乳糖不耐症とは?原因・症状・対処法をわかりやすく解説
牛乳や乳製品を食べると「お腹がゴロゴロする」「張って不快になる」という経験はありませんか?その症状の背景にあるのが乳糖不耐症です。乳糖不耐症とは、牛乳やヨーグルトなどに含まれる乳糖(ラクトース)を体内でうまく分解できないことによって起こる消化不良の一種です。日本人を含む東アジアでは比較的多くみられる体質であり、症状の程度や出方は人によって異なります。この記事では、乳糖不耐症の原因・代表的な症状・生活の中でできる工夫や対処法を詳しく解説します。自分に合った乳製品の取り入れ方を知ることで、腸にやさしい食生活を実現し、快適に過ごすヒントを得ていただけるでしょう。

乳糖不耐症とは?その仕組みと特徴

乳糖不耐症とは、牛乳や乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する酵素「ラクターゼ」が不足することで起こる体質です。ラクターゼが十分に働かないと乳糖は消化・吸収されず、小腸に水分を引き込み水様便を引き起こすほか、大腸で発酵されることでガスや腹部膨満感、腹痛につながります。
代表的な症状として、子どもでは下痢や体重増加の遅れ、大人では腹部膨満感・下痢・腹痛・ガス・吐き気などがあげられます。診断には、乳製品摂取後の症状確認に加え、水素呼気試験などが用いられます。
対処法としては、ラクターゼを補うサプリメントを利用したり、乳糖を含む食品を控えたりする方法が一般的です。体質や症状の程度は個人差が大きいため、医師や栄養士に相談しながら自分に合った工夫を取り入れることが推奨されます。

乳糖不耐症と牛乳アレルギーの違い

牛乳や乳製品を摂取した後に体調不良を感じる場合、その原因は「乳糖不耐症」か「牛乳アレルギー」かで大きく異なります。
  • 乳糖不耐症:乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)の不足による消化不良が原因。消化されない乳糖が腸内に残り、腹部膨満感や下痢といった消化器系の症状を起こします。
  • 牛乳アレルギー:牛乳に含まれるタンパク質(カゼインやホエイなど)に免疫系が過剰に反応することで発症。かゆみ、発疹、喘鳴などのアレルギー症状が出ることが特徴です。
牛乳アレルギーは特に小児に多く見られ、嘔吐や腹痛に加えて皮膚や呼吸器の症状を伴う場合もあります。一方で成人の牛乳アレルギーは比較的まれで、食後に嘔吐や逆流などの症状が出ることがあります。
このように、同じ「牛乳で不調が出る」ケースでも、乳糖不耐症と牛乳アレルギーは原因も症状も異なるため、見極めが重要です。

一次性乳糖不耐症:民族的背景と世界的な有病率

乳糖不耐症の最も一般的なタイプは「一次性乳糖不耐症」です。これは加齢に伴って小腸でラクターゼ(乳糖分解酵素)の産生量が減少することで起こります。乳児期には母乳やミルクを消化するためラクターゼが豊富に作られますが、離乳後にその量が減っていく人が多いのが特徴です。
民族的な違いも大きく、アジア系では90%以上、黒人やヒスパニック系では約80%が成人になると乳糖を十分に消化できなくなると報告されています。一方で、北西ヨーロッパにルーツを持つ白人の約80〜85%は、遺伝的にラクターゼの産生が持続するため、成人になっても牛乳や乳製品を摂取できるケースが多くあります。
こうした背景から、世界人口の約75%以上は乳糖を大量に消化できない体質を持つとされ、「不耐症」という言葉が必ずしも異常ではなく、世界的にはごく一般的な状態であることがわかります。

二次性乳糖不耐症:腸のダメージによる一時的な影響

乳糖不耐症には「二次性」と呼ばれるタイプも存在します。これは、もともとラクターゼを作れる人でも、腸に一時的な損傷が起きたときに発症するものです。
原因としては、ウイルス性胃腸炎などの腸管感染症や、セリアック病、クローン病などの腸疾患が挙げられます。これらの病気によって小腸粘膜がダメージを受けると、ラクターゼを産生する細胞の働きが弱まり、乳糖を消化できなくなります。ただし、基礎疾患が回復すればラクターゼの産生も戻り、再び乳糖を消化できるようになるケースが多いのが特徴です。

乳糖以外の糖不耐症:ショ糖や麦芽糖の場合

乳糖不耐症が最もよく知られていますが、他にも特定の糖質をうまく分解できない「糖不耐症」が存在します。
  • ショ糖不耐症:スクラーゼという酵素が不足すると、砂糖の主成分であるショ糖を分解できず、吸収が妨げられます。
  • 麦芽糖不耐症:マルターゼやイソマルターゼが不足すると、麦芽糖(マルトース)の分解が進まず、消化器系に不快感を引き起こすことがあります。
これらの糖不耐症は乳糖不耐症に比べてまれですが、特定の酵素が欠けることで似たような消化不良の症状が生じる可能性があります。

乳糖不耐症の具体的な症状

乳糖不耐症の人は、牛乳や乳製品を摂取すると消化器系の不調を感じやすい傾向があります。大人の場合は、一度にコップ1杯程度(250〜375ml)の牛乳を飲んだときに症状が出ることが多いとされています。

子どもの症状

子どもに多く見られるのは下痢です。牛乳を日常的に飲み続けると、栄養の吸収が妨げられ、体重が増えにくいことがあります。

大人の症状

大人の場合は、腹部膨満感、腹痛、水っぽい下痢、おなら、吐き気、腸のゴロゴロ音など、さまざまな消化器症状が現れます。これらは乳糖を含む食品を摂取してから30分〜2時間以内に出ることが多く、急な便意として感じられるケースもあります。
まれに重度の下痢が続くと「栄養吸収不良」につながる場合もありますが、乳糖不耐症の症状は通常軽度で、感染症などによる強い下痢症状とは異なります。

乳糖不耐症の診断方法

除去食による確認

医師の診察では、乳製品摂取後の症状について問診が行われます。診断の参考になる方法のひとつが除去食です。3〜4週間ほど乳製品を完全に除去し、症状が改善するかどうかを確認します。改善が見られれば、乳糖不耐症の可能性が示唆されます。最終的な判断は医師による診断が必要です。

水素呼気試験(ラクトース呼気試験)

より正確な診断を行う場合に用いられるのが水素呼気試験です。一定量の乳糖を摂取し、摂取前後で吐く息に含まれる水素ガスを数時間にわたり測定します。乳糖が小腸で消化されず大腸で細菌により発酵すると水素ガスが発生するため、その増加を確認することで乳糖不耐症の診断に役立ちます。

乳糖負荷試験

かつては乳糖負荷試験も行われていました。この検査では乳糖を摂取後に血糖値を測定し、血糖値が十分に上がらない場合を乳糖不耐症の可能性ありと判断します。しかし感度が低いため、現在では水素呼気試験の方が主流となっています。 (出典: MSDマニュアル家庭版『乳糖不耐症』執筆者:Zubair Malik, MD, Virtua Health System, URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/03-%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%90%B8%E5%8F%8E%E4%B8%8D%E8%89%AF/%E4%B9%B3%E7%B3%96%E4%B8%8D%E8%80%90%E7%97%87, 2023-03-15)

乳糖を含む食品の管理と代替品の活用

乳糖不耐症の対策で基本となるのは、乳糖を含む食品を適切にコントロールすることです。ただし、すべての乳製品が同じように症状を引き起こすわけではありません。
例えば、ヨーグルトは乳酸菌がラクターゼを作り出すため、比較的摂取しやすいケースがあります。チーズも牛乳に比べて乳糖の含有量が少ないため、量を調整すれば問題なく食べられる場合もあります。
さらに、近年は乳糖を低減した牛乳や、豆乳・アーモンドミルク・オーツミルクといった植物性ミルクも手に入りやすくなっており、乳製品を避けたい人にとって有効な選択肢となっています。

ラクターゼサプリメントの活用とカルシウム補給

食事管理に加えて、ラクターゼサプリメントの利用も一つの方法です。これらは市販されており、乳糖を含む食品を摂るときに一緒に摂取することで、乳糖の分解をサポートするとされています。これにより、乳糖に敏感な人でもある程度は乳製品を楽しめる可能性があります。
一方で、乳製品の摂取を控えるとカルシウム不足になりやすいため注意が必要です。カルシウムは骨の健康維持に欠かせない栄養素であり、乳製品を制限する場合は、小魚・豆腐・青菜類などの食品やカルシウムを含むサプリメントで補う工夫が推奨されます。

まとめ

乳糖不耐症は、乳糖を分解する酵素ラクターゼの不足によって起こる体質であり、世界的には多くの人に見られる一般的な現象です。症状は年齢によって異なり、子どもでは下痢や発育への影響、大人では腹部膨満感や下痢、ガスなどが代表的です。診断には問診や除去食、水素呼気試験が用いられ、日常生活では乳糖を含む食品の摂取調整や代替食品の活用が有効とされています。さらに、ラクターゼサプリメントやカルシウム補給を取り入れることで、無理なく乳製品と付き合うことが可能になります。自分の体質を理解し、適切な工夫を取り入れることで、乳糖不耐症とうまく向き合い、より快適な毎日を過ごしてみませんか。

乳糖不耐症は遺伝的な要因が関係しますか?

一次性乳糖不耐症(成人型乳糖不耐症)は、遺伝が大きく関与すると考えられています。特に、離乳後にラクターゼの産生が減少するかどうかは人種によって異なります。アジア系やアフリカ系の多くは成人期にラクターゼが減少しやすいのに対し、北西ヨーロッパ系の人々はラクターゼを作り続ける遺伝子を持つケースが多く、乳糖を消化しやすい傾向にあります。

乳糖不耐症の症状は常に深刻ですか?

症状の多くは軽度であり、乳糖の摂取量や個人のラクターゼ活性によって差があります。一般的には腹部膨満感、軽度の腹痛、水っぽい下痢、ガスなどが現れます。重度の腸疾患で見られるような激しい症状が出ることはまれであり、日常生活の工夫で十分にコントロールできる場合がほとんどです。

乳糖不耐症でも摂取できる乳製品はありますか?

はい、あります。ヨーグルトは乳酸菌の働きで乳糖が分解されやすく、比較的摂取しやすい食品です。チーズも製造過程で乳糖がほとんど分解されているため、牛乳に比べて乳糖が少なく、適量であれば問題が起こりにくいことがあります。さらに、市販の低乳糖牛乳や、豆乳・アーモンドミルクなどの代替ミルクも有効な選択肢です。

乳糖不耐症と診断された場合、乳製品を完全に排除すべきですか?

必ずしも完全に避ける必要はありません。乳糖不耐症の程度は個人差が大きく、少量であれば症状が出にくい人もいます。ヨーグルトやチーズなど乳糖が少ない製品を取り入れたり、ラクターゼ補助サプリを活用したりすることで、乳製品を楽しみつつ栄養を補うことが可能です。

乳糖不耐症の方がカルシウムを摂取するには?

乳製品を控えるとカルシウム不足になりやすいため、他の食品からの摂取が大切です。小魚、緑黄色野菜(小松菜・ブロッコリーなど)、大豆製品(豆腐・納豆など)、海藻類(ひじき・わかめなど)が良い供給源です。また、カルシウムを強化した植物性ミルクやジュースも選択肢になります。十分に摂取できない場合は、医師や薬剤師に相談の上でサプリメントを検討すると良いでしょう。



乳糖不耐症