甘くて美味しいイチゴをたくさん収穫するために、受粉は欠かせないプロセスです。特にハウス栽培では、自然な受粉が難しいため、適切な対策が求められます。この記事では、イチゴの受粉の基本から、品質と収量を向上させるための実践的な知識までを徹底解説。受粉不良がもたらす影響や、効果的な人工授粉の方法まで、イチゴ栽培に関わる全ての方に役立つ情報をお届けします。
イチゴ栽培における受粉の重要性
イチゴ栽培において、受粉は収穫量と品質を大きく左右する、非常に重要なプロセスです。イチゴは自家受粉しにくい性質を持つため、畑では風や昆虫が受粉を助けますが、ハウス栽培では自然な受粉は期待できません。もし受粉がうまくいかないと、果実が十分に大きくならず、小さくなったり、形が不ぞろいになったりする、いわゆる奇形果が発生しやすくなり、結果として品質の低下や収穫量の減少を招きます。そのため、施設栽培においては、人の手による受粉作業が欠かせません。
イチゴの開花時期と最適な受粉タイミング
イチゴの開花時期は、品種によって異なります。一般的に、一季成り性品種は春の3月中旬から4月にかけて、四季成り性品種は5月から6月、そして10月から11月にかけて花を咲かせます。イチゴの花は、まず雌しべが成熟し、その後、雄しべが成熟して花粉を出すという特徴があります。開花初日は雄しべから花粉が出ていないため、受粉に適しているのは2日目以降です。しかし、開花から5日以上経過すると、雄しべ、雌しべともに受精能力が低下し始め、受精できたとしても奇形果が発生する可能性が高まります。したがって、イチゴの受粉は開花後2〜4日の間に行うのが理想的です。開花から5日目を過ぎると花びらが落ち始め、受粉が難しくなるため注意が必要です。
一季成り性品種と四季成り性品種の開花期
イチゴの花芽が作られる条件は、「一季成り性品種」と「四季成り性品種」で異なります。一季成り性品種は、自然環境下では秋の低温と日照時間の短縮によって花芽を形成し、冬を越えて春に開花します。促成栽培では、夏の育苗期間中に「夜間の冷却と短日処理」を行い、花芽の形成を促し、10月頃から開花させるのが一般的です。四季成り性品種は、「秋植え夏秋どり」や「春植え夏秋どり」といった栽培方法が主流で、開花時期は5〜6月頃から始まり、夏の暑い時期を挟んで10〜11月頃まで開花が続きます。
プロ農家向け!効率的なイチゴの人工授粉方法
イチゴの人工授粉を効率的に行うためには、以下の方法が有効です。
ハウス内の温度管理
イチゴの花粉が最も活発に活動する温度は、一般的に25℃付近と言われています。しかし、35℃を超える高温になると、雌しべがダメージを受け、花粉自体もその機能を失ってしまうことがあります。また、氷点下を下回るような低温環境も、雌しべの機能を停止させ、受粉を妨げる原因となります。したがって、ハウス内の温度を受粉に最適な状態に保つことが非常に重要です。日中は15〜25℃の範囲に保ち、夜間は10℃程度を維持するように心がけましょう。特に春先は、気温が急激に上昇することがあるため、換気を十分に行ったり、遮光資材を利用するなどして、温度管理を徹底してください。もし、花粉を運ぶ昆虫を利用する場合は、その昆虫の種類によって適した温度が異なる点に注意が必要です。例えば、ミツバチは20〜25℃で活発に活動しますが、ヒロズキンバエ(ビーフライ)は10~35℃の幅広い温度帯で活動できます。
花粉媒介昆虫の放飼
イチゴ栽培においては、受粉を助けるためにセイヨウミツバチを導入することが一般的です。ハウス内でミツバチが効率的に花粉を媒介するためには、栽培面積に応じた適切な数のミツバチを放つ必要があります。おおよその目安として、10アールあたり1群(6,000〜8,000匹)、10アールを超える連棟ハウスの場合は2群(12,000匹)以上を導入すると良いでしょう。短期間だけ追加でミツバチを利用したい場合は、約2,000匹の女王蜂がいない群れを利用する方法もあります。ミツバチの巣箱は、昼夜の温度差が小さく、湿度が高すぎず、環境の変化が少ない場所に設置するのが理想的です。直射日光が長時間当たると、巣箱内の温度が上昇しすぎてしまうため、ハウスの北側か西側に設置するのがおすすめです。その際、巣箱の入り口はできるだけ日光が当たる方向に向けるように工夫しましょう。また、巣箱をイチゴの株よりも高い位置に設置することで、ミツバチが巣箱の位置を覚えやすくなると言われています。巣箱を設置するタイミングは、イチゴの開花時期に合わせてください。輸送直後のミツバチは振動で興奮していることがあるため、10分ほど時間を置いて落ち着かせてから巣箱の入り口を開け、ハウス内の環境に慣れさせることが大切です。
手作業での人工授粉
ミツバチなどの昆虫を利用していても、気温が低かったり、天候が不安定な場合は、十分な受粉が行われないことがあります。受粉のタイミングを逃してしまうと、収穫量に大きく影響するため、状況に応じて手作業による人工授粉を検討することも重要です。人工授粉を行う際には、毛先が柔らかい筆や、耳かきの梵天部分、化粧用のフェイスブラシなどを使用します。雌しべは非常にデリケートなため、傷つける可能性のある硬い素材の使用は避けてください。これらの道具の先端を使って、花の中心部を円を描くように優しくなで、すべての雌しべに均等に花粉を付着させます。
受粉の成否を確認する方法
イチゴの受粉が成功したかどうかを確認するには、雌しべの状態を注意深く観察します。受粉が順調に行われた場合、雌しべの付け根にある花托と呼ばれる部分が徐々に膨らみ、果肉へと成長していきます。同時に、雌しべの子房部分も肥大し、イチゴの表面にある粒々のそう果(果実)へと変化します。この時、雌しべの一つ一つがきちんと受粉していれば、すべての子房が均等に大きくなり、果肉も美しく膨らみます。しかし、受粉がうまくいかなかった雌しべがある場合、その部分の子房は成長が止まり、果肉が部分的にしか膨らまず、いびつな形になってしまいます。これが、いわゆる奇形果が発生する原因です。受粉がうまくいかなかった原因としては、花粉の発芽や、花粉を媒介する昆虫の活動に適した温度管理ができていなかった可能性が考えられます。
奇形果を防ぐための対策
イチゴ栽培において奇形果の発生は悩みの種です。その対策として、気温に左右されにくいヒロズキンバエ(ビーフライ)などの昆虫を導入し受粉を促すことが有効です。また、イチゴの品種によって花粉の質や受精能力に違いがあるため、栽培地域や作型に合わせて適切な品種を選ぶことも重要です。
ミツバチに代わる花粉媒介昆虫
ミツバチは優れた花粉媒介昆虫ですが、気温が低い日や日照不足の際には活動が鈍るという弱点があります。さらに、近年ミツバチの減少や価格高騰が問題となっており、イチゴ農家の経営を圧迫する要因となっています。そこで注目されているのが、クロマルハナバチやヒロズキンバエ(ビーフライ)といった、ミツバチに代わる花粉媒介昆虫です。
- クロマルハナバチの特徴
クロマルハナバチは、ミツバチ(働き蜂)よりも体が大きく、一度に運べる花粉の量が多いのが特徴です。活動温度域も広く、10〜30℃と低温時でも活動できるため、ミツバチが活動できない時期にも受粉作業を行うことができます。
- ヒロズキンバエ(ビーフライ)の特徴
ヒロズキンバエ(ビーフライ)も、ミツバチに比べて活動可能な温度範囲が広く、10~35℃で活動します。島根県では、ヒロズキンバエ(ビーフライ)を導入した結果、奇形果が減少し、イチゴの収穫量が6倍に増加したという事例も報告されています。
成功の鍵は適切な管理と最新技術の活用
イチゴの受粉率を高めるためには、受粉時期の見極めやハウス内の温度管理が不可欠です。近年では、ドローンやロボットによる受粉自動化技術の開発も進められていますが、現時点ではミツバチやハエなどの花粉媒介昆虫を利用した受粉が主流です。栽培地域の気候条件や品種の特性を考慮し、最適な方法で確実な受粉を目指しましょう。
まとめ
イチゴの受粉は、美味しいイチゴを実らせるための大切なプロセスです。この記事では、受粉の基本から実践的な方法、そして最新の技術動向までご紹介しました。この情報を活用して、イチゴ栽培の成功を目指してください。