栃木県が長年の歳月をかけて開発した、いちごの新品種「とちあいか」。その名の由来は、一般投票で選ばれた「栃木で愛される果実になってほしい」という願いが込められています。「とちおとめ」の課題を克服し、耐病性を高めつつ、際立つ甘さを追求。栃木県の愛情と情熱が詰まった「とちあいか」は、2019年の秋に満を持してデビューし、多くの人々を魅了しています。今回は、その誕生秘話から味わいの特徴まで、「とちあいか」の魅力に迫ります。
栃木が生んだ新時代のいちご「とちあいか」とは
「とちあいか」は、栃木県が丹精込めて開発した、全く新しい品種のいちごです。栃木県にとって10番目のオリジナル品種として、「栃木i37号」という開発コード名で呼ばれていました。「とちおとめ」が抱える病気への弱さを克服し、より強健な品種を目指して栃木県農業試験場いちご研究所で研究開発が進められました。試行錯誤を重ね、ついに2019年秋、満を持して市場にデビュー。甘味が強く、酸味が穏やかな点が特徴で、生食での消費を強く意識した品種です。
この新しいいちごの名前は、消費者からの投票によって決定されました。「とちあいか」「とちあかり」「とちまる」「とちれいわ」「えみか」「あまね」(または「あきね」)という魅力的な候補の中から、最も多くの支持(2,782票)を集めたのが「とちあいか」でした。この名前には、栃木県を代表する果物として、広く人々に愛されてほしいという願いが込められています。投票は2019年10月から2020年3月まで行われ、結果を受けて2020年に福田富一知事より正式な名称が発表されました。名称決定後、品種登録を経て、本格的な生産・販売がスタートしました。
「とちあいか」の際立った特徴と生産・消費へのメリット
「とちあいか」は、生産者と消費者の両方に恩恵をもたらす、特別な特徴を持ったいちごです。生産者にとっては、病害に強いため栽培管理がしやすいという利点があります。気候条件に左右されにくく、病気のリスクを軽減できるため、安定的な収穫が期待できます。また、単位面積あたりの収穫量は「とちおとめ」の約1.3倍と高く、生産効率が良いのも魅力です。さらに、「とちおとめ」よりも早く、10月下旬から出荷できるため、早期の市場投入が可能です。栃木県はこれらの利点を活かし、「とちあいか」を「とちおとめ」に匹敵する、あるいは凌駕する主力品種へと育成することを目指しており、新たな基幹品種として大きな期待を寄せています。
消費者にとっての最大の魅力は、その際立った甘さと、芳醇で深みのある味わいです。口に含むと、濃厚な甘みが広がり、後味はすっきりとして上品。酸味が控えめで甘さが際立つため、幅広い世代に好まれるでしょう。この特別な甘さと風味は、「とちあいか」ならではの忘れられない味覚体験となるはずです。2019年11月から12月にかけて、栃木県農業試験場いちご研究所が181名を対象に、品種を伏せて「とちおとめ」との食べ比べを実施したところ、「とちあいか」は甘み、酸味、外観、食感、香りの全ての項目で「とちおとめ」を上回る評価を獲得しました。年齢や性別を問わず「とちあいか」の方が好評で、特に特定の層では85%が「とちあいか」を購入したいと回答するなど、その高い人気と嗜好性が明確に示されました。
「とちあいか」は、その美しい見た目も魅力の一つです。丸みを帯びた可愛らしい三角形をしており、まるで芸術品のような整った形をしています。果皮はつやがあり、鮮やかな赤色で、見た目にも食欲をそそります。そして、「とちあいか」の特徴として特に注目されているのが、そのユニークな断面です。ヘタの部分が少しへこんでおり、縦にカットすると、その断面がハート型に見えることから、若い世代や贈り物として人気を集めています。このハート型の断面は、バレンタインやクリスマスなどのイベントでの視覚的なアピールにもつながると期待されています。一粒が大きく、手に取るとずっしりとした重みがあり、口いっぱいに頬張った時の満足感は格別です。果肉がしっかりと詰まっているため、噛むとみずみずしい果汁が溢れ出し、フレッシュな味わいを存分に楽しむことができます。
「とちあいか」の誕生から普及までの歴史
栃木県は、長年にわたる努力によってイチゴ栽培を推進し、その結果、長きにわたりイチゴ生産量日本一の座を維持し、2018年には「いちご王国」を宣言しました。栃木県のイチゴといえば、「とちおとめ」と「スカイベリー」が有名ですが、各地で独自の新品種開発競争が激化しており、栃木県も更なる品種改良に取り組んでいました。「とちおとめ」の病気への弱さを克服することを目標に、具体的な開発開始時期は公表されていませんが、栃木県農業試験場いちご研究所で新品種の開発がスタートしました。交配から7年の歳月をかけ、栃木県で10番目となるイチゴの新品種「栃木i37号」が誕生し、品種登録が出願されました。
2018年、「栃木i37号」は出願が公開されました。同年には、JA全農とちぎが主催する「いちご王国とちぎ流通懇談会」において、関係者が新品種のPRを行いました。2019年、栃木県は「栃木i37号」を「普及品種」に指定し、同年のある時期に、観光いちご園経営者や一部の生産者に対し、苗を有償で配布することを発表しました。この配布対象を限定したのは、苗の供給量の問題と、観光客への訴求効果を狙ったものでした。同年には65戸の農家が「栃木i37号」を栽培し、栽培面積は2.5ヘクタール、出荷量は125トンを見込んでいました。同年7月には、栃木県の出願状況から、新品種の名称候補として「あきね」「とちあかり」「とちあいか」「とちまる」「えみか」「とちれいわ」の6つが報道されました。
2019年には台風による被害を受けた農家もありましたが、同年11月には4戸の農家が356パック、96キログラムを初出荷しました。まだ名前が決まっていなかったため、「栃木i37号」として販売されました。JAはが野における2019年10月から2020年6月までの「栃木i37号」の販売額は、先行販売という位置づけだったため5900万円にとどまり、「とちおとめ」の88億7600万円と比較すると大きな差がありました。2020年、福田富一知事は記者会見で、「栃木i37号」の名称が「とちあいか」に決定したと発表しました。この名前は2019年10月から2020年3月まで実施された一般投票で最も多い2,782票を獲得したもので、「愛されるとちぎの果実」という願いが込められています。2020年10月には「とちあいか」という名前になってから初めての出荷が行われ、45キログラムが市場に出回りました。同年は250戸の農家が16ヘクタールで栽培し、12月には本格的な出荷シーズンを迎えました。
栃木県とJA全農とちぎは、2020年10月から2021年6月までのシーズンを「市場評価を確立する重要な年」と位置づけました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、試食会などの対面でのPR活動が困難になりました。そこで、専用ウェブサイトやSNSを活用し、オンラインでの情報発信を強化する方針を決定しました。これにより、新しい生活様式の中でも「とちあいか」の魅力を効果的に伝えることを目指しました。2021年1月には、ある商業施設のいちごフェアで、「とちあいか」が対象のイチゴの一つに選ばれるなど、着実にその存在感を高めています。
まとめ
栃木県が誇る新品種「とちあいか」は、「とちおとめ」の弱点であった耐病性を克服するために、栃木県農業試験場いちご研究所で「栃木i37号」として生み出されました。2019年秋のデビューに先駆け、2019年10月から翌年3月にかけて実施された一般投票によって、その名が決定。「愛されるとちぎの果実」という願いが込められています。丸みを帯びた美しい三角形、鮮やかな深紅色の果皮が特徴で、ヘタ部分のくぼみを活かして縦にカットすると、可愛らしいハート形が現れます。大粒で食べ応えがあり、果肉はぎっしりと詰まり、口の中に広がるジューシーさが魅力です。甘みが強く、酸味が穏やかなため、まろやかな味わいが楽しめます。2019年の試食評価では、「とちおとめ」を凌ぐ高評価を獲得しました。
栽培面においても、「とちあいか」は優れています。耐病性が高く、「とちおとめ」よりも3割多い収穫量が見込める上、10月下旬からの早期出荷が可能です。果実が比較的硬いため、輸送にも強く、関東地方への出荷はもちろん、海外への輸出も視野に入れています。栃木県は、「とちあいか」を「とちおとめ」と肩を並べる、あるいは超える主力品種として育成することを目指しています。この背景には、栃木県の「いちご王国」宣言があり、開発から普及、そしてコロナ禍におけるオンライン戦略など、多角的なアプローチで市場での存在感を確立してきました。
現在、「とちあいか」は栃木県内のいちご狩りや、店舗限定のパック販売で味わうことができます。残念ながら、オンラインでの販売は行われていません。旬の時期に「いちごの里」を訪れ、この新世代いちごの魅力を存分に体験し、心温まるひとときをお過ごしください。
とちあいかはいつ誕生しましたか?
「とちあいか」は、栃木県が開発した10番目のオリジナル品種として誕生し、2019年の秋に初めて市場に出回りました。開発段階では「栃木i37号」という名前で呼ばれていました。
とちあいかの名前の由来は何ですか?
「とちあいか」という名前は、一般消費者からの投票によって決定されました。2019年10月から2020年3月にかけて、「とちあいか」「とちあかり」「とちまる」「とちれいわ」「えみか」「あまね」(または「あきね」)などの候補の中から選ばれました。最終的に最も多くの票を獲得した「とちあいか」には、「愛されるとちぎの果実」という願いが込められています。
とちあいかの特徴的な形は何ですか?
「とちあいか」は、コロンとした丸みのある三角形が特徴で、果皮は鮮やかな濃い赤色をしています。特に注目すべきは、ヘタの部分にくぼみがあり、縦に切ると断面が可愛らしいハート型になることです。このハート型は、バレンタインやクリスマスなどのイベントでのアピールにもつながると期待されています。
「とちあいか」の味わいの魅力とは?
「とちあいか」は、酸味が穏やかで、甘みが際立っているのが大きな特徴です。口に含むと、芳醇で深みのある甘さが広がり、後味はすっきりとしていて上品。くどさがないため、いくらでも食べられるような感覚です。過去に行われた食味試験では、そのおいしさで「とちおとめ」以上の評価を得ています。
「とちあいか」はどこで手に入れることができますか?
「とちあいか」は、栃木県にある農園で、いちご狩りを通じて味わうことができます。残念ながら、現時点ではインターネット通販は実施されていません。
「とちあいか」が生まれた背景とは?
「とちあいか」が開発されたのは、栃木県で広く栽培されている「とちおとめ」が、病害に弱いという問題点を克服するためでした。栃木県農業試験場いちご研究所が、より病気に強く、栽培しやすい品種として開発に着手。生産者の負担軽減と、消費者へのさらなる普及を目指して誕生したのが「とちあいか」なのです。