夏の涼を呼ぶ、名前も涼しげな和菓子と水菓子
うだるような暑さが続く日本の夏。そんな季節に恋しくなるのが、見た目も涼やかな和菓子や水菓子です。透き通るような色彩、つるりとした喉ごし、そして何より、名前を聞いただけで涼を感じさせてくれる風流な趣向。夏の風物詩を巧みに取り入れ、五感で涼を味わえる和菓子と水菓子は、古くから日本人の知恵と美意識の結晶と言えるでしょう。今回は、名前からも涼を感じられる、選りすぐりの和菓子と水菓子をご紹介いたします。

夏の和菓子とは

夏の和菓子は、厳しい暑さを少しでも忘れられるよう、見た目や食感に涼しさを追求したものが多く見られます。夏の情景を巧みに表現した意匠や、清涼感あふれる名前も特徴的です。口にした時の爽やかなのどごしを演出するため、葛や寒天、たっぷりの水を使用したものが一般的です。

代表的な夏の和菓子

これから紹介する代表的な夏の和菓子には、どのようなものがあるのでしょうか。

水無月

水無月は、もちもちとした食感のういろう生地に、甘く煮た小豆をのせた和菓子です。毎年6月30日に行われる「夏越の祓」という神事で、無病息災を祈願して食されます。三角形の形状は「氷」を象徴し、小豆には厄除けの意味が込められています。

氷室饅頭

氷室饅頭は、金沢の伝統行事である「氷室の日」に食される特別な饅頭です。主に、麦粉を原料とした麦饅頭と、日本酒を加えて発酵させた酒饅頭の二種類があります。江戸時代、加賀藩が将軍家へ献上した氷室の氷が、無事に届けられることを祈って麦饅頭を食したことが起源であるという説が有力で、現在では夏の無病息災を願う縁起物として親しまれています。

若鮎

清らかな川を泳ぐ鮎の姿をかたどった若鮎は、夏の訪れを感じさせる焼き菓子です。ふっくらとしたカステラ生地でやわらかな求肥を包み、上品な甘さが口の中に広がります。特に、鮎漁が有名な京都や岐阜では、地域を代表する銘菓として親しまれています。夏の風情を楽しむお茶請けに最適です。

水羊羹

水羊羹は、通常の羊羹よりも寒天の量を減らし、水分をたっぷり含ませて作られる、涼やかな和菓子です。口にした時のなめらかな舌触りと、あっさりとした甘さが特徴で、暑い夏にぴったりの一品です。冷蔵技術が発達していなかった時代には冬に作られていましたが、現在では夏の定番として広く愛されています。

みぞれ羹

見た目にも涼しげなみぞれ羹は、透明感のある錦玉羹に、道明寺粉を雪のように散りばめた和菓子です。その名の通り、みぞれのような儚い美しさを表現しており、口に運ぶたびに涼を感じられます。つるりとした喉ごしと、道明寺粉のもちもちとした食感のコントラストが楽しめます。

錦玉羹(金魚)

寒天と砂糖を煮溶かして作る錦玉羹は、その透明感と独特の食感が魅力の和菓子です。表面の砂糖が結晶化することで生まれるシャリシャリとした食感と、寒天のぷるぷる感が絶妙なハーモニーを生み出します。金魚鉢をモチーフにしたデザインなど、見た目にも涼しさを感じさせるものが多く、夏のギフトとしても喜ばれます。

土用餅

土用餅は、滑らかな餡で餅を包んだ和菓子の一種です。特に、夏の土用の丑の日に食される習慣があります。土用期間中に餅を食すことで活力が得られると信じられており、また、小豆餡には厄除けの意味合いもあるとされています。夏場の疲労回復に良いとされる点も、広く愛される理由の一つです。

あんみつ

あんみつは、さいの目にカットされた寒天をベースに、蜜豆、小豆餡、黒蜜、みかん、桃などを彩り豊かに盛り付けた、日本の伝統的なデザートです。比較的近年に生まれた和菓子でありながら、その涼やかな見た目と多様な味わいで、夏の風物詩として全国に浸透しています。

わらび餅

わらび餅は、わらび粉を主原料とする和菓子です。その特徴は、透明感のある涼しげな外観と、独特のぷるぷるした食感。夏の暑さを忘れさせてくれる、まさに旬の味覚です。起源は平安時代に遡り、室町時代以降には茶席で供される菓子として発展し、今日のような洗練された形になりました。

くずきり

葛は、発汗を促す効果があると言われ、夏の和菓子によく用いられる素材です。つるりとした喉越しのくずきりを冷やし、濃厚な黒蜜を絡めていただくのが定番のスタイルです。例えば、上質な吉野葛を使用し、丁寧に練り上げることで、しっかりとしたコシと独特の食感を生み出す老舗もあります。

くず餅

くず餅は、地域によって原料や製法が異なる和菓子です。関東で『久寿餅』と呼ばれるものは、小麦粉のでんぷんを乳酸発酵させて作る独特の風味と食感が特徴です。一方、関西で『葛餅』と呼ばれるものは、本葛粉を水で練り上げて作られ、透明感とつるりとした喉ごしが楽しめます。

結び

日本の夏を美しく彩る和菓子たちは、その見た目の涼やかさはもちろんのこと、素材選びや製法に込められた職人の技術と工夫が際立っています。それぞれの和菓子が持つ由来や物語を知ることで、より一層その奥深い味わいを堪能できるでしょう。今年の夏は、見た目も涼しげな和菓子とともに、日本の伝統文化に触れてみてはいかがでしょうか。

夏の和菓子はなぜ涼しげなものが多いのですか?

夏の厳しい暑さを和らげ、視覚的にも涼しさを感じられるように工夫されているからです。葛や寒天といった、つるりとした食感が楽しめる素材や、水や氷をイメージさせる名称が用いられることが多いです。

夏の和菓子はどのように保存すれば良いですか?

直射日光が当たる場所や、湿度が高い場所を避け、冷蔵庫で保管するのが基本です。ただし、和菓子の種類によっては、冷やしすぎると本来の風味が損なわれることもあるため、注意が必要です。

水無月と小豆の関係性:込められた意味とは?

水無月に添えられている小豆には、単なる彩り以上の深い意味があります。古来より小豆は邪気を祓う力を持つと信じられており、水無月においては、夏の暑さを乗り越え、無病息災を願う人々の想いが込められているのです。

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