大豆は、畑の肉と称されるほどタンパク質が豊富な作物です。家庭菜園でも人気の高い大豆ですが、収穫と脱穀は特に重要な作業工程であり、その成否が収量と品質を大きく左右します。本記事では、大豆栽培における最適な収穫時期の見極め方、効率的な収穫方法、収穫後の適切な処理と長期保存のコツ、さらには収穫ロスを減らし収量を向上させるための最新技術まで、詳細に解説します。
大豆の生育サイクルと収穫時期
大豆の収穫時期は、一般的に10月下旬から11月頃が目安です。これは、5月から7月頃に種をまいた場合、およそ4ヶ月かけて大豆が成熟する時期に相当します。ただし、収穫時期は地域、品種、気候条件によって異なるため、大豆の状態を観察し、最適なタイミングを見極めることが大切です。
大豆と枝豆:収穫時期の違い
「大豆の収穫が早すぎると枝豆になる」という疑問はもっともですが、大豆と枝豆は同じ植物であり、収穫時期によって呼び名が変わります。種まきから80~110日程度で収穫される未成熟な状態のものが「枝豆」として親しまれています。つまり、大豆として収穫するよりも早い段階で収穫すれば、枝豆として美味しく食べられるため、早すぎる収穫は無駄にはなりません。この点を理解すれば、一度の栽培で大豆と枝豆の両方を楽しむことができます。
収穫サインと水分量
大豆を最高の状態で収穫するためには、明確なサインを見逃さないことが重要です。株全体が茶色く変色し、すべての葉が落ちた状態が収穫時期の目安となります。落葉後7~10日頃が理想的です。サヤを振ってみて、中の大豆がカラカラと音を立てれば、豆が乾燥している証拠です。この音は、サヤの水分量が20%前後、茎の水分が60%以下であることを示しています。茎の水分量は、子実用として「高周波容量式水分計」で簡易測定できます。葉がついたまま水分量が多いと、コンバインの目詰まりによる収穫ロスにつながるため注意が必要です。収穫が遅れると、サヤが自然に弾け、大豆が地面に落ちて収量が減少するリスクがあります。また、開花後、葉が黄色くなって枯れていくように見えても、株は成長を続けているため、収穫までは土壌の乾燥に注意し、水やりを続けることが重要です。
家庭菜園での容易な収穫方法
大豆の収穫は、家庭菜園でも取り組みやすい作業です。一般的な方法としては、大豆の株を根本から引き抜くのが簡単です。土が柔らかければ、この方法で容易に収穫できます。もし土が硬い場合や、より効率的に作業したい場合は、剪定ばさみや鎌などの道具で株の根元を刈り取る方法も効果的です。どちらを選ぶにしても、先述した収穫のサインを見逃さず、適切なタイミングで作業することが重要です。
コンバインによる効率的な大豆収穫
大豆生産において、収穫と脱穀は特に手間のかかる作業ですが、近年ではコンバインを使った収穫が普及し、生産効率の向上に大きく貢献しています。コンバインは収穫速度を向上させますが、使い方を誤ると汚粒の発生や機械の故障につながり、収穫ロスを増やす可能性があります。そのため、以下のポイントを押さえることが大切です。
大豆収穫に用いられる主なコンバインの種類
大豆収穫に使用されるコンバインは、大きく「大豆専用コンバイン」と「汎用コンバイン」の2種類に分けられます。
大豆専用コンバイン
「大豆専用コンバイン」はその名の通り、大豆の収穫に特化して開発されたコンバインです。汚粒の発生を抑制する「ローラーコンケーブ」(注)や、大豆の茎の揺れを抑えてロスを減らす「専用刈刃」など、大豆を無駄なく収穫・脱粒するための工夫が施されています。(注)ローラーコンケーブ:コンケーブとは、脱穀された大豆を受け止める網状の部分です。汚粒の主な原因は、水分を含んだ茎や莢から出る汁などにあります。そのため、茎や莢が通過しないように開発されたコンケーブがあり、その回転式のものがローラーコンケーブと呼ばれます。主要メーカーでは標準装備されています。
汎用コンバインとは
汎用コンバインは、稲、麦、大豆といった多種多様な作物の収穫に対応できるように設計された、汎用性の高いコンバインです。これらの作物の違いに合わせて、稲や麦の籾、大豆の莢を茎から効率的に分離するために、「こぎ胴」の回転速度を調整したり、藁くずや茎などの不要物を取り除く「送塵弁」の角度を調整したりする機能が備わっています。さらに、刈り取りを行うリール部分に、大豆専用のヘッダーを取り付けられる機種も存在します。
コンバインを最大限に活用するための要点
コンバインを効率的に使い、収穫時の損失を可能な限り少なくするためには、いくつかの重要な管理ポイントを押さえる必要があります。まず、収穫物の品質を損なう原因となる雑草を徹底的に防除・除去することが不可欠です。特に、以前水田だった場所を転換して大豆を栽培する場合、土壌水分が多いため、大豆の種まき時期である6月から7月にかけて雑草が大量に発生しやすくなります。種まき直後から収穫に至るまで、畑を常にきれいな状態に保つことが大切です。具体的には、種をまいた後に除草剤を散布し、その後も中耕などのタイミングで除草作業を行うなど、適切な栽培管理を継続することが重要です。加えて、収穫前には再度除草を行い、「青立ち株」(※)を確実に除去することもポイントとなります。(※)青立ち株とは、畑全体の大部分が収穫に適した状態になっているにもかかわらず、成熟が遅れて葉が落ちず、茎に緑色が残っている株のことです。その原因としては、害虫による被害、実が大きく成長する時期の高温、土壌のストレスなどが考えられます。
実際の収穫作業を始める前に、必ず試し刈りを行いましょう。最初に数十メートルほど収穫作業を行い、コンバインの排出口から大豆を取り出し、品質に問題がないか確認します。もし品質の低下が見られるようであれば、その原因を特定し、コンバインの各部を調整してから本格的な作業を開始します。作業中も定期的に品質をチェックし、品質維持に努めることが重要です。また、作業開始時、途中、終了時に大豆の水分量を測定することも、効率的な作業を進める上で大切なポイントです。大豆の水分量は一日のうちでも大きく変動するため、収穫に最適な時間帯は晴れた日の午前11時から午後4時頃とされています。この時間帯に収穫作業を完了できるよう、余裕を持った作業計画を立てるようにしましょう。
収穫ロスを減らすための栽培管理と品種選択

日本で広く栽培されている大豆の品種は、収穫時期になると莢が自然に開いてしまう特性を持つものが多く、コンバインで収穫する際に豆がこぼれ落ちやすいという課題があります。品種によっては、収穫時の損失が20%近くに達することもあります。近年ではコンバインを使った収穫が一般的になっているため、収穫時に莢が開きにくい「難裂莢性」や、倒れにくく収穫作業がしやすい「耐倒伏性」を備えた大豆の品種開発が進められています。機械化が進んでいる北海道では、「ハヤヒカリ」や「ユキホマレ」といった難裂莢性を持つ新しい品種の開発に成功しています。本州以南でも栽培可能な品種の開発も進んでおり、難裂莢性を強化した「フクユタカA1号」や、耐倒伏性を持つ「里のほほえみ」といった新品種の普及が期待されています。さらに、収穫時のロスを減らすためには、栽培方法の工夫も重要です。倒伏が多いと収穫量が減少したり、刈り取りの方向や速度が制限されたりするため、中耕や培土などの適切な栽培管理を徹底しましょう。収穫作業時にコンバインが左右に傾かないように、畝の間隔を適切に保って栽培することも、作業効率の向上につながります。
家庭菜園での大豆:収穫後の乾燥、脱穀、長期保存
収穫した大豆は、長期間保存するために適切な乾燥処理を行うことが非常に重要です。まず、収穫した株は豆が莢からこぼれ落ちてしまわないように、数株ずつまとめて束ねます。束ねた大豆の株は、通気性の良いネットなどに入れて、風通しの良い日陰に吊るし、約2週間ほどかけて十分に乾燥させます。この初期乾燥が不十分だと、カビが発生したり品質が劣化したりする原因となります。
株全体が十分に乾燥したら、莢から大豆を取り出す「脱穀」作業を行います。手作業で一つずつ莢を剥いて豆を取り出すことも可能ですが、収穫量が多い場合は、ネットに入れたままの株を棒などで軽く叩くことで、効率的に豆を莢から分離させることができます。脱穀した豆は、さらに2〜3日間ほど天日干しを行い、残った水分を完全に除去することで保存性が向上し、美味しく食べられる状態になります。
完全に乾燥させた大豆は、適切な方法で保存することで長期間にわたって品質を維持できます。大豆の保存で最も重要なことは、高温多湿を避け、酸化を防ぐことです。理想的な保存環境は、気温5℃から15℃程度の涼しく暗い場所であり、この条件下であれば1年から2年間の保存が可能です。保存する前に、カビが生えている豆や虫食いのある豆は必ず取り除き、良質な豆だけを選別してください。その後、密閉できる袋やガラス瓶などに入れて、空気に触れるのを最小限に抑えることで酸化を防ぎます。特に長期間保存したい場合は、冷蔵庫での保存がおすすめです。適切な保存方法を実践することで、収穫した大豆を様々な料理に活用し、一年を通して楽しむことができます。
大規模栽培における収穫後の工程:出荷までの道のり
収穫された大豆は、脱穀しただけでは最終製品として出荷することはできません。市場に流通させるためには、以下のような専門的なプロセスを経る必要があります。
乾燥
大規模な大豆栽培では、循環式や平型乾燥機を用いて、豆の水分量を均一に12.5%以下に調整します。乾燥ムラを防ぐために、タンク内の状態や豆の動きに注意を払うことが重要です。乾燥後は、全体の水分を均一にするため、12時間以上乾燥機内で静置することが推奨されます。
調整・選別
乾燥させた大豆は、選別機を用いて莢、茎、石、不良粒、そして被害粒(※)などの異物を取り除きます。品質基準を満たすように、豆の大きさを大・中・小・極小に選別し、製品として完成させます。病害による変色など、通常の選別機では除去しきれない被害粒に対しては、必要に応じて色彩選別機を使用します。(※)被害粒:病気による着色、虫食いの跡、割れ、皮の損傷やシワ、発芽などの異常が見られる豆を指します。
貯蔵
大豆は、豆腐、納豆、味噌などの原料として一年を通じて需要があるため、収穫された大豆は貯蔵施設で保管され、必要に応じて出荷されます。しかし、収穫後の期間が長くなるほど、カビや害虫の発生、水分量の変化、油脂の酸化、大豆タンパク質の変性といった品質劣化のリスクが高まります。そのため、貯蔵時の温度管理が非常に重要であり、貯蔵庫の温度を15℃前後に保つことで品質の低下を抑制できます。特に夏季から新豆の収穫時期までは、高温にならないよう徹底した管理が求められます。
まとめ
大豆の収穫は、個人の家庭菜園から大規模な商業的栽培まで、規模や目的に応じて最適な時期の見極め方、具体的な収穫方法、そして収穫後の処理・保存方法が重要となります。本記事では、大豆と枝豆が同一の植物である点や、家庭菜園で手軽に大豆を収穫する方法、コンバインを用いた効率的な大規模収穫、収穫ロスを最小限に抑えるための品種選択や栽培管理、出荷までの専門的な工程を詳細に解説しました。さらに、「大豆300A技術」のような最新技術の導入が、収量の安定化と品質向上に貢献し、生産者の収益向上に繋がる点も紹介しました。この記事で解説した各ステップのポイントを参考に、ご自身の状況に合わせた最適な方法で大豆栽培に取り組み、その豊かな恵みを最大限に活用してください。
大豆の収穫に最適な時期とその見極め方について教えてください。
大豆の収穫適期は、一般的に10月下旬から11月頃とされており、種まきからおよそ4ヶ月後が目安となります。収穫時期を見極めるサインとしては、株全体(サヤを含む)が茶色く変色し、葉がほとんど落ちている状態(落葉後7~10日程度)が挙げられます。また、サヤを振ってみて、中の豆がカラカラと乾いた音を立てるようであれば、サヤの水分量が20%程度、茎の水分量が60%以下まで乾燥が進み、収穫に適した状態と言えます。コンバインを使用する場合は、葉が残っていると機械の詰まりの原因となるため、完全に落葉し乾燥していることが重要です。
大豆を早い時期に収穫すると枝豆になるというのは本当でしょうか?
はい、その通りです。大豆と枝豆は同じ植物であり、枝豆は大豆がまだ成熟していない段階(種まきから約80~110日後)で収穫されたものです。したがって、大豆として収穫する時期よりも早く収穫することで、美味しい枝豆として楽しむことができます。
大豆の収穫にコンバインを使うメリットと、効率的な使い方のポイントは何ですか?
コンバインを使用することで、大豆の収穫と脱穀作業を大幅に効率化し、作業にかかる負担を軽減することができます。効率的な使い方のポイントとしては、まず、汚粒の原因となる雑草を事前に防除・除去しておくこと、収穫前に生育が遅れた「青立ち株」を確実に取り除くこと、作業前に試し刈りを行ってコンバインの調整を行うこと、そして、大豆の水分状態が適切な晴れた日の午前11時から午後4時頃に作業を計画することが重要です。













