が桶や壷などの容器に納められて貯蔵されていたことから、「納めた豆(おさめたまめ)」が短縮されて「納豆」になったとされています。さらに、神棚に供えられた煮豆が、しめ縄の端に偶然触れたことで、稲藁に生息していた納豆菌が繁殖し、豆が糸を引いたという逸話も存在します。その際、美味しい食べ物を授けてくれた神に感謝し、神に納めた豆という意味を込めて「納豆」と呼んだという言い伝えが、北国を中心に残されています。加えて、古都・京都では、珍味として扱われた納豆を御所に献上していたという歴史があり、この豆を献上する行為が「納豆」という言葉の起源になったとする説も存在します。この説では、言葉の成立という観点から、京都が納豆発祥の地であると捉えられています。

納豆発祥の地をめぐる考察:京都・京北説の詳細

納豆の歴史を語る上で、京都の京北地域は「納豆発祥の地」の一つとして有力な説を唱えています。桜の名所としても知られる京北の常照皇寺では、明治時代に描かれたと考えられる寺の縁起絵巻が発見され、その中の一枚に納豆、しかも藁苞納豆(わらづとなっとう)の絵が鮮やかに描かれていました。この絵巻の背景を詳しく調べてみると、京北が納豆発祥の地である可能性が強く示唆されます。野田裕子氏(修文大学健康栄養学部非常勤講師)の研究によれば、光厳法皇が丹波の山中にある常照寺で修行されていた際、地元の村人たちが法皇に、新しい藁で包んだ煮豆を献上しました。法皇はそれを毎日食されていたところ、ある日、豆が糸を引いていることに気づきましたが、捨てずに塩をかけて食べてみたところ、大変美味しかったそうです。これがきっかけとなり、この地域で「ねば豆」が作られるようになったと伝えられており、やがて「鳳栖(ほうせい)納豆」と呼ばれるようになりました。この鳳栖納豆は、黒豆や小豆と共に、毎年京都御所に献上されるのが恒例となり、その行事は江戸時代の末期まで続いたと言われています。このように、御所に献上されていたという歴史的な事実は、京北が納豆の文化的な発祥地であるという強力な根拠となっています。実際に、『トーヨー新報』2009年1月1日号でも、京北が「納豆発祥の地」として紹介されており、歴史的に見て、日本においては東から西へ文化が伝わることは稀であるという観点から、京北が納豆発祥の地であるという見解が示されています。

水戸納豆との関係性と「発祥」の定義

納豆の発祥地に関しては、水戸をはじめとする複数の地域がその候補として挙げられており、その議論は多岐にわたります。京都・京北の事例からもわかるように、煮豆を藁で包むことで菌が作用し、納豆が生成されるという現象は、稲作が行われている地域であれば、日本国内に限らず世界各地で見られます。しかし、これは自然な「発生」であり、特定の文化や食習慣の中で根付き、発展した「発祥」とは区別されるべきだという意見も存在します。つまり、偶然の産物としての「発生」は各地で起こり得るものの、文化として確立された「発祥」は特定の場所に限定されるという考え方です。納豆の発祥地として、全国的に水戸が京都よりも広く知られるようになった背景には、かつて都であった京都には様々な食材が集まりやすく、特に納豆ばかりを食する必要がなかったからだ、という説があります。一方で、京都が納豆発祥の地として支持される理由の一つには、京都では珍重された納豆が御所に献上されていたという歴史的な経緯があります。この「豆を納める」という行為が「納豆」という言葉を生み出したと考えられており、言葉の成立という側面から京都を納豆の発祥地と捉える説も有力です。このように、納豆の「発祥」は、単なる偶然の発生に留まらず、その地域の歴史、文化、そして言葉の形成に深く根ざしていると言えるでしょう。

多種多様な納豆の世界

納豆はその製法や風味の違いから、大きく分けて3つのタイプに分類できます。それは、1.甘納豆、2.糸引き納豆、3.寺納豆です。これらの種類は、製法だけでなく、味わいや食感も大きく異なり、日本の食文化の中でそれぞれ独自の役割を担ってきました。納豆の多様性を理解することは、その奥深さを知る上で不可欠です。

甘味を楽しむ甘納豆

まず、1.甘納豆は、一般的な納豆のイメージとは異なり、豆菓子の一種として知られています。これは、小豆やそら豆などの豆類を砂糖でじっくりと煮て、乾燥させたもので、強い甘みが特徴です。お茶請けとしても親しまれていますが、発酵食品ではありません。

食卓の定番、糸引き納豆(丸大豆とひきわり)

次に、2.糸引き納豆は、普段私たちがご飯と一緒に食する、最もポピュラーな納豆です。納豆菌の働きによって大豆を発酵させて作られ、独特の粘りと風味が持ち味です。糸引き納豆はさらに、丸大豆納豆とひきわり納豆に分けられます。丸大豆納豆は、蒸した大豆をそのまま発酵させるため、大豆本来の風味と食感をダイレクトに味わえます。一方、ひきわり納豆は、大豆を砕いてから発酵させるため、皮がなく、よりソフトな食感が特徴です。タレとの馴染みが良く、消化にも優しいため、小さなお子様やご年配の方にもおすすめです。

個性的な味わいの寺納豆(塩辛納豆)

最後に、3.寺納豆は、別名塩辛納豆とも呼ばれる、独特な製法で作られる納豆です。大豆と麦、そして麹菌を塩水に漬け込み、長期間熟成させて作られます。製造には数ヶ月から一年という長い時間を要します。完成した寺納豆は、黒褐色の乾燥した状態になり、糸引き納豆のような粘り気はありません。しかし、塩味と凝縮された旨味が織りなす、他に類を見ない深い味わいが特徴で、主に調味料やご飯のお供として珍重されます。地域によっては、細かく刻んで料理の隠し味として使用したり、お茶うけとして楽しまれたりもします。これらの多様な納豆は、日本の豊かな食文化と、各地の風土が育んだ食の知恵の結晶と言えるでしょう。

世界に広がる大豆発酵食品:日本の納豆との比較

納豆は日本特有の食品と思われがちですが、日本国内だけでなく、世界各地にも類似の大豆発酵食品が存在します。ただし、それらの多くは日本の糸引き納豆とは異なる性質を持っています。世界各地の「納豆」を知ることは、大豆発酵食品がその土地の気候、文化、食生活に合わせて独自に発展してきたことを物語っています。

アジア・アフリカに見る非粘性大豆発酵食品

例えば、中国の「豆豉(トウチ)」は、日本の寺納豆や塩辛納豆に似ており、塩味が強いのが特徴です。大豆を麹菌や塩水で発酵・熟成させる点は寺納豆と共通しており、主に調味料として用いられます。その他、アジア各国には様々な大豆加工品があります。タイの「トゥアナオ」、ミャンマーの「ペーポウ」、アフリカの「ダワダワ」などがその例です。これらは、その土地の気候や利用可能な菌によって独自の進化を遂げました。しかし、これらの食品は一般的に日本で食されるネバネバした糸引き納豆とは異なります。多くの場合、調味料や保存食として利用され、スープの風味付けや炒め物の隠し味として使われます。その風味や食感は様々で、現地の食文化に深く根付いています。

日本の糸引き納豆に近い世界の「納豆」

一方、日本の糸引き納豆と似た特徴を持つ大豆発酵食品も存在します。ネパールの「キネマ」やインドの「バリュ」などは、味や香りが日本の糸引き納豆に近いと言われています。これらの地域では、高地で栽培された大豆を伝統的な製法で発酵させることで、日本の納豆と同様に粘り気のある発酵食品が生まれます。これらの事例は、特定の条件下で大豆を発酵させることで、共通の特性を持つ食品が自然に生まれる可能性を示唆しており、大豆発酵食品の多様性と奥深さを感じさせます。

大豆が納豆へと姿を変えるまで:緻密な製造工程

納豆は、単に大豆を煮ただけのものではなく、納豆菌による複雑な発酵過程を経て初めて完成する食品です。この「大豆が納豆になるまで」のプロセスは、厳密な温度管理と衛生管理が不可欠であり、科学と伝統技術の融合と言えるでしょう。ここでは、工場での大量生産における一般的な製造工程と、具体的な例として「牛若納豆」の製造工程を見ていきましょう。

品質を左右する大豆の選別から浸漬・蒸煮

まず、納豆の品質を大きく左右する大豆を厳選し、丁寧に洗い上げます。次に、大豆を水に浸して、たっぷりと水分を吸収させます。この浸水にかける時間は、季節によって調整が必要で、例えば「牛若納豆」の製造方法では、冬場は約24時間、夏場は約12時間と、大豆が理想的な水分量になるように調整されます。こうすることで、大豆が柔らかくなり、次の工程である加熱を効率的に行うことができます。その後、圧力釜を使って大豆を蒸し上げます。蒸すことで大豆はふっくらと仕上がり、同時に殺菌も行われます。この蒸し加減が納豆の食感や風味に大きく影響を与えるため、非常に重要な工程と言えます。

納豆菌の接種と精密な発酵管理

蒸し上がったばかりの熱い状態の大豆に、納豆菌を均一に吹き付けて接種します。納豆菌は熱に強い性質を持っているため、大豆が高温の状態でも活動を維持できます。この熱を利用することで、他の雑菌の繁殖を抑え、納豆菌が優位に発酵を進めるための環境を作ります。納豆菌を接種した大豆は、速やかに容器に詰められます。この容器は単なる入れ物ではなく、発酵を促すための重要な役割を果たします(詳細は後述の「容器の秘密」で解説します)。容器に詰められた大豆は、その後、発酵室へと移動されます。発酵室では、納豆菌が最も活発に活動できる理想的な環境を維持するために、温度が厳密に管理されています。一般的には、室温40度前後の環境で、約20時間程度発酵させます。大豆の種類や大きさによって発酵時間は調整されますが、例えば「牛若納豆」では約16時間とされています。この発酵の過程で、納豆菌が大豆のタンパク質などを分解し、納豆特有の粘り気や風味、香りが生まれます。この段階で、納豆の臭い、表面に現れる菌膜の状態、そして粘り具合をしっかりと見極めることが、高品質な納豆を作る上で非常に大切になります。

味と香りを深める熟成と冷却

発酵が終わると、熟成の段階へと進みます。発酵を終えた納豆は、冷蔵庫などの低温環境に移され、発酵中に増殖した納豆菌の活動を抑制します。この冷却にかける時間は製品によって異なり、「牛若納豆」の場合は約24時間冷却することで発酵を停止させ、その後出荷されます。この熟成期間を経ることで、納豆の味と香りがより一層深みを増し、まろやかな風味になります。発酵から熟成に至るまでの温度管理は、納豆の品質、風味、そして美味しさを決定づける上で極めて重要な要素であり、長年の経験を持つ職人の技と、最新の技術を組み合わせることで、私たちが普段美味しくいただいている納豆が作られているのです。全体として、「牛若納豆」の製造は、大豆の洗浄から出荷まで、4日間をかけて行われる緻密な工程です。

伝統的なわら苞納豆の製造と現代の工場生産

昔ながらの納豆作りでは、わらに自然に付着している枯草菌を利用していました。この伝統的な製法では、煮た大豆をわらで包んで発酵させるため、自然の菌の中には他の菌が混ざっている可能性があり、発酵に1週間程度かかることもありました。また、糸引きも、培養された納豆菌で作ったものほど強くは出ませんが、それこそが本来のわら苞納豆の姿でした。現代の工場生産では、厳選された納豆菌を意図的に接種することで、品質の安定化と効率的な生産を実現しています。しかし、どちらの製法においても、大豆と納豆菌、そして適切な環境が揃うことで、納豆という発酵食品が生まれるという根本的な部分は変わりません。

納豆独特の魅力:ねばりとにおいの科学

納豆を特徴づける要素として、独特のねばねばした食感と香りが挙げられます。好みが分かれる点でもありますが、これらは納豆菌が大豆の成分を分解する過程で生み出される物質によるものです。これらの特性について深く知ることは、納豆の美味しさや機能性を理解することに繋がります。

旨味と粘りを生むポリグルタミン酸とフラクタン

納豆のねばねば感は、主に「ポリグルタミン酸」と「フラクタン」という物質によるものです。ポリグルタミン酸は、納豆菌がタンパク質を分解してできたグルタミン酸を、さらに多数つなげて生成したものです。一方、フラクタンは糖の一種です。この2つの成分がバランス良く組み合わさることで、あの独特の粘り気と糸引きが生まれます。ポリグルタミン酸は、旨味成分としても知られるグルタミン酸が多数連結した高分子化合物であり、納豆の旨味に貢献しています。グルタミン酸が折りたたまれるようにつながることで、長く糸を引く特性を持ち、納豆をかき混ぜた際に見られる糸引きを生み出します。フラクタン自体には味はありませんが、ポリグルタミン酸の構造を安定させ、ねばねばとした状態を維持する重要な役割を果たします。つまり、ポリグルタミン酸が粘りの本体であり、フラクタンが構造的なサポートをしているのです。この2つの物質が合わさることで、納豆のねばねばは単なる粘りだけでなく、食感と風味の豊かさをもたらします。

好みが分かれる納豆の個性的な香り成分

納豆の香りは、好みが分かれる大きな要因の一つです。この独特の香りは、納豆菌が大豆の成分を分解する過程で生成されます。納豆菌は、大豆のタンパク質や脂質を分解しながら増殖し、その代謝物として独特の粘りと共に様々な揮発性化合物を生成します。納豆のにおいの主な成分としては、「ピラジン類」、「短鎖分岐鎖脂肪酸」、そして「ジアセチル」などが挙げられます。ピラジン類は、コーヒーやパンなどにも含まれる香ばしい香り成分で、納豆の深みのある香りに寄与します。短鎖分岐鎖脂肪酸は、チーズやバターなどにも見られる成分で、納豆の熟成した風味や少し酸味のある香りの一因となります。ジアセチルは、バターのような甘い香りを持ちますが、濃度が高いと刺激臭となることもあります。これらの成分が複雑に組み合わさることで、納豆特有の複雑な香りが生まれます。また、納豆は製造後も微生物の活動が完全に停止するわけではなく、冷蔵保存中もゆっくりと発酵が進みます。そのため、時間が経つにつれてこれらのにおい成分が生成され、においが強くなる傾向があります。納豆の香りの強さは鮮度や保存状態によって変化し、好みが分かれる要因の一つとなっています。しかし、この個性的な香りは、納豆が活きた発酵食品である証であり、その風味の奥深さを形成する重要な要素と言えるでしょう。

納豆を育む容器の秘密

納豆を購入する際に手に取る容器は、単なる入れ物ではありません。納豆菌が活発に働き、美味しい納豆を育むための「発酵の場」として、様々な工夫が施されています。容器の設計は、納豆の品質を左右する重要な要素の一つなのです。

保温性と酸素供給を両立する容器の知恵

スーパーマーケットで手にする納豆の容器は、大抵が白い発泡スチロール製でしょう。この素材には、優れた保温性があるのです。納豆菌が活発に働くには、発酵中の温度管理が重要です。発泡スチロールの容器は、発酵室での温度を一定に保ち、家庭の冷蔵庫でも温度変化を緩やかにすることで、納豆の熟成を助けます。これにより、納豆菌の活動が安定し、品質が一定に保たれるのです。また、納豆菌が活動するには酸素も欠かせません。容器に大豆を詰める際、隙間なく詰め込むことは避けられています。大豆と大豆の間に適度な空間を作ることで、酸素が行き渡りやすくしているのです。さらに、容器そのものにも工夫が凝らされています。例えば、発泡スチロール容器の底にある凹凸や、蓋に設けられた小さな穴は、外部から酸素を取り込むための設計です。しかし、酸素を取り込むだけでは、大豆が乾燥して品質が低下してしまいます。そこで、穴の開いた薄いフィルムで覆うことで、適切な酸素供給と乾燥防止を両立させているのです。これらの細やかな配慮こそが、美味しい納豆を消費者に安定して届けるための、容器に隠された工夫なのです。

納豆が秘める驚くべき栄養と健康効果

納豆は、日本の伝統的な食品として親しまれてきましたが、その栄養価の高さから、近年は健康意識の高まりとともに世界中で注目を集めています。大豆を原料としているため、蒸し大豆と基本的な栄養成分は共通していますが、納豆菌による発酵という過程を経ることで、大豆にはない独自の栄養素や成分が生まれる点が大きな特徴です。

大豆由来の基礎的な栄養

まず、主要な栄養成分として挙げられるのは、良質な「たんぱく質」が豊富に含まれている点です。大豆由来のたんぱく質は、必須アミノ酸をバランス良く含んでおり、体を作る上で非常に重要な役割を果たします。また、「脂質」も含まれており、そのほとんどが不飽和脂肪酸であるため、健康維持に貢献すると考えられています。さらに、骨の健康に欠かせない「カルシウム」や、貧血予防に重要な「鉄」といったミネラルも豊富です。これらの栄養素は、大豆が本来持っている優れた栄養価を受け継いだものです。

発酵が生み出す特別な成分:ナットウキナーゼとビタミンK2

納豆が蒸し大豆と比べて特に優れているのは、脂質代謝に不可欠な「ビタミンB2」を多く含んでいることです。ビタミンB2は、エネルギー生産を助け、皮膚や粘膜の健康維持にも寄与する重要なビタミンであり、納豆菌が発酵する過程で大量に生成されます。そして、納豆特有の成分として特に注目されているのが「ナットウキナーゼ」です。ナットウキナーゼは、大豆を納豆菌で発酵させることによってのみ生まれる酵素で、生の大豆には存在しません。ナットウキナーゼには、血管の詰まりの原因となる血栓を分解する作用があると言われており、心血管疾患の予防効果が期待されています。その活性は非常に高く、納豆一パック(約50g)に含まれる量でも効果が期待できるとされています。さらに、納豆菌が作り出す成分としては「ビタミンK2」も挙げられます。ビタミンK2は、血液凝固を助けるだけでなく、カルシウムを骨に結合させる働きを促進し、体内に効率よく取り込むために不可欠な栄養素です。骨粗しょう症の予防や治療において重要な役割を果たすことが知られています。

新たに注目される機能性成分:イソフラボンとポリアミン

納豆は、前述した豊富な栄養素に加え、「イソフラボン」や「ポリアミン」といった健康に役立つ成分も豊富に含んでいます。イソフラボンは、女性ホルモンに似た作用を持つとされ、更年期の不快な症状を和らげたり、骨を丈夫にする効果が期待されています。また、ポリアミンは細胞の成長や分裂に関わる物質であり、老化を遅らせたり、免疫力を高める効果があると言われています。このように、大豆そのものが持つ栄養価に加え、「ナットウキナーゼ」や「ビタミンK2」といった発酵によって生まれる独自の成分を豊富に含む納豆は、日々の食生活に手軽に取り入れられる、まさに「スーパーフード」と呼ぶにふさわしい食品です。優れた栄養バランスと特有の機能性成分は、現代人の健康維持に大きく貢献しますが、栄養・医学的に非常に優れた食品であるにも関わらず、価格があまりにも低いという意見もあります。納豆が本来持つ価値を再評価し、適切な価格で販売されることで、より多くの人々がその恩恵を受けられる社会になることが望まれます。

まとめ

この記事では、日本の伝統的な食品である納豆について、様々な角度から掘り下げて解説しました。納豆の歴史は非常に古く、縄文時代にまで遡ると考えられています。稲作の伝来と共に、稲藁が豆の保存に使われ、偶然にも納豆が誕生したという説が有力です。「納豆」という名前自体も、寺院での製造、神様への供え物、京都御所への献上など、日本の文化や信仰と深く結びついています。特に、京都の京北地域は、常照皇寺の画帖や光厳法皇の逸話からもわかるように、「鳳栖納豆」という形で古くから納豆文化が根付いており、納豆の発祥地であるという強い根拠を持っています。この地域は水戸納豆とは異なる歴史的背景を持ち、「発生」と「発祥」という言葉の違いから、京都が納豆という言葉の発祥の地であるという説も存在します。
納豆には、お菓子として親しまれる甘納豆、ご飯のお供として一般的な糸引き納豆(丸大豆、ひきわり)、そして独特な塩辛さを持つ寺納豆など、様々な種類があります。また、世界各地にも似たような豆の発酵食品が見られます。大豆が納豆へと姿を変える製造工程は、大豆の選別から始まり、水に浸す、蒸す、納豆菌を加える、そして温度管理を徹底した発酵・熟成という段階を経て、丁寧に作られます。例えば、「牛若納豆」の製造工程は、洗浄から出荷まで4日間を要し、それぞれの工程における温度や時間管理、臭いや菌膜、粘りの状態を見極めることが重要とされています。納豆特有の粘りは、ポリグルタミン酸とフラクタンという成分によるもので、独特な香りはピラジン類などの揮発性成分によるものです。これらの成分はすべて納豆菌の働きによって生まれます。発酵を行う容器にも、保温性や酸素供給など、様々な工夫が凝らされています。
栄養面では、納豆は大豆本来のタンパク質、脂質、カルシウム、鉄分に加え、脂質代謝に欠かせないビタミンB2を豊富に含んでいます。特筆すべきは、大豆にはない「ナットウキナーゼ」や「ビタミンK2」といった発酵によって生まれる特別な成分、そして「イソフラボン」や「ポリアミン」といった機能性成分です。これらの成分は、血液をサラサラにする効果、骨を強くする効果、老化を遅らせる効果、免疫力を高める効果など、現代人の健康維持に大きく貢献することが科学的に証明されています。納豆は、その長い歴史、多様な種類、複雑な製造過程、そして何よりも優れた栄養と機能性によって、日本だけでなく世界の健康を支える重要な食品として、今後ますますその価値を高めていくでしょう。その優れた価値が再認識され、適正な評価を受けることが期待されます。

納豆はいつから日本で食べられていますか?

日本で納豆が食べられるようになった時期ははっきりとは分かっていませんが、縄文時代の終わり頃には既に納豆のようなものが存在していたという説もあり、非常に古い時代から親しまれてきた食品と考えられています。中国から伝わった稲作と、それに伴って使われるようになった稲藁が豆の保存に利用され、稲藁に付着していた納豆菌によって偶然発酵したことが始まりであるという説が有力です。

納豆がネバネバする理由は何ですか?

納豆のネバネバは、大豆を発酵させる納豆菌の働きによるものです。納豆菌が作り出すポリグルタミン酸(グルタミン酸がたくさん繋がったもの)と、糖の一種であるフラクタンが主な成分です。ポリグルタミン酸は旨味成分でもあり、フラクタンは粘りを安定させる役割を果たしています。

納豆菌はどこで育つの?

納豆菌は、バチルス属の一種である枯草菌の仲間で、自然界のあちこちに生息しています。土壌、空気中、そして特に稲藁など、さまざまな場所で見つけることができます。中でも稲藁は、納豆菌が豊富に存在することで知られており、一本の稲藁にはおよそ1000万個もの納豆菌が、胞子の形で付着していると考えられています。


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